18 one for all
新加入の詩織を加えて6人で昼食は再開された。昼休みは長いのである。
「優くん、お試し期間は一週間だからね。私達頑張るけど、優くんも楽しんでね。」
詩織が『憐れみ組』に加入した事により、『憐れみ組』の名称も、僕の考えていた『憐れみ組』の活動理由も、完全におかしな事になってしまった。さっぱりわからない。
でも確実にわかることもある。
僕がこんなにモテる訳がないのである。
ではなぜ彼女達は何の目的で、僕をターゲットにこんな活動をしているのだろうか。
謎である。
しかし、謎のままでいいと僕は思っているのだ。
僕は『男の夢の探求者』なのだ。男の夢を追い求める使命がある。このお試し期間はその絶好の機会であり、僕はここで徹底的に男の夢を追い求めたいと思っているのだ。
せめてお試し期間中は謎のままで過ごしたいのである。
要するに、『先に楽しませて』なのだ。
僕は好きな物は先に食べる主義なのだ。
なので、お試し期間中は『彼女達は皆んな僕の彼女になりたがっている』という設定でいきたいと思う。
無理な設定なのは自分でもよく分かっているのだが、とにかく僕が気持ち良いのだ。
設定を生かしお試し期間をより円滑に過ごすために、気になっていた事をちょっと訊いてみる。
「お試し期間についてちょっと聞きたい事あるんだけど、いいかな?」
「勿論いいよ。何でも聞いて。」
「ねぇ、君達はどうして皆んな一緒に彼女になりたいの? それ、社会的におかしいよね。」
「それはね、負けたくないからだよ。私達は皆んな本気で優くんの彼女になりたいって思ってるからなんだよ。そしてその皆んなの気持ちを私達は知ってしまったからなんだよ。もし誰かが彼女になったら、私は彼女になれない。そんなの絶対嫌なんだ。諦められる訳ないじゃん。それにもし私が彼女になれたとしても、他の人の気持ちを考えたら、素直に喜んだりイチャイチャしたりできないと思うんだ。そんなのも嫌なんだよ。
だから私達皆んなで彼女になる事を選んだんだ。勝ちじゃないけど、負けじゃ無い。自分の取り分は減るけど、ゼロよりは全然良いってね。
五等分… えっとね、5分の1の彼女だよ。
優くんは私達皆んなの優くんなんだよ。そして、私達は皆んな優くんの彼女になりたいんだよ。
One for all. All for one. だよ。」
ドヤ顔で愛衣さんが答えてくれたのだが、そのうち誰かに怒られそうな気がしないでもない。それにしても凄い発想である。皆んながこんな考えができるのなら、争い事とかも減るかも知れない。それにしても、それにしてもである。ここに僕の意思など全く無い。やはり僕には選択権など無かったのである。勿論、お試し期間中は文句を言うつもりなど微塵も無いのではある。
「なんか凄いね。でもさ、それだと『愛衣さんを彼女にすれば…………。』って言うのおかしく無い?」
文句を言うつもりは無いのではあるが、一応矛盾してそうなので訊いてみた。
今度は麻里香さんが答えてくれた。
「それはね、一度に5人も彼女にするなんて社会的におかしいからだよ。5人同時に告白されて皆んな彼女にしたら、それって男のクズでしょ。でも優くんはそんな人じゃ無いから全員を断ると思うんだ。だから、優くんの負担を少なくして、私達全員を彼女にしやすい方法を考えたんだ。
『ふるさと納税』と同じだよ。応援したい自治体に税金を納めたら、返礼品でお肉が送られてきた。それを食べたって何も悪く無いでしょ。それに、返礼品によって自治体を選ぶのだって有りなんだよ。
それと同じで、優くんが愛衣に告白されて愛衣を彼女にしたら、返礼品で彼女が4人ついてきた。それだけの事なんだ。優くんは愛衣を彼女にするだけ。1対1の普通の男女交際だよ。あとはオマケだから。
だから優くん、愛衣を彼女にしてあげて。」
流石天才金髪ギャルの麻里香さんである。危うく納得しそうになってしまったのだ。素晴らしい考えではある。でも、それ、いわゆる屁理屈だから。
麻里香さんがさらに続ける。
「それとね、保険でもあるんだ。もし愛衣が断られた場合には、代表を替えてもう一度同じ事をするの。そうすれば5人で5回挑戦できるでしょ。その度にお試しキャンペーンもすれば、ずっと優くんとイチャイチャできるんだよ。
Never give up. Neverending.
諦めなきゃいいんだよ。」
もうね、彼女達には絶対に勝てないと思ったよ。大時化の海に浮かぶ笹舟のように、僕は無力なのだ。一体一週間後僕はどうすればいいのだろうか。
しかし、しかしである。取り敢えず一週間あるのだ。お試し期間が一週間あるのだ。だから僕はこの一週間全力で男の夢を追い求める事を誓ったのである。
夏休みの宿題は、最終日に頑張る主義なのだ。
「皆んな、一週間だよ。お試し期間は一週間なんだ。その間に優くんに最高だって思ってもらえるように頑張ろう。」
「「「「「エイ エイ オー!」」」」」
拳を高く突き上げた美少女達の叫び声が、静かな教室に響き渡った。




