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黄昏の君  作者: 美真陽
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執着

お守りを身に着けていると信一には会えない気がした。

その日から美緒はお守りを机の引き出しの奥に入れた。お守りを身に着けていないことが母に見つかると何か言われそうな気がしたからだ。

美緒は信一が亡くなった健太の代わりに現れたような気がした。長い間誰とも言葉を交わせずに1人彷徨っていることが辛いに違いないと思うと信一を1人にはできない。

「お昼休みに屋上で待っててくれる」

「わかった。あとでね」

美緒はその日、昼ご飯を食べた後とユリに「屋上でかぜにあたってくるね」と言って信一に会いに行った。

その日から美緒は毎日信一と話をするようになった。

信一と話をするようになって、美緒は、ますますずっと一人で生徒たちを眺めている信一が可哀そうになっていた。何かできることはないだろうか。もし、健太が信一のように彷徨っていたらと思うと信一をほっておくわけにはいかなかった。

話を聞いて信一の様子がだんだんわかってきた。

信一は学校と家には行くことができるようで、自分が死んでいることを理解していた。

父や母、そして弟が自分の死を悲しんでいることが一番苦しいという。

美緒はただ信一の話を聞くことしかできなかった。それでも孤独から解放されたのか信一は生気すら取り戻しているように見えた。

信一には一つだけ心残りがあるらしい。

「あの時、誰かが僕の肩を両手で強く推したんだ」

信一は押されたために車道に飛び出て大型トラックにひかれたらしい。

「救急車に載せられて病院に向かったところまでは覚えている。その後はわからないけれど、病室のベットで寝ている僕を真上から眺めたんだ。その時はもう死んでいたんだと思う。父さん、母さん、浩二が泣いていたな」

美緒は健太の事を思い出して涙がこぼれた。

「へえ、僕の為に泣いてくれるんだ」

そういって、信一は悲しげに微笑んだ。

「僕はどうしても誰が推したのか知りたいんだ」

そういった時の信一の顔は恐ろしいものだった。鬼がいるとしたら、きっとこんな表情に違いないと美緒は思った。

「一瞬だったけれど、振り返った時にちょうど手首のあたり左手の薬指の延長上にほくろが、見えた」と信一は言った。それだけが、信一を車道に突き放した犯人の手掛かりだった。

信一は人から恨まれるような事をした覚えがないという。

美緒は犯人が見つかるだろうかと今にも雨の降りそうな空を見上げた。


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