番外編 魔物討伐へ
遅ればせながら本編最終話のイラストをUPしました。
よろしければご覧ください。
ラピス公爵家はディアナ王国の中では、王家の直轄領に次ぐ広大な領地を所有し、東端では闇の領域とその領土を接している。
そのために大規模な私設騎士団を擁し、その数は公爵邸に常駐している軍だけでも騎馬隊200騎、兵卒を合わせると総勢は600人を誇り、家臣として地方領地を預かる子爵領や男爵領の兵を合算すれば、その規模は実に5000の大軍となる。更に戦時において義勇兵を募れば最大1万人の動員が可能とされていて、その力は王家も無視できるものではない。現当主のクリス・ラピスが、セントラル皇国から聖女ユーフェミアを妻に迎えた事で、ともすればその権勢は王家をも凌ぐのではないかと噂される始末だ。
幸い重臣として長く王家と良好な関係を続けている事と、公爵家が代々善良で公明正大な人物を輩出する名家である事は広く知られている。更に現当主の妹である大聖女クリスティーナの存在は故人となった後にこそ大きく、正義と希望の象徴として扱われ、王家の傍らに公爵家があるからこそ王家の信頼はゆるぎないものとなった。仮に悪意ある者が公爵家の叛意を吹聴したところで、一笑に付されるだけであっただろう。
王国国内は正に平和そのものであった。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。あなたなら一人でも楽勝でしょうから、ちゃちゃっと終わらせて帰って来てね」
「楽勝なの? お父様って、そんなに強いの?」
ふと脇から聞こえた、愛娘からの無邪気な問いに私は慌てて取り繕う。
「り、リリアと、お母様のためでしたら、どんな相手でも、余裕で、楽勝だなぁーって意味ですよ」
「……ふ〜ん、そうなんだ~」
危ない危ない、50体もの魔物を相手に楽勝などと軽口をたたけるのは、おそらく聖女だけだ。かつて上級の魔物を討伐し、この身に神を降臨させて邪神と戦い抜いたの事を思えば、下級に中級が複数体混じった程度の魔物の群れであれば、光の檻の魔法か、上空からの極大魔法一発で簡単に終わってしまうだろう。
それにしてもリリアのジト目は可愛いなあ〜。
「お父様…」
「は、はい!?」
「…………なんでもありません。き、気をつけて下さいね…」
ズキューン!! か、可愛いぃーっ! うちの娘、マジ天使!
低い姿勢からの照れ隠し&父親を気遣う言葉は、ツンデレ要素も含んで威力抜群である。うちの娘は最強ですか!?
「クリス、あなた、顔が大変なことになってる。兵達にしめしがつかないわよ」
「だ、だってぇ」
可愛いは正義だから仕方ないでしょ! リリアの可愛いさは天使だけに神がかってる。私はもう全面降伏だよ!
「も、もう! お父様のバカ! と、とにかく、行ってらっしゃいぃ―――っ!」
「え? り、リリア? お見送りはぁー?」
そう言って逃げるように走り去るで愛娘。あれ? 見送りは最後までしてくれないんだ。
「あれで、難しい年ごろなのかもね」
「う〜ん、これ以上は贅沢かなぁ」
「ちゃっちゃと用事を済ませてくればいいわよ。その後で、労いの言葉でもせがんでみなさい」
「まあ、これ以上ぐずぐずもしてられないしね。うん、今度こそ行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい」
愛しの妻に軽く口づけると、私は公爵邸の門に足を向ける。そこでは、今回の魔物討伐に出陣する騎士団が、今か今かと、私の号令を待っていた。
「閣下! 配下の騎兵100、兵卒200、総勢300! 何時でも出陣出来ます!」
ラピス公騎士団の団長であり、私の剣の師でもあるグスタフが、勢いよく宣言する。
「ご苦労、皆も大義である! 知っての通り魔の領域からの魔物の群の出現により、我らの同胞達が危機に瀕している! 我らはこれより、火急的速やかに現場に赴き、同胞を救援し魔物を討伐するものである! この中には実戦から遠ざかっていた者も多いだろう。かく言う私もそうだ。しかし心配には及ばない。すでに勝つための算段は出来ている! 皆、安心して、その力を発揮して欲しい!」
「「「「うおおおおおぉぉ―――っ!!!」」」」
「進軍開始!」
「「「「うおおおおおぉぉ―――っ!!!」」」」
私からの号令で一斉に進軍を始める三百の軍勢は、土煙を上げながら一路戦場を目指す。
訓練された騎馬と兵士達は、私と騎士団長を先頭にした長い列となった。騎馬、歩兵と続き、最後が糧食を中心とした荷車がいくつも連なり、そのさらに最後方に位置する荷車に、小さな影が忍び込んだ事に気が付いた者は誰もいなかった。
今年最後の投稿です。皆様良いお年をお迎えください。




