11 美少女世界ランキング
屋上で詩織に彼氏を解任され一人家まで帰ってきた。どうやって帰ってきたのかも、学校でトイレに立ち寄ったのもしっかり覚えているのだが、自分の部屋のベッドに横になると、やっぱり嬉しそうに手を繋いで扉から出て行く詩織と中井君の後ろ姿を思い出した。
同じ値段なら、不味そうな物より美味しそうな物を選ぶのは道理である。だから詩織が僕より中井君を選ぶのは、残念ではあるが理解はできる。麻里香さんの言っていた通り僕にはモテる要素など無いし、それは自覚もしている。詩織が中井君にちょっかいをかけられて満更でも無い表情をしていると思ったのも、気のせいでは無かったのだ。麻里香さんもその事に気付いていて、だからあんな豪華特典を提示したのかもしれない。
僕がフラれるのは既に秒読みに入っていて、屋上での美少女達の行動はただのきっかけに過ぎなかったのだ。
詩織と二人で過ごした日々に思いを馳せてみる。間違いなく僕は幸せだった。『言葉にできない空前絶後の良い匂い』に包まれ、思う存分クンクンしていたのだから当然である。しかし、詩織はどうだったのだろうか。詩織は僕に『言葉にできない空前絶後の良い匂い』を与えてくれていた。しかし、僕は詩織に何も与えてはいない。隣に座ってクンクンしていただけなのだ。モテない要素満載の男が、彼女の為に何もしなかったら愛想つかされるのは当然である。全て自業自得だったのだ。と、そこまでは納得できた。
しかし、納得できない事も数多くあるのだ。
どうして詩織は出会って7秒後の告白で、僕の彼女になったのか。
どうして詩織は一年間もあんなつまらないデートを繰り返しても、彼女でいてくれたのか。
謎である。
さらに、
どうして美少女四人組は彼女になりたいなどと言ってきたのか。
どうして四人全員で、なのか。
そもそも本気で言っているのか。
謎である。
それにしても、もし彼女達が本気で僕に好意を抱いているのだとすると、僕は少し前まで『僕が選んだ世界美少女ランキング』のトップ5全員に好かれていた事になる。とんだモテ男である。
無いな。
僕が彼女達に好かれる理由が全く思い当たらないのだ。
確かに僕は彼女達とは接点がある。または、あった。しかし、それは『僕が選んだ世界美少女ランキング』が、『可愛さ』『匂い』の他に『人間性』を重視して選考しているからである。間違いなく彼女達は美少女であり、間違いなく良い匂いも持っているのだが、彼女達は人間性も素晴らしいのだ。モテ要素の無いキモい男に話しかけてくれるということが、それを証明してくれている。要するに、今までにどれだけ僕の相手をしてくれたか、と言う事が重要であり、僕の相手をすればするほど高い人間性の持ち主だという事になるのだ。例えそれが罵りだとしても、僕はとても嬉しい。
だから、『僕が選んだ世界美少女ランキング』上位の美少女達は、当然僕と何らかの接点があるのだが、それは彼女達の人間性の素晴らしさによるものであって、僕に好意があるという事にはならない。僕は勘違いのしない男なのだ。僕にはモテ要素なんて無いことを、僕が一番良く知っているのだ。
お風呂に入って夕食を食べて、唐揚げを思い出した。数年ぶりに味わった明日香の唐揚げはべらぼうに美味しかった。またあの唐揚げを食べることはできるのだろうか。
『今私を彼女にすると、な、な、なんと、…………。』
彼女達は次々と有り得ない豪華特典を提示してきた。その豪華特典によれば、僕が愛衣さんを彼女にすれば、また明日香の唐揚げを食べる事はできそうである。しかし、有り得ないのだ。この豪華特典が本当に有り得ないのだ。
彼女達は僕と詩織の交際を知っていて、もう詩織の心が僕に無い事も知っていて、憐れみを覚えた彼女達が僕に束の間の夢を味あわせてくれたのでは無いのだろうか。そう考えると納得もできるのだ。彼女達の屋上での行動は、言うなれば『憐れみ大作戦』なのだ。
では、明日から彼女達は僕にどう接するのだろうか。
愛衣さんは罵ってくれるだろうか。その後ろで麻衣さんは優しく見守ってくれるだろうか。図書室で麻里香さんは話しかけてくれるだろうか。明日香はまた何か食べさせてくれるだろうか。
毎朝挨拶をしてくれる美咲さんと、通りすがりに『邪魔。』と一言吐き捨てていく翼さんも僕の相手をしてくれているのだが、この二人は『憐れみ大作戦』には参加していない。したがって明日からも継続して僕の相手をしてくれそうではある。
『僕が選んだ世界美少女ランキング』は月末更新である。あと数日で更新日なのだが、今日、詩織により僕は電撃的に彼氏を解任された。また『憐れみ大作戦』も実施されており、次回のランキングに大きく影響しそうである。
四月末時点の最新ランキングである。
1位 詩織 『寄り添い上手の(元)彼女』『言葉にならない空前絶後の良い匂い』
2位 愛衣さん 『罵り上手の美少女』『もの凄く良い匂い』
同2位 麻衣さん 『罵り上手の双子の妹』 『とんでも無く良い匂い』
4位 明日香 『お料理上手の委員長』 『心に沁み渡るべらぼうに優しい匂い』
5位 麻里香さん 『恋愛上手のギャル』『そこはかとない奥ゆかしさを感じる素敵な匂い』
6位 美咲さん 『挨拶上手の地味子』『これはこれでなかなかな良い匂い』
7位 翼さん 『吐き捨て上手の眼鏡っ子』『嗅げば嗅ぐほど味の出る良い匂い』
8位以下 高い人間性を持つ美少女募集中
天井を見ながら頭の中でまとめてみたのだが、明日香が委員長だったのには驚いた。完全に忘れていたのだ。次回更新の時には色々と修正しなければならないかもしれない。
ベッドに横になり、そんな事を考えていたら眠くなってきた。
ゆっくりとまぶたを閉じる。
『そこはかとなく奥ゆかしさを感じる素敵な白い何か』の8K動画が鮮明に再生された。と同時に異次元の天国に包まれている様な感覚になったのだ。さらに、身体のいたるところに先程までの天国の感覚が再現されてきた。甘い囁きまで聞こえるような気がする。
そういえば、僕の身体は限界まで天国出汁の吸い込んだ高野豆腐と化していたのだ。天国出汁が高野豆腐からどんどん滲み出てきている。まだ当分天国を味わう事ができそうである。
天国に包まれ、天国を感じながら、僕は心安らかに眠りについた。
決して永眠したわけではないので、勘違いしないで欲しいのだ。




