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初めての実戦と私のスカート②

 瓦礫と土埃の中、姿を現したのは、見上げる程に大きな猿だった。


 こいつは中級だろうか? 明らかに今まで相手にしていた犬型の魔物とは、纏っている禍々しさが違う。

 身の丈は3メートル程。体格に比して、不似合いな程のひょろ長い腕をだらりと下げ、太い指先には鋭いかぎ爪が付いている。

 圧倒的に経験値が足りていなくても、あの腕と、体格から想像できる膂力には警戒せざるを得ない。


 それ以上に、私の気が進まないのは、この魔物の弱点を突くに当たって、ジャンプの類が必要不可欠であると言う事だ。二足歩行に、この巨体。頭や心臓と言った弱点全てが、私の身長より上にある。

 スカート下のみっともない姿を晒さずに戦えるかどうか、正直あんまり自信が無い。顔を真っ赤にしてスカートをガン見する変態王太子しかり、男である自分がラッキースケベの対象になるなど悪夢以外の何物でもない。


 そもそもが、あまり時間が残されていないのだ。自身の命を縮めかねないこの戦いは、無尽蔵の魔力を延々と注がれ続ける耐久レースでもある。溢れる魔力を身体強化魔法に充てる事で、どうにか保っていられているが、どうにも限界が近い。持ってあと数分と言うところだろう。


 瞬殺してやる!


 私の今の感情が、乙女の恥じらい故のものかは分からない(乙女ではないし)。ただ、目の前の大猿は八つ当たりするには丁度良い。


 私の感情を知ってか知らずか、大猿が猛然と襲い掛かってきた。

 動き自体は以外と鈍重? っと思いきや、左右の腕が鞭のようにしなると、脅威的な早さで攻撃を仕掛けて来た。大猿の右腕が変則的にしなり、私の頭上に迫る。先端の鋭いかぎ爪をバックステップで避けた私は、大猿から大きく距離を取る。


 息を整えると、今度は私から大猿に向かって駆け出した。大猿との距離が縮まる中、私は大猿の次の攻撃を予測する。


 左の大振り!


 予測が当たり、大猿の左腕がすごい勢いで振り下ろされる! 激しい音と共に床に叩きつけられた大猿の左腕。私は軽い跳躍でそれを躱すと、大猿の左腕に飛び乗り、そのまま腕を駆け上がった。

 あっと言う間に大猿の顔面に迫った私は、眉間に鋭い突きを放つ!


 ボキィンッ!―――


 鈍い音と共に、私の剣が真っ二つに折れた!

 

「うそっ!」


 慌てて大猿から飛び降りる私。もちろんスカートのガードも忘れない。


「なんて石頭…」


 大猿から距離を取りつつ、手元の折れた剣を見つめる。これではせいぜい牽制ぐらいにしか使えない。さらに大猿から離れようとした所で、生き残っていた犬型の魔物が後ろから襲って来た。私は床を転がるようにして避けると、風魔法の結界を張って難を逃れる。


 犬型の魔物は、そのまま大猿に付き従うように足元に居座ると、私を威嚇し始めた。

 一転してピンチになった私は、さすがに疲労の色が濃く、その場にうずくまる。


「ま、魔力の処理が追い付かない…」


 今この瞬間にも、光の精霊からは容赦無く魔力が注がれ続けている。身体強化魔法で上手く収支のバランスを取っていたはずが、気が付けば債務超過だ。行き場を無くした魔力が、熱となって私の身体を蝕んでいく。

 こうなったら、破綻する前に派手に使ってやろう。


 私はおもむろに、テーブルに残されたワインの酒瓶を手に取ると、魔物に向かって投げ始めた。次々と投げられる酒瓶が音を立てて割れ、破片とワインが飛び散っていく。大猿は割れる酒瓶は意に介さず、こちらの様子を見ている。

 剣は折れたものの、額から流れる血の量から、少なからずダメージを負っているのだろう。仕掛けるなら今のうちだ。


「光の精霊よ…」


 考えてみれば、私が光の精霊に呼び掛けるのは、これが初めてだ。毎回、呼びもしないのに現れるのだからしょうがない。

 イメージするのは、光属性魔法の代名詞。雷だ。イメージした途端に、大広間のあちこちから、小さな雷の精霊? 静電気のようなものが知覚出来た。それを魔物達の所に集めれるだけ集めると、上乗せでさらに魔力を込めていく……

 最後に、折れた剣を魔物達に投げつけると、それに向けて雷の魔法を放った!―――


 ズゴゴゴウゥゥンッ!!!!


 耳をつんざく轟音と、閃光! 飛び散ったワインのおかげで、2体の魔物は、瞬く間に雷光に包まれていく。


「……終わった?」


 音と光が止むまでにいったいどれだけ時間がかかったのだろう? ワインの蒸発した水煙の中、大猿の影が揺らめく。徐々に煙が消え、床に犬型の魔物が横向けに転がっているのが見えた。これで全てが片付いたかに思えたその時、影の中で大猿の赤い目が光った!


「うそでしょう?」


 そうつぶやいた私は、さすがに落胆の色が隠せない。

 この大猿は中級の魔物の中でも、とびきり厄介な部類のようだ。体のあちこちに煙がくすぶり、出血と火傷の痕が生々しい、痛覚の存在を疑いたくなるが、立って動いている以上、脅威はまだ去っていない。大猿は鈍重ではあるが確かな足取りで、私に向かって歩いて来る。

 折れた剣を放り投げてしまった今、私は完全に丸腰だ。頭痛とめまいで新しく魔法を行使する余裕も、もはや無い。


 私の目の前まで来た大猿が、両の手をゆっくり広げて振り下ろそうとしている。私に止めをさそうとするその刹那――、


 私は両手でスカートを摘んで持ち上げると、ふわりと大猿の顔近くまで跳躍した。静かな動作で、その実、精一杯の力を込めて、大猿の顎を下から撃ち抜くように渾身の蹴りを放った! 


 高々と振り上げられた私の右脚。スカートは全開のあられもない状態。カウンター気味に下顎を蹴り上げられて、大きくのけぞった大猿はもちろん、私がギャラリーと認識している者達からも死角になって見えていないはず……。

 蹴った勢いのまま後ろに回転する中、私は両膝を抱えるようにして身体を丸めると、両手でスカートを押さえて足元を隠していく。そのまま2回転した私の身体は、ふわりと床に着地した。


 ズウウウゥゥゥンッ!!!


 数瞬の遅れで、大猿が大きな音を立てながら床に倒れ込む。

 私が安堵と共に床にしゃがみ込もうとした瞬間――


 わあぁ! っと大広間に歓声が沸き、私は驚いて振り返った。

 私の気が付かない間に、騎士棟からの援軍は到着していたようだ。大広間の下の階で暴れまわっていた魔物達は全て討伐されている。歓声は、騎士と兵士達があげているものだ。


 泣きそうな顔で私を見つめていたお母様と、それを支えるお父様の姿がある。良かったみんな無事だ。ふと視線を動かすと、信じられない面持ちで私を見上げている国王陛下と視線が合った。これ……どう言い訳しよう?


 今の戦いで、私が自身の秘密を知っている事はバレたはず。

 お父様とお母様、そして陛下からも質問攻めに合うだろう。疲れた頭で呆然と考えるが、それがまとまる訳が無い。まあいいか。何もしないで後悔するよりはずっと良いに決まってる。

 今、ここに立っている事をほんの少しだけ誇ってやれ。私は奇妙な満足感の中にいた。


 私は階下に向き直ると、穏やかに微笑む。両手でスカートの布地を持ち上げて、優雅にカーテシー(淑女の礼)をした。


 それが光の精霊へのトリガーになったのだろう。嘘偽りを認識された私の身体から光の精霊達が霧散して消えていく。身体中の熱が引いていく心地よさの中、私は床に倒れ込み、そのまま意識を失った。

 

思い付きで始めた稚拙な小説をブックマーク登録して下さった方々、ありがとうございます。


考えをまとめますので次の投稿は遅くなるかもしれません。ご容赦ください。

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