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フィオラ16歳 馬鹿の周りには愚か者しかいないようです1

ガルンラトリ王立高等学園の秋はイベントが目白押しだ。

9月最初の入学式に始まり、9月末には豊穣祭の舞踏会が、10月末にはハロウィンとお盆を合わせたような聖霊祭が行われる。

翌11月には将来近衛や王宮騎士団を目指す生徒のメインイベントである剣闘会が開催される。



入学式の後の授業選択については大変な事になるかと思っていたが、フロラのエントリーシートは最初から魔導師初級・言葉遣い基礎・紳士淑女教育基礎・ダンス基礎の4つにチェックがつけられていたそうだ。

伯爵一家の悪評は学園にも届いていたため学園側で設定しようという話になっていたと、数年に一人はそういう対象が入学してくるので学校側も慣れた物だった。

姉弟は予定していた教師以外に魔導師科の教師にも挨拶に行ったのだが、フィオラは「親兄弟は選べないから大変だなあ」とすでに顔なじみになっている先生たちから同情されてしまった。

実際に授業が始まってから遅刻したりさぼったりと色々あったが、学校を通じて「ちゃんと授業を受けないと、寮の部屋のランクを落とす」と言われてからは不機嫌ながらもきちんと出席はしているようだ。

寮のことも、タウンハウスに比べて狭いだの、メイドがいなくて不便だの文句たらたらだったが、王都屋敷の方から朝と夕方だけメイドを派遣するのを条件に部屋の狭さは我慢してもらうことに成功した。



次に9月の豊穣祭。

姉弟の礼服は茶色の生地に、黄色と朱色のレースと刺繍で描かれたレモンとオレンジという、バニョレスの特産品を描いた布で作られた定番のベストドレスと袖なしの燕尾服だった。

マリエラは王太子とおそろいの鮮やかな緑色に茶色で小麦の穂が描かれた布で作られたドレスに身を包んでおり、羨望のまなざしを一身に受けていた。

友人たちもそれぞれ豊穣祭にふさわしいドレスで身を包んでおり、互いに褒めあい、特産品について話し合いと、ダンスが始まるまでの時間を楽しく過ごしていた。

そんな中不安は的中するもので、茶系か緑系のドレスにすることと学園側から言われているのにもかかわらず、フロラは真っ赤なドレスに金糸で縁取られたバラという派手ないでたちで現れたのだった。

新入生歓迎パーティーの時と同じく冷たい視線を送られているというのに、本人はどこ吹く風どころかとてもご満悦な笑顔でホール内を練り歩いていた。


「そうね、去年娘にドレスを贈ることを一切思いつかなかった父親が……」

「愛娘に規律を守ったドレスを贈るわけがありませんね」


と、お互いをパートナーとしてダンスを終えた姉弟は、心の中で頭を抱えて溜息をついていた。


「でもなんであんな笑顔で歩き回っているのかしら?」

「金曜日の授業で、先生方から女性からダンスに誘ってはならないことと、だから男性は積極的に誘うようにという説明が入りました」

「そうなのね……よかった、マナー違反をこれ以上重ねないみたいで」

「全くです。さて、では僕もクラスメイトを誘いに行ってまいります」

「ええ、行ってらっしゃい」


一礼してその場を離れる弟を笑顔で見送ると、まずは一年次の生徒たちが踊ることになっているので、フィオラは友人たちと集まる約束をしていた。

スタッフからジュースを受け取りながら、フィオラとやはり常識のない婚約者を持つフィディを慰めつつ色々な話で盛り上がっていた。

すると新入生を示す白いつぼみを付けた、第二王子派のベアウハウネイス伯爵家の令息を筆頭とした少年たちが、フィオラ達に声をかけてきた。


「こんばんはエンツアスモ嬢、イングレス嬢。もしよろしければ他のご令嬢方を紹介して頂けませんか?」


マナーにのっとり、顔見知り以上であり家格が自分と同じか下になる二人に声をかけてきたので、礼儀としてそれに応じることになった。

こういう場合フィディより家格が上のグネスが紹介するのが一般的である。もしも聞いてきた相手と家格が下のフィディが懇意であったなら、フィディが紹介することになるのだが、そうではなかったので彼女はグネスに頼むと目線を送っていた。

丁度グネスの隣から家格順に並んでいたので、紹介しやすくてほっとしたとのちに語っていた。


「皆様ご存じのマイセントラ令嬢に、ドラコメサ女領主。それとスダフォルモント令嬢ですわ。イングレス子爵令嬢のことは皆様ご存じで?」


ここでもすでに成人貴族としてのルールが適応されていた。

伯爵家以上の嫡男ならば同格の伯爵家とハイクラス貴族である公爵・侯爵・辺境伯家の家名を覚えていて当然の為、グネスは「あなたが嫡男だと存じています」と示すためにも子爵家令嬢であるフィディ以外は爵位を付けることをしなかった。

逆に伯爵令息は「たとえ嫡子であろうと女性に対してはきちんと爵位を付けた状態で友人知人を紹介する」というルールにのっとり、家名と爵位で友人たちを紹介した。

ちなみに、その中に嫡男以外や下位貴族の息子が混じっている場合は、後程爵位を説明しなければならないので、その時に説明できないと「嫡男としてなっていない」と芳しくない噂が回る可能性がある。

本当に面倒くさいわとフィオラが心の中で溜息をついているといきなりフォルトの話題を振られて少し驚いた。


「ドラコメサ女領主も素晴らしい成績をお収めだと聞き及んでおりますが、弟君のドラコメサ領主も文武魔法の全てにおいてトップの成績を取るだろうと言われておりますようで」

「まあ、そうなのですね。ふふ、フォルトの頑張りが実を結ぶのはとても嬉しいことですわ」

「本当に素晴らしい。学業でトップの成績を取り、魔法ではマイセントラ殿と、剣術ではカヴァリロ殿と競いあえるほどの腕を持ち、その上領主の仕事までこなされる。完璧な生徒、完全人間と言えますね」

「まあ」


フィオラは弟が褒められて嬉しいという体を取りながら、こいつは次に何を言い出すのかと警戒した。

こうやって無遠慮に褒める人間はその後で何らかの方法でけなしてくる(やから)が多いというのを、彼女は社交に出るようになって実地で学んできた。たぶん定番の無表情のことだろうなと推測もした。


「眉目秀麗、文武両道と名高い令息ですが、これでもう少し愛想があり、氷のようだと言われるあの表情が和らげば人気もさらに上がるでしょうね」


馬鹿な大人たちから言われ慣れてしまっているとはいえ、面と向かって喧嘩を売ってくるのはなぜだろうといつも疑問に思ってしまう。

(この程度のことで私やフォルが傷つくと本気で思っているのかな?)と、(そもそも聖竜の使いである私たちを傷つけて何が嬉しいのかしら? 罰が当たるかもと思わないの?)と、彼女の中には答えのない疑問しか浮かばなかった。


「どうですか? 弟さんに私たちを紹介して頂ければ、弟さんが笑顔が浮かべられるように私たちが協力いたしますよ。今の取り巻きたちでは上手くいっていないようなので」

「ご友人」

「は?」

「取り巻きなんておりませんわ。フォルトの周りにいる方々は、全て弟の友人ですわ。言葉選びもきちんと学んでいただきませんと、困りますわね」


上級生として正当なる指導という名の突っ込みを入れることで、フィオラは面倒くさい少年たちを黙らせることに一瞬成功した。

しかし何か思いついたのだろう、今度は「女性に優しくない」「クラスメイトにも冷たい」「だからお姉さまも大変でしょう」と言った斜め上の攻撃を仕掛けてきた。

そもそもフォルトは誰に対してもあんな感じなので、男も女もないのだが。

さて、これに対してはどう言い返そうかしらと考えている時だった。


「フォルト様は姉想いの良き方です。ご自身の基準で判断されるのはいかがなものかと思いますわ」


反論したのは意外なことに、ビアほどではないもののお嬢様言葉が苦手で、学校では無口になりがちなグネスだった。


「その通りですわ。あの子はわたくしには優しくてよ。クラスメイトでもないあなた方にはわからないかもしれませんけれど。それよりも、これ以上はフォルトのことを語るのはおやめになった方がよろしいのではないかしら?」


これ以上彼らと会話を交わしたくないと思ったフィオラは、違う方面をつついてみることにした。

この国というより世界では、聖竜の使者と認められているドラコメサの者は王族にも等しいとして不敬罪を告げる権利を持っている。

国家権力的には真ん中より上ということで侯爵家と並ぶと法律で決められているが、聖竜様に直接使える者に対して最大級の敬意を払えという不文律がある。

つまり、姉弟は彼らを裁く権利を持っているのだ。

伯爵家以外の嫡男も混ざっている彼らなら気づけるのではないかと暗に示したのだが、どうも相手の反応が芳しくない。

(ドラコメサの権利について知らないとは思いたくないけど……領主だけどまだ子供だから不敬罪を問えないとでも思っているのかしら?)と、これからどうしようかと悩んでいたら、当の本人がようやく表れた。


「私に対する意見であれば、どうぞ私にお願いいたします」


クラスメイトとの交流を終えたフォルトたちが合流してきたので、これで面倒くさい手続きを踏まずに済むわねとフィオラは内心ほっとした。

しかし、その後ろからフロラが現れたためにフィオラは新たに頭が痛くなってきた。

何も言うなと願っていたが、それは無駄だった。


「まあ、お姉さま。何をいじめていらっしゃるんですか?」


若干丁寧だか伯爵令嬢としてはどうなのかとか、言葉選びや状況判断はどうなっているのかと、フィオラはできれば気絶したくなっていた。

そんなフィオラを横目にフロラは第二王子派の少年たちの傍に駆け寄ると、うるんだ眼を上目遣いで彼らに向けて、大げさに騒ぎ始めた。


「姉と兄がごめんなさい。彼らは本当に薄情で酷くて、父親に対しても自分の生活費くらい自分で稼げと言って領地の収入からお金を出してくれないの。そんな酷い人たちだから、きっとあなた達にも酷いことを言ったのよね。妹の私から謝るわ」


多くの人に聞こえるようにと舞台女優よろしく嘆くフロラに、フィオラは(『酷い』を三回言うのはデフォなの?)と目が丸くなりそうなほど呆れた。

次いでふつふつと怒りが湧いた。

気を取り直したフィオラは、フォルトに黙っていろと合図をしたうえで反撃することにした。


「ではその話を本物にした方がよろしいかしら?」

「は?」

「義理の妹は知らないようですけど、伯爵としての体裁が整う程度の資金は渡しておりますし、なにより彼女の学費と寮費は結局わたくしたちが支払っておりますわ」

「うそっ!」

「嘘なものですか。ドラコメサ伯爵が入金しないと学園側から相談を受けましたので、ドラコメサ領の収入から支払っておきましたわ。お父上様からお聞き及びではなくて?」


最初はもちろん伯爵に苦情を入れたのだが、「これ以上生活費を削られては生きていけない。死ねというのか!」とストレートにののしる手紙が姉弟両方に届いたので、辟易した二人が折れたのだった。

伯爵に掛けたすべての費用は帳簿に記してあるので、将来回収できそうならすればいいということに落ち着いていたのだ。


「一応ドラコメサの名に連なるお嬢さんなので、ドラコメサの名を貶めないためにも基本の学費と寮費と初期費用は払わせていただきましたが……あなたの言う通り、冷酷で薄情な義理の姉として、支払いをやめた方がよろしいのかしら?」

「そんな話パパからも聞いたことないから知らないわ。きっと嘘に違いないわ、酷いわ!」


フロラはそう泣き叫ぶと、ベアウハウネイス伯爵令息の胸に縋り付き、ワンワンと泣き始めてしまった。

付き合っていられないとフィオラたちがその場を離れると、どうすればいいかわからないとおろおろとした令息たちが残された。しかしその顔には「まんざらでもない」という表情が浮かんでいたため、助け舟を出す気は誰もおきなかった。


「……言葉遣いの先生に、特別個人授業をお願いすべきかしら」

「その方がよさそうですね。あと、伯爵にも」

「ええ、事の顛末をしたためて送った方がよさそうね。反論しかしなさそうだけど」


姉弟からはいつも通り溜息しか出なかった。

そしてこの事件をきっかけにフォルトがグネスに興味を持ったのだが、それはまたのちの話になる。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


何とか10日でアップすることができました。

ギリギリまで誤字チェックをしたので無いと信じたいですが……見つけた折には誤字報告をよろしくお願いします(´・ω・`)


いつも本当に助かっております。本当にありがとうございます。

そろそろ頑張って直す時間を捻出しますorz

(未だに直っていないのは、まだ私生活でのバタバタが続いているからです。早く落ち着きたいものです;泣)

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