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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
34/86

大会の裏側で

 何かがおかしい? 何でこうなった? 女装した男子が戦っているだけで、何故こうも人気が出る?

 大会に出る前は考えもしなかった世間の反応に、私は首をひねるばかりだ。異世界だと言うことを含めても予想外が過ぎる。


 さらに、ミラー王子を一回戦で破った後の続く二回戦。私の対戦相手が棄権をした為に二回戦は不戦勝。あっさりと私の三回戦進出が決定してしまった。私自身やりすぎた感はあったので、勝負を避ける輩が現れることは予想していた。問題はその後だ。


 なんと私の姿目当てで来ている観客からの大ブーイングで、闘技場内は不満の嵐となってしまったのだ。

 慌てた大会運営は私に顔見せを要求。おかげで観客を静める為だけに私は会場に姿を見せる破目となり、恥ずかしさを堪えて観客の前に姿を見せると、またもや大歓声!

 まっ。まずい! これ、優勝したらとんでもない事になる!? ただでさえ引きこもり令嬢として人前を苦手にしているのに、こんな状態が続いたらコミュ障拗らせて死んでしまう! 私は顔を引きつらせながらも適当に声援に応えると、またそそくさと帰って行った。

 もうっ! お家に帰るぅ―――!!


 試合してもいないのに必要以上に疲れた私は、係の方からのお礼もそこそこにその場を離れて、足取り重く控え室に向かう。

 とぼとぼと歩く通路の先、ふと目の前を見知った人物が横切った。


「メアリさん?」

「―――!?」


 私に声をかけられたメアリは、驚いた顔で振り返った。その顔が真っ青な事に私も驚く。


「クリスティーナ様!? どうして?」


 その顔色もそうだが、メアリの様子は普通ではない。それにさっきから視界に違和感がある。チカチカと反射するような魔力? これって……


「……認識阻害魔法?」

「!」


 前にユフィが使っていた姿隠しの魔法と同じか、あるいは似た魔法。この魔法は術者より魔力の高い人間には効果が無いらしい。

 メアリが、私に声をかけられて驚いた理由もこれだろう。魔力量が王族並みに高いメアリの魔力を上回る者はそうはいない。よくよく考えてみれば、ここは関係者以外は立ち入り禁止である。忍び込んでいた?


「メアリさん、あなたは…?」

「………」


 私の声に肩を震わせたメアリは、俯くとそのまま黙り込んだ。長いようで短い沈黙の後、顔を上げた彼女が突然告げたのは―――


「―――ここから逃げて下さい!」

「!?」


 私が驚いたのは、発言の内容はもちろんだが、メアリが泣いていたからだ。彼女は大粒の涙をこぼしながら尚も言いつのる。


「クリスティーナ様、今すぐにここから逃げて下さい! もう間に合わなくなります!」

「メアリさん、落ち着いて!」


 パニック寸前のメアリをなんとか落ち着かせようとするが、私は必ずしも女性の扱いが上手いとは言い難い。落ち着いてなんて、気の利かない言葉で、どれだけの人が救われるだろう? 当然だがメアリが落ち着く気配はない。


「私は!――」


 メアリはそこで黙ると、絞り出すように言葉を続けた。


「私は… 許されない事をしました……」


 再び大粒の涙をこぼしながら嗚咽するメアリは、その場にうずくまった。知り合って日も浅く、それほど彼女と親しくない私だが、この状況に至る心当たりが一つだけあった。


「それは、あなたが闇の教団の信者であることに関係ありますか?」

「―――!? どっ、どうしてそれを?」


 それを知ったのは本当に偶然だった。


「偶然です。ケガをしたあなたを抱き抱えた時に、後ろ髪の下が見えたので…」


 後ろ髪の下、首の付け根にあったのは、黒い大鎚の刺青。教団の信者には必ずあるものと聞いている。そのマークだ。


「場所を変えましょう」


 メアリの様子からも事態が切迫している事は理解している。しかし、この話はまだ人に聞かれる訳にはいかない。呆然としているメアリを連れて私は選手控え室に向かった。




 闘技場内の選手控え室。女性(?)の私は個室があてがわれている。そこに遮音の結界を張ると、私はメアリに話の続きを促した。


「もう間も無くすると、この闘技場に闇の魔物が現れます」

「やはりそうですか」

「―――? 信じて下さるのですか?」

「闇の教団と関わるのも、魔物と戦うのも初めてではありませんから」


 闇の教団の関与が分かった時点で、ある程度は予想出来た事だ。問題は禁教とされているこの皇都で、どうやってそれが可能であったのかだ?


「魔物召喚の儀式は、皇都の貧民街で行われました。召喚された魔物をここに転移させる魔法陣を設置したのは……私です…」


 転移魔法は高度ではあるものの、近距離であれば十分に可能な魔法だ。おそらくメアリはこのために学院に入学したか、あるいはさせられたのだろう。そして、おそらく貧民街は皇都の内と見なされていない。塀の外であれば、闇の教団もある程度の自由が利くと言う訳だ。


「魔物達の規模は?」

「中級、下級の群れを()()が率います」

「―――上級!?」


 さすがにそれは予想を超えている。


「そんな事が可能なのですか!?」


 メアリは真っ青な顔で頷くと話を続ける。


「上級の魔物の召喚のみ依り代が必要でした。豊富な魔力と、頑強な肉体。そして異常な執着心。もう間も無く()に上級の魔物が()()します」

「―――彼とは?」


 気が付けば私の声も震えている。


「―――ケヴィン・ウォーロック―――」

なんかえらい事になりました。

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