閑話 聖竜が街にやってきた♪1
フィオラが12歳になった年の、少し気候が夏に向かい始めた6月13日金曜日の昼前、来週に迫った供儀用の食材の確認のために姉弟はバニョレスの街に繰り出していた。今回は街の子供の格好で、護衛というよりハンターの先輩4人と一緒に温泉街に繰り出していた。
取りまとめてくれているハンターギルドとの約束の時間より早めに出て、皆で温泉街の出店を回って、人出や質を姉弟曰くこっそり確認した。
そしてそろそろギルドに向かうかと話していた時だった。
「よぅ♪」
気楽な声をかけられた一行が視線を向けると、そこにはアラフォーと思しき銀髪に赤色の瞳をした男性が立っていた。
その瞬間リュドがダッシュをし、脇の小道にその男を連れ込んでいた。
「……リュドはどうしたんだ?」
「すごい勢いだったけど、知り合いなんじゃね?」
「何事だろうね」
ガルシオ、アレク、デマロの3人の言葉に、姉弟は貴族のたしなみとして驚きを隠し「古い知り合いかな?」「あとで聞けばいいでしょう」と一生懸命ごまかした。
なぜなら、さっきまでそこにいたのは、紛うことなく人化した聖竜だったのだ。
その頃、脇道に聖竜を連れ込んだリュドは焦ればいいのか怒ればいいのか諭せばいいのかどうすればいいのかと、若干パニックを起こしていた。
「いきなりだのう」
「あんた、ここでなにしてんだ? どうしてここにいる? 山の守りはどうした? そもそも街に下りてホイホイ歩いて大丈夫なのか?」
「まあまあ、落ち着け。ぬしの主から聞いておらぬか? 2年たって色々落ち着いたから我の分体である人型をこうして街に下ろすことができるようになったのだ」
「ああ、そういえば、火口の中の魔石との回路ができるとか何とか」
「その通りじゃ。回線が構築できたので少し休憩して、こうして降りてきた次第だ。驚かせて悪かったのう。ここまで慌てふためくとは思わなんだ。すまんすまん」
「すまんじゃない」
そのままリュドはずるすると膝から崩れ落ちて地面に座り込んでしまった。
聖竜もそれに合わせるようにヤンキー座りでしゃがみ込み、リュドの頭を撫でて慰めようとしていた。
「あんた、いきなり現れて、聖竜ってばれたらどうする気だったんだ」
「男性体の人型は聖竜の分体とは知られておらんので、ばれぬだろう」
「ユルがいたら明らかに『あ、聖竜様だ』って言ったと思うんだがな」
「……それは否定できんのう」
「いいか、あんたにこの口調で話すのは、あんたが聖竜様とばれないうちだけだ。ばれたら慇懃無礼な口調にするから、よく覚えておけ」
そういいながらリュドがにらむと、聖竜は怯みながらも「お、おう。分かった。驚かせて本当に悪かった」と謝罪もしてきたので、まあいいかと手打ちにした。そして手短に二人で設定を詰めて、5人の元に戻っていった。
「皆すまなかった。古い知り合いで、いきなりいなくなった男ががひょうひょうと現れたから驚いたんだ。彼はドラク。バルセロノで近所に住んでいた男だ」
「見た目より爺で、しゃべり方も年寄り臭いとよく言われるがの。よろしく頼む」
上手くごまかしたなと思いながら姉弟は挨拶を交わす大人たちを眺めていた。
その後、姉弟は主と紹介されて「はじめまして」「よろしく」としらっと答えて知らないふりをした。
そして用事が済んだら一緒にお昼を食べようということになったので、とりあえずハンターギルドに同行して貰うことになった。
聖竜はギルドでは応接室にも同行し、ハンター長とも会い「ハンター長には会ったことはないが、リュドが小さなときに近所に住んでいて、ラフィリそっくりの男性を見つけたから声を掛けたらリュドだった」と適当な話でごまかしてバルセロノの話で盛り上がっていた。
姉弟は書類を確認してサインをし、今月分の魔石代と食材代の両方を支払った。そして食材の確認をガルシオ・デマロ・アレクの3人に任せ、ハンター長も共に出て行ってから4人で内緒話をすることにした。
「嘘が上手なのね」
「年の功と思ってくれていいぞ」
「物は言いようですね。それより、伝承では聖竜様は女性の姿で現れると言われているようなのですが」
「おお、これかの?」
そういうと目の前にいた男性の姿が陽炎のように揺らぐと、入れ替わるように年齢不詳なナイスバディで頭に太く赤黒い角を携えた美女がソファーに優雅に座っていた。
「……なるほど。髪と服の色が赤で、肌が小麦色、瞳が金色で、聖竜様のカラーそのままな上、さっきのおっさんとは全く違う雰囲気だからばれないんだな」
「真面目か」
「そこですか?」
『声もこのように少し響かせた声にして、人ではないと表しているしのう』
「角があるから人じゃないと分かるんじゃないですか?」
「確かにそうよね」
4人はコントのような会話を交わしていたが、3人が戻ってくる前に聖竜は男性体に戻り、昼ご飯をどこに食べに行くかという話題で盛り上がっていた。
そして3人と合流し、ドラクが興味を持った魔獣焼き肉専門店に行くことになった。
結果、なぜかアレクがドラクに飲み比べを吹っ掛け、北国ファイラドア王国産の火酒を二人で飲み、当たり前だがアレクは負けて昼から酔いつぶれ、リュドにアルコールを体から抜かれてすぐ「一応護衛として同行してるのに、酔いつぶれるまで飲むとは何事だ」と1時間説教を受ける羽目に陥った。
その夜のことだった。
フィオラは昼の出来事の所為か、夜なかなか寝付けなかった。
どうしようかなと思ったらキッチンにリュドがいるようだと感じた。
だから起き上がるとベッドから抜け出すことにした。
「どうなさいましたか、フィオラ様」
「目がさえちゃったから、キッチンに行こうと思って」
「何かお持ちしましょうか?」
「ううん。キッチンにリュドがいるみたいだから、ちょっと話しをしたくて」
「ではお供します」
フィオラはエリサに薄手のガウンを着せてもらうと、二人でキッチンに行くために部屋を出た。
こういう時は通路に配置された護衛に「主が行く」というのを知らしめるために、従者は話しかけることになっている。だからエリサは「どうしてリュドがキッチンにいるのがお分かりになったのですか?」と疑問を振ってみた。
「ん~。感じたの。リュドも祝福を持っているからかな? リュドとフォルトは領城にいる時はどこにいるかなんとなくわかるの。大司教様もなんだけど」
「それは意図せずにですか?」
「うーん。最初に方角がわかって、それでどこだろうって意識を向けるとどこにいるかわかる感じだから半々かな?」
「そうだったのですね。では意識的に探した場合は?」
「バニョレスの街にいる分にはわかりそう」
「それは便利ですね」
「……でもたぶん、逆もしかりっていうか、フォルトが言うにはオーラ? 明かり? のように見えるんだって。意識してみればバニョレスの街のどこにいるかもわかるって」
「便利ですね」
「……エリサもそっちの人だった」
しまった言うんじゃなかったとフィオラは思ったがもう遅かった。なるべく従者たちに迷惑をかけることはしたくないが、うっかり街に逃亡なんてできなくなったと自覚した。
階段を下りながらそんなことを考えていたら、キッチンにもう一人の気配を感じた。
「あれ? デマロもいるみたい」
「他の人も分かるのですか?」
「うん。魔力のある人なら。なじみのある魔力だと誰かもわかるの。ユル程度の魔力があれば、集中すれば城内のどこにいるかわかるわ」
「素晴らしいですね」
「ふふ、ありがとう」
2階まで下りた時点でフィオラは歩みを止めてエリサを振り返った。そして疑問に思っていたことを聞いてみた。
「エリサには分からないのよね?」
「はい。私は目も耳もそれほど良くないようなので」
「?? どういうこと?」
「一昨日、ジャド殿が通信機越しにリュドに大興奮しながら演説しているのを、一緒に夕飯を取っていたメンバーで聞いてしまったのですが」
そう前置きしたエリサによると、ジャドの部下として新しい魔法を魔方陣に起こせる人が入ったとそうで、彼を使って疑問に思っていたことを実験したという話だった。
その結果、能力的に魔力を見ることができる人は目が良く、感じる人は耳が良く、魔法を魔方陣として見ることができる人は両方がいいという研究結果が王宮魔道師団内で認められたと。
「それは情報漏洩にならないの?」
「もう発表が決まっているので大丈夫と言われておりました」
「そうなのね」
その話がすんでからもう一階分の階段を下りていく。何を飲みたいかとかおやつはいるかどうかの確認をしているうちにキッチンにたどり着いた。
お読みいただきありがとうございます。
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きりは悪いけど、長さ的なバランスからここで1話終了です。
もう一話続きます……ええ、ただいま書いてます^^;
相変わらずの遅筆ですが、頑張りますのでよろしくお願いします!




