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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
33/86

VSミラー

 明けて本戦当日。


 すでに闘技場では決勝トーナメントの一回戦が行われている。観客席は熱気に包まれてほぼ満員。ギルバートとの戦いで必要以上に目立ってしまった私の人気はすごいらしく、過去最高の観客数との事だ。知らんけど。


 ちなみに私の一回戦の相手は、なんとあのミラー王子だ。おかげで淑女科の応援がすごい事になっている。


 目立ちたくないのに注目を集め、関わりたくないのに関わってしまう。前回覇者のギルバートに勝負を挑まれた件にしてみても、私の運は壊滅的に悪いらしい。私が何をした?


 そうこうしている間に、係の者に早々と出番を告げられ試合会場に向かう。

 会場入口のゲートをくぐり私が姿を見せた途端、割れんばかりの拍手と歓声があがった。対面のゲートにはミラー王子の姿が見える。

 私達の会場入りを見計らっていたのだろう。アナウンスが試合前の実況を始めた。


『さあ本日一回戦の第三試合、注目のカードです! 圧倒的な魔法の才能で、天才の呼び声も高い魔法大国リアの第3王子ミラー・カイゼル選手! 対するは、昨日の予選で前回覇者ギルバート選手を相手に互角の戦いを見せた超新星! 麗しい見た目も相まって今大会の注目の的となりました。ディアナ王国公爵令嬢クリスティーナ・ラピス選手! この両者の一戦です!』


 大仰に紹介され、それだけでこの場から逃げたくなる。やはりギルバートと戦ったのは失敗だった。

 ふとミラー王子を見ると、相変わらず私に対する敵意を隠そうともせず、あからさまに睨みつけてくる。なんか勝負する前からげんなりだよ!


「ラピス公爵令嬢!」


 おもむろにミラー王子が声をかける。


「この勝負に限って剣を使わずに、魔法のみの一騎討ちを提案する!」


 はて? ミラー王子の提案に私は首をかしげる。彼はそもそも剣を持っていない。


『おおーっとー、ミラー王子から剣を使わずに、魔法のみの勝負が提案されました。し、しかし、ミラー選手は元より剣を所持していません。これは明らかに自分有利の勝手な要求です。当たり前ですが、観客席からはブーイングが飛び交っています』


 さすがに自分でも都合が良すぎる自覚はあるのだろう。さらには観客席からのブーイングも気になってか、ミラー王子があからさまに動揺し始めた。

 ふむ。私としてはどちらでも構わないのだけど。むしろ魔道士の杖しか持たない相手に、剣で斬りかかる方が抵抗があるか…。


「わかりました。あなたの要求を呑みます」

「!?」


 そう宣言した私は、早々に腰から剣を外して係の者に預ける。


『な、なんと、クリスティーナ選手、あっさり要求を認めてしまいましたぁ―――!』


 全くの予想外であったのかミラー王子はもちろん、観客席も大いにざわつき、女性客の中には悲鳴を上げている者さえいる。ブーイングはさらにひどくなった。


『知っての通り剣対魔法では、圧倒的に剣が有利です。ましてやクリスティーナ選手は魔法も得意なため、試合前からクリスティーナ選手有利との下馬評でした。さあ、これが勝負にどう影響するでしょうか』


 何だか騒ぎになっているが、何も剣や魔法だけが攻撃方法では無い。何故なら、剣術を嗜む者は当たり前に体術も身に付けているからだ。まあ、純粋な魔法戦にも興味があるので出来るだけ使わなけどね。


「……大層な自信だが後悔しないことだ」

「自分から要求しておいて、その言いぐさは無いでしょう? あなたこそ、負けた後の言い訳は出来ませんからね」

「―――っ! 減らず口を!」


 基本この男はお子様なのだろう。私の頭の中でミラー王子への評価がどんどん下方修正されていく。


『お待たせいたしましたぁ―――っ! それでは一回戦、第三試合開始です!!』


 実況アナウンスが高らかに試合開始を宣言する。すかさずミラー王子が魔法の詠唱を始めた。


「来たれ風の精霊! 外界と我を寸断し、敵を寄せ付けぬ強固なる盾となれ!」


 詠唱が終わると同時に、風の結界魔法が完成した。彼が予選で終始展開していた魔法と同じであろう。半径5メートル程の結界に包まれている。


「火の精霊よ、疾く集いて力を束ねよ! 数多の火球となりて我が敵を焼き尽くせ!」


 続いて彼が詠唱したのは火球の魔法。ゲームでお馴染みのファイアーポールと言ったところか。常人では一つの火球で限界だろうが、彼は五つの火球を結界外の背面に展開した。

 先ず安全領域を確保してから、そこから攻撃魔法を放つ。せこいけど手堅い。おそらくミラー王子の得意の戦術なのだろう。


「いけぇ―――っ!!」


 ミラー王子が掛け声と共に魔道士の杖を振り下ろす。その瞬間、背後に展開していた火球が一斉に襲い掛かって来た。

 私はその光景を冷ややかに見つめながら、魔法を行使するため精神を集中させる。


「水よ…」


 私がイメージしたのは水球。ファイアーボールにはウォーターボールだ。防御も兼ねるのでいっぱい作っておこう。瞬く間に私の背後に数十個の水球が作られる。ざっと30個はあるだろうか?


『こ、これはいつの間に!? 無詠唱魔法でしょうか、クリスティーナ選手の後ろにたくさんの水球が浮かんでいます。それにしてもなんという数でしょう?』


 この世界の魔法は精霊への呼びかけによるものだ。いかに早く正確に精霊にイメージを伝える事が出来るかが魔法の成否を左右する。前世で自然科学的な知識のある私やユフィは、空気中に水分がある事を当たり前のように知っている。そのためダイレクトに精霊にイメージを伝達できた。


 私が右手を振ると、背後の水球が一斉にミラー王子の火球に向かう。

 約30個の水球が一斉に放たれる様は圧巻だ。圧倒的な物量をもってミラー王子の火球にぶつかったと思えば、あっと言う間に火球を消滅させる。私の水球は勢いを維持したまま、今度は王子の防護結界に襲い掛かった!


「――ひいっ!!」


 ズガガガガガガガ―――――ッ!!!!


 轟音と共に数十個の水球が結界とその周辺に着弾した。水煙と砂煙が立ち込め、結界の周りの地面もえぐれていく、水球とは言え十分な殺傷力だ。着弾前に王子の悲鳴が聞こえた気がする。少しやり過ぎたかも?……。


 しばらくして水煙の中からミラー王子の結界が姿を現した。その中で頭を抱えてうずくまっている王子が見える。うん無事で何より。


『なっ、なんと言うことでしょう。クリスティーナ選手、対魔法戦でミラー選手を圧倒!! やはりこの令嬢は魔法もすごい! しかしながら、ミラー選手自慢の防護結界は未だに健在! これはどう決着を着けるのかー? 』


 我に返ったミラー王子が、慌てて防護結界の中でふんぞり返る。先ほどの雨のような水球爆弾で、かなり動揺しているようだが、結界の中であれば安全だと思ったのだろう。なんとか虚勢を維持できている。


「どっ、どうだ私の防御魔法は!」


 完全に消滅させられた攻撃魔法については一切触れずに、どうやら穴熊を決め込むようだ。

 とりあえずミラー王子には負けを認めてもらわなければならない。私はゆっくりと歩きながら王子の結界に近づき、距離を詰めていく。

 私が結界まで後1メートル程の距離まで近づくと、さすがに王子が慌て始めた。


「おっ、おい! 何を考えてるか知らんが、そのままだと結界に弾かれるぞ!」


 ミラー王子の慌てた声に、にっこりと微笑み返すと、私は王子の結界に手をかざす。そしてかざした手に魔力を込めながら、この結界を構成している風の精霊に呼び掛ける。


「風の精霊よ…」


 風の精霊は、私が最も好んで使う精霊だ。他人の魔力の制御下にあっても、精霊への親しみは変わらない。

 先ずは人の理の中で力を振るいし事に労いと感謝を。そして風の精霊の本質である自由なさすらいをお願いする。すると、程なくして風の精霊から是のいらえが返って来た。


「―――ありがとう精霊達」


 パリイィィン! ガラスか何かが砕けるような音と共に、ミラー王子の風の結界が消滅した。


「――――なっ!?」


 目の前で起きた事に言葉の出ないミラー王子。よほどのショックだったのかその場に座り込んでしまった。私はミラー王子に手をかざして敗北宣言を促す。


「降参してもらえますか? このまま魔法を放ってもいいですし、力ずくで組伏せる事もできますが?」

「くっ、組伏せ……」


 何かいやらしい事に結びつけたのか、王子の顔が赤くなった。


「気が変わりました。この場で燃やしてさしあげます」

「待て! 待ってくれ! こっ、降参する! 私の負けだ!」


 場の剣呑な空気を察知したのか、ミラー王子が慌てて敗北を認めた。

 私が力を込めていた手を下げた瞬間、アナウンスが試合終了を告げる―――


『し、試合終了ぉ―――――っ!! 勝者クリスティーナ選手! 終わってみれば一方的なワンサイドゲーム! 天才との呼び声高いミラー選手の魔法を終始圧倒したばかりか、最後はミラー選手自慢の防護結界をあっさり解除してしまいました! 剣を使わずにこの強さは正に死角無し! もう文句なく優勝候補と言って良いでしょう! クリスティーナ選手、二回戦進出です!』


 アナウンスの声と共に、闘技会場中が大歓声と拍手に包まれ、私は驚いて辺りを見回す。何かすごく恥ずかしい!

 手を振って歓声に応えるべきなのだろうが、私はそんなキャラじゃない。どう応えるべきか迷った挙句、控えめにお辞儀をすると、何故かそれもうけた。


 アイドルでもないのに私の人気ってどうなってるの!?


 歓声と拍手は止むことが無く、私はそのまま控室に逃げ帰ったのだった。

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