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転生令嬢(♂)は腐らない  作者: 三月鼠
魔法学院入学編
16/86

12歳の私

 澄み渡る空の下で、剣戟の音が鳴り響く。


 ここは王都ラピス公爵邸の練兵場。私は騎士団員との剣を交えての試合に没頭していた。対戦相手の騎士は、騎士団の中でも5本の指に入る猛者だ。振るう剣は速く、そして重い。


 私が本格的に剣を習い始めてから5年が経つ。身体は鍛えられ、ある程度の腕力も付いた。しかし私の剣は軽い。相手の攻めを躱し、捌き、受け流す。カウンター狙いの受け身の剣が私の持ち味だ。


 柔よく剛を制すの観点で言えば、相性の悪い相手ではない。もう5分は戦っているだろうか? 焦れた相手が勝負にうって出た。左の上段が来る!

 私は相手の上段からの斬撃を剣で受け止めると、そのまま刀身を横に滑らせる。威力を削がれ前のめりになった相手の懐にもぐり込み、首もとに軽く剣を当て、勝負を決めた。


「それまで!」


 審判の声が上がり、私は剣を鞘に納める。対戦相手に一礼してその場を離れようとしたところで、マチルダがタオルを持って来てくれた。


「お見事です。お嬢様」

「ありがとう。マチルダ」


 セントラル皇国の魔法学院入学までに、出来るだけ強くなると言う私の目的は、今日の時点で概ね達成されたと言ってもいい。

 強者揃いのラピス公騎士団の中でも、私が敵わないのは騎士団長その人だけ、それでも五本に一本は取れる程度に互角に戦う事が出来る。精霊の愛し子の力を使えば話は違うだろうが、この力を使うのは、お父様から厳しく止められていた。


 あまりにもリスクが高い事が理由だが、その中に、より深刻な理由も含まれる。


 精霊の愛し子の力を使っている間、私は精霊の影響を強く受けすぎるらしい。

 私自身も薄々気付いていた事だが、初めての実戦だったにもかかわらず、何の躊躇も無く魔物に止めを刺し、次々と屠っていた私は確かに異常だった。

  あの時の私は、精神の何割かを精霊に乗っ取られていて、自分が思っている以上に危険な状態だったらしい。

 精霊による魔力暴走で命を落とした愛し子は、意識の無い精霊になるとも聞かされた。死んで精霊になると言う事は、今度は転生すら望めない。

 私が魔物を極端に恐れていた理由もそこに起因しているのだろう。私の恐怖は魔物と共に精霊にも向けられていた。

 

 それ以来、精霊の愛し子の力は封印してきたわけだが、もちろん不都合などある筈も無く、私は順調に剣の腕を磨く事が出来た。




 私が王都に来てから5年の月日が経った。

 

 闇の魔物襲撃のような事件は、あれ以来無く、事件の原因とされた闇の教団も、国王陛下の指示により王都から徹底的に排除された。

 私は今、数週間後に控えたセントラル皇国魔法学院の入学のために、少しずつその準備をしている所だ。

 私は12歳になった。


「おかしくないでしょうか?」


 届いたばかりの魔法学院の制服に袖を通した私は、恥ずかしがりながらも両親の前に顔を出す。


「まあ! 良く似合ってよクリス! 本当にきれいになって」

「これは驚いた。良く似合っているよ。まるでクリスのためにあつらえたかのようだな」

「お姉ちゃま、きれい!」


     挿絵(By みてみん)


 皆が手放しで褒めてくれる。

 明るい紺色が基調の制服には、所々に白いラインがあしらわれ、セーラー服のようにも見え無くもない。スカート丈はふくらはぎが少し見える程度の長さで、私的に丁度良い。

 女の子として育てられてこのかた、もはや女装しているという思いも希薄になっている。皆から似合っていると言われると素直に嬉しい。

 馴染んだなぁ、私。


「ありがとうございます。お父様、お母様。ミリアも」


 制服のスカートに抱きついてきたのは、妹のミリアだ。あの事件の後、お母様の妊娠が発覚して、翌年にこの子が生まれた。もうすぐ4歳になる。

 お父様似の明るい茶髪で、笑顔を振りまきながら屋敷中をトコトコ歩く。とてもかわいい。やたらかわいい。ひたすらかわいい。この可愛さあふれる妹に私はデレまくった。

 

 王都での5年間で、身長も伸びた私は、改めて自分の姿を確認する。もはや趣味と化した剣術訓練のお陰で、余分なお肉は一切付いて無い。力は付いたが、筋肉はまるで付かなかった。


 当然の事ながら、女性としては身長は高め。胸は控えめに膨らんでいるが、なんちゃってブラジャーに仕込んだパットのお陰だ。

 ちょっとした魔道具になっていて、着けた瞬間に、私の体にぴったりと引っ付き、一見、本物にしか見えない。きちんと触感と弾力もある優れものだ。女の子同士の悪ふざけにもこれで対応できるはず?


 女子力チートの恩恵か、はたまた呪いか、すね毛や髭の類はまるで生える気配は無く、声変わりもしていない。足と足の間でささやかに自己主張している()()以外は、文句の付けようもない美少女だった。


「え~と、クリスに話す事があるのだけど…」

「何でしょう? お母様」


 少し歯切れの悪いお母様が、言いにくそうに口を開く。「実は……」


「女子寮!?」

「全寮制で、王族、貴族、平民の例外無くだそうよ」

「あの~、だ、男性の方は?」

「良家のご令嬢を預かるのだから、もちろん男子禁制です」

「………………」


 男子禁制の女子寮に、男の娘が入る。問題だらけ過ぎて逆につっこめない。これって選択肢無いんだろうな~。


「侍女を1人伴っても良いとありますので、マチルダを連れて行きなさい」

「そ、それって寮の部屋でマチルダと2人で生活すると言うことですよね?」


 いくら専属侍女とは言え、年頃の男女が一緒の部屋で暮らすのは、どう考えてもまずい。

 お母様は、真剣な面持ちで口を開くと。


「大丈夫よ。あなた達2人に何があろうとも、受け止める覚悟はあります」

「―――っ何かある前提で話をしないで下さい!」


 最近のお母様は、たまに私をからかう事がある。あら残念。みたいな顔をしてとても楽しそうだ。

 なんとなく息子として扱おうとしてくれているのは嬉しいが、こう言う事は止めて欲しい。基本、真面目なお父様は、こう言う事に口は挟まない。


「ご安心ください奥様。お嬢様が何をなさっても受け止める覚悟はできてます」


 真剣な顔でおちゃらけた事を言うので、マチルダも質が悪い。


「大切なマチルダにそんな事はしません!」 

「――たっ…」

「ち、違います! 大切なのは本当ですが、そう言う意味では…」


 嘘ではないが、内容だけ見れば誤解を招きそう。言った後であわてる私。


 顔を赤くしてそっぽを向くマチルダ。

 そう言うところだぞ。っと表情で語るお母様。

 居心地の悪そうなお父様は無言を貫いている。

 

 微妙な空気が続いて、可笑しくなった私がくすりと笑うと、つられてお母様達も笑い出した。この優しい家族ともしばらく会えなくなる。

 寂しくないと言えば嘘になるが、私としては期待すべき事がたくさんあった。


「四年後。出来れば、これとは違う制服で帰って来たいです」


 魔法学院の卒業の年に、私は16歳になる。

 成人になれば、性別を偽る必要も無くなり、晴れて男のクリスに戻る事が出来るはずたった。


「お母様としては、このままでも良いのだけど」

「ふうむ、このクリスが見れなくなるのは寂しいね」

「お姉ちゃま、何処か行っちゃうの?」


 ひどいっ! 誰も男のクリスを必要としていない?


「いいですとも。裏切り者の家族とは別れて、私は異国の地で慎ましく暮らしていきます」


 私は抗議の意味を込めてそっぽを向く。


「やれやれ、体は大きくおなりだが、中身は小さいクリスのままだね」

「――お父様!?」


 私をなだめる為に近付いたお父様が、突然、私を抱き上げた。


「お、お父様っ、重いですから降ろして下さい!」

「ははっ、期間限定のお姫様を抱っこするのも、これが最後かな? 本当に大きくなったものだ」


 私を眩しそうに見つめるお父様は、少し寂しそうだ。お母様も近くに寄り添うと、私の髪を撫でてくれる。


「お父様、お母様…」 

「どんな姿で帰って来ても良いですから、とにかく元気でね」


 不意打ちで、しんみりお涙攻撃はずるいと思う。明るく笑って行ってきますをしたかったのにー!


「お、お父様。帰ってきたら私、お酒にお付き合いしてさしあげます! お母様も、たまにだったら、女の子として一緒にお買い物に行ったって…」


 泣きそうになるのを必死にごまかす私。やたらと赤くなる顔。必要以上に発達した涙腺と言い、女子力チートにいらない機能が多すぎる。乙女の涙いりませんから!


「そうね。クリスは一人なのに、二人分お得よね」


 一粒で二度おいしいみたいに言わないで! 前世で色々な商品に多用されていたキャチコピーが頭をよぎる。


「それと、お嫁さんを連れて帰るのでしたら、クリスより綺麗な娘でないと認めてあげませんからね」


 これは贅沢な要望なのだろうか? お母様のありがたいお言葉に苦笑した私は、ごまかし気味にこう答える。


「善処します。お母様」


 日本人が好んで使う超万能ごまかしワード。言った瞬間に笑い出した私の頭を、お母様は優しく撫でてくれた。

制服のイラスト間に合いませんでした。どこかのタイミングで投稿させていただきます。


追記 イラスト出来上がりましたので掲載しています。

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