フィオラ16歳 第二王子に喧嘩を売ります!2
だがそれに対して言葉を返してきたのは第二王子ことルドヴィコ殿下だった。
「それは私にも言っているのか?」
「わたくしが指導する権利を有するのは、同じドラコメサの名を持つ者と、ドラコメサに連なる者たちだけですわ。第二王子殿下に道理を説くなど、おこがましくてできませんもの」
「……しかもなぜ執拗に名ではなく立場で私を呼ぶのか……まさかその地位に気があるとは言わないだろうな?」
このルドヴィコ殿下の言葉にあっけにとられたフィオラは、淑女のたしなみも忘れて気の抜けた言葉を発してしまった。
「……は?」
「まさか私に気があるから、妹をいじめているわけじゃないだろうな」
追い打ちの言葉にフィオラはあきれ果てるしかなかった。その為に一瞬黙った後に、辛辣な言葉で反論してしまった。
「わたくしが殿下を好きになるわけがないではありませんか。クラスメイトになっても名を呼ぶ許可すら与えていただけませんのに。それに殿下は、わたくしが婚約者のいる男性を狙うドブネズミに見えるとおっしゃるのですか?」
このフィオラのセリフにその場にいた第二王子とフィオラたちの連れや護衛・従者たちは驚いた表情で黙ってしまい、あたりは静まり返った。
その静寂を破ったのはフロラの絶叫だった。
「それは私が薄汚いビッチ女ってこと!? 酷いわお姉さま!!!」
姉と呼ぶなといったのにとか、本当のことなのになんで反論してくるのとか、そもそもなぜみんな黙っているのと悩んだ結果、自分の選んだ言葉が間違っていたのではと思い至った。
「……リュド、他人の婚約者を狙う人をドブネズミっていうのよね?」
「フィオラ様、それは庶民の間で財産や人を含めて大切なものを盗む悪人に対する隠語であって、貴族間で恋人や婚約者を盗む者は泥棒猫のはずですよ」
リュドの返答に自分の間違いに気づいたフィオラは真っ赤になって、扇を握り締めたまま口を両手で覆ってしまった。
「フィオラ様、幼い頃の癖が出ております」
そうエリサに指摘されて慌てて扇を広げて火照った顔を隠し、恥ずかしさのあまり伏し目がちに「失礼いたしました」と周りに自分の誤発言を謝罪した。
その瞬間、第二王子の周りをはじめ、遠巻きに様子をうかがっていた貴族子息たちが何人かときめいた。
そんな周りの様子に気づき、それにイラついたフロラは感情のままフィオラに食って掛かり始めた。
「なによ、酷いわ、私を悪者にして自分に気を引くなんて」
「?? そんなつもりは欠片もありませんわよ」
「その喋り方も鬱陶しいからやめてよ」
「申し訳ありませんが、この場では貴族の、淑女としての口調を崩す訳にはまいりませんわ」
「なによ、どうせ護衛の大きいのをぶち込まれていい声で啼いてるくせに!」
と、フロラが反論した瞬間、フィオとマリエラはきょとんとして言葉を失った。
それに対してビアやリュドたちは呆れたと表情でフロラに返し、フィディとグネスは真っ赤になって俯いていた。
実はマリエラは本当にわかっていなかったのだが、フィオラは(まさか前世の下ネタ全開の意味ではないわよね? あの子だって一応貴族の淑女なんだし。だったらえーと)と考えた末に見当違いの言葉を返してしまった。
「大きいのって、リュドの拳は大きいからもしもゲンコツでもく……叩き込まれたら痛いから泣くとは思うけど」
そうフィオラが言ったとたんにリュドが大きなため息をつき、周りは生暖かい目をフィオラに向け、向けられた本人は何かおかしなことを言ったかしらという表情を浮かべて困惑していた。
「マリエラ様、フィオ様。ドラコメサ嬢が言われたことはそういう意味ではなく……」
フィディが言い淀んだ瞬間にやばい言葉だったと気づいたフィオラは、あまりのことに顔から血の気が引きそうなのを我慢したが、マリエラはいまだにわからないという顔をしてフィディを見つめていた。
しかしフィディもこれ以上どういえばいいのか悩んで黙ってしまったのだが、そこに助け舟を出したのがビアだった。
「マリエラ、フィオ。閨教育を思い出せ」
うっかり騎士言葉に戻ったビアの台詞にまずフィオラが真っ赤になって俯き、
「……彼女の言う大きいのとは、男性性器のことだ」
とのストレートすぎる言葉に、マリエラもようやくどういう意味か分かって真っ赤になって挙げそうになった悲鳴を何とか我慢したようだった。
「ビア様、ストレートすぎますわ」
「他に言い様がないだろう」
「確かにこうでも言わないと、お二方には通じないかもしれませんが……」
「お、お三方は、よ、よくご存じで」
さすがのマリエラも、珍しくしどろもどろになっていた。
フィオラは懸念事項が現実になったことでぐるぐる悩み、言葉を発せなかった。
「騎士たちはそういう話に容赦がないから」
「商人も似たようなものです」
「教会に来られる方には、口さがない方が幾人かおられますので」
「ま、まあ、そうなのですね。勉強になりましたですわ」
そんなマリエラの本心ではないであろう、かつ、彼女としてはあり得ない焦った言葉遣いにフィオラは我に返り、そのまま本心を吐露してしまった。
「嘘でしょ……同じドラコメサの姓を持つ淑女が下町の下品な言葉を使うなんて。恥ずかしすぎて死にそうですわ」
顔を手で覆いフルフルと肩を震わす姿に見ている人々は泣いているのかと心配になったが、フィオラは怒りに震えていた。
前世の女性としてもあんなビッチ発言はダメだろうとか、それに今世では貴族の娘として育っているのにどうして貴族の矜持や淑女のたしなみを学んでくれないのかと、憤怒のあまり涙さえ浮かんできた。
それを幸いとフィオラは若干嘘泣きをすることにした。涙は女の武器になるし、ここぞという時こそ使うべきものだと教育されてきた。
今がその時だと、このままではドラコメサの脅威になると判断したフィオラは、相手を心配しているといった表情を浮かべて、フロラを真正面から見据えて震える声を出した。
「あなたはすでにお父上様であるドラコメサ伯爵の娘なのよ。どうして貴族としてのマナーやモラルを身に付けてくださらないの? まさか伯爵が教育を怠っているとは言いませんわよね?」
ストレートの黒髪に白い肌、その中にある普段は厳しい目つきの顔が悲哀にゆるみ、目には涙さえ浮かべている。
周囲への「他の誰よりもあなたを心配している」というアピールは成功していた。
「もうあなたは非礼や無礼を許される幼い子供ではないのよ。来年には成人年齢になり、貴族としても成人としてふさわしいかどうかを、周りの人々から洞察されるようになるわ。貴族としてのありようを学び、自制できるようにならないと……ドラコメサの長として制裁を下さなければならなくのではと、心配になるわ」
フィオラは「いい加減大人になりやがれ、そうでないと制裁するぞ」という言葉を、相手を思いやっての言葉に変換してフロラに告げたが、たぶん通じないだろうなと、最後の言葉だけ拾うだろうという推測のもとにわざと「制裁」という言葉を使用した。
すると推測通りフロラは悲憤慷慨とでも言いたげな感じで怒り、嘆き、悲しんだ。
「酷いわ、義理姉様! 私のことがお嫌いだから制裁しようと狙っているのね!」
「義理姉様と呼ぶのもやめて頂けませんか? 常にお伝えしているように、あなたとわたくしは貴族院的に姉妹ではありませんの。けれどドラコメサ伯爵の名を使うというのであればわたくしのことは領主様と、そうでなくとも親しい仲ではない以上ドラコメサ女領主と呼ぶようにしていただきたいですわ」
「なんでよ! 酷いわ! どうして私のことを家族として認めてくれないのよ!」
「貴族院的な話は伯爵にご確認ください。学費のことと共に。それ以上はここではお話ししない方がよろしいと思いますわ」
「何故よ……」
「心証を害する言葉を、このような公の場で使いたくありませんもの」
そこまで言われては黙るしかなかったフロラは、すくっと立ち上がると自分のハンカチで涙をぬぐった。
「もういいわ、何を言っても義理姉様には響かないってわかったから……お父様に相談してお父様から言ってもらうわ!」
そう叫ぶと足音は立てていないもののかなり素早い勢いでフロラは走り去っていった。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
かなり寒くなってまいりましたね。皆様風邪などひかぬようお気を付けください。
私は若干手遅れというか……喉がイガイガしていますorz
これ以上酷くならないように頑張ります。




