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フィオラ11歳 父親一家の厚かましさは想定以上でした3

1月14日土曜日の朝は、姉弟も友人たちと一緒にバニョレスの街の教会の礼拝に参加した。

朝の8時から9時までに人々が集まり、まずは個人個人で祈りをささげる。この時間は牧師たちが聖竜に捧げる祝詞を交代で唱えている。

9時を少し過ぎたころに讃美歌を歌う。キリスト教の有名な讃美歌のように荘厳というか落ち着いたものも多いが、信徒たちに「明るく楽しく生きよ」と告げる聖竜の所為かポップな感じの曲も多い。

3曲ほど歌った後に牧師か司教の説教が始まる。今日は年末に司教になったばかりのグネスの父親が務めていた。

最後にそこの教会トップの牧師長か大司教の説教が行われ、終わり掛けの頃に牧師が信徒の周りを練り歩き献金を集める。

献金は銅貨一枚からで、庶民の場合は一家で一枚でもいいと言われている。

庶民の相場は銀貨1~3枚で、貴族の場合は一万円にあたる大銀貨一枚と言われているが、けっして無理をするなとも言われている。

その後に牧師長以上で行われる誕生週の者や生まれて初めて教会に来た赤子への教会からの祝福の儀が執り行われ、同時に牧師やシスターによる個々の祈りの儀も行われた。

それらが終わると大体11時になる。


外に出れば準シスターや準牧師を中心に奉仕活動者による炊き出しが行われている。

今のバニョレスは本格的に食に困っている人はいないが、都市部では食い詰めている人も多いためこの炊き出しが生命線になっているということだった。

ここでは子供たちや礼拝でお腹がすいた人への差し入れのような形になっているが、飢饉が起きたときには確実に必要になるので、習慣として炊き出しを必ず行うようにしていた。

そんな説明をグネスから受けながらフィオラ達5人は炊き出しの定番メニューの「トマトと野菜のスープに小さく切られたパンが浮かんだスープ」を小さなカップで堪能していた。

成長期の弟たちは大きめのカップで提供してもらい、温まると言いながら楽しく歓談していた。

その時にもちらほらとフィオラとフォルトと護衛のリュドを拝む人たちを見かけることがあった。


「なんだ、あれは?」

「グネスの所為なの」

「申し訳ありません」


ビアの問いかけに答えたフィオラとグネスによると、グネス一家が拝礼してしまったことでなし崩しに拝むことが解禁になってしまったそうだ。

ただし今年一年だけ。今年一年で出会えなかった場合は、最初に出会った一度だけ、相手の了解を得たうえで拝んでいいという折衷案が出されていた。


「フィオ様も大変ですね」

「ありがとう、フィディ」

「人気者はつらいですわね」


フィディとマリエラに慰められたフィオラは優雅にスープを飲み干すと、カップを所定の場所に返した。

その後、予約してあったホテルの一室に移動すると、皆で持ち寄ったお昼ご飯を食べながらグネス一家の話で盛り上がったため、グネスとその弟妹は恐縮しっぱなしだった。

フィオラとフォルトは交流会の最終準備があるので早めにホテルを出て領城に戻ることになっていた。ホテルを出たのは1時前くらいだった。

帰りの馬車がホテルの前に着く寸前、リュドとガルシオが何かしらの連絡を受けて眉をひそめている様子が目に入った。城で何かあったのだろうと判断したフィオラは、同じくそれを見ていたフォルトにアイコンタクトを送り、馬車の中で話を聞くことに決めた。

6人で馬車に乗り込み、出発して川を渡る橋を通り過ぎたころにフォルトが護衛2人に話しかけた。


「リュド、ガルシオ、報告を」

「お二人とも、心を落ち着かせてお聞きください」

「城に伯爵一家が来ているようです」

「マジで!」

「はあっ!?」


さすがの事態に、姉弟の淑女紳士の心得は吹っ飛んでしまったようだった。

リュドたちが受けた報告は、別荘地側の城門に伯爵一家が馬車でいきなり現れ、大騒ぎをしているというものだった。とりあえず、騒がれたままでは困るので通すように伝え、領城のヨゼフとも通信し玄関前に留めておくことにしたということだった。


「では急いで城に帰って伯爵を追い返すとしましょう」

「無駄に元気ね」

「僕はちゃんと二度と領地に関わらないようにと伝えましたよね?」

「領地だからでは?」

「え、どういうこと、リュド?」

「今回の子供向けの交流パーティのことを聞いて、『家族』にかかわろうとしているのでは?」

「……領地と言えば領城も含めたすべてって意味になるはずですよね?」

「まさか、そういった貴族のお約束を知らないってこと?」

「そのようですね」


リュドの答えに姉弟は同時に大きなため息をついた。

馬車が温泉街側の城門から入り城壁内の畑や修練場を横目に見ながら城に近づくと、男性の怒鳴り声が開けてあった窓から聞こえてきた。

伯爵の馬車の後ろに自分たちの馬車を止めると、二人は大きく深呼吸をしてから侍女侍従のエスコートで外に出た。


「やっと帰ってきたのか! さっさと城に入れんか!」


ホント無駄に元気ねとフィオラが思って伯爵を見ていると、その向こう側から小さな男の子を抱いた大人の女性と、女性と同じ緑色の瞳と伯爵と同じ明るい金髪を持つ少女が現れた。


「あなた達だあれ?」


声もかわいらしくいかにもヒロインと言った感じの少女……乙ダリのヒロインの登場ねとフィオラは心の中で警戒した。それと同時に(なんにも淑女教育されてないじゃない)と呆れと焦りの両方を感じることになった。これがドラコメサの氏を名乗っているのかと。

とにかく自分たちが見本を示すかと、教科書通りの挨拶を見せることにした。


「お久しぶりですドラコメサ伯爵。初めまして、伯爵ご一家様。わたくしはドラコメサ女領主、フィオラ・カリエラ・シニョラ=ドラコメサと申します」

「私はドラゴメサ領主、フォルト・オルトロス・シニョロ=ドラコメサと申します」


身についているし完璧だと家庭教師からお墨付きのカーテシーとボウ・アンド・スクレープも披露した。ただし、定型文であるよろしくという言葉は使わなかった。それは「あなた達とは一切仲良くなる気はありません」という意思表明だが、たぶん伝わらないだろうなと姉弟の考えは一致し、期待は一切しなかった。


「あなたたちがお兄様とお姉様なのね。私はディノフロラ・ドラコメサ伯爵令嬢よ。フロラって呼んで頂戴。弟はグララディコ、お母様はデイアンタっていうのよ。よろしくね」

(嫌味が通じてないし、実の兄姉じゃないし、自分で令嬢って言っちゃってるし、そもそも挨拶のお約束も知らないようだし、挨拶の仕方がなってないし、文末全部にハートマークが入ってそうな甘い口調だし、突っ込みどころが満載でどうすればいいのかさっぱりわからないわ)


フィオラはかなり困惑したが、淑女スマイルでそれを表情には一切出さなかった。

同じく困惑を一切表に出さないままのフォルトが、伯爵に「どんなご用件ですか?」と聞いたところ、伯爵の怒涛の一人語りが始まった。



「どんなご用件ですかだと? それが父親に対して言う言葉か!

 そもそもなぜ私の方に子供たちの交流パーティの話が入ってきておらんのだ!

 子供たちの交流ならこの二人も入れるべきだろう。それにお前達にも両親が一緒について回るのが貴族としてのセオリーだろう。なぜ私を呼ばんのか意味が分からんわ!

 ドラコメサのお子様のお披露目をようやくするようですねという噂を聞かされて、伯爵はおいでになるのかと嫌味のように言われて恥をかかされた私の気持ちがお前たちにわかるか!?

 しかもお前たちの妹弟にあたるこの子たちを無視するとはどういう了見だ。

 まずは私にいつ開くのか、規模はどれくらいか、だれを呼べばいいのかを聞くべきだろう!

 なぜ子供だけで勝手に決めておるのだ? 本当に教育がなっていないとしか言いようがない……お前達にはやはり両親が必要だな!

 こんな田舎からさっさと引き上げて、私のもとで再教育してやるから王都の屋敷に帰ってきて我々を迎え入れんか!

 その前に今日のパーティは私が仕切るからそのつもりでいろ!」


一番の本音は王都屋敷に戻らせろということかと、姉弟は各々心の中で溜息をついてしまった。よくもまあここまで一方的に自己都合だけで文句を言えるものだと。

どうしようかなとフィオラがフォルトをちらりと見れば、あまり表情を面に出さないフォルトが口だけで笑っているのが見て取れて、フィオラは自分は黙っていようと心に決めた。


(フォルト、相当怒ってるわ)


そう思いながら護衛二人をチラ見したら、二人は小さく頷き返してきた。

知らぬは伯爵さまばかりなりかと黙っていると、フォルトが(わざ)とにこりと笑って口を開いた。


「もうご用はお済のようですね、ではお引き取り下さい」

(すっごく簡潔に返したー!)

「なんだその言い方は!」

「婉曲的な表現は通じないようなので、直接的に言っただけですよ。では、もう少し説明しましょう」


いい笑顔を浮かべたフォルトは、表情を一切変えずに怒涛のように反論した。


「伯爵が言っていることはすべて的外れです。すでに私達親子の縁はほぼ切れているというのに、なぜあなたに配慮しなければならないのでしょうか?

 それと以前に通達した『領地にかかわるな』とは、領城にも、領主になった我々にも関わるなという意味だったのに、通じていなかったようですね。

 そもそも教育と言われますが、そちらの娘さんの立ち振る舞いを見ればあなたの教育のレベルが計り知れます。そして、そのレベルなら我々はとうの昔に越えておりますよ。

 これ以上関わられても迷惑なので、どうぞ王都にお戻を。ああ、小さなお子様がいるから泊まりたいというのなら、ホテルにどうぞ。ここには二度と泊めません」

「貴様、親に対してその言いようは……」

「誤解無き様に。あなたは今はただの伯爵でしかない。ですが我々は国と教会と聖竜様に認められた正式な領主です。ドラコメサ領主は高位貴族(ハイクラス)の扱いになります。中間位貴族(ミドルクラス)のあなたより立場は上なのですよ」

お読みいただきありがとうございます。

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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


厚かましい父親をやっと出せました。

こういう父親を持つと子供は大変だなあと思います。

フィオラとフォルトならなんとか撃退できますが、頑張れと作者も応援していますw


※フォルトのセリフを一部酒精しました。

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