フィオラ16歳 第二王子に喧嘩を売ります!1
2年の前期の期末テストがもうすぐという頃に、フィオラはマグダネラのことが気になっていた。
学年が違う為まめに会うことはできないが、構内でたまに見かけるダネラはなんとなくだけど、時を経るごとに落ち込んでいるように見えたのだった。
気になり始めたのは11月の半ば、第二王子達の剣闘会での謹慎が開けた頃だった。
剣闘会から2日後。休み明けの学校でちょっとした騒ぎが起きた。
大会最後にビアと闘ったゴドフレドが昼休みに襲撃を受けたのだ。
襲撃というのは大げさかもしれないが、第二王子の従者の家の寄り子にあたる数人が「王宮騎士団への入団を断れ」と詰め寄り、それに是と言わないゴドフレドに腹を立てて実力行使に出ようとして、返り討ちにあったのだった。
その寄り子たちこそ、第二王子の勝ちたいという意思を汲んでゴドフレドを脅した愚か者だったというのが判明し、彼らは一般市民を巻き込んで脅迫したということで退学処分となった。
第二王子たちも何も知らなかったとはいえ自分たちが保護と監視をすべき生徒たちが問題を起こしたということで、1週間の謹慎処分を受けたのだった。
たまたまその場に居合わせたフィオラは、私は知らなかったと抗議する第二王子に対し、
「知らぬとはいえ、部下がやったことであれば“あなたがやらせた”と判断されてもおかしくありませんわ。部下の思いやりはきちんと受け止めると同時に、感謝や謝罪を自らも示しませんとねえ」
と、暗に部下の行動はしっかり把握しろと、やったことは自分の責任においてどうにかしろとうっかり告げてしまったため、さらに第二王子に煙たがられたようだ。
その謹慎期間に第二王子は王宮で教育係からの再教育を受けることとなり、偶々その最中に王子とのお茶会が予定されていたマグダネラは王宮に赴いたのだが、そこで八つ当たりを受けたようだった。
マリエラを通して王妃からもたらされた話なので、正確な裏事情だろう。
「私のせいかなあ?」
「それもあるでしょうけど、それだけではなさそうよ」
どういうことかとマリエラに食い下がって聞いてみれば、同じころにフロラが第二王子に急接近して色々話しかけるというか、フィオラやマグダネラの誹謗中傷を吹き込んでいると影から報告が入ったそうだ。
「なにしてくれてるの……」
「把握していませんでしたの?」
「あの子の世話をさせているメイドからは毎日報告を受けていたけど、さすがに私の悪口についてはこぼさなかったみたいね」
「あらあら。主に何を零しているのかしら?」
「先生がうるさいとか、勉強が大変とか、お父上様からお金が来ないとか、ドレスを作ってもらわないととか、そんな感じ」
「ほぼ愚痴なのね」
「ええ。悪事を口にしない程度の知恵は回っていたということね」
「ふふ、お身内に中途半端に小賢しい人がいるといらぬ苦労をしますわね」
「本当に……」
だから慰めてとフィオラはマリエラに抱き着き、マリエラがそんなフィオラをよしよしと背中を撫でながら甘やかしていたら、他の3人も合流したので昼食のために皆で食堂に移動した。
その最中だった。
警戒をしながら歩くことを常にしているビアが何かに気づき、窓辺に近寄り外を見た。
「お……皆様、あれを」
大会以降言葉遣いに気を遣っているビアは、簡潔な言葉で話すようになっていた。あれをだけじゃ伝わらないと注意しようと思ったフィオラとマリエラが外を覗くと、そこには先ほど話題に上がっていた第二王子たちとフロラが階下のアトリウムで話している様子が見て取れた。
そしてはフロラの態度から簡単に予測できた。
「私のことで第二王子殿下に何やらお願いしていそうな雰囲気ですわね」
「たぶんその通りだと思われますわ」
「あちらに参って、わたくしも一緒に聞いてまいりますわ。エリサ」
「はい、フィオラ様」
何をといわずとも察したエリサが収音魔法で少し離れた場所にいるフロラたちの言葉を集めれば、それはまあ捏造以外の何物でもない義理の姉兄にされた嫌がらせを告げたうえで、助けてほしいと甘えている言葉が流れてきた。
階段を下りるまでに深いため息をつききったフィオラは、姿勢を正すと急がず、かといって遅くもない絶妙なスピードで、しかもハイクラスの貴族らしい威厳をたたえた所作でアトリウムを横切っていった。
マリエラ達も同行し、問題児たちのいる中央付近のテーブルへと皆で優雅に近寄った。
下位の者から上位の者に挨拶をするには、いったん近寄って相手から促されるまで待つしかないが、第二王子がそれに応じてくれるとは思えなかった。
しかし、この場にはフロラというフィオラより確実に地位が下の者がいた。
「ごきげんよう、ドラコメサ嬢。お元気そうで何よりだわ」
「!! お、義理姉様。私が元気そうに見えるとでも?」
「……元気な声がアトリウムの端まで聞こえていましたよという意味でしたのに。通じないということは自覚がおありではないのかしら?」
「げ、元気なわけありませんわ」
何故と問えば出てくる出てくる。よくもまあここまで誤解できるものだという文句が、直接的に。
先生に厳しくするように頼んでいるのだろうとか、自分達だけ贅沢をしているとか、来年用のドレスを作るために世間でドラコメサ領主御用達だと言われているメロディオ服飾に行ったのに門前払いをするように命じたのだろうとか、まあ色々と。
果ては寮の部屋が狭いのも態とだろうと泣き叫ばれた。
「あらあら、まだお父上様に確認されていないのかしら? それと以前にも申しましたけど、わたくしたちを義理の姉や兄と呼ぶのはそろそろやめて頂けませんか?」
「どういうことかしら」
「以前にもお伝えしましたように、ドラコメサ嬢の基本の学費と寮費と初期費用は領地の財源から支払わせていただいておりますわ。もちろん将来伯爵から返して頂く予定ですが」
「なんで!?」
「わたくしたちとあなたは貴族院的には無関係な人間となっております。お父上様の爵位もフォルトの貴族成人をもって受け継がれることは決定しておりますし。親でありながら子を養わなかった時点で、親としての権利も伯爵は失っておりますわ」
「で、でも、血のつながった家族じゃない。助け合うべきじゃないの?」
「助け合う?」
その一言はフィオラの中では逆鱗に等しいが、小娘に言ったところで理解はできないだろうと6秒黙ってから再び口を開いた。
「助け合いというのであれば、すでにわたくし達姉弟からはかなりの援助をしておりますわ。後は返して頂きませんと。でも今の伯爵に、わたくしたちに返せるものが果たしてあるのかどうか」
「酷いわ、家族なのに!」
「その伯爵自身が、家族は今のご婦人と、ご婦人が生んだ娘と息子だけだと、わたくし達姉弟のことは、家族と思っていないと断言しておりますもの。そんな発言を聞いて、家族と思える正妻の子供がいると思いまして?」
フィオラはかみ砕くように聞きやすいようにと、ゆっくり自分たちの関係を語った。
そこまで言われてはさすがのフロラも反論はできなかったのだろう。だが攻撃されたという事実は今まさにできたとばかりに、男性陣に駆け寄り、膝をつき、上目遣いで涙をこぼして訴え始めた。
「お父様がいなければこの世に産まれてこなかったはずなのに、義理の姉と兄はお父様を家族とかたくなに認めないのです。血が繋がっているのに……私達ばかり苦労を背負って、豊かな領地から得られる利益を二人で独占しているのですわ。酷いと思いませんか?」
「フロラ嬢。なんてお可哀そうに」
「フロラ嬢こそ伯爵に認められた娘であるのなら、姉といえども敬意は払うべきなのに」
「もしも護衛が必要なときは、遠慮なく頼ってください、フロラ嬢」
第二王子の従者である魔導師、文官、騎士が揃いも揃ってディノフロラのことを愛称で呼んでいる様子にフィオラは戦慄を覚えた。
騎士に至っては姉弟がフロラに何かしかねないと本気で心配をしているようだった。
フロラが行動をし始めたのは半月ほど前のはずなのに、もうこんなに落としているのかと。
やはり魅了に近い魔法を使っているのか、まさか殿下までと黙ったまま観察していると、
「フロラ嬢、出来れば力になりたいが、王族とは言え国王でも聖竜様の御使いに命令を下すことはできないのだ。すまない」
第二王子までもが愛称で呼びかけているのを聞いて、心の底からガッカリした。
フィオラだけでなく、マリエラも。
しかもフロラは慰めてもらえているのをいいことに第二王子の膝に手をかけ、第二王子に涙を拭いてほしいと言わんばかりに首をかしげて濡れた頬を王子の前に差し出した。
それを見て第二王子が頬に手を伸ばそうとした時だった。
「はしたないことはおやめなさい、ディノフロラ・ドラコメサ。家名を汚すようなことはしてはなりません」
フィオラはドラコメサ一族の二人の長のうちの一人として、これ以上はさせてなるものかとストレートに苦言を呈することにした。
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今週は何か波が来たらしく、一週間で一本書くことができました。
この波が来週以降も続きますようにと祈っている最中です^^;
頑張ります!




