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フィオラ15歳 人生のプロローグ3

広いホールである舞踏会の会場には舞台のような場所があり、そこが正面であり国王夫妻が座る椅子が用意されていた。その両脇と反対側に扉があり、さらにその扉の脇に回廊に続く階段が設置されていた。

もっとも、国王夫妻が壇上にいる間は回廊に誰にも上がられないようにと、入口が閉じられ騎士が二人ずつ立っていた。

壇上の前に人垣によりバレーボールコートくらいのスペースが作られ、そこに3組の男女が立っていた。

人々は成績順に手前から奥に並び、さらにその後ろに平民たちがいるようだった。

また王族用の扉のある側に国王派が、間に中立派を挟んで反対側に貴族派の者たちが並んでいるようでもあった。


ファーストダンスは貴族子女の成績5位までのカップルで行われると案内に書いてあった。

つまりだ。ダンススペースには総合5位のビアが、婚約者であり学園の先輩であるヴェンキントと佇んでいた……のだが、


「ビアは淑女の顔をちゃんと覚えた方がよさそうね」

「気持ちは理解できますが、あれはダメですね」


フィオラとリュドがそう漏らしてしまうほど分かりやすい、緊張と不機嫌の混ざった顔を隠すことなく浮かべたビアがそこにいた。


「こんにちは、ビア様、フグエス侯爵令息(ヴェンキント)。ご機嫌麗しゅう」

「フィオ……様、リュド殿、こんばんは」

「ドラコメサ女領主、ドラコミリ様、お久しぶりにございます」

「ふふ、フエグス殿、もしよろしければわたくしのことはフィオラとお呼びくださいませ」

「では是非に、フィオラ嬢。どうか私のこともヴェンキントお呼びください」

「ビア様の友人としてよろしくお願いいたしますわ、ヴェンキント殿」

「我が主共々、よろしくお願いいたします。ところで大丈夫ですか、ゼノビア嬢」


挨拶をしたから黙りっぱなしのビアが気になったリュドが声をかけたが、ビアは一切余裕がないと周りに分からせるだけだった。


「……帰りたい」

「我慢なさいませ、ビア様」

「そうですわ、ビア様。5位までの生徒に与えられた特権なのですから、楽しみましょう」


入場がすんだマリエラも加わり、女性3人でぼそぼそと小さな言葉を交わし始めた。


「いい加減覚悟を決めよう、ビア」

「そうですわ。わたくしたちだって緊張しておりますのよ」

「そうは見えない」

「淑女のたしなみ、と頑張っているだけですわ」

「さらし者になるのはみんな一緒なんだから」

「さらし者……」

「さっきマリエラに、死なばもろともって言われたし」

「道連れは多い方がよろしいですもの」

「だから勉強教えたのか」

「ほほほ」

「え、マジで」


顔を寄せ合ってひそひそと話す間に主賓の名が呼ばれていたが、そちらに顔を向け会釈をしながらも話し続けていた3人だった。しかし、さすがに国王夫妻の入場のアナウンスには、お互いのパートナーの側へと戻っていった。

最後にマリエラの「1曲踊れば後は自由ですもの。皆で頑張りますわよ」の言葉で諦めがついたのか、ビアも若干余裕を取り戻したようだった。


ここにいる以上、曲が始まれば踊り始めるしかない。

王宮楽団が奏でる準備をし始めた始めたのを見てビアも覚悟が決まったのか、ヴェンキントの手を取って少し離れた場所に移動した。

玉座の目の前にはマリエラと第二王子。

リュドはフィオラの手を取ると、そこから少し下がったダンスホールの真ん中に(いざな)った。


「ここ?」

「ここが一番聴衆から遠い場所ですよ」

「そっか。ではリードをよろしく、聖竜の騎士(ドラコミリ)様」

「承知いたしました、我が主(マイレディ)


5組が準備できたのを見計らって、指揮者が指揮棒を振り始めた。

舞曲は簡単ではないけれど初級者レベルなら完璧に踊れるワルツ。

5位までの新入生はこれを踊ると言われていたので、リュドもフィオラも練習済みだった。

それでも大勢の前で踊るのは初めてなので、否が応にも緊張が走る。

それが分かったからか、リュドはフィオラに色々な言葉をかけ始めた。

大きくなったと、ダンスも上手になったと。自分もそれに合わせなければと思って練習をしたこと。そのパートナーにデマロがなってくれたこと。


「デマロが?」

「はい。私がフィオラ様のパートナーに選ばれるのは想定済みでしたので、ダンスの復習がしたいと言ったら、デマロが手を上げてくれました」

「なんでデマロなの?」

「兄上のダンスの練習に付き合うために、女性のパートを完璧に覚えているそうです」

「そうなのね。だったら今度、二人が踊っている姿が見たいわ」

「どんな需要があるんですか」


楽しい話にフィオラの緊張もほどけていき、ダンスが終わる頃にはこの状況を楽しむ余裕も生まれていた。

マリエラのダンスは素晴らしいとか、ビアのダンスはどこか男性的だとか。

そんな話をした頃に曲が終わり、二人は礼を交わしてから国王夫妻に深く一礼をした。そしてリュドのエスコートで舞踏会場の隅にある飲食エリアに移動した。

そこでほっと一息つきながら、Aクラスに入る残りの15組のダンスを眺めていた。


貴族の矜持として、特に伯爵家以上の子女はダンスを小さな頃から教えられる。

それがきちんと行われていたかどうかが露呈する場でもあった。

それが遅かったフィオラ姉弟は追い上げが大変だったものの、教師の腕がよかったのと、お互いをパートナーにいつでも練習できたおかげでなんとかなった。

子爵家ながらハイクラスの貴族とも付き合いのあるフィディも、準シスターであり伯爵令嬢でもあるグネスも、ダンスは板についていた。

どちらかというと、ビアを始めとした騎士系の家の子女は少しおぼつかない。特に男子が。

そして男爵家と一部の子爵家の子女もかなり怪しかったが、ロークラスの貴族だから仕方がないと囁かれていた。

Bクラスに入る子たちは成績順ではなく家格順に2組に分かれて踊らされていた。

2番手のダンスはダンス初心者を抜け出した程度でも踊れる程簡単なものだったが、それでも相手の足を踏んだりターンのタイミングが合わなかったりと、わたわたする組が半分くらいいた。

それを見て恐ろしいことにフィオラは気づいてしまい、リュドに相談を持ちかけた。


「……外から見ると丸わかりなのね」

「そうですね。ですが平民と同じくダンスが不得手な貴族の子女は、学園に入れば授業で徹底的に絞られるので、成人になったときにはなんとか見られるものになりますよ」

「それは入ってからよね? 来年が怖いんだけど」

「……ああ、あちらですか。無関係だと放っておくしかないでしょうね」

「無関係って無理じゃない?」

「頑張って貫くしかありませんね」


誰と言わずとも分かることに、フィオラは今から頭が痛いと思った。

勉強もダンスもマナーも見られたものではないという報告が入っているだけに恐ろしかった。


「Aクラスは無理だろうけど、頑張ってBクラスに入ってくれることを祈るだけね」

「そうですね」

「今から考えても仕方のないことは、考えない方がよろしいわよ、フィオ様」

「マリエラ様」

「それよりも、平民のダンスが終わったら後は自由に踊れますのよ。フィオ様も色々なパートナーと踊る練習をされるといいわ」

「ご助言ありがとうございます。ところでその心は……」

「お互いのパートナーと踊りませんこと?」

「……王太子殿下と踊るとなると、さすがに緊張するんだけど」

「これも経験ですわ!」


マリエラがリュドと踊りたいだけよねと察したフィオラは了承し、リュドにマリエラをダンスに誘うように促すと、自身は王太子に誘われたので笑顔で快く誘いを受けたのだった。

緊張したものの、王太子はさすがというか、とても滑らかなダンスでフィオラもお姫様になった気分で踊ることができた。

あれはヒーロー補正だったんだろうかと後に疑うくらい、素晴らしいものだった。

そんな山を一つ越えてしまえば後は楽なものだった。

ビアの婚約者とフィディの父親とも踊り、その後はいつものメンバーで固まってのんびり会話に興じていた。

周りの男子たちがフィオラと踊ることでドラコメサとの関係を持とうと躍起になっていたが、全てリュドとマリエラとフィディの父親に目で制されていたとは、狙われていた本人は一切気づくことがなかった。

その間にリュドはビアとフィディとも踊ったのだが、少し時間が空いたときにビアとフィディがグネスとその父親を連行する形でフィオラの前に連れてきた。


「どうかなされましたか?」


近くに王太子たちもいるので貴族の口調でフィオラが訪ねると、少しすましたフィディと相も変わらぬ口調のビアが返してきた。


「グネス様がリュド殿と踊りたそうにしておられまして」

「グネスのお父上もフィオと踊りたそうな目をしていたが」

「聞けば恐れ多すぎて誘えないと二人ともおっしゃるものですから」

「連行してきた」

「そこはお連れしたと言いましょう、ビア様」


そんな二人を横目に、親子はあわあわしていた。敬愛する聖竜の使者たちを目の前に、己の欲望をかなえていいのか、遠慮をすればいいのかと、心の内でせめぎ合いが起きているのだろう。

それを打ち破ったのはリュドだった。


「そうですね。この先、私がご令嬢方と踊る機会はほぼ皆無でしょうから。せっかくなので一曲いかがでしょうか?」


差し出された手を見て真っ赤になりながらもグネスはその手を取り踊ることを選択した。

それを見ていたフィオラも、


「伯爵様。よろしければグネス様の父親として娘の友人の相手をしていただけませんか?」


そう伯爵を誘うと、彼もそれ以上は抵抗せず、恭しく一礼してからフィオラに手を差し出してダンスホールに誘った。

曲はちょうど聖竜様に捧げる歌から派生した舞曲だったので、教会派の多くの貴族たちが踊る中、二組は片方が異常に緊張した状態だったが踊りきった。

そして当たり前のように平伏しようと体が動いた親子を、パートナーがしっかりと手を握った上で、


「平伏は二度としないお約束では?」


の言葉で黙らせていた。

こんな感じで、新入生の顔合わせも兼ねた舞踏会は、それなりに平穏に終わりを告げたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


やはり先週はアップできませんでした。

そして来週も怪しいです。

色々予定が立て込んでしまったので、その合間を縫って書いてはいますが、ストレスもあってかかなりの遅筆になっていますorz

そういう時でもコンスタントに掛ける方がうらやましくなりました^^;


こんな状況ですが、それなりに頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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