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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
27/86

ユフィの物思い

 ―――私も大会に出場いたします!―――


 クリスが魔闘技大会に出る事になった。

 アレクシスとケヴィンの決闘を止めるため、二人がトーナメントで対戦する前に自分で戦って各個に止めるのが狙いのようだ。

 それでどうしてクリスまで出る必要があるのか甚だ疑問ではあるが、いくら出ないように説得をしても一向に聞き入れてもらえない。


 確かにクリスを巡っての攻略対象者同士の衝突は腐女子(わたし)の望むところだった。推し(クリス)を巡ってアレクシスとケヴィンが決闘するなんて最高かよと、叫び出したいほどである。

 しかし、それとクリスが危険にさらされるのとは全く話が違う。私の大切な人には傷の一つだってついてほしくない。


 やっと出会えた私の大切な人。


 この国の皇女に転生してから、私は何の疑問も持たずに、淡々とその務めを果たすつもりだった。5歳の時に前世の記憶を思い出すまでは―――


 突然、頭に流れ込んで来た前世の記憶。

 自分が此処とは違う別の世界の人間だったこと。大好きな男の子と同じ事故に巻き込まれて、命を落としたこと。

 クリスには話していないが、私はあの事故の後、ほんの少しだけ長く生きた。

 事故後、集中治療室でかろうじて命をつないでいた私は朦朧とする意識の中で、一緒に事故に巻き込まれた男の子が死んだと聞かされた。

 あの突然の状況でありながら、彼は私を庇うように車に跳ねられたらしく、ほぼ即死の状態だったと―――


 待ちに待った片想いの相手からの好意の告白。私がぐずぐずしている間に、その返事の機会を永遠に失ってしまった現実…。

 両想いになれなくても、いつものように一緒に登下校するだけでよかった。その時間すら望めなくなった事に、私は絶望した。

 おそらく気持ちを強く持ち、生きる意志さえあれば、私は助かったのだろう。

 でも、大好きな彼がいない現実に私の心は急速に衰え、この後悔だらけの悲しい生が終わる事をのみ願い、そうして死んでいった―――

 


 前世の記憶を取り戻しても、彼には会えない現実に変わりは無い。

 それまで聞き分けの良いいい子ちゃんだった私は、急に無気力な出来ない子になり、家庭教師や周りの大人達を大いに困惑させた。


 しかし、ある日私は気が付いた。この世界が、前世で大好きだったBLゲームの世界そのものだと言うことに。しかも私はゲーム攻略対象者の妹ポジだ。あまりにも自分に都合の良い展開に、私はどうしてもある期待を押さえ切れなかった。


 ―――クリスティーナは転生した彼に違いない!―――


 このまま成長して学院に入学すれば、それだけで最推しのクリスティーナに出会える! もう一度彼に会うことが出来るなんて!

 かすかな希望が正しく報われるまで、更に数年の月日を要し、少しでもクリスティーナにふさわしくと、周囲の期待に応えまくった私の評価はうなぎ登りとなった。ただ一つ、光の聖女と呼ばれたのだけが誤算だったが…。



 そうして再会した彼(?)は、正に完璧なクリスティーナだった!


 息を飲むほど、いや、息も止まるほどの美しさ。男の娘とはここまで美しくなれるものなのか? あれほど心の準備をしていた筈なのに、私は何度も目を奪われ、心臓の早鐘は胸に頭に響きまくった。


 しかも彼生来の優しさと不器用さ(手先は変わらず器用だけど)、前世で恋焦がれた彼らしさは微塵も損なわれていなかったばかりか、料理、裁縫、あらゆる手習いを最高の水準で身に付けた淑女教育の完成形! ちょっとした事で顔を赤らめる可愛いらしい仕草や、プリシラを嗜める時の完璧なお姉様っぷりは控え目に言っても最高で、私の知るクリスティーナをも超える存在へと昇華していた。


 もはや私の知るクリスティーナとは別の存在。そう、私はクリスティーナに憧れていたが、恋をしたのはクリスの中の彼だ。もしくはクリスティーナになった彼か。


 正直、最初は自分がクリスを守るつもりだった。

 ゲーム中のクリスティーナは、あらゆる攻略対象者達に手ごめにされてしまう。BLで言う所の総受けのキャラだ。

 彼女(?)の唯一の弱点は戦闘に不向きな事で、ゲームの後半は聖女への覚醒で、闇の魔物とも戦えるようになるが、ゲームの中盤までは、ただただ攻略対象者にされるがままの理不尽にか弱い存在である。


 ゲーム内の事であれば許せるし、腐女子の私は嬉々としてプレイしたことだろう。しかし相手が大好きな男の子の転生体であれば話は全く違う。彼女(?)の貞操は私が守らなければ! 


 幸い今世の私は魔力が高く、全属性の魔法でたいていの事なら実力でねじ伏せることが出来る。私の力で卒業までクリスを守り抜き、卒業式のダンスパーティーでは、男に戻ったクリスにエスコートしてもらい結ばれる。そんな夢のような展開を夢想していた。

 目障りなのは、何を考えているのか分からない我が父、皇王だ。ただでさえ扱いの難しい皇女の婚姻に、どう説得するのか今から頭が痛い。とりあえず先送りするとして、私的に完璧なシナリオのつもりでいた。


 しかし、やっとの思いで再会したクリスは、私の想像を遥かに越えたチートそのものだった。


 先ず驚いたのは、予想以上に美しいその容姿だが、その脇にいた人物にこそ仰天した。聖女クリスティーナの不倶戴天の天敵、プリシラ・ディアナ!? なぜ彼女がクリスちゃんの横にいるの!?


 ディアナ王国第一王女、プリシラ・ディアナ。

 兄であり自国の王太子アレクシスへの極度のブラコンをヤンデレ気味にこじらせて、ゲーム中クリスティーナへの一番の天敵として立ちはだかる悪役令嬢。

 それが何故クリスちゃんの腕に自分の腕を絡めているのだろう? あれ胸が当たっているよね? しかも当たっているのでは無い。当てていると言うやつだ。どんなラノベだよっ!


 本来の天敵を味方に引き込むばかりか、恋愛フラグまで立てる離れ業。さらには一万を超える豊富な魔力量を誇り。聞くところによると、7歳にして中級上位の魔物を単独で討伐したとか?

 我が耳を疑いたくなるような情報の数々。入学当初のこの時点でクリスの実力は、ゲーム終盤の聖女クリスティーナをも超えていると思えた。


 もはや私が守る必要もないのは良い事だが、唯一問題があるとすればクリスの短絡的な思考パターンだろう。考えるよりも手っ取り早く行動に移してしまいがちな所は、見てくれはどうあれ男の子特有のそれだ。

 更には、もっと単純に大会に出たいと言う思いもあったに違いなく、今回の決闘騒動が背中を押す格好になってしまった。


「……しょうがない人」


 ため息がちにこぼした言葉に自分でハッとなる。今のはかなり恋人っぽいセリフなのでは?

 急速に赤くなる顔をおさえながら、私は寝室の壁の扉を見る。クリスの寝室とつながっている扉には何の変化もない。私はほっと胸をなでおろす。


 何だかんだ言っても想い人の世話を焼けるのは普通に嬉しい。私は自分に出来ることをしてあげよう。

 叶うのであれば、もう一度クリスを説得して出場を止めてもらう。それが無理であるなら、アレクシスとケヴィンのどちらかをクリスが倒した時点で、目的の大半は達成される。そこで後の試合を棄権してもらえば、それ以上注目を集めることも無いだろう。

 男の子に途中で勝負を投げ出せとお願いするのは、なかなかに難しいだろうが、へたに優勝されるよりはよっぽどましだ。

 大会には父の皇王も観覧する。今の段階で皇室に目を付けられるのは得策ではない。


「頼むから目立たないでよね」


 無理だろうとは思いつつも、私は支柱神(タリス)に祈らずにはいられなかった。

執筆が遅れると言いつつも、何とかペースが守れています。

告知詐欺のような感じですが、早い分には勘弁してください。

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