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父母との対面

 その日の夜。晩餐の席にて私は父母と顔を合わせた。前世の記憶持ちの状態で会うのは初めてのため、若干の不安や緊張はあったものの、父母の顔を見た瞬間にそれらは氷解した。

 心の底から沸き上がる親しみや愛おしさは、記憶を取り戻す前のクリスティーナが、両親と良い親子関係を築き上げたからこそであろう。


 二人とも絵に描いたような美男美女で、クリスティーナは明らかに母親似だ。どちらもまだ20代後半でとても若い。


「お父様、お母様。ご心配をおかけしました」


 クリスティーナのかわいらしいカーテシーを見て、父親のラピス公ジルクは、思わず破顔する。


「おお、クリス。またずいぶんとかわいらしい。臥せっていたと聞いていたが、大事は無さそうだね」

「マチルダの見立てかしら?ドレスも良く似合ってますよ」


 今夜の私の装いは、シンプルな青のドレスだ。控えめにフリルのあしらわれたそれは、クリスティーナに良く似合っていて、長い髪も食事しやすいようにハーフアップに整えられている。幼いとは言え、さすがこの世界の正ヒロイン(男だけど)だと思えた。


 よく聞く転生時のボーナスが女子力チートってどうだろう? 別に圧倒的な力で世界の敵と戦いたいわけではないが、男同士の恋愛はもっとしたくない。理不尽だ。

 

 私は、ラピス公爵、もといお父様に優しく抱上げられ、お母様もそれに寄り添った。クリスティーナが慣れ親しんだ一連のやり取りが、たまらなく心地良い。ふと、前世で早くに亡くした母親と、たった1人。あの世界に残してしまった父親の事を思い出した。

 自然に涙が溢れた―― あれ?


「クリス?」

「まあ、どうしたの? 少し心細かったかしら?」

「ち、違います。…私…」


 泣き虫トリガーは前世の記憶だが、それに過剰に反応したのは、私の中の小さなクリスティーナだった。まだ甘えたい盛りの普通の子供が、見知らぬ世界の記憶に翻弄され、不安定な心を抱えたまま久しぶりに父母の顔を見たのだ。無条件の愛情に触れた瞬間に涙が出たとしても無理はない。


「お嬢様は、少し夢見が悪かったようです」

「おおそうか。さぞ怖い夢を見たのだろう。私達も留守にしがちで悪かったね」

「大丈夫ですよ。お父様がクリス会いたさにお休みをもらってきましたから」

「おいおい。それでは私がクリスを言い訳に仕事をさぼっているみたいではないか?」

「あら。違いますの?」

「いいや! 違わん! クリスより大事なものなどない!」

「まあ! 開き直って。いけないお父様ですこと」


 笑いの絶えない家庭。問題が山積みでも、この体に転生して良かったと思えた。

 それにしても、まさか泣き出してしまうとは。マチルダの機転のおかげでごまかせたが、いい感じに落ち着いたと思えた2人分の感情が、父母に会った途端に、転生前の小さなクリスティーナに傾いたようだ。

 もちろん元高校生としては恥ずかしいに違いはない。それでもこの場では、小さなクリスティーナに主導権を渡して正解だと思った。この優しい人達を悲しませてはいけない。

 

 ふと気づいたが、お父様もお母様も。私の名前をクリスと言う愛称で呼んでいる。愛称とも取れるが、クリスは男性の名前でもある。

 お父様はジルク・ラピス。お母様はマリア・ラピス。自らの短めの名前に似せて、クリス・ラピスと言うのが本来の私の名前なのだろうか? 私が男として生きられる道を、なんとか残してくれているようにも思える。なんの根拠はないが、そうであれば嬉しいと思えた。


 公爵家の晩餐は穏やかに過ぎていった。食事も贅を凝らしたものではなく、クリスティーナの体調を気遣っての優しい献立が出され、転生してこのかた、ぐちゃぐちゃだった私のメンタルは、ひたすら癒された。

 

 


 

 ――また前世の夢を見た――

 

「クリスちゃんは、ほとんどのルートが()()でね。ほんとに健気なんだよー」

「あのー さっきから出てくる()()とか()()とか言うのは、バトルゲームの専門用語?」

「う~ん、男の子にはわっかんないよね~ でも教えてあげない! そっちの方が萌えるから!」


 彼女の頭の中で、僕はどう映っているのだろう? 一抹の不安を感じつつも、彼女の笑顔を目で追ってしまう。大多数の人間が欠点と認識する所ですら、好ましく感じるのだから救いようがない。

 あの事故の直前に笑ってくれた彼女…………

 告白の返事は、どうだったのだろう?……


「会いたいな……」


 夢の余韻を残したまま、私は考えに浸る。

 私が前世の記憶に目覚めてから早くも一月が経った。マチルダ以外に前世の秘密を知る者はなく、私の様子がおかしかったのも、小さな子特有の不安定さと言うことで周囲は納得してくれた。


 お父様とお母様は、また一段と過保護に拍車がかかったように思えるが、とにかく心配をかけるまいと、私は存分に甘えまくった。勘の良いお母様は細かな変化に気づいているようだったが、特に悪い変化とは思っていないようで、様子を見てくれている。私の周囲は平穏そのものだ。


 問題はこれから先の事だ。

 私はこの世界の元となったであろうゲームをプレイしたことはなく、本当に大まかな内容しか把握できていない。


 先ずは、私。クリスティーナが正ヒロイン(男だけど)であること。

 ゲームの舞台が貴族たちが通う学校のような所であったこと。

 攻略対象者は全て男性。ルートのイベントや、攻略条件等、諸々はまるで分からない。そもそも私は、攻略する気がない! 叶うことなら学校に行かず。このまま引きこもりライフをエンジョイしたいとすら思っている。

 まあ、無理だろうけど……。


 学校が舞台であることから、ゲーム開始は入学式から始まると思われる。問題の舞台となる学校は、おそらくセントラル皇国の魔法学院のことだろう。

 なにせ、このゲームには、様々な国の王族や貴族たちが綺羅星のごとく登場するのだ。その条件に合致するのが、その魔法学院しかなかった。


 セントラル皇国は、この世界の中央に位置する大国である。豊かな国力と、他国に対しての絶大な影響力を誇り、故にその学院は皇国のみならず、ベルグリース随一の名門と言われている。


 魔法学院との名称ではあるが、魔法のみならず剣術や政治学等、あらゆる学問も修める事が出来る。さらには中央に位置し、すべての国と隣接する地理的な好条件から、他国の王侯貴族達に好んで留学先として選ばれる傾向にあり、外交能力を磨く場としての評価も高い。

 

 そしてこの学院で何よりも重要とされているのが、在学中に自身の結婚相手を見つけることであった。

 あらゆる国の様々な王侯貴族や、優秀な人材が一同に集まるこの学院は、身分に釣り合う相手を探すにはもってこいであり、ある者は政略的に相手を探し。ある者は玉の輿を狙い。当然。真剣に恋愛相手を探す者も少なくなかった。

 様々な人間模様の織り成されるその学院は、まさしく恋愛ゲームの舞台にふさわしいと言えるであるう。


 攻略対象と関わる可能性を考えると、モーレツに行きたくないのだがそうもいかない。この世界に転生したと思われる彼女を探す上でも、最も会える可能性の高い場所だからだ。


 学院に入学するのは12歳からだ。それまであと5年。その間に私が先ずやるべき事は――

 勉強。情報収集。そして何より……身体を鍛えるっ!!!


 私が身体を鍛えたいのには切実な理由がある。魔法学院では遅かれ早かれ攻略対象達との接触があるわけだが、ここで無視できない問題があった。どの攻略対象のルートでも、かなりの高確率でクリスティーナが男だと言う秘密はばれてしまうらしい。


 あろうことかクリスティーナはその秘密を弱みに、攻略対象達に手ごめにされてしまうのだ。それって逆に攻略されてませんか!? 弱い! 弱すぎるぞクリスティーナ!!

 

 優しい父母の下。大切に育てられ、徹底した淑女教育の完成形とも言うべき、女子力チートのクリスティーナだが、その弱点は明らかにフィジカル面にあった。


 逆に攻略対象達は、某国の騎士団長令息をはじめ腕っぷし自慢らしい。

 なんて面倒な!

 とにかく、これらの攻略対象を相手にして、圧倒出来るだけのの強さを、クリスティーナは身に付けなければいけない。BLルート回避のために!

 私はやる! 私は絶対に腐らないっ!!


やたら説明ばかりな回になってしまいました。退屈された方ごめんなさい。

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