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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
25/92

3人目の攻略対象者

 ケヴィンとアレクシス。二人の攻略対象者との立て続けのトラブルの後は、しばらく穏やかな日が続いた。


 うんざりしたのは、アレクシスが女子寮に来る頻度が増えてしまった事。とりあえずプリシラの協力で何とか上手くかわす事が出来ている。

 ケヴィンの動向が気になる所だが、少しでも反省してはいるのか、今のところ不気味なほどに静かだ。


 ズバアァ―――ッ!!!


 考えに浸っていた私は、空気を引き裂く風の音で我に返る。ユフィの放った風魔法だ。

 今日は淑女科と魔法科の2クラス合同で、魔法実技の授業を受けている。

 課題はいたってシンプルで、先生の用意した的に何でも良いから魔法を当てればOKという簡単なものだ。ユフィの放った風の刃は、見事に的を真っ二つにして、周りは歓声に包まれた。


 続けて次の生徒が的の前に立ち挑戦を始める。すると今度は精霊との契約が上手くいかずに、魔法すら発動しないで終わってしまった。皆、魔法の扱いに慣れていないようだ。

 

 この世界では魔力持ちは多くても、魔法を生業にしている者は少ない。普段の生活にも暖炉に火を点けるのがせいぜいで、魔法自体あまり役に立つものと思われていない。事実、一般の者の持つ魔力では手品程度のことしか出来ず、当然、魔物一匹倒す事も出来ない。

 その結果、積極的にそれを学ぼうとする者は皆無で、その例外が才能のある者。すなわち学院の生徒ぐらいと言うわけだ。

 

 先程から多くの生徒が挑戦しているが、前に魔法を放つ事が出来れば上出来な方で、的に当てる事が出来た生徒は数えるほどしかいない。

 

 今度は黒髪の少女が的の前に立った。

 

「あの子ってたしか魔力測定で騒がれてなかった?」

「そうね、平民出身でありながら、魔力総量1000を超えた子で、メアリと言ったかしら?」


 私の疑問にユフィが答えてくれる。


「水の精霊よ、清らかな流れよ、我が前に集いたまえ……」


 メアリと言う名の少女は、まるでお手本のような精霊契約の文言を唱えると、きれいな水球を作り出して危なげなく的に命中させた。


「すごい」


 私は思わず感嘆の声をもらす。それほど彼女の魔法は水際立っていた。


「あの子、本当に平民かしら? 魔力量と言い、技術と言い、何処かの貴族のご落胤と言われた方が納得するわ」


 ユフィがもっともな疑問を口にする。いくら豊富な魔力を持っていても、専門の知識と扱う技術がなければ自由に操ることはかなわない。たった数日の座学で得た知識だけで、ここまでの事が出来るのなら本当にとんでもない天才と言う事になる。とにかくすごい才能の持ち主だ。

 人の事を考えている間に私の名前が呼ばれる。


 ちゃちゃっと終わらせますか。私は的の前に立つと、どの精霊に呼び掛けるか考える。今回の課題は的に当たれば良いだけなので、威力云々は関係が無い。火属性は大きくなると悪目立ちするので水にするかな。さっきの子とかぶるので氷にしよう。


 私は精神を集中させると、魔力感知で空気中の水分、すなわち水の精霊の動きを捉える。自身の前にそれを集めると徐々にその動きを止めてゆき、やがて直径約10センチ程の氷塊を作り出した。私はそれを的に向けて放つ―――

 氷塊は見事的に当たり、的と一緒に砕け散った。

    挿絵(By みてみん)

「うん。こんなものかな」


 派手で無く、地味でも無く、我ながらいい感じに出来たと思う。私が安心して振り返ると―――


「うそ! 無詠唱で?」

「ユーフェミア殿下しか壊せなかった防護魔法のかかった的がバラバラに…」

「氷系の魔法、まだ習ってない…」


 普通にざわつかれた。う~ん、何をすれば正解なのか、だんだん分からなくなってきたよ。


 自分の事のように喜ぶプリシラとユフィの所に戻る途中で、ふと誰かの視線に気が付いた。!?

 魔法科の生徒がたむろしている中に、敵意のこもった視線を感じる。

 

 あの生徒、ミラー・カイゼルと言ったかな? 魔法大国リアの第3王子。


「クリス姉様、どうかされましたか?」

「プリシラ、私、あの王子様に何か恨みでも買ったかしら?」


 私がミラー王子を指差すと、プリシラはすぐに納得の顔になる。


「あの方、魔法大国リアの第3王子で、天才と呼ばれているとか、先日の魔力検査でお姉様に及ばなかったのが悔しいのですわ」


 う~ん。そんな事で敵意を向けられてもねえ。


「えっと、あの方の数値も高かったのでしょう?」


 彼が測定していた時も周りのざわつきは凄かった。決して恥ずかしい数値では無かったはず。


「確かに5000を超えてましたから大したものですよ。それでも本人は絶対の自信があったようですし、聖女様はともかく、お姉様にまで負けたのはよっぽど悔しかったみたいですね」


 ケツの穴の小さい奴だなあ。 淑女とは程遠い事を考えながら、私はふと気が付いた。こいつも攻略対象者? 

 ユフィに目線で問いかけると、軽く頷いてくれる。ビンゴでした。

 まさかの3人目とは!? まあ、嫌われているのなら好都合だけどね。


 私とユフィが親しげにしているのを見れば憎らしさも倍増だったのだろう。どうやら課題の順番だったようで、ミラー王子はこちらを睨んだ後、すたすたと歩き出して的の前に立った。

 不機嫌さを隠そうともせずに的の前に手をかざすと、おもむろに魔法の詠唱を始める。


「火の精霊よ、猛き炎の奔流よ、集え、集え、集え! 我が前に更なる渦を巻け!」


 !! 何やってんの、あの坊っちゃん王子は!? ミラー王子の詠唱と、これから彼が放つ暴力的な魔法がもたらす結果を予想して私の背筋は寒くなる。同じ事を感じたユフィも青い顔で口を開く。


「ちょっと、あれヤバいでしょ!」

「上手く制御が出来たとしても、的の周りは危ないと思う」


 気が付けば教師陣も慌てて止めに入っているが、時すでに遅くミラー王子の右手から魔法が放たれた。 

 巨大な渦を巻きながら放たれた炎の魔法は的を右に外れて演習場の地面に炸裂する!


 ただ的に当てるだけの魔法の授業に防護結界など必要無い。的の右側で授業を見学していた生徒達の至近距離で魔法は炸裂し、直後に火柱が吹き上がった。

 間に合わなかった!

 

 撒き散らされた炎や瓦礫によって、すでに何人かの生徒が地面に倒れている。

 私はすぐさま水の精霊に呼び掛け冷却魔法を構築すると、範囲指定の上でそれを解き放つ―――!

 

 私の放った魔法は正確に燃え盛る炎を捉えると、それらを片っ端から氷漬けにしていき、瞬く間に炎を鎮火させる事が出来た。


 負傷者は? 私は辺りを見回して状況を確認する。見たところ重傷者は少なそうだけど、一人だけ足を押さえてうずくまる女生徒が目に留まった。この子はさっき見事な魔法を披露した……


「メアリさん! 大丈夫ですか?」

「ううっ、足が…」


 メアリの左足は赤黒く染まっている。おそらく飛んできた瓦礫が当たったのだろう。傷は血と埃にまみれ、見るからに重傷と分かる。


「ユフィ、お願いできる?」

「大丈夫。こういうのは得意だから」


 私の後を追って来てくれたユフィに治癒魔法をお願いする。治癒魔法は光属性の為、普段の私は使う事が出来ない。ユフィは光属性が強い上に魔力量も多いので治癒魔法はお手の物だ。さっそく傷口に手をかざすと速やかに魔法を行使する。

 ユフィの手から光が溢れ出して傷口を包み込むと、徐々にその光は消えていき、気が付けば、ほんの数秒で治療が終わっていた。さすがは聖女様である。


「ふうっ、治療は終わったわ。あなた大丈夫?」

「せっ、聖女様? ぞれにクリスティーナ様まで? な、何で?」


 さすがに私達二人の事は知っているみたいで、メアリは目に見えて動揺した。それでも自分が助けられた状況は理解出来たようで、ふいに立ち上がると。

 

「こ、この度は、あ、ありがとうございます。 あっ!」

「気を付けて。治癒魔法で傷は治っても体力は削られているはずだから」


 立ち上がってお礼を言おうとしたメアリであったが、バランスを崩してすぐに座り込んでしまった。

 ユフィの説明では、治癒魔法は魔力を用いて患者本人の回復力を強化して治療する為、傷は治っても体力は減っているのだとか。確かに先ほどの傷の具合を見れば、体力をかなり減らしているはず。


「医務室に連れて行った方がいいでしょうね。クリスお願いできるかしら?」

「分かった。メアリさん、少しごめんなさいね」

「え? きゃぁ!?」 


 ユフィに言われて私はメアリを横向きに抱きかかえた。いわゆるお姫様抱っこと言うやつである。私が彼女を抱きかかえた途端に周りが、特に女生徒達のざわめきが凄かった。あれ?


「クリス、あなた…」

「ユフィ? 大丈夫よ。私、(前世)と違って腕力もあるし」

「……いいわ、何でもない。その子をお願いね」


 ? ユフィが何か言いたげにしているのが気になったが、実際に私は体力も腕力もある。ただ筋肉が付いていないだけで頼りなく見えるかもしれないが、ここは彼氏(?)としてカッコいいとこも見せておきたい。


「く、クリスティーナ様っ、私、一人で歩けますから!」


 メアリが顔を赤くして抗議するが、私は笑顔でそれを遮ると―――


「無理はいけません。殿方に運ばれたら変な噂も立つでしょうが、私ですから大丈夫ですよ。それとも殿方の方が良かったですか?」

「いえっ! そんな、でも… あ、ありがとうございます…」


 メアリは尚も可愛らしく反論を試みるが、最後は小声になって頷いてくれた。私が歩き出すと、ユフィとプリシラも付き添ってくれる。


「お姉様、私も後でそのお姫様抱っこを要求したいです!」


 はーい、私も私もー! なノリで言われても困る。

 私は遊具か?


「プリシラ、その発言は自国の王女殿下としてはどうかと思いますよ」


 私があきれ混じりにそう言うと、プリシラは尚も食い下がる。


「クリス姉様とユフィしか聞いてないから良いのです。それにお姫様抱っこは女の子の憧れじゃないですか」

「メアリさんにも聞こえています。それにこのような事は、意中の殿方にやってもらった方が良いでしょう?」


 腕の中で大人しいメアリは、顔を赤くしたまま困った表情を浮かべている。


「お姉様だから良いのにー」


 プリシラのささやかな自己主張を無視して、歩みを早めようとしたところで、騒ぎの元凶であるミラー王子の姿が見えた。

 案の定、教師からの叱責を受けている。しかし今回は、管理監督者である教師に大部分の責任があるため、多少厳しく言われる程度で済むだろう。


「私、先生に彼女を医務室に連れて行くのを話して来るわね」


 ユフィが、事情を伝えに先生達の所に向かう。この国の皇女であり、優等生の彼女は教師陣の信頼も厚く、こう言う時に話が早いので助かる。


 こちらに気付いたミラー王子と視線がぶつかったが、特に何も含むところは無い。一歩間違えれば大惨事ではあったがそうはならなかった。ならば今回はこれでいい。

 攻略対象者である以上は、積極的に関わるつもりもないし、恨みを買おうとも思わない。気まずそうに視線を逸らされたが、まあ思春期の男子なんてこんなものだろう。(他人事でも無いしね)


 その後、無事にメアリを医務室に連れて行き、当然の事だが授業は中止となった。


 今回のこの事件は、一応は大した事の無いものとして処理されるが、私にとって看過しがたい事件は、この時既に迫っていた。

申し訳ありません。生活環境の激変につき、

以後の執筆ペースが遅くなると思われます。

無理せず付き合える方のみでお付き合い願います。



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