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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
セントラルの二人の聖女編
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孤児院の子供達

 その後、マーサ院長の案内で孤児院を見て回る私達。


「お姫様だ!」

「お姫様が来た!」

「お姫様きれい!」


 小学校で言う所の教室のような場所で子供達の集まりに遭遇した。好奇心いっぱいの子供達は警戒心などお構い無しで近づいて来る。その無邪気な視線に私の良心は痛んだ。


 残念、一人だけ姫では無い。


「あらぁ、みんな私のこと忘れちゃった?」

 

 既に子供達とは顔なじみなのだろう。ユフィがカムフラージュ用の伊達メガネを外して呼びかけた。


「あっ、殿下だ!」

「殿下だ! メガネ変なの――!」

「殿下もお姫様なんだよ!」

「殿下は、殿下だよ!」


 あっという間に子供達に囲まれるユフィ。ただでさえ可愛いユフィが、小さな子供にもみくちゃにされる様子はただただ微笑ましい。なんだろう癒やされる……。


「お姉ちゃまきれい、お姉ちゃまもお姫ちゃま?」


 いつの間に来たのか、私のスカートを握りながら小さな女の子が問いかけた。無垢な瞳に見つめられ、お姉ちゃまでも、お姫ちゃまでもない私は返答に窮する。

 

「そのお方は、新しい聖女様ですよ」


 マーサ院長の言葉に女の子の目が輝く。


「聖女ちゃま!? 殿下と同じ? だからきれいなの?」


 お姫様だの聖女様だの、女性としての最大限の賛辞がただただ痛い…。

 ごめんなさい、実はお兄ちゃまです。


「綺麗って私の事? 褒めてくれてありがとう。あなたも可愛らしいわね」


 ここは開き直って優しいお姉さんでいくしかない。私は膝を屈めて女の子の目線に合わせると、優しく頭を撫でてあげた。途端に輝くような笑顔を浮かべる女の子。


「あっ、ズルい! 私も聖女様と遊ぶ!」

「私も、私も!」

「ちょ、ちょっと待って、みんないっぺんには無理…、ふぇ!?」


 気が付けば私も子供達に囲まれた。後ろから男の子に抱き着かれてよろけそうになる。


「これこれ、聖女様が驚くでしょう。お願いだから良い子で接して頂戴」

「「「「はーい!!!」」」」


 マーサ院長の言葉に素直に返事をする子供達。元気一杯の中でもきちんとした教育がされているようだ。今度は私から適度に距離を取ると、もじもじしながらこちらの様子を伺って来る。

 どうしよう、このままでは無いはずの母性に目覚めてしまう。


「みんな、甘いものは好き――?」

「「「「大好き―――っ!!!」」」」

「じゃあお姉ちゃん達とお菓子を作ろうか?」

「「「「はーい!!!」」」」


 私からの魅惑の提案に元気良く返事する子供達。


「まあ、本当に良いのですか? 事前に聞いていました通りに、材料と厨房の用意は整えていますが」

「ありがとうございます。元々こちらからお願いしていたことですので、早速使わせていただきます」


 不安気に尋ねるマーサ院長だが、私がこういったイベントで黙っていられる訳が無い。自分の料理欲を満たし、尚且つバザーの売上にも貢献できるよう、あらかじめ料理出来る材料と場所を頼んであったのだ。




 孤児院の厨房に場所を移した私達は、早速お菓子作りに取り掛かる。


「そうそう、そんな感じで混ぜて頂戴。疲れたら次の子と交代してね」


 卵白の泡立てや、生地を混ぜるだけの簡単な作業。きちんとしたサポートがあれば、子供でも遊び感覚で出来てしまう。


「クリスティーナ様、卵白がなかなか泡立たないのですが…」

「セシリアさん、少しだけボウルを傾けてみて下さい。ちょっとやって見せますね」


 私はセシリアから卵白の入ったボウルを受け取ると、慣れた手つきで卵白をかき混ぜる。あっという間に出来上がったメレンゲを見てセシリアが呟いた。


「すごい、魔法みたい」

「ふふ、ありがとうございます。慣れればセシリアさんも直ぐに出来ますよ」

「本当ですか?」

 

 いつも気難しい顔をしているセシリアが、こうやって年相応の表情を見せるのは珍しい。私と同じ金髪ロングのセシリアは、普段はクールビューティーなイメージだが、素の表情はとても優しく柔らかい。

 

「クリス姉様、私のメレンゲは上手く出来ましたよ!」


 何かとセシリアと張り合うプリシラが、得意気に宣言する。


「うん、良く出来てますよ。あともう少しかき混ぜて、こんな感じにつのが立つまで頑張ってね」

「ええっ、まだ混ぜるのですか? もう腕が痛いですぅ〜」

「泣き言を言わないの。バザーが始まるまで時間が無いんだから」

「ふぇ〜ん」


 すごすごと持ち場に戻るプリシラ。入れ違いにユフィが焼き立てのクッキーを持って来た。


「クリス、早速焼き上がったわよ」

「あら美味しそう、良い色に焼けたわね」


 焼き立ての甘い匂いに子供達の手が止まる。うんうん、お手伝いにはご褒美が必要だよね。


「みんなー、休憩して試食するよー!」

「「「「はーい!!!」」」」


 元気の良い返事と共に子供達が集まって来た。まだまだ焼きあがるとはいえバザーの売り物が無くなるのは困る。一人一枚づつの制限を与えて、みんなで一斉にぱくり。


「「「「美味しいぃ―――っ!!」」」」


 私に備わっている女子力チート。いらない機能が多い中で、唯一私が気に入っているのがお料理2割増の機能だ。どういうからくりかは分からないが、私が調理したそれは2割増で美味しくなる。

 笑顔満面の子供達の隣で、孤児院の職員達も驚きの声を隠せない。


「驚きました。クリスティーナ様がここまでお料理上手とは」

「高位貴族のご令嬢が厨房に立たれるだけでも画期的ですのに」

「聖女さま、まだ食べたいぃー!」

「欲しいー!」


 一枚だけでは子供達は満足出来ないようだ。可愛らしいおねだりに私の頬が緩む。


「もう、しょうがないなぁー、それじゃあ特別に子供達だけもう一枚食べてよろしい!」

「「「「わーい!!」」」」

「そのかわり、食べ終わったらお菓子作りを頑張ってね。ご褒美はいーっぱい用意するから」

「「「「はーい!!」」」」


 満面の笑顔で返事をする子供達。何人かは私のスカートにまとわりついて離れたがらず、スカートの布をぎゅっと握りしめている。その様子はただただ可愛い。


「こ、これが理想の花嫁No.1の実力」

「クリス姉様、さすがです!」

「お嬢様はいったい何を目指しているのでしょう?」

「本人が満足しているから大丈夫よ」


 外野がうるさい。

 別に意識して女の子女の子しているわけではないし、もちろん理想の花嫁などを目指してもいない。これでもごく普通に行動して、発言しているつもりなのだ。


 ふと、マーサ院長がユフィに耳打ちするのが見えた。彼女の頬が可愛らしく染まっているのを見るに、また良いお嫁さんを見つけたわねとネタにされているのだろう。

 

 このままでは二人仲良くウエディングドレスを着る羽目になってしまう? それはそれでお母様達は喜びそうだけど、花嫁の父はどうなるのだろう? クッキーの生地をこねながら、のんきな事を考える自分に思わず笑ってしまった。

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