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黄昏の君  作者: 美真陽
2/10

新学期

中学の時と違って授業の内容は急に難しくなって、進行も早かった。美緒は部活に入ったことを少し後悔し始めていた。

同じクラスのユリがため息をつきながら、

「ほんと、朝練はきついよね。私、朝練の後、午後の授業は眠くなっちゃうの」

ユリは家も近くて小学校の頃からの友人だ。濃い栗色のショートカットが大柄で健康的な小麦色の肌に合っていた。大きな瞳は少し目じりが上がっていて笑うと片えくぼができた。


今朝は7時から練習を始めた。約1時間の練習をすませ、ネットを片づけ終わった時だった。美緒はすぐ近くに岩井先輩姿を見つけた。朝日の中でみた岩井先輩は、やはり入学式の日の少年によく似ていて朝の光の中で髪もちょうどあの少年のように金色に輝いていた。

美緒は好奇心を押さえることができずに思わず駆け寄って声をかけた。

「先輩、弟とかいらっしゃいますか」

話しかけるなんていつもの私らしくないと思ったが、後悔はしなかった。

「弟とかって」

驚く岩井に変わって

「兄さんがいたけど亡くなって、今は一人っ子」

と隣に立っていた山口が答えた。

「亡くなった」と聞いて美緒は思わず、

「あ、すみません」

と頭を下げた。

「亡くなった兄弟を思い出させるなんて」と美緒は後悔した。

亡くなった家族の事を思い出すのは辛いものだ。

美緒には3つ違いの弟がいた。生きていたら、もう中学生だ。

亡くなった弟の事はいつも気になっていて6年経った今でも弟の笑顔や甘えてくる様子が目に浮かんだ。

その時、「西原さん、何をあやまっているの」という山口が聞こえた。

その言葉をさえぎるように岩井は、「いいんだ、早く教室のもどろう」

悲しいことを思い出させたと美緒が後悔していることを岩井は気づいていた。

「本当にごめんなさい」

「美緒、授業に遅れるよ」ユリの声がした。美緒はもう一度頭を下げ、急いでその場を立ち去った。

「西原さん」と呼び止める山口の声が背後で聞こえた。振り返ると、岩井が山口を制止している。当惑したような岩井の顔だけが美緒の記憶に残った。


お昼になって雨が降り出した。教室で食べるお弁当はなんとなくいつもより味気なかった。「美緒のお弁当,今日も美味しそうだね。」

母は料理が好きだった。キャラ弁を作ることもあるが、今日は昭和の家庭料理といった感じの落ち着いた取り合わせだった。

すりごまをまぶしたカジキの照り焼きに出し巻き卵、にんじんのきんぴら、粉チーズをかけたブロッコリーのおかか和えだ。

「そうそう、今朝はどうしたの」と急に真顔になって問いかけるユリに美緒は入学式見た少年の話をした。

「その人、そんなに岩井先輩に似ていたの。」

美緒は小さくうなずいた。

「岩井先輩のお兄さん、1年くらい前事故で亡くなったらしいの」

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