その後のメアリ②
「あ、あの…、さっきから、私の嫁ぎ先の話でしょうか? く、クリスティーナ様の側妻? 女性同士ですよね? え、え~と… あれれ?」
情報過多で目を回しているメアリ。この上、私の性別の事を知ったら、さらに混乱するのは間違いない。
「め、メアリ、こ、これは、その~、お母様の冗談だから…」
「いいえ、冗談ではないわ!」
「お母様!?」
「クリスの専属になるのですから、いずれは知ることです。メアリ、こちらにいらっしゃい」
「お、お母様! ちょっと待って!」
私が慌てて止めに入るも、時すでに遅く、お母様はメアリの耳元に小声で囁いた。
"あの子は男です"
瞬間、固まるメアリ。
ぎりぎりと重い首を動かし、信じ難いものを見るような顔を私に向けたメアリが、ひゅっ と息を吸い込んだ次ぎの瞬間―――
「く、くく、クリスティーナ様が、おっ、おと…」
「はい、そこまでです!」
メアリが男と口にする前に、マチルダが素早く彼女の口を塞ぐ。たとえ他者が口にした事でも、光の精霊によって何が起こるか分からないのだ。
観念した私は、ため息をつくと、メアリに向き直る。
「今まで騙していてごめんなさい。いわゆる聖女ではありませんが、私は精霊の愛し子です。その力を抑えるために、貴族令嬢として育てられました。あの…、信じてもらえるかしら…?」
「無理です! 信じられませんっ!!」
その悲鳴のような言葉に、ユフィとマチルダが、無理もないと深くうなずいた。
なかなか衝撃から立ち直れないメアリは、私の頭から爪先まで、じっと見つめてくる。私の見た目から、少しでも男らしさを探そうとしているようだ。
なんとなく恥ずかしくなった私は、思わず身をよじる。
「そ、そんなにじっと見つめられると、恥ずかしいです…」
「しっ、失礼しました!」
「クリス、そんな悩ましいポーズをとったら、説得力が無いわよ」
ユフィからダメ出しが入る。これって、悩ましい?
「美少女が普通に恥じらっているようにしか見えないわ」
お母様もマチルダも、頭を抱えてため息をつく始末。男の私はそんなにいただけないのだろうか?
「あの…、女性じゃなきゃ、ダメですか?」
「いっ、いえ! そんな事はありません! むしろ……」
「むしろ?」
「―――な、ななな、何でもありませんっ!」
メアリは、顔を真っ赤にして座り込んだ。顔を手で隠しながらも小声で、あり得ない、信じられないを繰り返し呟いている。
ここで私は、ある事に気がついた。
「お母様。お父様の女性専属は皆その扱いと言いましたよね? まさかマチルダも?」
「あら、学院入学前に言ったでしょう? あなた達に何があっても大丈夫だと」
「私も、お嬢様が何をなさっても問題無いと言いました。」
「問題だらけですっ!」
私の専属侍女がみんな側妻候補って、聞いてません!
「お義母様、分かりました」
「ゆ、ユフィ?」
「側妻はもちろん、家内を取り仕切るのが私の仕事と言うわけですね? マチルダ、メアリ、後で3人で話をしましょう」
「かしこまりました。望むところにございます」
「はい! よろしくお願いします!」
へ? 何で三人とも前のめりなの?
「三人だけなんてずるいです。私も仲間に入れてください!」
「クリスはダメ!」
「お嬢様はご遠慮ください」
「クリスティーナ様は、ちょっと……」
にべもなく断られた。この小さな差別と仲間外れに私の心はいたく傷ついた。
理不尽である。
その後の休みは、ユフィとマチルダ、それにメアリを加えた三人にもみくちゃにされながら賑やかに、それでも平穏に過ぎていった。
そうして長い休みも終わり、お母様がメアリを伴って公爵領へと帰って行くと、私とユフィも女子寮に帰ることになる。
相変わらずの仰々しい護衛に囲まれての移動にはうんざりしたが、聖女ブームにわく皇都は平和そのもので、馬車の中から柄にもなく手を振れば、街中には人々の笑顔があふれた。
程なくして帰宅した女子寮では一つの再会が待っていた。
「プリシラ、あなた…」
「お久しぶりです。お 姉 様!」
自室の前では、変わらぬ笑顔の自国の第一王女、私の初めての友達、プリシラが立っていた。
すみません。諸々の諸事情で執筆ペースが
落ちています。m(。≧Д≦。)m
気長にお待ちいただけると助かります。