第二話
第二話です。最後は少し怖いかもしれません。
小鬼二人の正体は、約千年前、京都で退治されたはずの鬼、
酒吞童子とその息子、鬼童丸。
しかし、翔太は信じられないようで──。
23/07/07 文章の一部を訂正しました。
23/07/11 文章の一部を訂正しました。
「えー・・・っと、本物?」
「は?当たり前だろ。」
黒髪赤メッシュ──酒吞童子は、やおの口から手を外し、
当然の事のように答える。
「人襲った?」
「おう。」
「女の人さらって、身の回りの世話させたりした?」
「まあな。」
「夜は、寝室から女と親父の声が聞こえてくることもあったけどね。」
金髪──鬼童丸の一言に、俺は固まった。
──いやだめだ、考えちゃだめだ!
「な~に~?ひょっとして想像しちゃった?」
「なっ、馬鹿っ!違ぇし!」
「噓つけ、顔真っ赤じゃんか。そういう年ごろなんだねぇ。」
ニタニタ笑う鬼童丸、イライラする俺、暴露されたのが
嫌だったのか少し微妙な顔をする酒吞童子。
そして何の事だかさっぱりわからず首をかしげるやお。
そんなピュアな子タヌキが一言。
「引っ越しのあいさついつ行くんですか?」
「あ。」
~~~
「やっべ忘れてた!ちょっと行ってくる!」
玄関に突っ立ってる鬼童丸の左を通り、玄関の戸を開け外へ。
俺たちの家は町の一番高い場所に近く、下の方が見える。
家を出て右に出ると緩やかな坂になった道路があって
その道路沿いに家(妖怪か、高齢の人たちが住んでる)が立ち並び、
下の方の、駅、スーパー、コンビニ、老人ホーム、古い神社、
人があまり住んでないアパート、モデルハウスと売家が
半分を占める住宅街がある町に続いてる。
観光名所みたいなものもないし、好き好んで移住する人も
多分いないか少数。田舎でも都会でもない、中途半端な感じ。
下の方には、この場所に来る用事なんて
施設への送り迎えか家族の様子を見に来るくらいしか
ない人たちだらけだし、俺も学校に行くときか、
買い物に行く時しか通らないだろう。
じゃあ、父さんの言ってたご近所さんはどこかって言うと
家の裏にある森の中&そこを抜けた先。どこが近所だよ。
「翔太様!こっちですよ!」
子供らしい満面の笑みでやおが指さすのは、森へ続くけもの道。
そう。俺は引っ越し初日から、この森の中に住んでいるであろう妖怪たちに
会わなければならない。下手したら今日が命日かもしれない。
<マジで人喰う妖怪いたらどうしよう・・・。>
ふんふん鼻歌を歌うやおについていきながら、聞いてみた。
「なあ、やお。今回会う妖怪たちって、襲い掛かってきたりしねぇよな?」
「大丈夫です!皆さん優しい方たちですよ!・・・・あっ!」
やおは、何かを見つけるとそっちの方へ走り出した。
慌てて追いかけると、やおが一人の男性に話しかけている。
青みがかった長髪を後ろで束ねた、背の高い人に見える男性は
俺に気づくと、優しく微笑んだ。
「やあ、君が翔太君だね?この子から話は聞いてるよ。」
さっき家でひと悶着あった鬼どもとは違い、丁寧な口調で話しかけてくる。
一瞬人間かと思ったけど、よく見たら地面から足が少し浮いてるし、
顔の左側にひし形の鱗の様なものがある。おそらく竜人ってやつ。
「えっと、引っ越しのあいさつに来ました。これ・・・。」
「緊張しなくていいよ。とって喰いやしないから。
・・・ああ、名前を言ってなかったね。私は夜刀神。
この森周辺で医者をやっているんだ。」
「先生は、どんな病気でも治せるんですよ!」
男性──夜刀神さんが言い終わると、やおが興奮しながらそう言った。
夜刀神が、苦笑いしながら付け加える。
「何でもというわけではないよ。患者を診て、
症状に一番効く薬を出しているだけさ。」
「でもっすごいですよ!」
「ありがとう。でも少し落ち着こうね、やお。」
夜刀神さんは笑みを浮かべながら、ぴょこぴょこ跳ねるやおの頭を撫でた。
~~~
「そういえば、君たち地図は持ってないのかい?」
俺が渡した菓子折りを、いつの間にか出してた
袋に入れながら夜刀神さんは聞く。
「あー持ってないです。」
「僕が案内してるんですよ!」
やおが、誇らしげに胸を張る。
「へぇ、すごいねえ。あいつらのアジトには行ってないかい?」
「なっ、ないです!もう迷わないです!」
「あいつらって?」
俺が聞くと、夜刀神さんは笑みを浮かべたまま答えてくれた。
「紫暁っていう凶悪な妖怪たちの集まりだよ。紫の暁で、紫暁。
少し前、やおにお使いを頼んだら道を間違えてしまったようでね。
そのアジトに入ってしまったんだよ。」
「えぇっ?!」
「丁度その時はあの子がいたから助かったけど、いなかったら・・・。」
「ひやああああ!」
「やお?!」
「ああ、ごめんごめん。思い出しちゃったね。」
<思い出しただけで怖がるってどんだけ怖いんだ・・・?>
やおがビビるそいつらについても気になったが、ひとまず地図を
受け取る事にした。が。
「あ・・・・。」
「夜刀神さん?」
「地図、家だ。・・・・・・歩けるかい?」
というわけで急遽、夜刀神さんの家に行く事になった。
夜刀神さんの後に続き、途中で歩き疲れて眠くなったらしい
やおを抱っこしつつ、森の奥へ奥へとひたすら歩いて行くと、
急に霧が立ち込め始め、俺たちを包み込んだ。
そんな中でも、どんどん進んでいく夜刀神さんの背中を
必死に追いかけること数分。
「着いたよ。悪いね、ずいぶんと歩かせてしまって。」
そこには、同じ森とは思えないくらい、美しい光景が広がっていた。
桃源郷ってこんな感じなんだろうなって思うくらいだ。
魚が泳ぐキレイな小川、あちこちに生える果物の木に、点在する畑。
そして昔話に出てきそうな長屋風の建物に囲まれた巨大で立派な木。
建物同士が長い廊下でつながっているから、本当に囲まれてる状態だ。
「うわ・・・・すげぇ・・・。」
「見事だろう?自慢の家なんだ。荒らしに来るバカもいるけど・・・。」
「!?」
その時の夜刀神さんの顔は笑ってたけど・・・・・・目が笑ってなかった。
この人、キレると怖いタイプだな・・・。
「あ、そうだ。今、君のおじいさんがご近所さんって
言ってた人たちが来ているんだ。」
「そうなんですか?」
「運がいいねぇ。玄関までの階段が心臓破りって言われる屋敷にも、
嵐の中に突っ込まなくても、年中吹雪状態の山へ登山に行かなくてもいいんだ。
君のおじいさんは、行くなって言ったのに全部無茶して行ったけど。」
すごいだろ?これを笑顔でサラッと言われたんだぜ?
つか、じいちゃんご近所の挨拶で嵐に突っ込んだの?
確かに、こんな急に亡くなるとは思ってなかったくらい
元気なじいちゃんだったけどパワフルすぎじゃね?
「じいちゃん無事だったんですか?」
「筋肉痛で済んでたよ。翌日にはケロッとしてた。」
「まじすか?!」
じいちゃん超人説が浮上する中、俺と夜刀神さんは
正面の建物の玄関に着いた。
「あ、先生。帰ってきてたんですね。」
ふと背中の方から声がして振り返ると、褐色肌の男が立っていた。
背はすらりと高く、体のあちこちに傷がある。
左目の上の方に夜刀神と似た形の鱗があるから、人間じゃないのは確定。
堀の深い顔立ちと青い目からして、日本の妖怪ではなさそうだ。
「・・・お客さんですか?」
「うん。弥五郎さんのお孫さん。引っ越しのご挨拶。」
「ああ・・・あの。」
「翔太です。どうも・・・<有名人になっちゃってるよじいちゃん!
絶対これやべえ人認定されてるやつだよ!>。」
「ヒュードだ。よろしく。」
男──ヒュードは、ミシミシッて音がするんじゃないかってくらい
強く俺の手を握って挨拶した後、夜刀神に何か言い残して
建物の奥の方へ走って行った。
~~~
正面玄関には戸がなく、すぐに入れるようになっている。
内装は、和風の高級旅館みたいな感じだ。
夜刀神に勧められ、玄関で靴を脱いでいると、夜刀神さんが何かに気づいた。
「・・・ああ、アヤメちゃん。いらっしゃい。」
夜刀神が振り返った方を見ると、ひとりの女の子が立っていた。
年は俺と同じ15歳くらい。腰の少し上ほどまで伸びた黒髪が
風に吹かれて揺れている。服装は水色のワンピースで、お嬢様って感じ。
女の子──アヤメは、小さく一言。
「・・・その子誰?」
「ああ、倉澤翔太君。人間の子だよ。」
「倉澤・・・・あのおじいさんと一緒。」
「あ、たぶんそれ、じいちゃん。」
アヤメは、少し驚いた顔(前髪で半分隠れてて分かんないけど)を
して、質問してきた。
「じゃあ・・・みんな、見えるの・・・?妖怪も、幽霊も・・・。」
「おう、結構はっきりな。」
「そう・・・・。」
アヤメは言葉を区切ると、俺の膝の上で眠っている
やおに気づき、近づいてきた。
「やおくん・・・。よかった・・・。」
「・・・どうかした?」
「翔太君、この子がさっき言った、やおを助けたあの子だよ。」
夜刀神さんにそう言われて、屋敷がすごすぎて忘れかけてた
さっきの話を思い出す。
確か、やおが迷子になって間違って入った所から助けてくれた・・・
ちょっと待て?てことは・・・。
「アヤメって・・・妖怪なの?」
「・・・半分、そう。人間とのハーフ。」
「妖怪と人間って結婚できんの?」
「・・・どうなの?夜刀神さん。」
アヤメに聞かれ、少し考えながら夜刀神さんは答えた。
「うーん、アヤメちゃんの場合はちょっと特殊だし、
種族によって違うから、何とも言えないんだよね。」
妖怪たちにも、いろいろ事情があるんだな・・・。
そんなことを考えてると、やおがもぞもぞ動き出した。
目が覚めたみたいだ。
「ん・・・アヤメしゃん?先生・・・。あえ・・・ここ・・・。」
「おはよう、やお。ここは私の家だよ。」
「ふぇっ!?テレポートしたんですか?!」
「お前が歩き疲れて寝てる間に、移動しただけだっつーの。」
やおは、まん丸の目をさらに丸くして俺と
夜刀神さんを見た後、アヤメを見た、が。
「ひぎゃああああ!!!」
「うわっ!おい、どうしたんだよ!」
「アヤメさんのっ!アヤメさんの後ろにぃっ!」
やおは俺のシャツをギュッと掴み、プルプル震えている。
何とか落ち着かせようと必死になだめる俺の肩に冷たい何かが触れた。
やおがその何かに気づき、素早く下を向く。
見たくない。見たくないけど、気になってしまう。
恐る恐る、後ろを振り返った。
「こんなに震えちゃって・・・ボク、何にもしてないのになぁ。
ひどいと思わない?フフフ・・・」
その時俺と目が合ったのは、にんまり笑う、蛇の顔をした
100%人間ではない化け物だった。
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