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フィオラ16歳 湯の花も売り出します

冬になり、前期の期末試験を終え、学園の生徒たちは冬休みの帰省の準備に追われていた。

王立高等学園は2期制の学校で、前期が9月から12月までの4ヶ月弱、後期が1月末から6月までの5か月ちょっとで構成されている。

テストは前期1回、後期は2回あり、後期の中間試験は専門科目のみで期間も短い。そしてテストの翌週は追試期間になっている。赤点を取ってしまった人間はここで取り返さないと、それを取り返すための膨大なレポート提出をしなければならなくなる。

もともと最初のテストがかなり厳しい物なので、赤点を取るものも多い。その分追試は簡単になっている為、レポートまで行くものはまれだった。

そのため、レポートすら不可を貰った場合は即退学だ。レポートがあるだけ救いはあると言えるが、厳しいと言えば厳しい。

しかも前期の試験は通常試験が12月9日~12日、追試期間が17日~20日とドナコデディオの日を挟むことになる。

(ちなみに、テストの翌日の13日の金曜日がドナコデディオの礼拝日になるので、学校も役所もお店も全て休みになる)

誰もクリスマスに勉強なんてしたくないだろう。その為に、前期の試験はみんな必死で勉強するので赤点を取るものも少ないと言われている。


フィオラの場合はドラコメサの矜持として成績上位をキープするために勉強を頑張った。

といってもドラコメサ特典なのか、転生者特典なのか、前世よりも格段に記憶力が良くなっている頭には前世の試験の時よりも勉強は楽だった。

通常試験を終え、赤点もなかったうえに成績をキープできたので、ほくほくとしながら王都屋敷で従者やメイドたちと一緒に帰省準備にいそしんでいた。

ただ、問題というか、気になるのが順位だった。

授業の科目は基礎学習と呼ばれる必須科目と、専門科目と呼ばれる選択科目に別れている。

その為、16日月曜日に貼りだされる順位は『基礎学習のみの結果』になるのだが、頑張りすぎたのかまたもや2位を取ってしまった。

1位はもちろんマリエラ。しかも彼女は満点だった。さすが未来の王太子妃というか、筆頭悪役令嬢というか……。

フィオラは、入学試験の時より僅差とは言え第二王子をまたもや破ってしまったために、掲示板の前でものすごく睨まれてしまった。


「なんで私だけ?」

「わたくしは未来の王太子妃として王妃教育もされておりますので、王太子としての教育をされていない自分が負けても仕方がないと思える……のかもしれませんわね」

「理不尽だわ」


来年は同じ会話をしたくないが、手抜きをして成績が下がりすぎても困るので、何とか第二王子には勉強をもっと頑張ってもらわなければと思いながら学期最後の1週間を過ごした。

そしてフィオラは翌土曜日にさっさと領城に向かって移動したのだった。

教都は1月に供儀を済ませた大司教たちと一緒に移動して宿泊することにしていたので、行きに商都に2泊していろいろな買い物をした。

そしてたどり着いた半年ぶりの領城。

成長期が来たのか、フォルトは身長が伸びてフィオラより高くなったとの報告を受けていたので、それが楽しみのような怖いような感じでドキドキしながら馬車を下りた。

すると扉の前には貴公子と言っていい好青年が立っていた。


「ああああああああああ! 私の可愛いフォルがああああ!!!」


フィオラが驚くのもしょうがないのかもしれない。

6月にはまだ美少年と言った感じでほっそりとした体形におかっぱ頭が似合っていたのだが、この半年で身長だけでなく筋肉も成長したのか、細マッチョと言っていい感じの美青年に育っていた。

しかも髪形が……


「どうしておかっぱ止めちゃったの!? 似合ってたのにいいぃぃ!」


とフィオラが嘆くと、エリサだけが「フィオラ様、淑女のたしなみは?」と苦言を呈し、他の皆は「やっぱり」と声をそろえて納得していた。


「かたくなにフォルト様の髪形をおかっぱにさせていたのは可愛いからだったんですね」

「当たり前じゃない。可愛い弟に可愛い恰好をして欲しいって思うのは当然でしょ?」

「はっきり言いますが、おかっぱってあまり主流ではありませんので、年頃になると嫌がる男性がほとんどです」

「というわけで、ざっくりした髪形に変えてみました」


そういうフォルトの髪形は、ざっくりというかふんわりしたウルフカットにかわっていた。

「似合いませんか?」の弟の言葉に姉は「似あうけど……」と言葉を濁しつつ、本音を駄々漏らした。


「それでも弟にはいつまでも可愛らしくいてほしいって思うし、なによりおかっぱ頭って楽しいじゃない!」

「面白がっていたんですね」

「面白がってじゃないの、楽しいし可愛いの」


姉の趣味がよくわからないと弟は大きなため息をついたが、これ以上は付き合っていられないと「私は私のなりたい姿になります」と宣言した。が、


「私の前では”僕“のままでいて!」


このわがままだけには付き合わざるを得ないなと、一人称に関しては諦めたのだった。



フィオラが到着して数日間、姉弟は年末提出の書類作成作業に打ち込み、その間に領地についての話し合いも行っていた。

無事に26日に書類の発送を終え、27日は温泉街を見て回ることにした。

いつもの一行は領城の西門の脇にある貴族専用の高級スパを覗いてから別荘地を抜け、街の手前の貴族専用リゾートホテルを視察した。

そして街に入り、川の手前の湖のほとりに作られた、露天風呂付きの個室も持つ温泉旅館に立ち寄った。

この2つの施設は、それぞれ高級スパと庶民用銭湯の貯水槽から魔石を使ってお湯を飛ばしている。その所為なのか水質は変わらないものの温度がかなり下がるため、加熱してから風呂の湯として提供していた。その魔石は定期的に入れ替えられており、時期が守られているか、きちんと機能しているかなども確かめた。

続いて川沿いに教会を横切り、川向こうの銭湯から教会と隣のスーパー銭湯に引かれたパイプをチェックした。その後スーパー銭湯に裏側から入り、設備を中心に見て回った。

最後に、東の橋から川を渡って長期湯治用の素泊まり宿を見学し、隣の共同浴場(銭湯)に出向いて従業員と少し話してから温泉施設の査察を終了した。


「ふふ。施設はしっかりしているし、経営も順調でうれしいわ」

「初期投資の費用も全て回収できましたので、これで一安心ですね」

「そうね。でも施設の保守代がかなり掛かってるから、その分を稼がないとだめよね」

「そうですね。他からではなく、温泉関係で何かできればいいんですが」

「うーん。ガスパルド達に相談してみましょ」


以前は城壁内に住んでいたガスパルド一家だったが、温泉施設が林立した今はなるべく温泉街に近いところにと、ギルド街の端に作業場と倉庫を併設した建物を作ってそこに住んでいた。

フィオラは久々に訪ねるわねと思いながら、入口脇の呼び鈴を押した。

しかし無反応だった。

査察の間も出会わなかったから、今日は家にいるものだと思っていたのにと、これからどうしようと悩んでいたら、「フィオラ様、どうやら裏にいるようです」とリュドが教えてくれたので、そのまま建物の裏に回った。

すると、


「なにこれ!」


と、フィオラが驚くのも無理がないほど、白い何かの山が出来上がっていた。

その声にフィオラたちが来たのに気づいたガスパルドの嫁(交渉担当者)が、一行を笑顔で出迎えてくれた。


「フィオラ様、フォルト様、皆さま。お久しぶりにございます」

「あ、久しぶりね、ガエレ。ところで、これはいったい何?」

「この山ですか? これは温泉の沈殿物と申しますか、パイプに張り付く温泉成分が固まったものです。それを2か月に一度抜き出してはこうしていったん山にして、ある程度乾いたらブロック状に固めて、あちらの小屋に貯めてあります」


どういうことだろうと家の裏に建てられた小屋の中を見ると、結構ぎっしり白いブロックが積み上げられていた。


「これの処理方法をフィオラ様たちに相談しなければと思いながら、年数がたってしまって申し訳なく思っておりますが。地中に埋めるなり、何かに転用するなり考えた方がよさそうです」

「西の温泉街ではどうしてたの?」

「こちらの湯ほど沈殿物が出なかったうえに、アルカリ泉質でしたので、土壌改良用の薬剤として出荷しておりましたが、こちらは強酸性の硫黄泉の為、利用できません」


そう、バニョレスの温泉は硫黄泉だった。

しかも、リュドに水質を調べてもらったら『きりきず・やけど・皮膚疾患・血管不調・神経症・筋肉痛・関節痛・うちみ・くじき・胃腸不調・冷え性に効き、疲労回復・健康増進・美肌効果がある』といった効能があると分かった。

しかも何よりも嬉しかった結果は『美肌の湯』と出たことだった。

水質鑑定をしたリュド本人が「何だ、これは?」と首をひねっていたが、これは売りになると思った私はそれを一番上に掲げて宣伝した。

そのおかげで貴族女性を中心に常連さんが増え、家族や恋人も一緒に訪れて温泉やグルメやハンティングやリラクゼーション等を楽しんでくれている。

フィオラも領城の浴室で源泉かけ流しの湯を楽しみ、湯の花も浮いてるなあとのほほんと見ていたのだが、湯の花って入浴剤として売られていた気がすると、前世の記憶をようやく掘り起こした。


「ねえ、これ、入浴剤として売り出せないかな?」

「「「は?」」」

「このままじゃだめだけど、業務用やお土産用としてそれぞれ加工できないかなあ?」


またフィオラ様の奇天烈な発想が始まったと、皆は驚きながら話を聞いていた。

そしてまた、そんな中でリュドが何かしら考え、思いついたまま行動するのもいつものことだった。

リュドはガエレに木桶を用意させるとそこにお湯を張り、積み上げられている山から白い粉をひと掬いその中に放り込んだ。

ゆっくりかきまぜたうえで鑑定魔法をかけると、リュドは驚きの表情を浮かべていた。


「フィオラ様、良く思いつかれましたね。溶かしただけで温泉の成分が出るのか、半減しているようですが温泉と同じ効能が出ております」

「ほんと!? じゃあ、これをうまく加工すれば」

「入浴剤として売れそうですね」

「やった♪ 形を工夫したり、香りを添加したりしたら、貴族の間でも流行ると思うの」

「それ以外でも学園やホテルに業務用として売る手もありますね。フィオラ様が領城で仕事をされている間に少し研究してみましょうか?」

「よろしく頼むわ、リュド。ちゃんと研究開発費は払うから」

「よろしくお願いします」


リュドは時間を見つけて領城の研究室で色々試し、不純物を抜き、一般的な湯船にどれくらいの量でどれくらいの固さの物を入れるといいかを確定させた。

それと、大きな風呂(浄化の魔石を入れて24時間ぶろになっているのが一般的)用に固く圧縮された塊を作り、それを入れるとどれくらい持つかの研究を領城の開発チームに託した。

これにより一般向けと大衆浴場向けの入浴剤を販売し、それも保守代に回せるようになった。

また、フィオラはリュドから研究データを受け取るとフィディと作ったF・D・F商会の企画開発チームに渡し、さらに美肌効果を上げた製法と香りづけの方法を開発させ、貴族向けの入浴剤を販売することに成功した。

原料はもちろんバニョレスの湯の花なので、原材料分が領の収入になった。

それでほくほくしていたら、半年後にリュドがさらに面白いものを提出してきた。


「ユルが鍋の焦げを落とすのに重曹を使っておりまして、それを見ていて思いつきました」


リュドが持ってきたのは表面がざらざらした白いボール状の物、バスボムだった。

精製された湯の花をもらい、暇な時間に色々作っては試し、実際に使えるものになりましたと言われたバスボムは、お風呂に入れるとしゅわしゅわと泡を発しながら溶けていった。

これだけでも楽しいし気持ちいいと思ったのに、翌日ユルに渡されたものは、可愛い形と色合いをしていた。


「リュドが作ったものをボクなりに可愛くしてみたよ♪」


色は肌にも優しい食物由来の染料を使ったそうで、お湯にほんのり色づいて面白かったけど……色を混ぜすぎるのはよくないのも分かった。

こうしてお土産用のシンプルなバスボムをドラコメサ直轄店で、形も色も香りもかわいく整えた物をF・D・F商会の店フォンタノ・デ・フィ(フィの泉)で販売することになり、ドラコメサとフィオラの懐はますます豊かになっていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


やはり一ヶ月空きました。次も同じか、最悪6月のアップになると思います。

そろそろ書いてもいいかと思いましたが……メインの厄介ごとは「引越し」です。

物が多いのでまじで大変ですorz

でも頑張ります!

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