フィオラ15歳 人生のプロローグ1
フィオラはとうとう15歳になった。
貴族にとって15歳は人生のプロローグと言っていい年齢だ。
7月に王立高等学園の入学試験があり、よほどのことがなければ貴族の子供は受かることになっている。
ただし、入学金や授業料が家格によって変わるとはいえ、一番低い者でも平民の数倍の学費を払わなければならなくなるので、貧乏な男爵家では入試を受けること自体を諦めさせたりする。
また、どうにも基礎教育が芳しくない子女は落とされ、地方の国立高等学園に通うしかなくなる。しかし、王立高等学園を卒業できた平民よりも低い地位しか与えられないということがよくあるので、どうしても避けたいと子爵家以上の子供たちは頑張って勉強をしているということだった。
そして王立高等学園の平民に対する門戸は人口比から考えるとかなり狭く、しかも貴族と同じく15歳の年にしか受けられなかった。
もしもここを卒業できなかった平民がハイクラスの貴族や王宮に勤めるためには、商業ギルドの用意するランク試験を受かるまで受けるしかない。
逆を言えば、卒業さえできてしまえば、平民としては早々にエリートコースを歩むことができる。
それ故に様々なジャンルの仕事に就きたい平民たちが安くはない学費を用意したうえで、非常に合格率の低い地方都市の国立高等学園で行われる入試を受ける。
そしてその為に平民用のコースは様々用意されている。
学園は初等科2学年・専科2学年とあり、平民は基本的に初等科だけを受けて卒業して就職する。
専科はどちらかと言えば貴族向けの専門知識を学ぶ2年間になるが、騎士・魔道師・医師・薬師・上級官吏などの特別専門職に就きたい平民も少数混ざっている。
初等科の2年間は午前中に教養・マナー・魔術の基礎を学びなおしつつ、午後は平民向け各種コース・騎士科・魔道師科・淑女科・紳士科に別れて専門知識も学ぶことになる。
その為、クラスは貴族の成績順+平民クラスに別れるのが基本だが、貴族の入試成績がギリギリだったものは、平民クラスに入れられてそこで基礎を徹底的に教え込まれることになる。
一学年はだいたい100人くらいの人数だと言われている。
トップのAクラスが20人、Bクラスが30人前後(人数が多いときはB1・B2クラスになる)、平民クラスのCクラスが25人、Dクラスが25人。
平民でもよほど優秀だとBクラスに入ることができるし、1年で貴族並みのマナーと社交性を身に付ければ2年からAクラスに入ることができるというのはジャドが証明していた。
今は6月。平民の試験は済み、合格した子女は学校に入る前の基礎教育を地元の貴族から教えられている頃だ。
これは地方貴族の義務にあたり、ここバニョレスでも王立高等学園に合格した平民子女の教育の場として平民用の集会所を開放していた。
そして貴族の娘であるフィオラにとっても、入試の勉強の追い込みの期間でもあった。
貴族向けの試験は7月1日に座学試験が、2日に魔法・武道などの実技試験が行われ、合否は2週目の金曜日には判明し、3週目の月曜日には王都の屋敷や滞在しているタウンハウスに入学案内が送られてくる。
それに沿って入学前の舞踏会用の正装や制服、教科書や文具等の用意をすることになる。
その後、入学前の8月4週目の水曜日に新入生の顔合わせを兼ねた舞踏会が行われる。
平民が初めて舞踏会に触れる機会であり、踊ることのできるものはダンスに参加していいことになっている。
その時の衣装は、平民の場合は学園から貸与されるが、貴族は自分で用意しなければならない。しかも「合否がわかってから一月半しか時間がないから」という理由で親が若い頃に来ていた正装か、ビンテージと言われる中古品を用意することと案内には書かれていた。
更に貴族には「パートナー必須。パートナーは新入生以上の身内か婚約者」という制約があり、貴族として人間関係も健全に構築されているかもそこで見られることになる。
ちなみに在校生がパートナーとして出る場合は、前年の9月末の秋の豊穣祭用の正装を着てくることが暗黙の了解となっており、それ以外でも可能だが落ち着いた色目にすることと言われている。
あくまで新入生が主役であるのを忘れるなということだ。
そんなわけで合否が決まってからの一月半は入学準備に追われるので、フィオラたちはマリエラの家に6月の最終週からお世話になることが決まっていた。
最終週は皆―マリエラ、フィオラ、ビア、グネス、フィディの5人―で試験勉強にいそしみ、合否が決まるまでの2週間は弟たちも合流して、皆で王都観光を楽しもうということになっていた。
それを楽しみに、フィオラは一人頑張って机に向かっていた。
学園生活自体、前世の学校とは全く違うもののようなので、とても楽しみにしていた。
そして、それと同時に不安にも襲われた。
その不安を払しょくするためにもと、フィオラは休憩時間に幼い頃に書き綴ったノートを見ながらゲームのおさらいをしていた。
―――
私は竜ダリではヒロインで、乙ダリでは悪役令嬢だった。
竜ダリではマリエラ達とは友人になっておらず、目つきのきつい美人タイプなのに性格は小動物のようで、一生懸命頑張る姿が攻略対象たちの庇護欲をくすぐるのか、彼らをどんどん落としていった。
その行動をみっともないと止めようとし、それ以上に義理の姉をありとあらゆる手段でいじめにかかってくるのがフロラだった。
その為にフロラは「見た目はヒロイン、中身は悪役令嬢」と言われていた。
それが乙ダリだと逆転する。
マリエラ達とは友人になっていて、いかにもなヒロインのフロラが友人の婚約者をどんどん落としにかかってくるので、それを竜ダリよりも頭のいいフィオラが頑張って防ぎにいきつつ、狡猾ないじめを行っていた。
フィオラ贔屓の綾瀬は「フロラは頭からっぽで容姿端麗なヒロイン、フィオラは才色兼備な白雪姫系悪役令嬢」と言ってたなあと懐かしくなった。
攻略対象は8人。しかもなぜかみんな枕詞に四字熟語が書かれていた。
清廉潔白な王太子。優柔不断な第二王子。眉目秀麗な大司教の養子(これが実はフォルト)。質実剛健な騎士の息子。冷静沈着な宰相の息子。海千山千な商人の息子。天真爛漫な隣国の王子。試行錯誤する魔石学教師。
あれ? 竜ダリにしろ乙ダリにしろ、大司教の養子を落としたら近親相姦じゃんって今気づいたわw
だめじゃんw
でもまあ、その場合は兄弟と何とかしましたって解釈になるんだろうなあ……ってそれは置いておいて。
とにかく来年フロラが入学するまでにやるべきことを考えておかないとね。
それと先生には今年中に頑張って結婚して貰おう。これはマリエラ達にも相談して協力して貰わないとなあ……フィディの方がいいかな?
フィディって言えば婚約者のことを一度聞いてみたけど、その話の限りでは海千山千っていうよりボンクラって四文字の方が合うと思うっていうか、海千山千ってフィディにこそ会う気がするのよね……。
よしんばフロラが商人の息子を狙うなら、そのまま放置でいいわね。
―――
こんな感じで、フィオラはぶつぶつとノートに向かって呟きながら、新しくどうすべきかを書き綴っていた。
攻略対象の中でフィオラが実際に会ったことがあるのは、アントニオ王太子殿下と騎士の息子ことヴェンキント・ペイヤン・フグエス侯爵令息だけだった。
フグエス侯爵一家がバニョレスのリゾートホテルに滞在した折に、同じく領城に滞在していたビアを通じて紹介してもらったのだった。
王太子もヴェンキントも聡明かつ誠実そうで、そんな簡単にフロラに騙されないだろうと思えた。
マリエラとビアを通じて渡した本物の「聖竜様の鱗」を普段から携えてくれているようなので大丈夫だろうと確信が持ててもいた。
しかし懸念材料もあった。第二王子ことルドヴィコ殿下だ。
マリエラとダネラからの情報によれば、なぜか第二王子は姉弟を目の敵にし、婚約者が渡した対の鱗も、王家に献上した鱗も持つことなく、王宮の部屋に置きっぱなしになっているとのことだった。
「私たち何かしたかなあ?」
理由がさっぱり思いつかないフィオラは困惑するしかなかった。
そのあたりのことは学園に入ってから確認しようと心に決めたフィオラだった。
今はもうできることも考えられることもないと、フィオラはノートを閉じると再び入試の勉強に戻っていった。
その頑張りの結果、座学ではマリエラに続いて2位に、魔法実技では1位を取ることができたが、それが原因でさらに第二王子との距離が広がってしまうのだった。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
漸く15歳になりました。
これから学園中心の話になります。
学園の設定はだいたいはできていますが、頑張って書きながら詰めていこうと思います。
特に地理と建物♪
そして15歳時点でわかっているだけの人物紹介を乗せました。
そちらが参考になれば嬉しいです。
それではこれからもよろしくお願いします。




