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フィオラ6歳 ドラコメサ領へのお引っ越し1

あの事件から9か月。フィオラの環境は激変していた。

弟との関係はよくなり、祖父が部屋から出てこないのをいいことに秋口からは弟も母と一緒に昼食をとるようになった。


初めて母との昼食に弟を誘ったときは、このことが祖父に報告されて怒鳴られるのを覚悟していた。それでも、その怒りを一身に受けてでも、二人の願いをかなえたいと思ったのだ。

フォルトもファルレアも「三人でご飯を食べること」を望んでいると分かった以上、私がセッティングするしかないとフィオラは覚悟を決め戦略を練った。

エリサにも相談して彼女の分もという名目で3人分の昼食を用意してもらい、エリサには先にファルレアと一緒に東屋に行ってもらうようにした。

そしてフィオラはいつも通り授業をフォルトと一緒に受け、終了と同時に「今日は外で食べよう!」とフォルトを呼びに来たメイドの制止を振り切って、フォルトの手を取りその場から逃げ出した。

何か叫んでるメイドを無視して、2階の勉強室という名の小さな書斎を出て階段をダッシュで降りると、そのまま屋敷の裏にある母の庭園の東屋までフォルトを引きずるように走り抜けた。


「かあさま! 今日はフォルトも連れてきたわ!」

「え?」

「……かあさま?」

「フォルト!」


そして三人でひとしきり抱き合い泣いて、久々に母子三人で楽しく食事をとることができた。

フォルトが跡取り教育と言ってどういう教育を受けてきたのかも、その時初めてしっかり聞くことができた。フォルトの感情がごっそり抜け落ちてもおかしくない、相手に表情を読み取らせないために感情を殺す教育をなされていたことが分かった。

ただその教育も今は、祖父が引きこもってからはあまりなされず、通常の授業のみがされているのもわかった。

だったらきっとフォルトの感情も取り戻せるだろうと、ちゃんと泣くことのできた彼ならきっと大丈夫だとフィオラは自信を持つことができた。

しかも予測が外れ、三人で昼食をとった報告があげられなかったのか、祖父が徹底的に外への興味をなくしてしまったのか、フィオラが怒鳴られることはなかった。それからは、母の調子のいい時は、三人で昼食をとるのが慣例となった。


そして冬になると、まれにしか家に帰ってこなかった父親を頻繁に見かけるようになった。帰ってきては当主である祖父の部屋に突撃し、何やら怒鳴りあった末に帰るというパターンができていた。

後に知ったのだが、このころ父はたまに帰ってきては家の物を持ち出し、それを売り払うということをしていたそうだ。最初は小さなものだったが、愛する妻の宝石にまで手を出したと知った祖父は「一族の財産」を守るために色々なものを貴族院に登録し始めて、それをできなくしたらしい。

そういうものを取り扱う店は、貴族が所持していそうな物が持ち込まれると必ず貴族院に報告をするそうだ。それが「一族の財産」として登録されていた場合は、それを相手に伝えて取引を断ることが義務付けられているようで、それを知らずに宝石商に指輪を持ち込んだ父が祖父に恥をかいたと怒鳴り込んできたのが始まりだったそうだ。

その話を初めて領地の家令から聞かされたフィオラは「あのくそ親父は!!!」と叫んでしまった為に、淑女としてまだまだですねと話し言葉教育の復習をさせられた事は、成長した彼女の黒歴史の一つになるのだった。


閑話休題。


自分の息子の放蕩具合にショックを受けたからか、怒鳴りあいに疲れ果てたのか、はたまた自分の教育が間違っていたことに嘆き悲しんだからか、12月の半ばに祖父は発作を起こして倒れてしまい、そのまま床についてしまったと伝えられた。

父の襲撃もなくなり、穏やかでひっそりとした生活が一月続いた翌年の一月半ば、フィオラ6歳、フォルト5歳の誕生日を迎えたのちの1月10日の早朝、アルフォンソ・オルトロス・グラ・シニョロ=ドラコメサは、愛妻の髪と瞳の色をしたイエローダイヤモンドの指輪とエメラルドの首飾りを握りしめたまま、その生涯を閉じた。



そして、ここからの父親の行動は早かった。

実父の訃報が届くとすぐに屋敷に戻り、祖父の葬儀の手配をしつつ、貴族院への書類を早馬で送り、王都の貴族たちに翌日に葬儀をすると伝え、祖父の遺体を3階の主寝室から1階のメインホールに移動させた上に、主寝室の祖父の私物の一切合切を始末させるように執事に命令した。


(さすが血のつながった私の父親。仕事が早い……そして父親の死を何とも思ってないところもそっくりだわ)


今この男が目の前で死んだところで何とも思わないだろうなと思いながらフィオラはその様子を眺めていた。

しかし、亡くなって今すぐ個人の部屋を乗っ取るなんて恥ずかしい真似は私にはできないわとも同時に思った。それどころか、まさか握っている指輪と首飾りを無理やり奪い取ろうとするとは思わなかった


(がめつすぎるっていうか、金に対する餓鬼みたい)


さすがにそれはと屋敷の執事と祖父の従者に止められて、地団太を踏みながら諦める父親の無様な姿を見ながら、フィオラはフォルトの手を引いて主寝室の奥にそっと向かった。

2階のダイニングとメインホールに併設されたシガ―ルームの真上にあたる小さな部屋。そこには主寝室の主、つまりドラコメサの当主夫妻だけが利用できる小さなチャペルがある。

フィオラも初めて見る内部には大理石で作られた祭壇があり、そこには高さ30㎝位の、滑らかな赤い石の間に流れるように赤茶の筋が入っている石で掘られた、力強さと神聖さを感じさせる聖竜様の像が祭られていた。


(前世で佐渡島に行った時に見た赤玉石(あかだまいし)に似てる。確か「魔除け石」って書かれていたはず。これもそうなのかな?)


フィオラが手を組んで祈り始めたら、一緒にいたフォルトも同じように祈り始めた。

この父親がこれからやることはほぼ想像がついていたから、旅の安全と領地の安寧を心の底から祈った。


フォル「誘った……拉致の間違いでは?」

フィオ「ちゃんと外で食べようって言ったじゃない!」

フォル「ぼくは返答をしていませんよ?」

フィオ「心の声をしっかり聞いたわ(`・ω・´)キリッ」

フォル「……」


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