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黄昏の君  作者: 美真陽
7/10

告白

次の日、美緒はお守りを持って登校した。

信一の姿は見えなかった。美緒は放課後思い切って浩二に話しかけた。

山口がからかうように「お、いいなあ。岩井がんばれよ」

「何を」岩井が起こった口調でかえすと、

「俺、先に帰るわ」無神経な山口が意外なことに気を遣ったようだった。

「私も帰るね。無理しないで」ユリは心配そうに振り返りながら2人に手を振った。

「座ろうか」

2人は校庭の隅の古びたベンチに腰掛けた。

美緒は何から話せば信じてもらえるかわからなくなっていた。一晩十分話すことを考えていたはずだったのに、いざとなると言葉に詰まった。

「信一さん、あのお兄さんの事です」

「ああ、やはり」「君の顔色が悪くなってから心配していたんだ。」

岩井はユリにも美緒の様子を聞いていたらしい。自分では気をつけていたつもりだったが、信一と話している様子を見られていたこともあるようだった。

誰もいないところでブツブツ話したり笑ったりしているとユリは心配していたのだ。

「この1年、信一さんは学校の周りとご自宅をぐるぐるまわっていたようです。話しかけても誰も彼に気付かなくて。私が目に止ったようでした」

「一人だけ気が付いた子もいたけれど、怖がって話は出来なかったようです。そして転校していったらしい」

岩井は黙っていた。頭を垂れて両手を握り締めていた。やがて重い口を開いた。

「兄の話し相手になってくれたんですね。君が痩せて生気がなくなってきたのは気になっていた。もしかして兄と関係あるの」

「ああ、そうなのかもしれない。6年前私も弟を事故で亡くしたんです。信一さんと同じ交通事故だったんです」

浩二はだまって聞いている。

「信号無視の車に引かれたんです。弟と同じで、信一さんも自分のせいで事故にあっていない」

「え、飛び出したのは兄でしょう」

「いいえ、両手で突き飛ばした人がいたって。信一さんはずっとその犯人を探して…

それで、この世に残っているんです。きっと」

「許せない」

浩二はこぶしを握りしめた。握りしめられたこぶしが震えている。

「そう、許せない。信一さんもきっとそう思うでしょ。そうすると信一さんはどうするでしょう」

美緒は浩二の様子を見ながら、言葉を続けた。

「信一さん、きっと、犯人を許さないと思う。そんなことになったら、ずっと怨霊、いいえ地縛霊みたいになるんじゃないかと思って」

「ああ、」浩二はうなだれて頭を抱えた。

「私、小さい頃、死んだ人が見えていたみたいで。記憶の片隅にその人たちの事が今でも残っているんです。どこにも行けずにずっとこの世にとどまると次第に生きていた頃の記憶がなくなって元の人じゃなくなる気がして。だから岩倉先輩に相談しようと思ったんです」

浩二はパッと顔を上げた。

「それは犯人がわかったからなの」

「手首にホクロのある人、たぶん野田先輩です」

突然、あたりが暗くなって急に大粒の雨が降り出した。

2人はあわてて渡り廊下の屋根の下に逃げ込んだ。

見たこともない眉のつり上がった表情の信一がいた。

「美緒ちゃん、犯人が分かったんだね。なぜ僕に教えてくれないんだ」

もう美緒の知る、いつもの信一ではなかった。

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