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フィオラ16歳 ゲームのプロローグです2

そしてついにゲーム0日目と言われている新入生歓迎会という名の舞踏会の日。

フォルトは入試首位というだけでなく、ドラコメサの男領主ということで学園側からぜひ聖竜の使い(ドラコメサ)の正装でと打診が来ていた。

去年フィオラも同じように打診されたものの、母のドレスが着たかった為に彼女は断ったのだが、こだわりのないフォルトは快く引き受けた。

丁度曾祖父の正装が領城の衣装倉庫で見つかったのもあって、それをリペアして使うことにした。

フィオラはもちろん豊穣祭の時の月下美人のドレスを着用している。

サイズは、長さ以外は直さなくてよかったあたり、うれしいやら悔しいやらだった。


問題のドラコメサ伯爵はいまだに懲りていないのか、養女のパートナーになるためにドラコメサの正装を着ていこうとしていた。

フォルトの命を受けて派遣された執事が気付き、それは何とか止めさせて臙脂色の燕尾服にすることを納得してもらった。

その為にフロラのドレスのチェックを怠ってしまったら、なんと、有名ドレスメーカーの新作を着てきたために、新入生だけでなく在校生や保護者達にドン引きされてしまった。

その眉を顰められながら注目を受けたことを、フロラは「皆が私にくぎ付けだった」とのんきな感想を両親に語っていたそうだ。


ダメダメな家族については放っておこうと開き直ったフィオラは、上級生として舞踏会を楽しむことにした。

今回、マリエラ・フィオラ・グネスの3人は弟のパートナーとして参加することが決まっていたので、マリエラとフィオラはまたしても正面の扉からの登場となり、最初にダンスを踊ることになった。


(たしかに、去年慣れておいてよかったかも)


フィオラとマリエラは、踊り終わってからドリンクを飲みながら残りのAクラスのダンスを見て楽しんだ。

その視線の先にはグネスだけでなくビアもいた

彼女の従妹のパートナーに1年前に学園を卒業した兄が務めるという話もあったが、従妹がどうしてもビアがいいと我儘を通したので、ビアは兄の正装をリペアした男装で参加していた。

せっかくなのでと、一通り新入生のダンスが終わってからフィオラ達3人と婚約者のパートナーとして参加していたフィディもお願いして踊ってもらった。

その後も女性たちにモテモテだったビアは、舞踏会の間はずっと踊り通していた。男性に声をかけるのはマナー違反になるのでできないが同性同士なら問題はないし、何よりビアの美しくカッコいい姿に魅了されたお嬢さんたちがわんさか群がってきたのだ。

大丈夫かと心配したが、さすが騎士コースを選択しているだけあって、体力は底なしだったようだ。


また、王太子と第二王子も双子の妹のパートナーとして参加していて、落ち着いた頃にフィオラは王太子にダンスを申し込まれたので喜んで引き受けた。

踊っている間の会話はバニョレスの特産物の話が中心だった。フィオラは、ここぞとばかり極上の笑顔でセールストークにいそしんだ。

あまりに熱が入りすぎて王太子を疲れさせてしまったのか、頬が少し赤くなっていたので、フィオラはセールスもほどほどにしないとだめねと反省した。

そしてもちろん第二王子からは一切誘いがなかったため、踊ることはかなわなかった。

よほど親しくない限り、女性から誘うのはあまりよろしくないと言われているので、しょうがないと諦めるしかなかった。


一通り踊って休憩しようと軽食の置いてあるあたりに向かっていたら、壁際に見覚えのある人が(たたず)んでいた。

パートナーではない親も子供の晴れ舞台を見たいであろうという配慮から、貴族に限ってだが、生徒がすべて入場した後に会場入りすることは可能だった。

国王夫妻はAクラスのダンスが終わった後に会場を後にするのが習わしで、その後は上の回廊が解放され、保護者達は上から眺めるのが暗黙の了解となっていた。

それなのになぜかドラコメサ伯爵夫人は1階の壁際に居た。誰もそういった決め事を教えてくれなかったのか、居づらくて下りてきたのかのどちらかだろうとフィオラは推測した。

見つけてしまった以上、無視するのは淑女としていかがなものかと思った彼女は、夫人の(もと)に向かい挨拶を交わすことにした。


「お久しぶりにございます、ドラコメサ伯爵夫人」

「こんばんは、久しぶりね、フィオラさん。お元気でした?」

「ええ、わたくしも弟も健勝でしたわ。ところで、皆様の輪に加わられませんの?」

「……誰も相手にしてくれなくて」

「それでも回廊でお嬢様の様子を眺めるのが一般的でしてよ」

「一人でいるのは居づらいわ」


なんとまあ、素直な感情を表に出すのかとフィオラは感心すると同時に呆れてしまった。

そもそも『なぜ誰も相手にしてくれないのか?』の深い理由を知らないのではないかと懸念が浮かんだフィオラは、伯爵同様夫人も言葉を濁すと通じないと分かっていたので、ストレートに理由を伝えることにした。


「まあ、仕方がありませんわね。母世代の人に夫人は『領地で療養中の妻から夫を奪った悪女』と御高名ですから」

「え? 療養?」

「まさか今までご存じなかったのですか? どうせ伯爵……お父上様からは勝手に領地に帰ってしまったと、挙句事故で死亡したとでも聞いておられたのでしょうね。違いますわよ」

「!」

「母は健康を害したので、療養のために娘と息子を引き連れて領地に隠棲(いんせい)いたしましたの。……表向きは」

「……表向き?」


そこまで告げてフィオラは扇を広げて口元を隠すと、さらに夫人に近寄り耳打ちをした。


「母は姑たる祖母に呪殺されましたの。気が強く(さか)しい嫁が、嫌いで、憎くて。闇魔法を使い、時間をかけて……」

「……」

「つまり、伯爵は自分の母親のせいで体を壊した嫁をさっさと捨てて、愛人を王都の家に引き込んだという訳です」

「あ……」

「愛人ですわよね? ディノフロラ嬢の髪色を見ればバレバレですわ」


社交界ではドラコメサ伯爵夫人の亡くなった前夫の髪色がこげ茶だということは有名だった。

では娘さんのあの美しい金髪はと、ひそひそと噂をされるネタにすでにされていた。


「しかも嫁が今にも死にそうだというのに、もう一人の子供まで作って……鬼の所業だと言われても仕方がありませんわよね、ドラコメサ伯爵夫人」

「それでも愛し合っていたのは私たちだわ」

「愛し合っていれば何をしても許されると?」


ここで黙ってしまった夫人に、これ以上は何を言っても無駄だと思ったフィオラは距離を置くと、扇を閉じて違う話題を振ることにした。


「ところでドラコメサ夫人、お送りした教本はお読みになられましたか?」

「え……ええ」

「では、こういう場でくだけたお言葉を使うのはよろしくないというのは、ご存じでは?」

「……」


(ここで黙るってことはしっかり読んでないってこと?)と、フィオラは内心戦慄を感じていた。

ダンスの時から感じていたのだが、懸念していた通りフロラは一切淑女教育を終えていないようだった。

勉強嫌いという話なので、淑女教育からも逃げ回っていたのだろう。


「一代男爵のご息女だから仕方のない話かもしれませんが、一応ドラコメサを名乗られているのですから、公での言葉遣いも気にしていただかないと困りますわ」


では失礼いたしますと優雅に一礼をしてフィオラはその場を離れたのだった。

そして当初の予定の軽食のコーナーに行き、冷たいハーブティーを受け取り、一口サイズのブドウの乗ったタルトとアップルパイを皿にとると、立食用のテーブルに移動した。

冷たい飲み物で体の芯を冷やすとすっきりしたが、いまだに壁際でうつむいている義理の母が目に入ると、どうしても心が重くなってしまった。

言い過ぎたかもという後悔と、あれくらい言って当然だという憤りで胸の内はぐちゃぐちゃになりかけていた。

その時、皿の上のスイーツを見てふっと笑顔がこぼれてきた。


(「一口大のタルトの型はいい収入源になってるんだ」ってユルが言ってたわね。王家主催のパーティーでも使われるくらいだからすごいんだろうな。ふふ、ユルの発想も天才的よね)


と、想いを馳せたら心が軽くなった。

私は周りの人に恵まれているなあとしみじみしながらタルトとパイを楽しみ、ハーブティーを飲み干すと、友が集まっているホールに戻っていった。

明日がゲームのスタート日。

だったら今日はもう何も起こらないはずだと、ならば友達や弟と楽しい時間を過ごそうと、それを糧に明日から気を引き締めて頑張ろうとフィオラは腹をくくったのだった。

■補足:ドラコメサ家の髪と瞳の色

  フィオラ:黒髪・金目

  フォルト:金赤毛・銀目

  伯爵:くすんだ金髪・銀目

  夫人:薄い茶髪・緑眼

  フロラ:金髪・緑眼


――――――――――

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


結局3か月も空いてしまいました。

やはり引越しを挟んで作品をアップする気力は50代にはないなあとしみじみしたのと……

活動報告にも書きましたが、新型コロナは本当に恐ろしいと思い知らされましたorz

症状がそれほど出ず、後遺症の嗅覚障害も半月ちょっとで治るという本気で軽症のレベルだったにもかかわらず、体のだるさとやる気の復活に一ヶ月以上かかりました。

体を動かすというか、遠出ができるようになって漸く気力もわくようになった感じです。


ストックはないので、次はできれば一週間、長くても10日を目指して頑張って書きます!

これからもよろしくお願いします♪

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