転生令嬢(♂)目覚める
「あの……話があるんだけど、いいかな?」
「……いいよ?」
信号待ちの交差点。隣に立つ彼女に声をかけたのは勇気を振り絞った結果だか、続く言葉を口に出来ないのは、臆病者のなせる業だった。
片思い中の彼女とは、よく一緒に登下校する事が多い。いわゆる仲の良いクラスメイトだ。
今だって信号待ちで声をかけられても、優しく次の言葉を待ってくれている。しかし……
「………信号、渡らないの?」
すでに3回目の青信号。小首を傾げる彼女に対して、さっきから顔を見る事も出来ない。好きな娘に想いを伝えるだけの事が、どうしてこんなに怖いのか?
実は、告白しようとした事はこれが初めてではない。未遂に終わった告白は数知れず。無意味な沈黙と、伝わらない行動を繰り返し、盛大に空回りをしては、その都度、彼女を困惑させていた。
出来ない子でごめんなさい!
さすがに沈黙に耐えきれなくなったのだろう。彼女は、僕に近付くと軽く腰を屈め、上目遣いに下から覗きこむ。
「ふ~む、これは深刻なやつだね。以外と告白だったりして――?」
「!!」
いきなり図星をつかれた! 赤く染まった顔で、口はパクパクと空回りを繰り返す。ぐだぐだだけど、先に言い当てられるよりはいっそのこと―――
「―――す、好きです! 付き合って下さいっ!」
「え!?」
このタイミングで言う―――?
言ったは良いけど何のひねりも無いし、すんごくカッコ悪い! できることならやり直したいっ!!
「…………………」
彼女の長い沈黙がいたたまれない…… 今度は僕が待つ番になってしまった。怖さと緊張のあまり、相変わらず彼女の顔は見れていない。
「顔…」
「え?」
「そ、そう言う事は、ちゃんと、私の顔を見てから言ってくれないと!」
彼女に言われて、僕はようやく彼女の方に顔を向ける―――
そこには顔を赤らめて笑っている彼女がいた。はにかんで笑う顔はいつもよりも綺麗で、今までで一番可愛いと思った。その笑顔だけで、勝手に告白の返事を良い方に解釈してしまいたくなる。
希望の光が見えたと思った瞬間。彼女の笑顔が凍り付いた。
「危ないっ! 避けて―――っ!!」
キキキキキイィィ―――――――ッ!!!!!!!!!!
彼女の声と同時に車のブレーキ音が鳴り響き、強い衝撃で体が宙を舞い。
ズサ―――ッ!! 地面に叩きつけられた。
車に轢かれた? 彼女も?……やばい……意識が…………
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………? ここは……何処? 彼女は? いったいどれだけ意識を失っていたのだろう? 無事なところを見ると、どうやら無事に病院に運び込まれたらしい。病院? ここ病室のベッド…? にしては豪華すぎない? さっきから目にするものが違和感ばかりだ。うん、たぶん頭も打ってるよね。とりあえず深呼吸して辺りを見渡す。
「………………?」
これって天蓋ってやつ? すごい! なんだこの部屋? 中世ヨーロッパ的な豪華な部屋が目の前に広がる。写メ撮ってSNSに投稿したらバズりそう? ってスマホ? 服をまさぐり、辺りを探しても愛用のスマホは見当たらない。あれ? 手ぇ小さくない? 見慣れない小さな手に長い髪がかかる。……金髪?
何かがおかしい。この部屋もそうだが、その最たるものが自分の体だと嫌な予感がした。僕はベッドから這い出ると、おぼつかない足取りで備え付けの姿見の鏡の前に立ち――
息をのんだ。
「えええええええええええぇぇ―――――――――っ!!!!!?????」
大絶叫! そこには小学校低学年ぐらいの金髪美少女が映っていた。なんでぇ―!?
改めて鏡を凝視する。背中まで伸びた金髪。エメラルドグリーンの瞳。ん? この顔……どこか見覚えがあるような……?
ええっとこれって僕? 幼女? 金髪? え? 何? 僕、あの事故で死んだの? 異世界転生って? これまんが? お、女の子ぉ―――?
そこで僕は男(?)なら必ず取るであろう行動を試みた。……恐る恐る股間に手を伸ばすと、果たしてそこには――――― ふにゅ…………!?
――――ありますけどぉぉ――――――っ!!!!????
「なんでえええええええええぇぇ――――――――!!!!!?????」
2度目の大絶叫! もう何が何だか理解できない!? 私はへなへなとその場に座り込んだ。足と足の間には明らかになじみ深いものが存在している。
「お嬢様ぁ!?」
部屋のドアが開け放たれ、見慣れた侍女が入ってきた。
黒髪ショートの可愛らしい顔立ちの女の子で、侍女のお仕着せがよく似合っている。うん。私は彼女を知っている―――
「マチルダぁ……」
私の専属侍女であるマチルダ。自然な流れで彼女の名前を口にする。
「私…!?」
自分の一人称が僕ではなく私であることに、自分で驚いた。これ、私の記憶だ。まだ幼い私の為に歳の近い彼女が私の専属侍女として抜擢された。
5つ歳上の彼女は、すでにその優秀ぶりを発揮していて、私の両親の評価も高い。この身体の記憶だ…。それが自分のものだと抵抗なく受け入れられる。
ついさっきまで普通の高校生だった記憶もそのままに頭を整理しようとするが、だめだ。こんがらがる。……誤作動起こしそう…。
「ご、ごめんなさい。ちょっと夢見が悪くて……」
明らかに様子のおかしい私に、マチルダが控えめに声をかける。
「まだ少し早いですがお食事になさいますか?クリスティーナお嬢様」
「クリスティーナ? 私の名前…クリスティーナ……!?」
マチルダの口にした名前を聞いた瞬間――――――――――――
前世で彼女の見せてくれたゲームのヒロインの姿が目に浮かぶ―――この姿―――その名前―――あのゲームかぁ――――――――っ!!!???
視界が暗転して僕は意識を失った。
転生したばかりで、終わった………。
「広瀬君って女子力高いよね」
「年頃の男子にそれを言う?」
高校1年の林間学校。キャンプ場で黙々とジャガイモの皮を剥く僕に、彼女が声をかけてきた。
今や男の子も普通に化粧をするこのご時世。料理男子やスイーツ男子。女子力高めの男の子達は、かなり市民権を得てきたと思う。
父子家庭で育った僕は、家事をすることが多く、さすがに化粧には興味無かったものの、家事的なスキルで言えば、確かに女子力高めの男の子ではあった。
「広瀬君、クリスティーナに似てるって言われたことない?」
「え!?、何それ? 怖い!」
色々な意味でマイペースな彼女が、意味不明な事を口にする。
「ゲームだよ。ゲームの話。ヒロインのクリスティーナに、広瀬君、がちでそっくりなんだー」
「ゴメン、僕的にヒロインの時点でアウトなんだけど」
密かに気になっている女の子に、ゲームのヒロインに似ていると言われて面白いわけがない!
「大丈夫! クリスティーナちゃんは男の娘だから」
??? ますます意味が分からなくなってきた。
「男の娘と書いて男の娘。ヒロインのクリスティーナちゃんは、女装男子なのでぇーす!」
「――男の時点でヒロインじゃないっ!!」
聞けばそのゲームは、クリスティーナをヒロイン(♂)として、数人の攻略対象と恋をするゲームらしい。ちなみに攻略対象は全員男である。男性同士のカップルを成立させるそれは、BLゲームとして一部の腐女子に大人気だそうだ。
そう、僕の好きになった人は、ちょっぴり腐った女の子だった――
のりで始めてしまいました。調子に乗ってイラストもUPしてしまいましたが、
お見苦しいようでしたらご勘弁を。根気よくお付き合いいただけると嬉しいです。




