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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
セントラルの二人の聖女編
59/86

消えたセシリア

―――セシリア・ダールトン伯爵令嬢誘拐される!―――


 衝撃的な情報に、思考が暗転しかける私だったが、そんな場合ではない! 直ぐに立ち直るとコゼットに問いかける。


「コゼットさん、詳しく教えて下さい!」


 コゼットは小さく頷くと、言葉に詰まりながらも、事件の事を話し始めた。


「ば、バザーが終わった後、私、お嬢様と馬車に荷物を積み込むお手伝いをしていたのです。そしたらそこに怪し気な男達が襲い掛かって来ました」

「怪し気な男達?」

「はい、街人のような格好なのですか、口元を布で隠していて、人相までは分からないのです。すぐ近くにいた騎士様達が庇って下さったのですが」

 

 騎士は遊撃隊の連中だろうか? だとすれば少々の相手に遅れを取ることはないはず。


「男の一人が、怪し気な術を、魔法を使って、周りが急に黒い霧に包まれてしまいました。真っ暗で身動きの取れない中、騎士様の悲鳴が響いて…、わ、私、本当に怖くなって、お嬢様と座り込んで震えていたのです。そしたら今度は、お嬢様が腕を掴まれて、私、お嬢様の手を握っていたのです。それなのにあっという間に振りほどかれて……ああっ、お嬢様!……」


 たまらずに泣き崩れるコゼット。


「ケヴィン! 今から表の馬車を確認します。ついてきなさい!」

「わかった」

「クリス待って! 私も行くから!」

「ユフィ、危なくなったら逃げてよ。それから他のみんなはここにいて。プリシラ、あなたもよ」


 当たり前のように自分も行くと言いかねないプリシラに釘をさす。身体強化や、固有の武力を持たない者は足手まといだ。


「……わかりました。お姉様」

「ごめんなさい。その代わりコゼットさんから、より詳しい話を聞いておいてもらえる? お願い」

「わ、わかりました、任せて下さい!」


 少し落込み気味のプリシラであったが、役割を振られて直ぐに顔を上げる。この子なりに、セシリアを心配しているのだろう。

 

 プリシラにその場を任せて、私達は襲撃を受けたと言う馬車の所に向う。バザー会場とは目と鼻の先、ここでの騒ぎに気付かないなんて普通では考えられない。怪し気な男達が使った魔法は、結界の役割もあったのだろう。それでも事件を未然に防げなかった事に目眩のする思いだ。

 馬車の周りに数人の人影がうずくまっている。やはり私が遊撃隊とした騎士達だ。


「あなた達! 大丈夫!?」

「うう…」


 命に別状は無いようだ。倒れている騎士は3人、いや? もう1人…


「ユフィ、回復魔法をお願い」

「わかったわ、任せて」

「か、かたじけありません。任務を全うできぬばかりか、回復の手間まで…」

 

 ユフィの手当に恥じ入る騎士だが、何も出来なかった訳では無さそうだ。


「いいえ、どうやら負傷の甲斐はあったようですよ。おい、そこのお前、意識があるのだろう? 少し付き合えよ」


 私は、倒れている内の1人に問い掛ける。なんの事はない、この場に来た時から馴染のある気配を感じていたのだ。それを辿ればこの男だっただけの事。

 ゆらりと、緩慢な動作で立ち上がる男の手にはナイフが握られている。直ぐにケヴィンが私の前に出ようとするが、私はそれを手で止めた。

 男の口がゆっくりと開く。


「…遅かったな、すでに聖女は、我らの手中にある…」


 すでに聖女は? 男の今の言葉で、セシリアが聖女に間違われた可能性が浮上した。


「聖女? おあいにく様。今も目の前でぴんぴんしているよ」


 挑発的な私の物言いに、男が僅かに動揺する。


「…う、嘘をつくな、確かに我々は、金髪の娘を…」

「ろくに確認もせず、無関係の人間を巻き込む無能ぶり、闇の教団の人材不足は深刻なようだな」


 あえて男口調を続ける私の周りに光の精霊が集まってくる。変装用の伊達メガネを外して、結んでいた髪紐を解くと、目に馴染んだブロンドヘアが豊かに波打つ。光を纏い、輝きを増す私を見て、男が狼狽し始めた。


「せ、聖女、クリスティーナ!? ばかな!」

「ケヴィン! ギレン、マックス両隊長に辺りの封鎖を指示して! さらに隊の一部を孤児院の守備に! 急いで!」

「わかった! それと丸腰じゃまずい、これを使え!」


 ケヴィンが預けていた私の剣を投げよこす。私はそれを片手で掴みながら目の前の男に問い掛ける。


「命は取りません。 洗いざらい吐いてもらいましょう」

「……ふふ、ふははっ、は―――っはは、 僥倖! なんたる幸運か! この手で聖女を殺せるなど、わざわざ残った甲斐があったと言うもの!」


 突然狂ったように笑い出した男は、懐から何かを取り出した。サークレットの形をした()()を見て私の背筋が凍る。あれはまさか!?


「魔物召喚のアーティファクト!?」

「顔色が変わりましたね。そう、()()()()()()()()()()。あいにく上級の魔物は喚べませんがね」


 そう言った男はためらう事なくサークレットを頭に嵌める。次の瞬間、辺りを黒い靄が包み込み、見るからに禍々しい空気に男が包まれていく。

 

「ぐっ、がああああああぁぁ――っ!!」


 苦しげに胸元を掻きむしる男。そして、徐々にその姿が異形の人でないものに変化していく。


 通常の魔物召喚であればそれなりの手続きが必要になるはず。召喚の魔法陣であったり、闇に差し出す対価としての供物、ようは生け贄だ。


 メアリから聞いた話では、あのアーティファクトは魔法陣を必要としない。さらに生け贄の死では無く、その身体を対価としているため、より強力な魔物の召喚が可能だと言う。

 私の目の前で変貌を続ける男の身体に、駆けつけた騎士達も言葉を失う。身体は倍以上大きくなり、節々は不自然にねじ曲がる、そして手には鋭いかぎ爪。


 やがて私の目の前に見知った魔物が現れた。

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