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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
セントラルの二人の聖女編
65/86

聖女の異変

 ―――適合者!―――


 目の前で変貌していく闇の司祭。やはりそう簡単には終わってくれないらしい。軽い落胆を覚えつつも、私は剣を握り直す。

 あのアーティファクトでの魔物召喚には警戒せざるを得ない。万が一にでも上級の魔物が出現してしまえば、その討伐が容易ならざる事は誰よりも自分が知っている。

 それとも、まだ召喚の終わっていない今なら倒せるだろうか? 私が剣と魔法いずれで攻撃するべきか迷っている次の瞬間―――。


 シュウウウウウウゥゥゥ――ッ!! 

 今まさに変貌を遂げようとしている闇の司祭を光の粒子が包み込んだ。

 光の結界? これって…。


「ユフィ!?」


 私の後方からいち早く魔法を展開したのはユフィだ。

 

「クリスっ、同調をお願い! 多分、二人なら抑え込めるわ!」

「わかった!」


 迷う必要は無い。ユフィの魔法とその魔力に私の魔力を上乗せするだけだ。 

 しかし同調して初めて分かったが、この魔法は明らかに大規模魔法だ。魔力量は私がいるから心配無いが、制御するだけでも相当の負担があるはず。


「ユフィ! これはダメッ! 別の手を考えよう!」

「大丈夫っ、私を信じて! 光の精霊の制御はクリスよりも出来るわ! それにここ最近は光への親和性が前よりも高まってるの!」

「!? それって…」


 大魔法の行使に絶対の自信を見せるユフィ。私は光への親和性が高まるある現象に思い至るが、今は確証がない。


「ぐああああぁぁ―――っ!! 何だ!? 何なのだこれはぁ!? なぜ私の身体が崩れてゆく!? なぜだああぁぁっ、熱いいいいいぃぃぃ――!」

 

 光の球体に包まれた闇の司祭は、断末魔の悲鳴を上げながら、尚ももがき続け、私とユフィは、結界を強化するために更に魔力を高めていく!


「「はああああぁぁぁ―――っ!!」」

「ぎゃあああああぁぁぁ――――っ!!」

 

 光の球体は少しその大きさを増すと、より一層輝きを強め、もはや中の様子をうかがい知る事は出来ない。次の瞬間―――。


 バチイイィンッ!!


 弾けるような音と共に光の結界が消滅した。

 全てを消し去るほどに眩い光が消え、しんとした静けさが辺りを支配する。魔の気配は既に無く、闇の司祭は、光の結界と共に完全に消え去ったようだ。そんな中、私達二人は半ば呆然として立ちつくす。ふいにユフィの身体が少しグラついたのを見て私は我に返った。慌ててユフィの元に駆け寄ると、彼女の肩を掴む。


「ユフィ、大丈夫!?」

「クリス?」


 私に肩を抱きとめられて、ユフィがへにゃりと笑う。普段の凛とした皇女様ではない、緩んだ素の笑顔に思わず力が抜けた。


「ほんと、無茶しないでよぉ~」

「それクリスが言う? ほぉら、元気があるなら抱きかかえてよ。もう歩けないんだから」


 しれっとお姫様抱っこを要求するユフィ。まあ、嫌ではないですけど…。


「いいですよ。姫君の仰せのままに」

「素直でよろしい」


 ご満悦の笑顔で頷くユフィ。私は戦いが終わった合図の閃光魔法を頭上に打ち上げると、ゆっくりと彼女を抱きかかえ、建物の出口へ向かう。

 建物の出口では、合図を確認した護衛騎士が数人待ち構えていて、私達の姿を見つけると、直ぐに駆け寄ってきた。少し離れたところにケヴィンも控えている。


「閣下、ご無事で何よりです。あの、敵の方は?」

「教団の信者十数名と、司祭と名乗る男が一人、全て処分いたしました。一人でも生かしておきたかったののですが、全員が魔に堕ちたのでやむを得ず。皇女殿下にも助けられましたし、私もまだ未熟ですね」

「私は満足よ、こうして甘えられるし」


 大人しくお姫様抱っこされてるかと思えば、腕の中でユフィが茶化してきた。威厳もクソもない皇女の言葉に、目の前の騎士が反応に困っている。


「だ、ダールトン伯爵令嬢の様子はどうですか?」

「護衛を5人付け、安全な場所で休んでいただいております。拘束されていた手足に軽い擦り傷がありますが、大きな怪我は無く、意識もしっかりされています。さすがに疲れておられますので、騎士の付添いで馬で移動する手筈です。皇都の大壁の近くに馬車を手配していますので、そこからは馬車で伯爵邸まで送り届けます。閣下と皇女殿下も直ぐにご移動下さい」


 私は騎士の報告に頷くと、これから到着する増援組から一個小隊を割いて、闇の教団のアジトの封鎖と、その調査をするよう指示し、皇王陛下への謁見の申請も命じた。今回の事は、出来るだけ早くにお伝えした方が良いだろう。

 ひとしきりの指示を終えて一息つくと、ふと首元からユフィからの視線を感じる。


「な、なに、ユフィ?」

「ねえクリス、セシリアは馬で運んでもらうんでしょう? あなた馬には乗れるの?」

「一応、人並みには乗れるけど、今は無理ね…」

「なんで?」

「スカートだからよ!」


 お姫様抱っこから、馬上でも王子様のような振る舞いを私に期待したのだろうが、いかんせん私が着ているのは侍女のお仕着せである。

 馬にまたがるなどもっての外、乗るならば、お上品に足を揃えての横乗りになる。当然ユフィは相乗りできない。


「むう…」

「ちゃんとこのまま馬車まで運んであげるから、我慢して」

「する」


 甘えたがりモード全開のユフィが気になるが、そのまま私達は無事にセシリアと再会した。

 私にべったりのユフィを見て、言葉に詰まるセシリアだったが、賢明な彼女はあえて何も言わず、私達は無事の再会を喜んだ。その後、セシリアは騎士の介添えで馬に乗り、私はユフィをお姫様抱っこしたまま徒歩で皇都の大壁まで移動する。大壁を抜け道幅が広くなると、報告通りに馬車が用意してあった。


「セシリアお嬢様――っ!」


 馬車の脇から一人の少女が駆け寄って来る。セシリアの侍女のコゼットだ。


「コゼット!」

「お嬢様っ、よ、良かった、よくご無事で!」

「心配かけたわね。何もかも、クリスティーナ様達のおかげよ」


 涙を流し、抱き合いながら再会を喜び合う二人。コゼットは私とユフィに何度もお礼を言い、またセシリアに抱き付くと、感極まってまた泣き出してしまう。それを優しく宥めるセシリアを見て、私は改めて事件が無事に解決した事を安堵した。

 その後、私達3人にコゼットを加えた4人で馬車に乗り込むと、ようやく帰宅の途についた。

 

 移動中の馬車の中でも私にべったり寄り添うユフィ。まるでプリシラのような振る舞いに、さすがの私も彼女の異変に気が付かざるを得ない。

 セシリアをダールトン伯爵邸に送り届けた後、私は馬車の御者に声をかける。


「申し訳ないけど、行き先を変えれるかしら?」    

「それはもちろん構いませんが、どちらまで?」

「皇室治療院よ」

「こ…!?、りょ、了解しました! 直ちに!」


 皇室治療院は、皇族専用の病院で、皇族とそれに連なる高貴な者しか利用出来ない特別な医療機関だ。


 気のせいだと思いたかったが、ユフィには熱がある。ただの発熱なら良いが、私には心当たりが多すぎた。


 先ず彼女が聖女認定を受ける程に光の適正が高いこと。本来、精霊の愛し子への覚醒には段階があるのだ。その第1段階が、光の精霊への適正値が高いこと。そして次の段階では、ただでさえ高い適正値が更に上昇する。先の戦いの最中、ユフィは光の精霊との親和性が高まっていると言っていた。それは正しく光の適正値の上昇と見て良い。


 ここまでであれば聖女ではない一般の人にも稀に見られる現象だ。問題はその先、第3段階での発熱と次の魔力暴走だ。

 人が持つ魔力とは、そのまま生まれ持った魔力の事で、自身の成長に伴って多少増えはするが、それ以外の要因で増える事は無い。

 しかし聖女は、精霊の愛し子は違う。精霊との親和性が極端に高い彼女達には、精霊自らが魔力を分け与えてくれるのだ。

 一見いい事ばかりに見えるが、多すぎる魔力供給は、そのまま愛し子本人の負担となる、特に成人前の覚醒では生命に関わり、魔力暴走の果てに亡くなる者も多い。精霊の愛し子に総じて短命の者が多い理由が正しくそれである。


 何人もの聖女の生命を奪う原因となったその熱と病の事を、皇国では恐れを込めてこう呼ばれている。


 聖女熱と―――。

中途に見えるかもしれませんが、ここで第3章は終わりです。次回からいよいよ最終章です。

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