フィオラ16歳 馬鹿の周りには愚か者しかいないようです4
その後アリーナでは閉会式の準備がなされ、決勝戦の勝者の傷と体力回復の治療を終えた頃に表彰式が行われるというアナウンスが闘技場に流れた。
フィオラは今日一日一緒のブースで過ごしたゴドフレドをチラリと見た。
彼は何か深刻に考えながらずっと試合を見続け、そして今は固く握りしめた両手に額をつけて思い悩んでいるようだった。
上手くいけば彼にもチャンスを与えてあげられると弟と友人に聞かされただけで、彼にいったい何があったのか全く聞かされていないフィオラは、どう言葉をかければいいのかと悩んでしまっていた。
その時だった。
「フィオラ様、ゴドフレド。下の通路にフィディス嬢がおられますよ」
その言葉に通路の方に視線を向けると、フィディが男女の子供を連れた平民の夫婦とおぼしき人たちと王宮騎士団長を、自身のブースに案内しているようだった。
フィオラ達に気づいたフィディが引き連れている皆にブースの方を見るように告げたようで、一行がドラコメサのブースに視線を向けた。
その瞬間ゴドフレドの顔に喜色が浮かび、目に涙を浮かべて聖竜への感謝の祈りを口にした。何があったのか察することができたフィオラが手を振り返しながら「リュドは知っていたの?」と訪ねると、「当然です」という言葉が、いい笑顔とともに帰ってきた。
そして閉会式が始まった。
3位までの選手が呼ばれ、それぞれ国王陛下から直に声掛けをされるという栄誉を授かっていた。
学生の試合なので賞金は出ないが成績証明となるメダルを与えられ、優勝した選手に関しては国王陛下が学生らしい無理のない頼みごとを叶えてくれることになっていた。
優勝したビアが望んだこと、それは
「大会の予選を、体調不良で不参加になった先輩と、今ここで闘わせていただきたいと思います」
「ほう。だがその者はまだ倒れている可能性があるのでは?」
「いいえ。この会場に、ドラコメサ伯のブースで観戦しておりました」
その言葉にフィオラがゴドフレドを促して立ち上がると、会場の視線が一気に二人に集まった。
「今、この場で私と闘え、ゴドフレド!」
「その挑戦、しかと受け取った、スダフォルモント!」
闘いの場においては家格も階級も年齢も関係ないと言われる剣士同士の宣言に、会場は大いに沸いた。
そんな中、視線を感じたフィオラが振り向き王家のブースを見上げると、第二王子が下を覗いていた。そしてゴドフレドの姿を確認したからか、なぜここにと口が動いたようだった。
フィオラはあらあらと思いながら姿勢を正すと、ゴドフレドにエスコートさせ、リュドを従える形でアリーナへ降りていった。
アリーナでは閉会式の用具を片付け、再び闘えるようにと地面の整備が行われていた。
そこに降り立つとフィオラはゴドフレドから離れ、ビアのもとへ優雅に歩み寄った。
「フィオラ?」
「ビア。治療は済みましたのよね?」
ビアが頷くのを確認すると、フィオラはその体にゆっくり抱き着き、「じゃあ私がもう少し元気にしてあげる」と他の人に聞かれない小さな声でつぶやいた。
『我らが主、聖竜様。これから戦いを挑むこの者に、新たな活力を与えたまえ。活性』
ビアの体が柔らかい光に包まれ、それが引いた頃にフィオラも一歩離れた。ビアは手をグーパーさせたり腕を回したりして体調を確かめた。
「これは……ありがとうフィオラ。これで全力で闘える」
「よかった。じゃあ、ちょっとだけ茶番に付き合ってもらうわよ」
「なんだと?」
「フォルト、拡声魔法を」
閉会式からずっとアリーナにいるフォルトに命じ、フィオラは昨夜聖竜から頼まれた茶番を演じることにした。
「ご来場の皆さま。今回の剣闘会は聖竜様もご覧になっておられました」
聖竜様がと湧く中、フィオラが視線を庶民用の観客席にうつせば、そこには南国風の格好をした褐色の肌に銀髪赤眼の男が、ゴブレットを片手ににやにやと笑っていた。
それを見て「ふふ」と笑みをこぼしてから観客席を一周するように眺めながら言葉をつづけた。
「今年は聖竜様が気に入られている剣士たちが集うと……彼らの戦いが楽しみであると、聖竜様は申されておりました」
だから邪魔をするなと、王家のブースにいる同級生のところで一度視線を止めた。
「聖竜様の使いであるフォルトをはじめ、スダフォルモント令嬢しかり、フグエス令息しかり……」
3人を緩く広げた扇で指し示しながら名を告げ、そして最後にもう一人の前でその手を止めた。
「ゴドフレド殿しかり。この方が不参加だと知り聖竜様は、それはそれは残念に思われたそうです。今年の学生の平民の中で、一番の注目株だったと……」
フィオラは扇を閉ざしてすっと姿勢を正すと、学園関係者がいるブースの方に体を向けた。
「この試合は、聖竜様の名のもとに、正式に記録に残して頂きたいと、聖竜様の使いたるフィオラ・カリエラ・シニョラ=ドラコメサから、学園側に切にお願いいたしたく存じます」
一言一言区切り、ゆっくりとこう告げた後、優雅なカーテシーを披露した。
それを受けた学園長が了承の意を発し、それを聞いてから再び姿勢を正すと、それは優美で、しかしながら顔立ちがそうさせるのか、悪だくみをしていそうな悪女の笑顔と共に「ありがとうございます」と答えたのだった。
その直後、フォルトに視線で合図をして拡声魔法を止めさせた。
「ふふっ、というわけでちゃんと記録に残るから、二人とも死力を尽くして闘ってね」
「本当にありがとうございます」
「表情が物騒ですよ、姉上」
「悪役顔にはぴったりだがな」
「二人とも酷くない?」
そんな会話を交わしてから、姉弟はリュドを従えてドラコメサのブースに戻っていった。
その道中も第2王子からの視線が痛かった。
たどり着き、椅子に座るころにはあちらも座りなおしたようで見えなくなっていたが、文句があるなら言ってみろとフィオラは心の中で毒づいていた。
するとビアの兄たちから面白い話が出てきた。
「ビアに頼まれてここに居続けた甲斐があったな」
「やっぱり人を隠すなら集団の中か」
「どういうことですの?」
詳しく聞けば、ゴドフレドが会場にいることがばれると第2王子の従者たちにとがめられ、最悪追い出される可能性があると。それを防ぐため、ゴドフレドが混じっているのをごまかすためにここの人数を多くしていたと。だからビアの兄たちもここにいて、オスカロが私服ではなく制服姿で来ていたのもそのためだったということだった。
「そこまでひどい状況だったのね」
「はい。姉さまに事前に伝えるかどうか悩みましたが……第2王子殿下はそこまでではありませんが、周りのお膳立てがひどすぎるというのは騎士科では有名な話でして」
「そういえば前にビアが殿下を見ながら、あれでは成長できないだろうなって言ってたけど」
「従者たちは諫めるどころか、いかに良く見えるかの整え方に興味がある用で」
「は~~~っ。殿下はそれに気づいていないの?」
「気づいていたら」
「……やめさせるわよねえ。ああもう」
(フロラの付け入る隙が多すぎてヤバい)とフィオラは思ったが、それは口にできなかった。
ここに至るまでにいろいろと、ゲームの道から外れることばかりしているフィオラは(ゲームの強制力はなさそうだ)と思いつつも、フロラには発動するかもしれないと常に警戒していた。
だから、もしかしたらフロラが魅了に近い魔法を使うかもしれないから、聖竜の鱗を王家と国政にかかわる主要メンバーと友人達には配ったのだが。
(ルドヴィコ殿下は私が嫌いで、私からの贈り物も使いたくないって、部屋に置いているだけだって聞いちゃったのよね)
たぶん牛の尻尾連中もそれに倣って持ち歩いていないのだろうなと安易に推測できるので、フィオラは不安で不安でしょうがなかった。
PS.
リュ「フィオラ様、どうして私も従えていったのですか?」
フィ「箔付けに決まってるじゃない!」
リュ「ソウデスカ」
フィ「なんか呆れてない?」
リュ「気のせいですよ(いい笑顔)」
フィ「( •᷄ὤ•᷅)ムゥッ」
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ここでいったん切ります。3000文字ベースで前は書いていたなあと思いだしたので。
変に長く書いていたのでなかなか仕上がらないんだろうなとも反省したので……。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、頑張ります!