フィオラ16歳 第一王子にも苦言を呈します1
第二王子に喧嘩を売った翌日のこと。フィオラ達は5人そろって午後の2コマ目に魔道士学を選択しており、その授業が終わって一同でカフェへと移動している時だった。
「姉上」
「あら、どうかしましたの、フォルト」
他の生徒の目もあるからと余所行きの言葉遣いで会話を交わしていると、そうは見えないがかなり焦った様子のフォルトが姉に声をかけてきた。
「申し訳ありませんが、一緒に来てください」
「え?」
「できれば皆様も」
「ど、どうしたの?」
「……わかった……図書館脇の庭園まで行きますよ」
誰かから通信機で連絡が入ったのか、フォルトは姉の手を取ると、そのまま図書館の方へと駆け出して行った。それを見たビアが「緊急事態のようだ」と騎士言葉で告げたので、ただ事じゃないと皆で急いで移動したのだった。
庭園まで行くとオスカロが待ち構えていて、皆に静かについてくるようにと告げ、庭園内のガゼボの近くまでそろそろと移動した。
広場とガゼボを区切る生垣の前にはフィオラたちが若干かがんで木の隙間からガゼボを見ており、シアの収音魔法でガゼボにいる人たちの会話を拾っていた。
ガゼボ周辺にいるのは7人。
王太子のアントニオと王太子の側近の騎士・ヴェンキント、すでに次期宰相候補と名高いカプデヴィエル侯爵家のヤクエスの3人がガゼボに座っていた。仕事をしていたのか、ヤクエスが書類を隠すようにして整え、それを鞄にしまっているのがうかがえた。
王太子の後ろには侍従が一人と護衛が二人立っている。
ガゼボの外側にはフロラがおり、口を覆うように軽く握った両手を顔の前にかざして、目にはうっすらと涙を浮かべて何かを語っているようだった。
マリエラ達がたどり着き、聞こえてくる言葉を聞いたのだが酷いものだった。
『……なのに、義理の姉と兄はお父様を家族とかたくなに認めないのです。血が繋がっているのに……私達ばかり苦労を背負って、豊かな領地から得られる利益を二人で独占しているのですわ。酷いと思いませんか?』
「これ、昨日と全く同じ言葉では?」
「しーっ。音量をもう少し落としてください」
『私は姉と兄に妹と認められず、領地からの支援も最低限に絞られ、父が頑張らないとドレスも買えなくて……伯爵家の娘として恥ずかしい目にあわされているのです』
「文句が増えたな」
「彼女が何か企んでいる表情で移動していたので、追尾しました」
「ありがとう、オスカロ君」
生垣のこちら側は1年生4人、2年生が5人、それに護衛と従者を合わせて16人と大所帯だった。
『それは大変だったね。けれど、ルドヴィコからも聞いていると思うが、我々がドラコメサ領主に命令することはかなわないのだ』
『そんな……』
『でも、苦言を呈するくらいはできるから。その、泣かないで』
『でも……』
『泣かれると困ってしまう。何かできることがないかどうか、後で考えてみるから。ね』
『ありがとうございます、アントニオ様』
『殿下の御名を呼ぶ許可は出ていないはずだが』
「カプデヴィエル令息はさすがですね」
「きちんとしていらっしゃる」
『あ、あの、ごめんなさい、王太子殿下』
『いいよ。それよりごめんね。まだ彼らと話し合うことがあって』
『あ、歓談のお邪魔をして申し訳ありませんでした。でも嬉しかったです。よろしくお願いいたします、殿下』
「ヴェンキント先輩も距離を保つようにと制しておられました」
「素晴らしいな」
皆が側近の二人を絶賛している中、気になるのは王太子殿下のことで。
「それにしても、その……」
「アントニオ様はその……」
「ちょろいわ」
皆が言いよどんだ言葉で突っ込むのは、やはりフィオラの役目だった。
「姉さま……」
「頭が痛いわ」
「姉上」
「頑張れ、マリエラ」
「応援しております、マリエラ嬢」
このまま放置しておいてもダメだろうと思ったフィオラは、苦言を呈される前に注意喚起をしておこうと決めた。
正攻法ではなく卑怯な方法で。
「とりあえず、私だけ行ってくるわ。みんなここで見ていてね。フォルもここにいて。リュドだけついて来てくれる? シアはみんなを守りつつ声を拾ってね。それと笑わずに見ていてね」
「フィオ? 何をする気なのかしら?」
「私がやったらどうなるかなって♪」
フィオラは矢継ぎ早に皆に指示を出し、マリエラの疑問に笑顔で答えると、そろりと生垣の陰から出てまっすぐにガゼボの方に歩いて行った。
「フィオラ嬢!?」
「お久しぶりにございます、アントニオ殿下。ヴェンキント殿もカプデヴィエル殿もご機嫌麗しゅう」
「こんにちわ、フィオラ嬢」
「お久しぶりです、ドラコメサ女領主。私のことはヤクエスとお呼びいただけると嬉しいかと」
「ふふ、では、わたくしのこともフィオラとお呼びくださいな」
フィオラは、王太子はマリエラを、ヴェンキントはビアを通じて親しくしていたが、第三王女の婚約者であるヤクエスとはなかなか接点を得られず、今まで名前を呼ぶ許可を頂くきっかけがなかった。
そう、貴族とは、交流を深めていく中でタイミングを計って名前を呼ぶ許可を自ら出すものであり、それは男性から女性に、もしくは下位の物から上位の者に先に告げるのがルールだった。
「今ドラコメサ嬢がいたようですが、皆様に無作法なことをいたしませんでしたか?」
「いや、世間話をしていただけだよ」
そんな基本のルールも守れていないフロラは、どこまで自分の無知さをさらけ出せば気がすむのだろうと、周りですでに有名になっていた。
由々しき事態だが、親ではないフィオラ達には、本人や親に忠告する以外は何もできなかった。
「そうですか? 少し涙を浮かべていたようだったので……まさかとは思いますが、第二王子殿下にしたのと同じように、なにか失敬な発言をしたのではないかと心配になりまして」
フィオラは男性に効果があるらしいと最近学んだ姿勢を――半開きの扇で口元を隠し、伏し目がちに、少し頭をかしげて斜め右下の地面をそっと見つめるという行動をとった。
この首をかしげる角度や顔の表情、なにより少し曲がって伸びた首筋がセクシーだったとフィディに力説されたので、この3人にも効くのではと試してみることにした
「ああ、いや、ちょっとね。ドラコメサ伯爵令嬢なりに悩んでいることがあるようだったよ」
どうやら王太子にクリティカルヒットしたようだった。
少し頬を染め、気を遣うような視線を受けて、フィオラだけでなくリュドでさえ(ちょろい)と心の中でつぶやいていた。
「家族扱いされないとか、支援がもらえないとかでしょうね」
「ああ。そうだ。どうやらドラコメサ伯爵は困窮しているらしい。それについてフィオラ嬢はどう考えているのかな?」
けっして責める口調ではなく、優しく尋ねてくるアントニオ殿下に、王太子としてどうなのか少し不安を感じたフィオラは、さらに女優となる努力をした。
これまでの人生で一番悲しかった瞬間を思い返せば涙は簡単に零れてくる。
ホロリと涙が零れたところで顔を扇で隠し、その陰で涙を指先でぬぐった。
一つ大きく息を吸ってから扇を少しずらして視線を殿下に合わせ、少し弱々しい声で語りかけた。
「アントニオ殿下は十数年前からのドラコメサの状況をご存じですわよね。その後わたくしたちが帰領してから領民と一丸となり、領地が豊かになるように努力してまいりました。あの頃よりは豊かになったとはいえ、まだ余裕があるとは言えない状態ですの。ですので、伯爵家の皆様にいろいろ言われましても、いまだ無い袖は振れないというのが現状でして。わたくしですら自分で起業して自分の学費は稼いでいる状況だと申しますのに……」
そこを一度区切りとし、再び顔を扇で隠すと少し肩を震わせた。
「母とお母上様の噂も御耳に入っていらっしゃるでしょう。そんな状況で、その当のお母上様とその娘さんへの援助といわれましても……わたくし、さすがに素直には……」
そこで声を詰まらせて、身を縮め、さらに震わせていると、フィオラの耳に足音が聞こえた。ついでにリュドの小さなため息も。
予測した通り、王太子殿下が自ら貴族の娘を慰める為に歩み寄っているようだった。
接触させるわけにはいかないので、フィオラはここでネタ晴らしをすることにした。
体をリラックスさせ、顔も上げて扇から上半分を出して、こちらを労しそうに見ている王太子を睨みつけると、文句を言い放った。
「アントニオ殿下はちょろすぎますわ」
その一言を合図に、生垣からこちらを見ていたみんながぞろぞろと姿を現した。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
3日前の12月6日に中山美穂さんの訃報が入りショックを受けました。
ファンではなかったけど、大好きな女優さんの一人で……何より同世代なので若い頃から色々な作品で中山さんを見てきました。
不慮の事故――この時期にお風呂場でというと、やはりヒートショックだったのではと推測しています。
私も気を付けようと思いますが、皆様も気を付けてください。
そして中山美穂さんのご冥福を祈ります。
やっぱ同世代の有名人がお亡くなりになるのはショックがでかいですorz
ミポリーーーン。・゜・(ノД`)・゜・。
※このX(旧Twitter)に投稿された、ヒートショックを防ぐ方法のイラストが分かりやすいと思ったので、該当ツイートのURLを貼っておきます。
https://x.com/gtt214214214/status/1864988016923853000




