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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
20/86

彼女との再会

 女の子の初潮と男の子の精通を勘違いされたあげく、それを友達の前でお祝いされ、好きな女の子にはバレていると言う救われないオチ――。

 当然のごとく私は寝室に籠城した。ど天然のマチルダに反省は期待できない為、私の気の済むまでの虚しい天の岩戸作戦である。


 カーテンを閉めきった部屋で毛布を頭からかぶった私は、部屋の壁を見つめながら一人もんもんと考え込む。  

 先程の反応からもユフィが彼女なのは間違いない。


 前世での彼女は、腐女子のわりに社交的で、コミュ力は高い方だった。しかし男性に対しての免疫はあまり無く、男女の恋バナも苦手にしていた。男友達が女子力の高い私だけだったのも、それが理由かもしれない。


 つまりは男子の生理現象の話など以ての外なのである。


 そんな彼女に、朝っぱらから粗相をして、下着を汚した事実を知られてしまった。それはもう最悪の形で!

 あああああぁぁぁっ! もう消えてしまいたいぃ――――っ! 

 ゴロンゴロン、寝間着姿の私は繰り返しベッドの上で転げまわる。




――――コンコン


 ノックの音がして、マチルダが来客を告げる。


「お嬢様。ユーフェミア皇女殿下がお見舞いに来られましたが、お部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?」

「!」


 このタイミングで!? どうしよう? 今、私の頭の中はめちゃくちゃだ!


 それでも相手はこの国の皇女様。多少親しくなったとは言え、まだ彼女本人と確認した訳でもない。

 断れないと分かってはいても、逃げ道を探してしまうあたりがヘタレているのだろう。学ばないなぁ、私。

 カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中で、ああだこうだと考えまくってようやく会う決心を固める。慌てながらも鏡で簡単に髪を整え、またベッドにもぐり込む。毛布の中で気持ちを落ち着けると、そこから顔を出して、ドアの前のマチルダに呼び掛けた。


「お通しして、マチルダ」


 ややあって、部屋のドアが開くと、ユフィが少しおずおずしながら入って来る。ドアを閉め、辺りをキョロキョロ見回しながら、軽く胸に手を当てると深く深呼吸をした。すごく緊張してる……?

 いつもの冷静で落ち着いた様子が無いことに少し驚いたが、彼女の口から出た言葉で納得した。


「や、やっほー、元気してた?」


 この世界でやっほーなどと言う間の抜けた挨拶は無い。

 ユフィが彼女だと確定した瞬間だった。

 何となくホッとした私も口を開く。


「うん。ぼちぼちかな…」


 前世で当たり前に交わしていた普通の挨拶。それに気を緩めた私達は少しだけ笑い合う。

 私はベッドで上半身だけを起こして楽な姿勢で座ると、ユフィには鏡台に備え付けてある椅子に座ってもらった。


「「………………」」


 座ってもらったものの何から話せばいいんだろう? 不思議と焦ったりはしないのだけど……


 言いたい事、聞きたい事が山のようにあったはずなのに、すぐに言葉にする事が出来ない。それでも沈黙ですら心地良いと思う自分がいる。

 改めて彼女を、ユフィの顔を見つめてみる。どうして最初に気が付かなかったのだろう? 姿かたち、声すらも全然違うのに、ただ黙ってそこにいるだけでこんなにも安心してしまう自分がいる。


 ようやく口を開いたのはユフィだった。


「本当にクリスちゃんになったんだ…」

「そっちこそ、立派な皇女様で」

「苦労したでしょ?」

「そっちもね」


 他愛も無い話。それだけでこんなに和らぐ空気。ユフィの顔には、すっかりあの頃の気安さが戻っていた。


「やっと…会えた…」

「うん…」

 

 必ず会えると確信があったわけでもなく、ただただ期待だけを抱えてここまで来た。


「あは、泣き虫なのはゲームの設定通りだね」


 ユフィに言われて、自分が泣いていたことに気が付く。この設定はいらない。

 

「ああ、これね。取り扱い注意だよ。顔だってすぐに赤くなっちゃうし」

「知ってる。さっきのクリスちゃん、とっても可愛いかったから」

「!?」

「ほおら、赤くなった」


 私をからかって、けらけら笑う所なんかは前世のままだ。ついさっきまでの完璧な皇女様は何処へ行ったのやら。ひとしきり笑い終えたあと、何かに気付いたようにユフィが口を開いた。


「あっ! そうだ! どうしてプリシラと仲が良いのよ?」

「どうしてって、ゲームだと違うの?」

「ゲームで彼女は極度のブラコンで、攻略対象のアレクシスをクリスに取られまいと必死に邪魔をしてくる。つまりは悪役令嬢よ!」


 なんと、まさかそんな展開だったとは。やっぱり色々イレギュラーな事になっているらしい。


「アレクシスはアレクシスで、選民思想の俺様野郎だったのに、話してみたら全然良い奴じゃない!? 一体、ディアナで何があったのよ?」

「確かに色々あったけど……」


 私は自身の王都行きと、魔物襲撃事件。その後は王都で幼少期の後半を過ごした事をかいつまんで説明した。


「うわぁ、何それ? 全然違う! クリスちゃんは、幼少期の全てを公爵領で過ごして、完全箱入り娘の真っ白綺麗な体を攻略対象者に次々と汚されちゃうんだよ!」

「待って! 待って! 待ってぇ―――っ!!」


 分かってはいたけど、内容が、表現が生々し過ぎる!


「そ、そうならないように頑張って来たんだってば!」


 少しはこちらの努力も認めてほしい! いったい何度死にかけた事か? 


 それでも、実際にゲームの話を知っている彼女の情報には納得することが多い。私が始めた剣術訓練でシナリオが分岐したのは気のせいでは無かった。


 あの時のお父様は、王都行きの話を確かに断ろうとしていた。私が突然始めた剣術訓練で状況が変化したのだろう。

 本来は無かった筈の王都行きでプリシラとの交流が生まれ、アレクシスとの口論では、彼の選民思想も矯正してしまった。自分で気づかぬ内にシナリオを変えまくっていたなんて。


「まあ、私もクリスの事は言えないんだけどね。転生者に共通しているのか分からないけど、魔力量が多いの。おかげで聖女様なんて言われてさ。そもそも光の聖女はクリスじやない」

「あっ、やっぱり?」


 自分の身体の事だ。気にならない訳がない。光の精霊の愛し子が何と呼ばれているのか、私はとっくに知っていた。


「クリスが聖女だと騒がれるのも、ゲーム後半の方だから、本当にわけわかんない。どうなってるの?」

「ユフィでもそうなんだ…」


 実際にシナリオを知っているユフィですら予想外の自体なんて、いったい何が起こっているんだろう? 時系列では、まだゲームは始まったばかりなのに。

 ふと肝心の攻略対象者の情報が気になった。


「攻略対象者について教えてほしいんだけど…」

「そうっ、そこ! 私も気になってたの! まさか、ゲーム開始前に、クリスがアレクシスと出会っていたなんて!」

「ユフィ?」


 突然ユフィが大声を出したかと思えば、凄い剣幕で詰め寄ってくる。


「あれもう攻略されてるよね? 何を話してもクリス、クリス、クリス! いったい何本あいつにフラグを立てたわけ!?」

「お、落ち着いて、私、言い寄られてるだけで、何にもなっていないから…」 


 それでもユフィの疑惑は尽きないようで。


「まさか、まさか、既にアレクシスの野郎なんかにやられたり…… クリスッ! 後ろの ピ―――――――ッ(自主規制) はまだ処女でしょうね!?」

「うわあああぁぁ―――――――っ!!」


 頼むから、皇女様がそんな言葉を使わないでぇ―――っ!! 私は慌ててユフィの口を両手で塞いだ。

 

「――――!?」


 気が付けば間近にあるユフィの顔。手の平にはやわらかい唇と頬の感触。少し乱れた髪の隙間から見える潤んだ瞳が、突然の事に驚いたまま固まっている。


 自分の顔が急速に赤くなるのを自覚した。胸の鼓動がエマージェンシー全開に鳴り響いて、目まいがしそう。塞いだ口から両手を左右にずらすと、彼女の頬を包み込むような形になった。艶やかな唇が目にとまりドキッとすると、そのままそこに吸い込まれそうになる――――――――



「ふ、ふーん。こんなこと出来るようになったんだ?」

「!?」


 いっ、今、キスしそうになった!? 近づきそうになった顔が慌てて距離を取る。

 だっ、だめ! こんな成り行き任せなのは良くない! まだ告白の返事も聞いていないし、こういった事は合意の上で……。お、女の子は繊細なんだからもっと気をつかわないと!  途端にパニくる私のメンタル。


「ヘタレたでしょ?」

「…………………」


 ぐうの音も出ない。小悪魔めいた笑いで私をからかうユフィに、私はじとっとした視線を送る。

 でも、思ったよりユフィも余裕は無さそうで、顔はずっと赤いままだ。私から視線を逸らして、もじもじしながら、小さい声で文句を言う。


「………クリスずるい……。さっきからすごく可愛くて、なんか… 色っぽくて……、私ばかりドキドキするのずるい………」

「ブーメランはお互い様なんだけど………」


 どうやらお互いを意識して、お互いに照れまくって、その結果、にっちもさっちもいかない状態になっているらしい。

 

 これって両想いって事だよね?


 私は意識しつつユフィの手を握る。ユフィの肩が少し震えた。もう、それだけで口から心臓が飛び出そうなくらいドキドキするけど、どうしても告白の返事が聞きたい。

 私は上目遣いにユフィを見つめ、震える口を叱咤し、ようやく望みの言葉を口にする。


「告白の返事を聴かせて?」

「――――――!」


 ユフィの顔が耳まで赤く染まった。慌てて私から距離を取ろうとするけれど、手を握られているので離れることが出来ない。


「ずるいぃ―――っ! それはずるいよぉ―――!!」


 ユフィの気持ちはとても良く分かる。ただ想いを伝えるだけの事なのに、とても怖くて勇気がいる。相手の気持ちが分かっていてなお、自分の気持ちを口にするのはとても怖い。

 何度も口を開いては何かを言おうとするユフィ。もにょもにょと動く唇は声を発する事が出来ず、恥ずかし気に顔を伏せてしまう。やがて思い切って顔を上げたかと思えば、そのまま目を閉じた―――


 ――――これって、口に出来ない代わりに態度でって言うあれ?――――


 ユフィに投げた言葉のボールが、とんでもないおまけを添えて投げ返されてきた。

 赤く染めた顔のまま異性の前で目を閉じる。それがどんな意味を持つかなんて分かりきっている。

 真っ白になる頭の端で、キスしても良いの?って言葉はかろうじて飲み込んだ。いくらヘタレでもこのタイミングで言って良い事と悪い事の区別はつく。


 思わず握ったままの手に力が入る。ユフィが少しびくっとするが、そのまま手を握り返してくれる。

 

 これ…たぶん、言葉はいらない……


 ようやく覚悟を決めた私は、ゆっくり自分の顔を彼女に近づけていく……。あと少しで唇が触れるその瞬間―――――


 ポウッ…… 光った。  ―――あれ?―――


 実に見覚えのある光の球体が、そこら中からあふれ出てきて、部屋中を乱舞する。そして光り出す私―――


「クリス……、これって?」


 光に気が付いたユフィは、さすがに目を開けて不思議そうに私に尋ねる。私は無言のまま静かに立ち上がると、寝間着の裾を軽く持ち上げカーテシー(淑女の礼)を披露する。


 途端に霧散する光の精霊たち。 うん、そういうことね。このやろう。


「ひょっとして、聖女の力?」

「………呪いだと思う。たぶん……」


 私が女の子にキスをする行為は、精霊達にとって男の子認定になるらしい。それはつまり、好きな女の子にキスをする事も、当然それ以上の事も出来ないわけで―――


 これ、どんなコメディですか!?

ようやくの再会です。 話の展開上、百合要素の方に傾倒してしまいがちですが、それ込みでお付き合い願います。(BLはバッドエンドらしいので)

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