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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
42/86

セントラル皇王

 ―――皇城ホワイトパレス―――


 白銀に輝くタリスの柱、それに寄り添うように建てられた巨大な建造物。その神の柱に合わせ、白一色で建造されたその城は、ホワイトパレスの名にふさわしい美しさと、荘厳な佇まいを見せていた。


 城の主であり、セントラル皇国の現皇王、マクシミリアン・ヴァン・セントラルは、謁見の間の玉座に静かに座し、二人の賓客を迎えている。

 傍らの二つの小玉座には、皇后と皇太子が座り、両隣の列には、キルギス宰相を筆頭に、この国の文武の要である重臣達が綺羅星のごとく立ち並んでいる。その一人一人が、その名を他国まで響かせる有能な文官達であり、常勝不敗の将軍達であった。


 対する賓客は二人だけ。うら若い、まだ少女と言ってよい年の頃の、極めて美しい容姿の娘達である。

 ブロンドとプラチナブロンドの違いはあれ、背中まで伸びた美しい髪は艶やかに光を纏い、白を基調とした清楚なドレスは、慕わしさと同時に、神秘的なものへの近寄り難い印象を与えた、

 少女達を見た者は、皆一様に同じ思いを抱いた事であろう。


 ―――聖女と―――


 プラチナブロンドの少女は、皇王自身の愛娘、ユーフェミア・ファナ・セントラルである。

 幼き頃より光の精霊力が高く、豊富な魔力量を誇り、その可憐な姿は、建国王に嫁いだ伝説の聖女に瓜二つと讃えられ、早くから聖女の地位にある。

 精霊の愛し子不在の時代が長きに渡り、人々の記憶からも薄れつつあった中で、ようやく現れた当代の聖女で、民衆から絶大な支持を集めている。


 そしてもう一人の少女。


 ユーフェミア皇女と同じく、白い聖女の衣装を身に纏い、大国の王の御前にあっても、臆すること無く自然にたたずむ。

 ディアナ王国の高位貴族である、ラピス公爵家の長女、クリスティーナ・ラピス公爵令嬢。先の闇の魔物討伐の、最大の功労者であり、突如として皇都に現れた二人目の聖女である。


 魔法学院入学の時より、その美しい容姿と、一万を超える魔力量で、一躍、人々の注目を集める。その反面、何事においても控え目で奥ゆかしく、淑女としてのあらゆる手習いに秀で、男子生徒からは、理想の花嫁と人気を博した。

 また、その細腕と可憐な容姿からは想像もつかない程の剣の使い手であり、魔闘技大会では前回王者のギルバートを相手に、最後まで互角に渡り合い、彼女の名は、皇都中に知れ渡る事となる。


 ユーフェミア皇女が、癒しの魔法の優れた使い手であるなら、クリスティーナ嬢は武勇の力に優れ、先の魔物襲撃の際には、最後まで先陣に立ち、討伐不可能と思われた上級の魔物を、ほぼ単身で討伐せしめた。

 

 その武勲と功績は、他に比肩する者なく、しかも美しい少女である。それが二人目の聖女であったと言う衝撃的な真実は、皇都のみならず、皇国中に瞬く間に知れ渡り、驚きと歓呼の声で迎えられた。 


 一つの時代に聖女が二人いた例は無く、どちらも絶世と言ってよい程の美少女である。聖女の正装は、まるで、この日この為にこそ作られたのではと思うほど、二人に良く似合い、それに身を包んだ二人が並び立つ姿は、神話の時代に逆戻りしたかのような印象を与えた。


 その神秘的な光景を前に、皇王自身も思わず感嘆の声を洩らす。


「…まったく、見事と言う他ないな、並び立つ二人の聖女か…、まさか、余の治世にこのような光景を目にしようとは…」


 皇王の言葉に、列席者の多くから賛同の声が上がる。謁見の間の聖女を称える空気に、若干の居心地の悪さを感じつつ、私は必死に淑女スマイルをキープする。


「ふむ、いかんな、せっかくの客人を待たせては…、余が皇王マクシミリアンである。此度の働き、実に見事であった。新たな聖女よ」


 公の謁見において、皇王自らが先に名乗りを上げるのは異例な事であろう。声をかけられた私は、聖女の白いドレスをつまんでカーテシーをする。


「お初にお目にかかります。ディアナ王国、ラピス公爵が長女、クリスティーナ・ラピスと申します。過分なお褒めの言葉を賜り、光栄に存じます」


 私の動き一つ、言葉一つに列席者から、ざわめきが聞こえる。信じがたい事に、神官らしき列席者の中には、涙を流している者さえいて、私は逃げ出したい衝動を必死に抑え込む。


「ふ~む、実に美しい。皇王たる身が口にするのもはばかられるが、傾国の美女と言ってもよい程だな」


 傾国って、どんな悪女ですか!? これ本気で言ってないよね? 取りあえず、軽口には軽口で返しておこう。


「取るに足りぬ小娘にございます。傾国や、聖女などと言われても、持て余すばかり。辞退したいと申しましたら、陛下は聞き入れて下さるでしょうか?」

「そ、それは困ります! 聖女様!!」


 返答は別の所から飛び出した。神官服を着た一団の中でも、高位の司祭とおぼしき男だ。その男の発言と同時に、皇王陛下とユフィの口からは溜め息が洩れる。


「し、失礼。しかし、クリスティーナ様の聖女認定は、我が教団の全会一致で決まった事。しかも過去に例の無い二人目の聖女にございます。その二人が成し遂げた魔物討伐! なんたる偉業! なんたる奇跡! 同じ時代、同じ場所に在りし我が身の幸運を、どう神に感謝するべきか…」


 たまりかねた皇王が、ここで口をはさむ。


「ブロム司祭、この場は、クリスティーナ嬢を労うための席でもある。そのようにまくし立てては、聖女殿も疲れようぞ」

「こ、これは失礼いたしました…」


 ブロム司祭と言われた男は、慌てて口をつぐむものの、まだ言い足りないのだろう、私とユフィに熱のこもった視線を向け、それを隠そうともしない。ヤバい人だ……


「すまぬな聖女殿、どうしてもと申すので、聖女教の者を同席させたが、見ての通りだ。この者だけではない。皇都中が、そなたを称えての大騒ぎよ。いくらそなたが拒もうが、民は勝手に聖女と呼ぼう。早めに諦めることだ」

「それでは、せめて陛下だけでも、聖女と呼ぶのは止めて頂けませんか? どうにも落ち着きません」


 大国の王にまで、聖女と呼ばれるのは勘弁してもらいたい。


「よいとも、ではクリスティーナ嬢、改めて礼を言わせてくれ。そなたの働きのおかげで、あれ程の大規模な魔物の襲撃で、わが民、わが兵に一人の犠牲も出さずに済んだ。」


「小娘には、過ぎたお言葉にございます。陛下。これらはユーフェミア殿下や、皇国騎士団の助力があってこそ。私一人の手柄ではございません」


 あれだけの数の魔物を、私一人で倒したはずもなく、ユフィ達の治療が無ければ、死者がゼロと言う奇跡も叶わなかっただろう。


「それでも、そなたで無ければ、あの上級の魔物は倒せなかった。違うか?」


 皇王の目が細められ、言葉には有無を言わさぬ力が込められている。魔闘技大会の開会式で見た、雪山の狼のような謹厳な空気を纏い、さすが大国の王と思わせる風格に満ちていた。

 これには、私も慎重に言葉を選ぶ。


「…否定はいたしません」


 あっさりと認めた私に、なおも皇王からの質問が続く。


「あれ程の力、そもそも、ディアナ王国で、聖女の名乗りを上げなかったのは、何故だ?」

「大国であるセントラルで、歴とした光の聖女がいるのに、果たして何人が信じる事でしょう? それに聖女を詐称したとして、貴国との関係が悪化する恐れすらあります」


 国にも私にもデメリットしかない。


「ふむ、慎重なディアナ王が考えそうな事だ。やはりディアナ王も知っていたのだな、そなたが聖女だと?」


 するすると私の情報が引き出されていく。ユフィから狸親父と言われるのも納得だ。


「私からは何とも、仰せの通り、わが王は慎重な方ですので」

「ふっ、単純な戦闘力のみならず、政治的な駆け引きも如才ないか。そなたの事をディアナ王に書簡にて尋ねたが、ただ、アレクシス王太子の婚約者候補、とのみの返答であった」


 私の頭の中で、王の衣を纏った大狸の化かし合う幻が浮かんだ。


「それ以上でも、それ以下でもありません」

「謙遜か? そなたは聖女で、隠している秘密も一つや二つではあるまい? そなたのような存在が、大人しく王妃に収まる訳がなかろう。それ故の婚約者()()。隠れ蓑と言うわけか」


 まずいっ、私の情報が丸裸じゃないですか!?


「お父様っ!!」


 皇王と私の会話に割って入ったのは、ユフィだ。表情は普段通りに見えるが、私には明らかに怒って見えた。


「失礼しました 陛下。 なれど、先ほどからの言い様、まるで査問会ではありませんか! ここは公爵令嬢へ、皇国からの感謝を伝える場のはず!」


 ユフィのもっともな指摘に、皇王がわざとらしく咳ばらいをすると、興味深げにユフィを見つめる。


「おお、確かにユーフェミアの言う通りだ。すまぬなクリスティーナ嬢、そなたとの問答が楽しくて、つい…な」


 にやにやと顎を撫ぜながら、悪びれる様子はない。自国のエメロード陛下と言い、目の前の皇王と言い、統治者達の娯楽にされてはたまったものではない。


「では改めて、余の感謝の念がいかに厚きか、見せようではないか。 キルギス宰相!」

「はっ!」

「クリスティーナ嬢への褒美の中身を伝えよ」


 褒美? 何か嫌な予感がする。こんな言葉にも警戒してしまうあたり、私は自分の運の悪さに自信があるらしい。キルギス宰相は一枚の紙を広げると声を張った。


「この度の魔物討伐の功績により、クリスティーナ・ラピス公爵令嬢に、皇室聖十字勲章、並びに皇国金貨1000枚、さらに特例として、セントラル皇族の女人のみに許される”ファナ”の称号を与える。 また、皇国における名誉将軍の位を授け、必要とあらば皇国五軍全ての指揮統率を認めるものとする!」


 ……………はい?

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