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黄昏の君  作者: 美真陽
6/10

心配

ユリは美緒の様子が随分変わったと感じていた。

始めは屋上で風に当ってくると美緒は1人でいなくなった。そのうち、昼ごはんも一人で食べるようになっていった。

痩せて顔色が悪くなった美緒をユリは心配していた。

話をする時間が極端に減ったことも気になっていた。ユリは話をしようと休日の練習に誘った。

その日、美緒はユリに誘われて久し振りに部活に参加した。梅雨の時期が過ぎ、中間テストも終わってもうすぐ期末テストが始まる。

受験を控えた3年生はもう少しすると部活に参加しなくなる。信一も生きていれば3年生になっていた。そう思いながら、3年の男子部員の姿を見た時だった。バックハンドで打ち返した手が目に入ってきた。

手首のあたり左手の薬指の延長上のほくろ。

「あ、この人だ」それは陰気な感じで苦手な先輩、野田だった。ちょっと爬虫類の様なざらっとした雰囲気でつり上がった細い眼は何を考えているかわからない不気味さがあった。

美緒はめまいがした。

ユリが気づいて更衣室で休ませてくれた。

やっと着替えて外に出ると浩二が声をかけてきた。

「西原さん、大丈夫」

心配そうにのぞき込む様子はやはり信一に似ている。山口が無神経に声をかけてきた。

「随分、痩せたんじゃない。それに顔色が悪いよ」

浩二は「来いよ」と山口の手を引っ張った。「無理しないほうが良いよ。部活はいつでもできるから」そう言い残すと山口に何か言いながら立ち去った。

「無理に誘ってごめんね。一緒に帰ろう」ユリも着替えてた。

「大丈夫、独りで帰るから。心配させてごめんね」

「やっぱり心配だもの」結局ユリは家まで送ってくれた。

家に帰りつくと、すぐ、そんなに体調が悪そうに見えるかしらと美緒は鏡をのぞき込んだ。

頬がこけて目の下にはくまができている。眉をひそめた青白い顔が鏡に映っている。

「いつの間にこんなに痩せたのかしら」

それより、顔色が真っ青で血の気がないようにみえた。さっき野田の手首のほくろに気付いて急に気分が悪くなったせいだろうか。

「美緒、少しやせたのかしら」

遠慮がちに母が言った。

このところ学校に向かう坂道が急に辛くなってきた。半分ほど来ると息切れするようになっている。

ユリにも顔色が悪いと言われたばかりだった。なにより、鏡の中の自分はずいぶん様変わりしている。

「信一とはなしをしているせいだろうか」

そう思い始めた時だった。

「そういえば、お守り持って行ってるのかしら」

食器を洗いながら何でもないような口調で母が聞いた。

きっと母はずいぶん前から気にしているに違いなかった。何か言うのを待っていたに違いない。

「もしかして、私の部屋に勝手に入ったの」

大きな声で怒鳴るように言ってしまって美緒は後悔した。母は心配しているのだ。このところ自分でも信一と過ごす時間が寿命を縮めているような気がしていた。

「あ、ごめん。勝手に部屋に入ったことないよね。お守り、ちゃんと持って行ってるよ」

分かっているけど信一をこのままほっておくことはできない。

美緒は済まない気持ちで当惑したような母の横顔を見つめていた。

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