表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
26/91

決闘騒ぎ

 魔闘技大会――

 

 それは毎年学院で開催されるトーナメント制の体育祭のようなイベントである。

 一対一で戦う勝ち抜き戦で、剣や魔法その他、あらゆる武術の使用が認められ、とにかく勝てば良いと言う少年漫画のような大会だ。

 

 さすが恋愛ゲームの舞台だけあって、男の子は女の子にカッコ良い所を見せようと奮闘し、女の子は意中の男の子の活躍に胸を踊らせる。漫画やゲームで使い古された、いかにもなイベントになっている。


 男の子として興味はあるし、そこそこ実力がある私は、出場すればかなり良い所まで勝ち進む事が出来るだろう。

 しかし、悪目立ちしたくないのと、攻略対象者との無用な接触を避けるためにも、私は出場する気は一切無い。筈だった……


「決闘?」


 プリシラから聞いた馴染みの無い言葉に、私は夕飯のスープの鍋をかき混ぜる手を止める。少し顔をひねってからもう一度問いかけた。


「誰と誰が?」

「クリス姉様に求婚したレントのお馬鹿とアレクシス兄様です」

「は?…………………」


  あり得ない情報は、私の思考能力も奪ってしまうのか、即座に反応することが出来ない。数瞬の遅れで私の頭が事態を飲み込むと―――


「えええええぇぇぇ―――――っ!?」


 叫び声を上げた。

 せっかく最近は大人しいと思っていたら、よりにもよって決闘!?

 

「なっ、何でそんな事に?」


 と言うか、あの二人いつの間に接触したんだ?


「どうもお互いにお姉様の相手を探りあっていたようです。ディアナ王国の王太子の名前はすぐに分かりますし、あれだけの騒ぎでしたから、お姉様に求婚した騎士科の1年の名前もすぐに分かるでしょう。出会って早々に口喧嘩になって、あっという間に決闘の話になったそうです」


 うわぁ、私本人を無視して何をやってんだあの二人は!?

 ここで夕食の出来上がるのを呑気に待っていたユフィが、怪訝そうに口をはさむ。 


「確か学院内での私闘って禁止されてるはずではありませんか?」


 もっともな話で、騎士や、魔法使いの卵が私闘に及べば、下手をしたら死人が出かねない。学院側から見れば当然の規則だ。


「二人とも魔闘技大会にエントリーしました。何でも公衆の面前で決着を着けたいそうです」


 残念、抜け道がありました。

 しかし納得のいかないユフィは尚も問いかける。


「それでも組み合わせ次第で、戦えない可能性もあるでしょう?」


 決勝でしか当たらない場合など、途中で負けたらそこで終わりだ。勝敗の着けようが無い。それとも、最後まで勝ち残った方を勝者にするつもりなのか?


「二人とも自信があると豪語して、聞く耳を持たないようですよ」

「……すごく迷惑な人達ね」


 さすがに呆れるユフィ。脳筋バカはわかるとして、アレクシスまでこんな考え知らずな事をするなんて。


「ちなみに、勝負にかかっているのは…?」


 私は一番気になっている事を口にした。只で決闘などする訳がない。私がからむ何がしかな条件がかかっているはずだ。


「負けた方が、クリス姉様から手を引く。ですけど、元々ケヴィンの方はお姉様にフラれています。お兄様ばかりに不利な条件で業腹ですわ」

「そう…ですか…」


 なんとなくアレクシスが気の毒になってくる。王命とは言え、こんな変態を婚約者候補にして、数々のトラブルに巻き込まれるのだから報われないにも程がある。


 私としては、ここで王太子妃候補から外れると、せっかくの隠れ蓑が使えなくなり、他の攻略対象者への牽制が出来なくなる。


 王太子妃にはなりたくないが、候補には留まっておきたい。結婚出来ない事が分かりきっているのに、都合の良い時だけ利用する。私は本当に自分勝手だ。なんて酷い奴だろう。

 アレクシスの事は別に嫌いではない。普通に男の子同士であれば、友達にもなれたかもしれないのに。私はどうしてもこの決闘を止めたくなった―――


「私、これからアレクシスに会ってきます!」

「お姉様!? これからって、まさか男子寮に行かれるのですか?」


 何故かプリシラが慌て始める。


「私が直に説得すれば、アレクシスも考えを変えてくれるかもしれません。とにかく本人に会って話をしてみます」

「ちょ、ちょっと待ってください! 男子寮にクリス姉様が行かれると大変な事になります!」 


 プリシラの言わんとしている事はわかる。この前、女子寮に来たアレクシスの逆で、私が男子達に囲まれる事を心配しているのだろう。


「大丈夫ですよ。多少人だかりは出来るでしょうが、ああいう人達は私に近づいて来ませんから」


 人目を引く容姿ではあるが、ある種の近より難さがあるのだろう。不思議と遠巻きに見られるだけで近づいて来る者はいない。進む先の人混みが割れるくらいだ。


「人避けに良いなら私も行こうかしら?」

 

 ユフィがさも何でもない事のように口を開く。来る気まんまんの腐女子に物申したい。来たって面白くも何とも無いんだからね! 私はユフィをジト目で見つめる。


「やんごとなき聖女様が軽々しく動くのはどうかと思いますが?」

「私、聖女ではありませんから」


 さらっと返された。腐女子の彼女にしてみれは、推しのクリスティーナを巡って、アレクシスとケヴィンが決闘をする展開はウェルカムのはず。

 って言うか、あなた私の彼女ですよね!?

 

「二人が行くなら、当然、私もついて行きます!」


 とうとうプリシラも行くと言い出した。アレクシスへの牽制や、暴走防止にはありがたい存在だし、来てもらえると心強いのだけど、学院屈指の美少女3人(内男1人)で男子寮に行くのはかなり目立つ事になりそう…。




 「これは…、少し甘かったかも…」


 男子寮に到着した私は呆れぎみにそう呟き、辺りを見渡す。

 予想はしていた事だが、それを上回るすごい人だかりだ。男子寮は女人禁制ではなく女生徒の出入りは自由。とは言え、ここまで容姿の整った3人が訪れるのは稀なことだったようで、男子寮の吹き抜けの玄関ホールは、2階まで人で埋め尽くされる大騒ぎとなってしまった。


「男の子ってバカよねえ」

「ほんと。どれだけ暇しているのかしら?」


 返す言葉がありません。ユフィとプリシラの発言は、予想の甘かった男子の私にも突き刺さり、アレクシスと話す前にすでに疲れそう。


 早々に帰りたくなった私だったが、取り次ぎを頼むより早く、アレクシス本人が人だかりの中から現れた。 


「クリスティーナ!? どうしてここに?」

「お兄様……」

「…見事にクリスしか見えてないようね」


 突っ込み所満載のアレクシスの第一声に、私達は早くもドン引きだ。

 

「決闘の話、聞きましたよ」

「……君には関係ない」

「関係ない訳がないじゃないですか! 負けた方が私から手を引くと聞きました」


 バツが悪そうに目を逸らされるが、元より言いたい事は言うつもりだ。私はなおも言いつのる。


「はっきり言って、勝ってもあなたに得るものがないばかりか、負けて婚約話が白紙になれば王命にも背く事になります」

「俺は負けるつもりはない」


 お約束のセリフだ。誰も負けるつもりで決闘に挑む者はいないだろう。


「彼は強いですよ」

「君は俺が負けるとでも言うのか!?」


 プライドを傷つけられたと思ったか、アレクシスが気色ばむ。


「私は今のあなたの実力は知りません。あの一件以来、剣術の鍛練を欠かせていない事しか…。自信がおありならこの忠告も余計なお世話なのでしょう」

 

 王城への魔物襲撃事件以降、アレクシスは昼夜を惜しんで自己鍛練を頑張って来た。途中に一度だけ手合わせをしたが、正直その上達ぶりに驚かされたものだ。


 それでも私の直感はアレクシスに分が悪いと告げている。

 実際に今の実力を見ていないから何とも言えないが、育ちの良いアレクシスの王国剣術と、ケヴィンの我流剣術は相性が悪いと思う。

 ただ負けるだけであれば良いが、大怪我や生死に関わる事態になれば、最悪、国際問題にまで発展する恐れすらある。


「勝負は時の運です。やってみなければ分かりません。ですが、やる意味があればこそです。アレクシス、今一度考え直してください!」


 やる意味が無いのだと、私はなおも説得を続ける。

 せめて相手がもう少し理性的な人間であれば良かったが、理性の存在すら疑いたくなる脳筋ケヴィンが相手だ。正直、普通に止めてほしい。


「俺は負けないっ!」


 語気を強めたアレクシスがそう断言する。

 言い出したら聞かないか―――


 さっきとは違って、私の視線を真正面から受け止め、なおも一歩も引かない。言っている事は子供のそれだが、男の意地と思えば、妙に納得する所もある。

 男の子がかかる麻疹(はしか)のようなもの。恥ずかしながら前世の私にも覚えがある。残念ながら理屈では無いのだ。

 私は深く溜息をつくと――


「分かりました。くれぐれも気を付けてください」


 アレクシスの大会出場をあっさりと認めた。


「!?」

「お姉様!?」

「クリス!?」


 あっさりと自分の主張を翻した私に、アレクシスはもちろん、プリシラとユフィも驚きの声を上げる。


「ただし―――」


 でも、私の言いたい事はこれだけではない。私は右手を自身の胸元に当てると、アレクシスに向けて言い放つ―――


「私も大会に出場いたします!」

お話のストックが無くなりました。これ以降は投稿ペースが落ちると思われます。

ご容赦を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ