フィオラ15歳 人生のプロローグ2
6月の最終週はマリエラの家に友人たちと集まり、そのまま合宿状態で試験勉強の追い込みをした。
理解が薄い部分はお互いに教えあい、中日にはマリエラの家庭教師にも教えを請い、それ以外は睡眠や食事の管理もしてもらい、5人は万全の状態で試験日を迎えることができた。
おかげで座学も実技も各々最高の状態で受けることができたと、お互いの健闘を称えあい、侯爵家に大いに感謝した。
二日間朝から夕方まで頑張ったので3日はマリエラの家のサロンにたくさんのクッションを敷き詰めて、だらだらすることで心身を癒した。
もっともそれも昼過ぎに突如始まったマイセントラ侯爵夫人による閨教育によって強制終了させられた。
そのままでいいからと聞かされた話に、すでに一度受けていたマリエラと、商人ゆえに色々すでに知っていたフィディと、前世の知識があったフィオラは顔を赤くしながらも話を聞けた。
しかし閨教育をまだ一切受けていなかったグネスは半ば失神しながら、兄たちから適当な話を聞かされていたビアは悶えながら、それでも強制的に教育を受けさせられて夕方には疲労困憊になった。
それでも翌日からはフォルトたち友人4人組も合流し、皆で王都散策を楽しんだ。
その合間に、それぞれが懇意にしている仕立屋で制服や運動着と言った学校指定の衣装を発注する予約も済ませた。
そして合格発表の日。
学園に見に行くか手紙を受け取るかを選べるのだが、フィオラたちは学園周辺の様子をのんびり見に行くという名目で学園に赴き、貼りだされた成績表兼クラス分け表を皆で確認した。
一生懸命頑張ったおかげか、5人とも学年20位までしか入れないAクラスのところに名前が書かれていて、皆で大喜びをした。
マリエラは座学が1位で魔術が2位、フィオラは座学が2位で魔術が1位。総合評価の結果、トップはマリエラだった。もちろん2位はフィオラ。
ビアは座学が8位だったが武道で第二王子を破り1位を取ったので、総合5位に食い込んだ。
逆にフィディは座学が4位だったが魔術で10位だったため総合的に9位。グネスは座学が11位と振るわなかったが、魔術で3位を取ったので総合10位を取ることができた。
これがクラスでの自分の番号となる。
問題になったのはマリエラとフィオラがルドヴィコを退けてツートップを取ってしまったことだった。
しかし実際、座学の点が600点満点で1位から20位までの差が45点しかないのに、フィオラとルドヴィコでは15点もあったためにどうにもならなかった。
そしてビアだ。
王族の子供には必ず文官・騎士・魔道士が従者兼友人として就くことになっているのだが、ビアはルドヴィコをトーナメントで破った上に、彼の騎士と魔道師より上の成績を取ってしまったのだ。
実際、座学と魔術か武術の順位だけの評価は王子の従者と横並びだった。しかし実技の評価からすると、ビアは5位から外せないと教師陣から判断された。
そうなると我慢ならないのはルドヴィコだった
マリエラは未来の王妃だから仕方がないとして、彼女の友人であるフィオラとビアに負けたことが、どうにも屈辱的だった。
結果発表のボードの前で、それを隠すことなく睨んできて、王族として紳士としてどうなんだとフィオラたちに呆れられてしまった。
しかも王太子からの情報として教えられたのが「フィオラとフォルトに実際に会った陛下が彼らをべた褒めしたのが許せず、苦手な姉にすら気に入られているのがむかついた」と会ったこともない姉弟を、特に同い年のフィオラを目の敵にしているということだった。
それなのに初めて実力を比べられる王立高等学園の入試において勝つことができなかったことで、嫌悪感がさらに大きくなったのだろうと推測できた。
「明らかに逆恨みじゃないか」
そんなビアの呟きを聞かれたらさらに大変なことになるとフィオラは焦ったが、その時にはすでに第二王子たちはこの場から立ち去っていたので安堵した。
(厄介な人に嫌われたなあ。フロラに狙われたらさらに厄介なことになるから、聖竜様のお守りを持ってほしいんだけど)
そう思いながらも、たぶんそうならなさそうだなとフィオラはひそかに落ち込んだ。
こればかりはリアルな人間の性格や人間関係によるので、しょうがないと思うしかないのだろう。
一応マリエラを通じて王妃様に頼んでもらえることになっているが、どうなることかとフィオラは溜息をつくことしかできなかった。
その後、マイセントラ家に水曜日までお世話になり、その間にみんなで入学案内にあった必需品を購入し、文具はおそろいにするなど、楽しく過ごしてから姉弟は王都の屋敷に久々に戻った。
どうもそれが正解だったらしく、入学案内がつく月曜日にドラコメサ伯爵が一日中門の前をうろうろしていたそうだ。
何をしたかったのか。
想像したところで無意味だろうなと判断した姉弟は、その報告を聞くだけ聞いて溜まっていた領主としての仕事をこなしたのだった。
そして8月最終週。
供儀のためにいったん領地に戻っていたフォルトも再び王都に到着し、舞踏会には参加できないものの会場までの見送りと、入学式の参列はすることになっていた。
「リュドもいるから見送りは屋敷でいいのに」
「嫌な予感がするので」
「……やめて。何のことかわかるだけに嫌すぎる」
そんな会話を交わすとフラグになるとでもいうのだろうか、学園内の馬車用ロータリーの歩道にドラコメサ伯爵が夫人を連れて立っていた。
「……嘘でしょ?」
「姉さま、ここは僕に任せて会場に行ってください。頼むよ、リュド、エリサ。カルスも一緒に来て。ガルシオ、馬車が止まったら伯爵たちを制してくれ」
フォルトが御者台にいるガルシオにも声をかけると「了解しました」の声と共に人の降りる気配がした。
カルスとフォルトが先に馬車を降り、伯爵夫妻と何か話しているのを確認してからフィオラたちも馬車を降りた。
何か伯爵が叫んでいるようだったが、それには一切応えずに、フィオラ一行は会場入りする人の波に乗ったのだった。
学園に入ってすぐの場所には1階に舞踏場、2階に大きな講堂の入った建物がある。講堂は全校生徒が入っても椅子が余るほどの広さがあり、入学式には新入生の家族も入ることが許される。
舞踏場が1階といっても吹き抜けが2階分はあり、2階に当たる部分には回廊も作られている。そこは学生たちだけでなく市民にも貸し出されている。
その為、ここは学園の敷地を示す塀の中にはあるが、学園自体を守る強固な外壁の外側にあった。
両脇には馬車を停めておく広場と闘技場があり、闘技場の1階の周回部分には学生向けのお店や飲食店が並んでいた。
フィオラたちも入試の結果発表の時に利用していた。
そして人波は舞踏場のある建物に吸い込まれていった。
舞踏会場の大ホールに入る手前には、平民用と貴族用の控えのホールが各々ある。
そこで名前を呼ばれるのを待って舞踏場に入るようにと案内に書かれていた。その後、平民の成績の下の者から順番に呼ばれ、その後で貴族がやはり成績順に呼ばれるという話だった。
フィオラはゆっくり会場入りしたつもりだったが、まだ平民が呼ばれている最中だった。それでは貴族用の控えホールで待つかとそちらに向かおうとしたが、フィオラは係の人に呼び止められてしまった。
「ドラコメサ女領主様でしょうか?」
「そうですけど、あなたは?」
「失礼いたしました。私は案内係を務めているブランカ男爵家のマイフロラと申します。特別控え室にご案内いたしますので、どうぞこちらにおいでください」
身分証を提示した彼女に従い、フィオラたちはさらに奥にある控え室へと案内された。
開けられた扉の中に入ると、そこにはマリエラとアントニオ王太子が優雅にお茶を楽しんでいた。
「久しぶりだね、ドラコメサ嬢……いや、ドラコメサ女領主」
「お久しぶりにございます、王太子殿下。どうぞフィオラとお呼びください」
「では私のこともアントニオと呼んでくれるかな?」
「承知いたしました、アントニオ殿下。マリエラ様もこちらにおいででしたのね」
「ええ、こちらでのんびり待つようにと。成績上位者の特権と思っておけばよろしくてよ」
「わかりましたわ」
殿下が同席している以上、社交の場としてフィオラも貴族の子女らしい言葉遣いでマリエラに返していた。
そしてリュドも。
本来なら護衛として立っていなければならない立場だが「本日はフィオ様のパートナーとしての参加ですわよね? でしたらソファーにお座りくださいませ」とマリエラに言われ、「私も一度ドラコミリ殿と話してみたいと思っていた」と王太子にまで言われた以上、落ち着かないと思いつつもフィオラの横に座り、同じくお茶と菓子を頂くしかなかった。
もちろん鑑定魔法で安全を確認してから。
それを見たアントニオに「どうやっているのか」と質問され、受け答えをしているうちに聖竜様はどういうお方なのかと言う答えづらい話になったが、同時にフィオラとマリエラが呼ばれ、リュドは答えずに済んだことにひそかにほっとした。
「では、わたくしは向こうの入口に戻りますわね」
「あら、フィオ様。わたくしたちと同じく、こちらの扉から入ればよろしいですわ」
「え?」
「ふふふ。フィオ、あなたもわたくしと同じく、王家専用の入口から入るために、こちらの控室に呼ばれたのですわ」
マリエラのその言葉に、フィオラの口調もいつものものに戻ってしまった。
「は? え? どういうこと、マリエラ? 私は王家には関係ない人間よ?」
「学年2位ですし、なによりあなたは聖竜様が来臨され、供儀で聖竜様にお目通りしている女領主よ。その上パートナーが聖竜様の騎士であるドラコミリ殿ともなれば、こちらの扉から入ってもおかしくありませんわ」
「それに正直な話を言うと、弟が第3位だったために2位のあなたが会場後ろの扉から入るのはバランスが悪いという意見もありまして」
王太子にまで説得されてしまってはフィオラに退路は残されていなかった。
「……マリエラ。本当にそれだけ?」
「……わたくしだって緊張致しますもの。死なば諸共ですわ」
「酷い!」
しかも、更にリュドが進言してきた。
「フィオラ様。こちらに案内された時点で、この事態は想定するべきでしたね」
「リュド!?」
「まあ、来年の予行演習と思っておきましょう」
「来年?」
「フォルト様が入学するときのパートナーはフィオラ様になりますよね? そしてフォルト様の学力・魔力から推測するに、フォルト様はトップに立つ可能性が非常に高いです」
「……ダネラのパートナーは第二王子だし、双子姫が上位に来たとしてもフォルトの方が上の可能性が高いわよね」
「つまり諦めが肝心という話になります」
3人に畳みかけられてしまえばもう反論することもできない。
諦めて案内されるがままに会場奥の扉の前に行けば、第二王子が第一王女と共に名前を呼ばれたところで、その後ろには国王夫妻が待ち構えていた。
夫妻ににっこり笑われてしまえばもう腹をくくるしかない。淑女の笑顔を貼り付けてカーテシーで答えて、扉の前にリュドと一緒に整列した。
「ドラコメサ女領主、フィオラ・カリエラ・シニョラ=ドラコメサ様。パートナーの聖竜の騎士、リュドルク・ドラコミリ様。ご入場です」
会場内に一礼をしてから、リュドのエスコートで優美な姿を大勢の前にさらしたのだった。
PS.
「さらした……」
「どう考えてもさらし者じゃない(涙)」
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。
とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
何とかギリギリ火曜日に出来上がりました。
悩んで会話を増やしたために少し長めになってしまい、どこで切ろうかさらに悩みましたが……PSのためにはここで切るしかなかったという^^;
面白く思ってもらえたら嬉しいです。
そして家庭の事情で来週か再来週の更新が遅れるか見送る可能性があります。
もしそうなったらごめんなさい(´・ω・`)。




