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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
かつて大聖女と呼ばれた少年編
77/91

怒涛

 「「「「うおおおおおぉぉ――――――っ!!!」」」」


 やけっぱちに発した私の命令は速やかに実行に移され、正に怒涛の勢いで皇国軍の突撃が始まった。私の名誉将軍の肩書きは、全軍の指揮統率を皇王直々に認められたものだから当然ではある。

 もちろん考えなしに言った訳では無く、戦況を見て最良と判断しての事だ。仮に私の号令が無ければ、ラルゴ元帥が同じ命令を出したであろう事は疑い無い。しかし乙女心(?)の恥じらい混じりの自分の行動に溜息しかない…。


「お父様のばか…」

「クリスは相変わらず乙女だねえ〜、ほんと男の子に戻れるの?」

「戻るわよ」

「わよ?」

「も、戻りますぅ!」


 駄目だ、女言葉が染み付いている。茶化されっぱなしの私は、笑顔満面でいじってくる愛しの愉快犯を睨みつける。


「も、もう! さっさともう一匹始末するの! 私一人でやっつけるから、ユフィはここをお願い!」

「ええ、わかったわ。危なそうだったら援護するから、派手にかましちゃていいわよ」

「い~や、出来るだけ地味でいく」


 これ以上目立ってたまるものか。今さらとは思いつつもユフィに頷いた私は、すでに使用している身体強化魔法を更に強め、飛翔魔法で戦場の中心に移動する。

 上空から見る限り皇国軍の優位は確実だ。お父様の率いる王国軍の加勢が決定打となり、勝利が確定するのも時間の問題に思える。しかし上級の魔物のいる一角だけは話が別だ。この魔物の特殊能力である頭部分裂による小型の分身体。それを次々に生み出しては数を増やし、皇国軍は苦戦を強いられている。その一体一体が中級上位に匹敵する戦闘力を有しているため並の騎士では歯が立たないのだ。

 これは確かに派手な攻撃がいるかもしれない。私は即座に精神を集中させ、魔法攻撃のためのイメージを練り上げる。


「炎、光、火球、集い混じりて…」


 直後、私の目の前に光を纏った巨大な火球が出現する。火と光両方の属性を備えた混合魔法だ。私は火球を携えたまま目の前の兵士達に呼びかける。


「皇国兵達! そこから離れなさい!」

「く、クリスティーナ様!?」

「いかん! 聖女様が魔法を使われるぞ!」

「聖女様の妨げになる! 急ぎここから離れろ!」


 巨大な火球を目にした皇国兵達は大慌てで上級の魔物から離れていく。魔物のみになったのを見極めた私は、思い切り腕を振り下ろした。


「いけえぇ―――っ!!」


 ズジャアアアアァァァ―――――――ッ!!!


 凄まじい光と音を放ちながら、火球が上級の魔物に炸裂した! 超超高高熱の光と熱の暴風が吹き荒れ、上級の魔物とその半径数十メートルが炎に包まれる。魔物達が焼かれる不快な匂いが鼻をつき、これは少し失敗だったなと思いつつも私は戦場に目を向け、愛用の剣を握りしめる。次の瞬間、立ちこめる爆風と煙の中から小さな影が飛び出した!

 

 キイイイィィンッ! 響く剣戟の音。小さな影の正体は上級の魔物の分身体だ。剣で攻撃を受け止めた私は、空いた片手から爆煙魔法を放って目の前の分身体を吹き飛ばした。

 さっきの個体もそうだったが、本体の防御本能により、その危険を排除するべく行動するのは間違いない。裏を返せば本体への攻撃が有効である事の証明でもある。暴風の収まった戦場を見れば、上級の魔物は頭部と上半身の大部分を焼失し、周囲の魔物も多く巻き込まれていた。上級の魔物はもはや瀕死と言ってよい。

 残された数十体の分身体は、危険因子を排除しようと私に一斉に襲い掛かってきた。数はざっと20弱―――!。


 ズバッ!ザシュッ! 


 四方から襲ってきた分身体の内、先ず目の前の2体を切って捨てる。

 パアアァァッ! 続けて光の防護結界を張ると、何体もの分身体が弾き飛ばされた。それに火炎弾を浴びせて始末すると、残りの数体に剣を走らせる。

 ヒュンッ!ザンッ!ズバァッ! 幾重にも剣閃が閃き、瞬く間に魔物が数を減らしていく。最後に残った一体を始末した私は、地上に残る上級の魔物本体に向き合った。

 私が分身体を始末するのに費やした時間は僅かだが、魔法で失った上半身の大部分はすでに再生を終え、頭部を残すのみとなっている。その再生力には呆れるほかない。


「光の槍!」


 私が叫んだ瞬間、頭上に巨大な光の槍が形成される。かつて魔闘技大会での戦いでも使用した強力な光魔法だ。驚嘆するべきはその数だろう。数十メートルにも及ぶ長大な光の槍の数は実に12本。空に立ち並ぶその様はまさに神々の裁きを思わせる。

 

「はあああぁぁ――――っ!」


 私の声と共に解放される膨大な魔力。圧倒的な力を内包した光の槍が一斉に射出され、上級の魔物に襲い掛かった。


 ザシュッ! ドシュッ! ザシュッ!

 

「―――――――――っ!!」


 巨大な光の槍に次々と貫かれる黒い巨体。もはやうめき声は無く、なすがままに私の魔法に串刺しにされ、全ての槍に貫かれた時には元の原型さえ留めていなかった。この時点ですでに生きているとも思えないが相手は上級の魔物である。私は攻撃の手を緩めず、さらに極大魔法を繰り出した。


「雷撃いぃ―――っ!!」


 カッ! ドゴオオオオオオォォォンッ!!!


 巨大な光の柱が天と地をつなぐ。今まで幾度も使った雷撃の魔法だが、それとは全く比べ物にならない私の持てる全ての魔力を込めた止めの一撃である。そのあまりの威力と衝撃に何人かの兵士が吹き飛ばされた。

 やがて圧倒的な破壊の音と光が止み、視界が晴れてくると、元の原型を留めていない黒い大きな塊が見えてきた。周辺の兵士達が息を呑んで見つめる中、その上級の魔物であった物は音も無く崩れてゆき、風がその塵をさらってゆく。全てが塵となり、それも風に散らされてゆくと皇国兵達の歓声が巻き起こった。


「「「「うわああああああぁぁぁぁ――――っ!!!」」」


 響き渡るのは勝利を確信した歓喜の声。まだ気は早いとは思うものの、私自身もほぼ勝利を確信していた。残る魔物の軍勢は中級以下がおよそ3万弱と言ったところ、軍勢としては侮れない数だが、皇国と王国の連合軍にとってはもはや掃討戦だ。全軍の指揮もラルゴ元帥と他の将軍達に任せて大丈夫だろう。ふうっと安堵の声をもらせば、遠くから声が聞こえる。


「クリス―――っ!」


 声の方を見れば、ユフィが飛行魔法で近づいて来るのが見えた。もう待ち切れないと言った様子で、この位置からも笑っているのがわかる。やがて飛行魔法の勢いそのまま私に抱き着いてきた。


「やったわ! 勝ったのね私達!」

「ちょっと気が早いとは思うけど、うん、たぶん勝ったよ」

「あ、その口調」

「うん、まだ慣れてないってのもおかしな話だけど、徐々にね」


 ぎこちなく男の子のように話す私に、笑みを深めるユフィ。しばし抱き合ったまままなんとなく良い雰囲気だったが、そこはそれ地上から待ったが入る。


「抜けがけ禁止ぃ〜〜〜〜っ!!」

「プリシラ?」


 地団駄を踏みそうな剣幕で声をかけてきたのはプリシラだ。巻添えで付き添っているミュリエッタが、申し訳なさそうに頭をペコペコ下げている。


「なあに戦場でイチャコラしてんですかぁ! さっさとお姉様から離れなさぁい!」

「プリシラ、あなた戦場に出てきて危ないわよ」

「大丈夫ですぅー、これでも医療班なのでお仕事ですぅー、のん気にイチャコラしているお二人とは違いますぅ――」


 なんと言う憎まれ口だろう。自国の第一王女の子供じみた大暴言にユフィと二人で笑い合う。


「はいはい、これが終わったら皆でお茶にしましょう。もちろん私も頑張りますから、あなたもお願いね」

「ま、まあ、お姉様がそうおっしゃるなら〜」


 私の言葉にくねくねしながら頷くプリシラ。いつもの面々による間の抜けた会話に気も緩みかけたその時だった―――。


「「―――――――!?」」


 今まで感じた事も無い程の強力な魔の気配! おそらく二人同時に感じ取ったのだろう、飛び跳ねるように私とユフィは同じ方を振り返った。


 そこは魔物軍が密集した場所。皇国軍の最後とも言える掃討戦が繰り広げられているその中心に、黒くそびえ立つような見上げる巨体が姿を現している。


「上級!? いつの間に!?」


 これ程の大きさ、これ程の禍々しさを放ちながら、今までその存在を認識出来ず、気がついた時にはそこにいたのだ。上級の魔物、それも一際厄介な相手と頭が警鐘を鳴らす。


「クリス、あいつ口があるわ」

「…………」


 同じ上級の魔物でも先ほどよりも細身で背が高い。異様な形状の二本の角を生やし、顔の無いのっぺりとした頭部かと思えば、真横に切り裂かれたような半月状の口だけがある。

 一見笑っているようにも見える不気味な口。僅かな隙間からは赤黒い液体がこぼれ落ち、より一層おぞましい存在である事を印象づけた。


――そしてそれはゆっくりと口を開く――

大変お待たせしました。 

新年初投稿だと言うのにもたついてすみません (ノД`)・゜・。

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