表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/114

フィオラ15歳 お目当ての服飾店を見つけます1

入学式の翌週末、王都の教会でのミサを終えた午後、フィオラは商店街の貴族エリアにある小さな服飾店を探していた。

一族経営で、その服飾店関係で働くと決めたときから屋号を名乗ることを許される、貴族に細々と愛されている100年ほど続く平民の店を。

礼拝のある土曜日は休みだろうと思っていたのだが、ランチを一緒にしていたマリエラにその話をすると「王都の商店街の店は、土曜日の午後はお店を開けているはずですわ」と教えてもらったので、彼女と別れた後に探しに行くことにした。


それに理由がもう一つあった。

9月末の豊穣祭の時、学園内で実地練習を兼ねた舞踏会が行われるのは知っていた。

一年生は雰囲気に慣れる為に上級生たちの行動を見るだけだと言われていたので、ドレスは入学式の時に着た母のドレスでいいかと思っていた。

それなのにマリエラに豊穣祭用の新しいドレスはどんな感じかと聞かれて驚いた。


「ハイクラスの貴族は学生と言えども、経済を回すために主な舞踏会では新品のドレスを着ることを求められますわ。既製品のドレスに刺しゅうを施すだけでもいいので、新しい物を買うべきでしてよ」

「……だから領地から新しいドレスが送られてきたのか?」

「本来ならビアのように親御さんが手配するものでしたので、うかつでしたわ」


どうしようもない親しかいないフィオラにそれがわかるはずがないと、早めに教えるべきだったと、フィオラは言外でマリエラに謝られてしまった。


「親から受けるべき教育を受けていない私の方こそ、色々細かく聞くべきだったんだから、うかつなのは私だわ」


そんな会話を交わした時に思い出したのが母から聞いた同級生の話だった。

舞踏会まであと3週間、今から注文して間に合うかどうか悩ましいが、とにかく探してお願いしてみようと、一度王都の屋敷に帰ってから馬車で商店街に向かったのだった。


商店街は道幅が広く、歩道も整備されている。

車道は馬車が4台すれ違えるだけの幅があり、店の前に馬車が停めてあったとしても道路を往来する他の馬車に影響を及ぼすことは無い。

しかし何台も停まれる幅を持つ店舗は多くはない。

その為にエリアごとに駐車場があり、主人達をおろすと馬車はそこまで移動して主人達が店を出る連絡が来るのを待つことになる。

フィオラは住所からだいたいのエリアは分かっていたが、前世のように住所からピンポイントで場所がわかる地図アプリがあるわけではないので、駐車場の傍で馬車を降りると歩いて探すことにした。


「道に名前がついていて、建物に番号が振ってあるのね」

「大都市はだいたいこの方式ですね。バルセロノもそうでした」

「バニョレスはエリアごとに名前がついているのにね」

「道ごとに名前を付けるのを面倒くさいと思うか、エリアを区切るのが面倒くさいと思うかの差でしょうね」

「なるほどね」


そんな適当な会話を交わしているうちに探すべき道を見つけ、建物の番号を確認していった。するとエリサがそれらしき看板を見つけた。


「あれではありませんか?」

「……五線譜にドレスと燕尾服?」

「ああ、旋律(メロディオ)の服飾という意味なのでは?」

「そうかな? ……あ、そうみたい」


店の正面にたどり着くと、メロディオ服飾店と書かれた看板が掲げられているのが分かった。

店の入口には『貴族向けの正装・普段着・小物を取り扱っております。(既製品・オーダーメイド)』と書かれたプレートがはめられていた。

こういう既製品とオーダーメイドの両方を扱う店は、既製品に刺繍を施すなどの加工もするのが定番だとマリエラが教えてくれた。

そしてこの店にはフィオラの母(ファルレア)の学生時代の同級生ムジカ・メロディオがいるはずなのだ。


ファルレアの葬儀の時に早馬便でお悔やみのカードと母に供える白い布で作られた百合の花が領城に送られてきた。

供える前に見たそれはとても美しく縫製もしっかりしており、7年経った今も母の胸元で力強く咲いているだろうと思わせるものだった。

その送り主が音楽と旋律という音楽家の方があっているのではと思われる名を持つ女性だった。

ちなみにこの国の名前の法則として男性ならムジクになり、ムジカは女性の名前になる。

そしてフィオラはこの名前に聞き覚えがあった。

あれは商都で色々な店を見た報告を、きれいなドレスの店や見知らぬ国の民族衣装を売る屋台があったと母にしていた時だった。


「ドレス……そういえばムジカの店に行く約束を果たせなかったわ」


母がそうぽつりとつぶやいたのだ。

気になった姉弟は母にどういう店なのかと尋ねた。

ムジカとはファルレアの同級生の平民で、同じ授業を取ったことは無いけれど、学内での舞踏会の時にとても美しく心惹かれるドレスを着ていたので、ファルレアはどこで作ったのかを訪ねたそうだ。

すると自分で作ったと、父の教えを受けながら作り上げた現時点で最高の出来栄えのドレスだと答えが返って来たそうだ。

詳しく話を聞けば、音楽を愛するパターナーがやはり音楽を愛するデザイナーと結婚し、その子供たちがやはり音楽を愛する服飾関係の職人に育ったので、今の店を立ち上げる時にメロディオという屋号を付けたそうだ。

そのままずっと一族経営を続けており、ムジカもメインのデザイナーとして卒業後は働くことが決まっていると言っていたと。

ならばと、ムジカが2年で卒業してすぐに店を訪れ、そこで個人的に数枚作ってもらったという話だった。

その1枚が、ファルレアが4年次(専科2年)の豊穣祭に着た、フィオラが入学直前の舞踏会で着たドレスだった。


この国のドレスは前世の漫画「ベルばら」でルイ15世の愛人(デュ・バリー夫人)が着ていたようなドレスが主流で、漫画のものより腰回りはすっきりしているが、前身ごろの真ん中に上から下まで色の薄めの布が入るあたりや、袖が肘あたりまですっきりしていて、その先がラッパのように広がり、内側にレースが施されているものがほとんどだった。

母のドレスは真ん中が優しい黄緑色の光沢のある布でドレープがたっぷりとられ、外側は茶色の大地から若葉の緑へと変化していく様を染めのグラデーションで表し、そこに焦げ茶色の幹に母の実家のノドフォルモント領の特産品であるリンゴの花と実を刺繍と布で象った、それでいて上品に見えるエレガントなドレスだった。

それを一目見て気に入ったフィオラは、自分も同じ店でオーダーメイドのドレスを作ってもらいたいと思っていた。

しかし、まさか、こんなに早くそんな機会が訪れるとは全く思っておらず、王都に居を移した頃に知っていたらもっと早く訪ねたのにと、残念で仕方がなかった。

次の機会は半年後のミグダロ祭りと、その2か月後の5月の新緑祭の舞踏会になる。

それ用のオーダーメイドについても相談することは、フィオラの中ではすでに決定事項になっていた。


それにもう一つ、最大の理由がある。

この「メロディオ服飾店」はゲームにも登場していた。

ヒロインが服を買う時は、必ずここを利用していたのだ。

竜ダリの時にはまだ名前はついていなかったが、乙ダリが正式稼働した時にはこの名前が付けられていた。

それと同時に店に関してSNSで盛り上がったネタがあった。

乙ダリでヒロイン(フロラ)が初めて店を訪れた時には、背景のドレスの中に茶色で輪郭が描かれた赤いドレスがあったが、二度目以降はそこには違うドレスが描かれていた。

しかも次に悪役令嬢(フィオラ)が出てきた舞踏会のシーンでのスチルのドレスが、赤色に茶色で蔦模様が描かれたドレスだったので「あの一度きりのドレスは悪役令嬢のドレスだったのでは」「同じ店を利用している?」と大いに盛り上がった(バズった)のだった。

同じく前世持ちのフロラも、この店を探して常連になろうとするに違いない。そうなればフロラや大嫌いな父親と鉢合わせになる可能性が出てくる。何とかそれを防ぎたいとフィオラは思っていた。

今は有名店でないしハイクラスの客もついていない所為もあって安価なドレスが多いようだが、ドラコメサが常連に着いたとなれば客も増え、名が上がればドレスも値上がりしてお父上様一家は使えなくなるだろう、という目論見があった。


とにかく、まずは突撃しかないと気がはやったフィオラだったが、エリサとリュドに止められた。


「フィオラ様。淑女が自分で扉を開けてはなりません」


バニョレスの観光客向けのお店ならともかく、こういった貴族向けのお店では紳士淑女は自分では扉を開けず、従者がいるのなら従者にベルを鳴らさせて扉を開けさせるものだということを失念していた。

しかもエリサに淑女らしい姿勢と笑顔をと、しっかりチェックされてしまった。

ああ、もう面倒くさいと思いながらも、貴族の常識なのだからと頑張って貴族らしい態度を取った。

それを見てからエリサは店の脇にある丸い石に触れた。

すると中から曲が、素敵な旋律が聞こえてきた。

※12/18に一部修正いたしました。


お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


やはりというか、週一の更新は難しくなってまいりました。

やはり今年度中は不定期になると思います(´・ω・`)


それと誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。

一応何度も読んで確認していますが、慌ててアップした物は見落としが多いみたいで、あんなに出てくるとわって驚くほどありましたorz


色々精進しますので、よろしくお願いしますTT

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ