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フィオラ11歳 厚かましい父親一家の娘に対する作戦会議

2月16日月曜日。

偶数月の供儀はドラコメサ家が担当することになっている。

最初の見参の時のように朝早く出ることもなく、朝食をしっかりとってから出かけ、夕方に聖竜の元へと肉・果物・野菜と言ったものを運んでいる。

岩壁の扉を越えて山頂にたどり着いたのは、領主であるフィオラとフォルトに護衛であり聖竜の騎士でもあるリュド。そして、


「今日はどのスパイスを使おうかな」

「ほう、どんな種類を持ってきたのかの?」

「さわやかな奴と、適当に葉っぱ系を混ぜた奴と、コショウメインで辛いのと、唐辛子メインで激辛な奴の4つ」

「我は激辛がいいのう」

「了解!」


そう言いながら土魔法で作ったバーベキューコンロに串焼きをセットし、その他もろもろ夕餉の準備をしている料理人のユルだった。

リュドは二度目の見参(一度目の供儀)の時から一緒に中に入れたのだが、フィオラがいかにユルの料理がおいしいかを話していたら「我が小さな祝福を与えた料理人だな、次回から連れてまいれ」と言われたために、二度目の供儀の時から同行しているのだった。

リュドですら驚いた人化した聖竜に全く臆することなく、普通に接しろと言われて「わかったー」と告げて、こうして毎回ついて来ていろんな料理をここで作っては聖竜に提供し、皆でちょっとした宴会を開いていた。


「コミュニケーションモンスターね」

「あのものおじのしなさは天才的ですね」

「なし崩しに私も、タメ口を押し付けられたのには参りました」


リュドは最初抵抗していたが、ユルやフィオラを見て諦めて、ハンター長たちに対するのと同じように人化した聖竜と話すようになっていた。


「そういえば我に聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」

「そうなの、聖竜様。魅了魔法って存在するの?」

「何故知りたい?」


そう聞かれてフィオラたちはフロラがカフェで起こした騒ぎについて話した。

そして初めてこの地を訪れた人たちの中に、あり得ない言動をしたフロラに対して同情している人がいたのが気になったこと。しっかり調べてみたら、全員ではなかったのでどういう理屈なのかがわからなかったが、魅了されているのは間違いないと思ったと。

フィオラ達がたどり着いた推測を聖竜に語った。すると「あると言えばある、ないと言えばない」というあいまいな答えが返ってきた。


「……どういうこと?」

「精神に作用する魔法があることは確かだ。だが基本的に相手を助けるための物しかないはずだのう」

「それは闇魔法の鎮静ことですか?」

「ああ。光魔法でも心を高揚させる魔法があるだろう」

「えーと」

「司祭たちが使う『心の癒し』か?」

「そうじゃ。あれは絶対的に心を落ち着かせるものではなく、自身の楽しい気分を高め、落ち込んでいる気持ちを少し引き上げる程度ものだ」

「つまり心にほんの少し作用する程度のもので、操るほどのものではないってこと?」

「そうじゃ」


じゃあどうしてあんなことにと、うーんと3人が考え込んでいると、ほぼコンロでの調理をし終えたユルが口を挟んできた。


「じゃあ可哀想って思わせる程度だったら?」

「え?」

「だって、そのお客さんたち、あの迷惑なお嬢さんのことを可哀想って思った感じだったんだよね?」

「つまり同情心を煽ったり庇護欲をくすぐる程度の影響力ということか……その可能性は?」

「そうだのう……鎮静は自分の落ち着いた心に共感させる能力だ。それと同じく『かわいそう』という気持ちを共感させることはできるかもしれぬ」

「ということは、フロラ嬢は闇魔法を持っているかもしれませんね」

「魔力検査の報告が楽しみね」

「じゃあ、共感する人としない人の差はなんなんだろうね」

「リュドも平気だったでしょ?」

「はい。もしかしたら聖竜様のいい影響力を一切受けておらず、さらに性格的に(ほだ)され易い人が共感したのでは?」

「だから初めて来た人の中でも差ができたということですか?」

「そうだと思いますが……この仮説はどうだと思う?」

「それが一番合ってそうだのう……あの時同情しておった者たちは、よく言えば優しく、悪く言えば貴族としては優しすぎる者たちだったと思うのう」


なんか面倒くさいことになりそうねとフィオラがぶつぶつ言っている間に、宴会の準備が整ったようだった。

広げられたシートの上には様々な料理が置かれていた。

メインの一角兎と羊の肉の串焼きに、野菜たっぷりのキッシュ。ベーコンエピとサンドイッチ。エールのお供にと豆を使って作った薄い生地にパルメザンチーズを振ってグリルでパリパリに焼いた前世のインド料理のパパドのようなものと、細切りにしたパイ生地に粉チーズと黒コショウを振ってねじって焼いたチーズスティック。

スイーツは母の実家のノドフォルモント領から送られてきたリンゴで作ったパイと、聖竜とリュドのお気に入りのジンジャークッキーが用意されていた。


「チーズを使ったものが多いのう」

「リュドのリクエスト♪」

「パルメザンチーズが手に入った時は、必ず色々と作ってもらってる」

「おお、美味いのう」

「エールに合うだろ」

「うぬ」


聖竜とリュドは二人でエールを酌み交わしていた。


「ユルは飲まないのですか?」

「ボク、エールは苦手なんだ。だからフォルト様と同じく今日は紅茶♪」


ユルは姉弟の前に置いてあるマグカップと自分の分に、程よく美味しく入った紅茶を注いでいった。

一通り食べてお腹が落ち着いたころにデザートタイムになった。

四角く切ったパイ生地にカスタードクリームとリンゴのコンポートを挟んで作った持ち運びやすいリンゴパイを、姉弟は貴族の子女らしく皿に乗せてナイフとフォークで食し、他三人は手づかみでそれぞれデザートを楽しんでいた。

食べながらもやはり気になるのは魅了というか精神的影響のことだった。


「自分が共感できる感情なら受け入れられるけどそうじゃないってことなら、気にしなくていいのかなと思わなくもないけど……」

「共感を求めた相手が好意を持っっていたとしたら、操られかねないなんてことはありませんか?」

「あるかもしれんのう」

「うーん、何とかならないのかなあ? せめて陛下や政治にかかわる人には影響があってほしくないんだけどなあ」


その会話を聞きながらパイを二口で食べ終えた聖竜は、隣に座っていたフィオラに向かって手を差し出した。


「両手のひらを上に向けて、受け取るがいい」


何をと思いつつ言われた通りに両手を差し出すと、その上に聖竜の鱗と思わしき物がばらばらと落ちてきた。


「えっ!?」

「ぬしらは大丈夫だろうが、気になる者たちに……特に国のトップや友人たちに渡しておくといい」

「ってことは、これ、本物の鱗なの!!??」

「そうじゃ。人間が装備しやすいように小さく薄くつぶしてあるがな」


長さ3~4センチのドラクスに似た形の赤く黒く輝く鱗が山になるほど、たぶん30枚ほどが白い掌の上に乗っていた。


「これを身に付けておれば精神的な影響は受けずに済むようにしておいた」

「精神的な影響だけ?」

「残念ながら込められるのは一つだけだ」

「わかった。ありがとう……って、もう一個聞いていい?」

「なんじゃ?」

「これって二つに割ったらだめ? 付与は無くなっちゃう?」


その問いに聖竜もリュドもフォルトも目が点になっていたが、ユルだけは理解しているのか「ああ、それいいv」と満面の笑みで返していた。


「どういうことかの?」

「婚約者同士の場合、二つに割った鱗をお互いが持っていて、二つを合わせると模様が一緒とかってロマンティックじゃない?」

「そうなのか?」


もちろん聞いた相手は唯一反応したユルにだった。


「もちろん! ボクも欲しいくらい♪」

「ふむ、そうか。なら幾つくらい割ればいいかの?」

「ん~。マリエラ、ビア、グネス、フィディにダネラとそのお友達二人の分と、ユルの分とフォルトのお友達3人分で11枚?」


それくらいならよかろうとフィオラの手の上の鱗をそのまま割ろうとし始めたので、リュドがそれを止め、広げた布の上に大きさごとにきれいに並べた。


「性能と大きさが関係ないのなら、小さい方から割ってもらえる? その方がブレスレットとかに使えそう」

「なら最初から上下に小さな穴をあけておいたらいいんじゃないか?」

「そうか……これでよいか?」


聖竜が小さい方から11個に手をかざすと、少し波型に真ん中で割れて上下に紐等を通す穴が出来上がっていた。


「すごい!」

「ちゃんと波型が全部違うんだ」

「では、組み合わせがわかるようにしまいますね」


そういってリュドはもう一枚布をかぶせてから、パタパタと折りたたんでいった。薬草採集の時の包み方だと説明しながら鞄にしまっていた。

宴会も終わり、それの後片付けをする二人を見ながら聖竜は寂しそうにつぶやいた。


「我はあまり人に教えることは出来ぬのがもどかしい」

「え? でも、今聞いたら教えてくれたじゃない」

「聞かれたら答えるが、それでも答えられぬ時もある」

「制約……いえ、摂理ですか?」

「そうじゃ。われもそれには逆らえぬ。問われたことには答えられるが、先に教えるのは宜しくないとな……くだらない事ならば良いが、世界にかかわることになると教えられぬのがもどかしいわ」

「では、たくさん質問しますね」

「そうね。色々聞くから教えていいことは教えてね」

「ふっ、すまんのう」


聖竜は小さな子供にするように二人の頭を撫でて、そろそろ大人扱いされたいフィオラに「小さな子供以外にやっちゃダメ」と叱られていた。

そしてまた二か月後にと、一行は本体に戻った聖竜に見送られながら山城に戻っていった。



それから数か月後、タウンハンスにいる監視役から姉弟に連絡が入った。

フロラの魔法属性は闇・火・土だったと。

「やはり闇魔法を持っていましたね」というフォルトに、フィオラは(三属性持ちとは、さすがヒロインね)と思いながら頷いたのだった。

PS.

「フィディ。これ、聖竜様の鱗で作ったお守りなの。婚約者の人と使ってね」

「フィオ様。こんな伝説級の物をよろしいのですか?」

「うん。大事に使ってね。ちゃんと使わないとだめよ」

「ありがとうございます……これは、この波型で合わせると対の物がわかるのですね」

「そうなの。聖竜様にお願いしたら、模様はそれほど変わらないけど、波型を変えたから区別しやすかろうだって」

「フィオ様。これで本当にペアのお守りを作りませんか?」

「え? どうやって?」

「聖竜様の鱗の形で、貴族用に白金や金で、庶民用に銀や銅で、模様を手書きで入れることで波のパターンは数種類でも、ペアがわかりやすくなります」

「ついでにちゃんと精神異常減退、魔法抵抗上昇、物理防御上昇の効果を魔石に組み込んだら……」

「それは値が張りすぎます」

「うーん。あ、じゃあ、せっかくだから“あなたの恋がきらめきますように”みたいなうたい文句を作って、小さな宝石を埋めてみる?」

「それいいですね。ペアで同じ宝石で色合いも似たものをそろえればいいですし……父の工房で小さなクズ石と呼ばれるものの使い道を探していたはずですし」

「じゃあ、フィディのお父様にも連絡して、さっそく詰めましょう♪」


こうしてドラコメサ領のフィオラとフィディの店の新しいヒット商品が生まれたのでした。


―――――

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


今回一週遅れてしまいましたが、何とか仕上げることができました。

これで11歳は終了です。

本編は15歳の学園入学直前まで飛ぶ予定です。

その間に閑話を一つか二つ挟む予定です。


どんどんゲーム本編に近づいているので、フィオラはドキドキしっぱなしでしょう。

これからも頑張りますのでよろしくお願いします♪

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