フィオラ16歳 馬鹿の周りには愚か者しかいないようです2
10月の精霊祭はフロラが興味を示さなかったのか、ゲーム1年目のこの時期は何もイベントが起きなかったからか、姉弟は友人達と共に平和に祭りを楽しむことができた。
そして11月の始め、6日金曜日と8日日曜日に渡って行われる学校行事の「剣闘会」は生徒会主催の行事なので、フィオラの前世の文化祭と体育祭を合わせたような雰囲気になっていた。
生徒会主導で闘技場を飾り、席や控え室を整え、見やすい大きなトーナメント表を作り、平民生徒の有志で屋台を出したりしていた。
円形の闘技場は外から見ると5階建てで、2階部分にあるアリーナの下に選手控え室や医療室が設置されている。
1階部分には外部に向けた常設の店舗とその間に出入り口が16カ所ある。
2階から4階までの回廊には店舗ブースと屋台出店用のスペースが有り、イベントの度に王都内の店や国内の有名店が軒を連ねる。
学校行事の場合は生徒が店を出しやすいようにと、王都の店舗は出店しないのが通例である。しかし国内の有名店は招待されるので、バニョレスのカフェ・リュドルクも日持ちのする焼き菓子と、特産品であるレモネードとレモンフラペチーノを販売していた。
観客席は3階より上になり、アリーナを囲む高い壁が立った時に腰の位置になる所から階段状に伸びている。
南半分は貴族エリアになっており、最前列と中央あたりに3列ずつ、小さな丸テーブルが付いた椅子席が設けられている。それ以外は大小様々なブースが壁と階段で仕切られている。
北半分は平民エリアで、中央あたりに大小のブースが少しあるだけで後は全て椅子だけの席になっている。
これらの席は見やすいところから順に高い値段設定がされているが、例外はある。それが南側中央にある堅牢な王族専用とそれを囲むハイクラス貴族用のブースだ。
特に王族のブースの前にドラコメサ家と王都都長のマイセントラ家のブースが並び、脇を辺境伯家のブースで固められていた。それらは使用不使用にかかわらず、近衛兵が王家の守りとして常駐することが許されていた。
剣闘会は短剣・長剣から槍までと、各生徒が得意な近接武器を使って戦い、魔法の使用も身体強化と防御といった自身の体にかけるもののみ許可されている。
2年生以上は自由参加で、1年生は騎士もしくは武道クラスを選択している生徒の中の成績上位16名でトーナメントを行う。
1日目の予選は主に生徒たちが観戦しており、午前中に1年生のトーナメント戦が行われ、その優勝者は本戦に参加する。
午後から2~4年生の参加者で予選サバイバルを行う。希望者を31チームに割り振り、4チームごと8戦が行われる。時間内に一番ポイントを稼いだ者か一人勝ち残った者が日曜日の本戦へと駒を進める。
本戦はトーナメント戦のみで、午前中に1回戦16戦が、午後に残りの15戦と3位決定戦が行われた後に、表彰式を含んだ閉会式が行われる。
優勝するまで5回戦い抜かなければならないので、体力魔力勝負の所が大きい。
そんな大会で伝説を残した者達が姉弟の身近にいた。
平民出身の聖竜の騎士が2年連続で優勝し、その騎士に鍛えられた平民がやはり2年目に準優勝をさらったと。
彼らが4年学園に通っていたら、その後2年間も1位2位をさらったのではないかと噂されたとのことだった。
「ちなみに2年次の3位と4位はデマロとアレクでした」
「もしかして、私の青麦買い(青田買い)成功?」
「姉さま。自画自賛したい気持ちは分かりますが、彼らを選んだのはすでに領地に来ることが決まっていたリュドですよ」
「むぅっ」
そんな会話が伝説と雇い主達の間でされたとか、されなかったとか。
1日目の早朝に、1年生のトーナメント表と2年生のグループ分けの一覧表が張り出される。
フィオラ達はフォルトとオスカロの組み合わせを確認した後、ビアも参加する2年生のグループ表を眺めていた。
「おかしいな」
「どういたしましたの?」
「第二王子のいるグループ、一人以外弱いか第二王子の牛の尻尾(金魚の糞)しかいない」
「忖度?」
「純粋にくじ引きのはずなんだが」
「後から番号をやり取りしたのではありませんか?」
「どういうこと?」
フィディの説明によれば、市井には闇闘技場というものがあり、そこでも同じような仕組みの賭け試合が行われる時がある。その最初のグループ分けの抽選会の時、引いた直後にだれがどのグループと記録するのではなく、面白い試合が組めるように記録を取る前に番号をやり取りすることがあるとのことだった。
「そ、それは、忖度というより、やらせに、近いのでは」
「……ビア、その“一人以外”の一人って」
「平民で、見どころがあるからとスポンサーがついた専科2年の先輩だ。しかも王宮騎士団の師団長がスポンサーだから、八百長はしないな」
平民は初等科の2年間を通っただけで卒業するのが一般的だ。寮費等免除されている物があるものの、生活費や授業料はどうしてもかかってくるので2年通うのが精いっぱいなのだ。……ジャドのように学生時代から荒稼ぎをしていれば別だが。
しかし稀にスポンサーがつく生徒がおり、そういう平民は4年間学園で過ごした後に、スポンサーが指定した職に就くそうだ。
「なるほど。それ以外は全部第二王子を代表にするために……集中攻撃するつもりかしら」
「たぶんな。それでも勝てる方だとは思うが」
「それより、ビア。口調が騎士に戻っていますわよ」
「……思いますわ」
こんな会話を姉たちが交わしていたら、弟たちが深刻そうな顔をしてこちらにやってきてビアを手招きした。
そして何かしら話し合った後に「ちょっと行ってくる」と5人でどこかに行ってしまった。
どうしたんだろうと思いつつも、ビアも参加するから皆で選手控室に向かうだろうと判断し、フィオラたちはお店を回って昼食の予約をしてから各々の観覧席に向かった。
観戦はそれぞれのブースで家族と共にすることになっていた。
フィディの家は3階に店舗を出すことが多いので、3階回廊に出入りしやすい中央下あたりの大きいサイズのブースを押さえている。
自分たちが使わない時は、常連の方にその場所を無償で提供すればいいとの判断から、年間を通してそこを利用できる権利を購入していた。
フィディは、今回は騎士団上層部の常連さんを招待し、接待もするので半ば仕事だとぼやいていた。
グネスとフィデロ姉弟は、午前中は聖竜教会専用のブースに待機すると言っていた。彼らは準シスター準牧師として救護班の役目を担うと言っていた。
もともと武闘イベントの時は聖竜教会の者が治療回復役をすることが多く、そのため専用ブース内にはアリーナに直接下りられる階段があるとのことだった。
午後からは先輩に交代するということなので、マイセントラ家のブースで観戦すると言っていた。
フィオラが「我が家のブースでも宜しくてよ」と言えば「お、恐れ多くて、無理です」と、思った通り辞退されてしまった。
まあ、仕方が無いかとフィオラは思った。
実は今回、ドラコメサのブースにはドラコミリだけでなく、フィオラたちの祖父にあたるノドフォルモント前辺境伯と、その友人でありビアの祖父でもあるスダフォルモント前辺境伯が2日間観戦することが決まっていた。
スダフォルモント翁は昨年息子に地位を譲っており、社交は新しい辺境伯に任せて自分は友人とのんびり過ごすことを望んだので、孫娘の友人のブースに滞在させてほしいと祖父を通じてフィオラ達にお願いしてきた。
すると「ついでに俺たちも」とビアの兄3人も祖父の護衛という名目で入り浸ることがなし崩しに決まった。その為ブース内は戦士だらけになるので、聖職者で平和主義者のグネス達では落ち着かないだろう。
フィオラとしては友人として会話を交わす祖父達やリュド達に色々解説して貰えた上に、各年代の伝説を聞くなど面白い時間を過ごせたので、大いに満足していた。
そして1日目の午前中、1年生の試合は決勝でフォルトとオスカロが対戦し、フォルトが辛勝したので1年生の代表として本戦に上がることが決まった。
そして午後の総当たり戦でビアはしっかり勝ち抜き、件の平民の先輩は体調不良で不参加と発表され、そのグループの代表は第二王子に決定した。
お読みいただきありがとうございます。
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次回は試合のシーンが書けるといいなと思っております。
昔取った杵柄じゃないけど、対戦型格闘ゲームの同人誌を書いてた頃を思い出しつつ書こうと思います。
頑張ります♪
※剣技会の説明を一部修正しました。(2024.10.15)