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閑話 バタバタした休日とお説教2

バニョレスの街は、街道からバニョレス湖南の小さな森の東側にある脇道から入る。

以前は何もなかったが、今はわき道の入口にゲートを作り、そこで街に入ってくる人々のチェックをしている。

最も、観光地でありもともと城壁などない街なので、草原を走破されてしまえば妖しい人たちも入り放題なのだが、魔獣がうろうろしているそこを越えてくる人間はそういない。

それでも念のためと入口で定期的にコードを変更する入街許可証を渡しており、それを持っていない人を職務質問する権利を警備隊も持っているので、それで街の安全は守られていた。


そして小さな森のゲートの反対側、湖の真南にある入江の西脇に、森を切り開いて作られた貴族用のリゾートホテルがある。

あるというか、建物が内装まできちんと出来上がったので、今日はバニョレスの常連となっている貴族を招いてのプレオープンの日だった。パーティは夕方から行われるが、昼過ぎの今は宿泊客がすでに到着し始めていた。

ここは領地経営の一環なので、本来姉弟は客の出迎えのために今頃はホテルのロビーに待機しているはずだった。

しかしこの騒ぎの所為でそれができず、出迎えは総支配人に一任していた。

信頼できる人物なので彼に任せておけば大丈夫だからと、臨時の治療所が一段落してから向かおうとフィオラは思っていたのだが、ゲートで待ち構えていたホテルの従業員に呼び止められてしまった。


「いやな予感がするわね」

「そうですね」

「姉さま、お疲れ様です」


そこに同じく従業員呼び出されたフォルトも馬車で到着した。

何があったのかを聞けば、田舎貴族は街に入るとすぐに強引にホテルの一室を借りて身支度を整え、今はリゾートホテルに突撃しているとのことだった。


「なにしてやがる、あのアホは」


小さいけれど地獄の底から湧き出るような声のつぶやきは、姉弟にも聞こえたが聞こえないふりをした。

同じく聞こえていた騎士隊の面々は(リュドが切れた)と心の中の声が一致していた。


「急いで向かいましょう」


姉弟は騎士団を引き連れたままホテルの方に移動した。

ホテルの前、馬車用のロータリーの降り口で田舎貴族が、総支配人と常駐の騎士を相手に大騒ぎをしていた。


「侯爵家の嫡男たる私を入れられないとはどういう了見だ!」

「それ以上は前に進まないようにお願いいたします」

「申し訳ありませんが、まだホテルはオープンに至っておりませんので」

「だが、すでにこの中に入っていった貴族を何人も見たぞ!」

「本日は別荘や温泉街によくいらしてくださっている方々のみをお招きしております」

「ならば私もそこに加えればいいだけだろう」

「初めていらした方をお招きすることは出来かねます」

「警備上の関係上、身元のしっかりしている方以外を通すわけにはまいりません」

「なんという言い分だ! オーナーを出せ、オーナーを!」


田舎貴族の話を小耳にはさんだ(というか、大声で話していたためホテルの隣の部屋まで筒抜けだったと語った)方によると、このリゾートホテルのプレオープンの噂を聞きつけ、侯爵家の威力を使ってそこに入り込もうとしているということだった。

オーナーを呼んでいるし仕方がないのかなあと姉弟は彼の前に進もうとしたが、リュドに止められた。

リュドは二人の警護をアレクたちに任せると田舎貴族の背後に進み、襟首をひっつかむとそのまま後ろに引き倒した。


「何……」

「何故ここにいる?」

「無礼にもほどがあるだろう!」

「貴様のようなにアホに振る舞う礼儀などあるわけないだろう」

「だ、だれがアホだ!」

「あれだけ説教しても何も響いていないあたり、アホとしか言いようがないだろう。それよりなぜここにいる?」

「プレとは言えオープンということは、ホテルは開業したのだろう? ならば私も泊めてもらおうと思ってな。侯爵家の嫡男が止まったともなれば鼻が高いはずだ!」


田舎貴族が引き倒されたまま、しりもちをついたまま豪語する姿に、さすがのリュドもあっけにとられていた。

しかし伝えるべきことを伝えなければと気持ちを切り替えて静かに告げた。


「身元があやふやな人間を、ハイクラスの貴族も多数訪れているホテル内に入れるわけがないだろう。そんなこともわからないほどアホなのか?」

「身元なら!」

「自己申告を信じるような馬鹿はここにはいない。今回は何度も街に足を運び、信頼関係を築いて下さっている方々のみを招待している。貴様が入る隙間はないと思え」


その状況の中で到着したマリエラ一家は、身の安全の確保のためにもドラコメサの騎士たちのそばに行って事態が収まるのを待っていた。


「こんにちは、フィオ」

「マリエラ。よくおいでくださいました……って、ごめんね。なんか騒がしくて」

「かまわなくてよ。あの方いつもああだもの」

「……あれで嫡男ってホント?」

「自称は、ね」

「なるほど」


そんな話をこそこそとしていたら、「御託はもういい」というリュドの静かだが怒りを含んだ声が聞こえてきて、みんなの目がそちらに集中した。

するとリュドは再び田舎貴族の首根っこをつかんで引きずるように運び、彼の乗ってきた馬車に放り込んだ。そして中に向かって二言三言話しかけて扉を閉め、マリエラたちに向かって笑顔で挨拶をした。


「お久しぶりにございます。また、このような軽装で申し訳ありません、マイセントラ侯爵家の皆さま。フィオラ様、フォルト様。彼を街の方に連れていきますので、お二方はお客様をお出迎えする準備をしてください」

「わかったわ」

「お気になさらなくて大丈夫よ、リュド殿」

「ありがとうございます」


リュドは優雅に一礼すると御者台に上がり、馬を駆ってロータリーからホテルの敷地外へと出て行った。


「リュド殿の笑顔がとても怖かったのは気のせいかしら?」

「ううん、私も怖かった」

「僕もです。あれは相当怒ってますね」

「そうなんだ」

「あのお馬鹿さんも少しは反省してくださればいいんだけど」

「社交界でお馬鹿さんって呼ばれているのですか?」

「男性陣にはアホって言われています」

「リュドもそう言っていたわ」


ダメダメだろうと子供たちは一つ溜息をこぼした。

その後、残された姉弟が侯爵一家に改めて謝罪をし、ホテルの中へと自ら案内をしつつ、自分たちも着替えと昼食をとる為にオーナールームへと向かった。

昼食を取りながら臨時治療所が落ち着いた報告を受けたので、心置きなくホテルのオーナーとしての仕事をこなすことができたのだった。



同時刻、リュドはイライラしっぱなしだった。

原因の一部が空腹なのは否めなかったが、普段なら何の問題もない程度だった。

しかしアホと名高い田舎貴族を相手にすればするほど、我慢の限界点がどんどん下がっていった。

商業ギルドを通じてランクが上の宿をいくつか紹介してもらい、一行をそこに案内して回った。

しかしランクが上とは言え、貴族専用のホテルには断られてしまい、金持ちの商人が泊まるところや若干お高めの一般の宿にいくつか案内するも、当の本人が小さなところに文句を言いOKをなかなか出さなかった。

ここが最後だと案内した宿も最上階は貴族も泊まれるようになっている一般向けのホテルだった。

しかし街道同様「下賤な平民が多くいる宿など……」と発言したことでリュドの堪忍袋の尾は切れた。


「だったら野営しろ。それならば他の人も目も気にせずにいられるだろう。ただし朝は7時の鐘が鳴るまで敷地外に出るな。命が惜しければな」


そう真顔で貴族一行を脅すと、そのまま湖畔の森を切り開いて作られた野営広場に案内した。

商業ギルドが管理する、冒険者は使えない野営地を念のために抑えてあったのが功を奏した。

一行の他に誰もいない、貸し切り状態の場所に野営の準備をさせた。貴族の坊ちゃんは大声で文句を言っていたようだが、それはすべて無視された。

リュドは田舎貴族の従者を捕まえると案内した宿以外は拒否されていること、ここ以外には泊まれる場所はない事、そして彼の父親である侯爵本人に迷惑をかけないためにも我儘は言わせないようにすることを言い聞かせた。

レストランを使用して周りに迷惑をかけさせないためにもと、夕餉の支度が終わるまで見守ると、リュドはリゾートホテルに再び向かった。


ドラコミリであるリュドは、領地直轄のホテルのオープニングパーティに出席することを、主人姉弟だけでなく常連のハイクラスの貴族たちからも望まれていた。

ホテルの一室で身支度を整え、用意されていたドラコミリの正装に着替え、フィオラたちのいる控室でようやく軽食にありつけた。

その後は夜半まで続くパーティに参加し、フィオラの護衛をしながら貴族たちと会話を交わすという非常に気疲れする時間を過ごした結果、退室した時には精も根も尽き果てていた。


「1週間続く討伐よりきつかった……」

「リュド、本当にお疲れ様。大変だったわね」

「さっき着替えた部屋をそのまま使っていいから、もう休んでください」

「よろしいのですか、フォルト様」

「はい」

「今日はずっと大変だったもの。明日は一日休んでいいわ。もうシフトは組みなおしてあるから」

「……ありがとうございます」

「ユルも休みにしましたから、友人とのんびり過ごしてください。その代わり」

「ホテルの使い心地に関して、きっちりレポートを書いてね」

「承知いたしました」


リュドは言われた通りホテルに泊まり、翌日はユルと一緒にホテルの施設も色々見て回った。

部屋の使い心地から食事からアクティビティに至るまで、二人でああでもないこうでもないと話し合いながら、レポートを書き上げていった。



リュドとユルがリゾートホテルの朝食を満喫しているころ、フィオラとフォルトは野営広場に赴き、昨日さんざん騒ぎを起こしてくれた田舎貴族に「バニョレスへの出入り禁止」を申し渡したのだった。


「嫡男が聞いてあきれますわね。貴公は侯爵家の息子ではあるけど次男で、しかも跡継ぎではないと、貴族院から返事をいただきましたわ」

「身分詐称の上、この街の客である人々に迷惑をかけ続けた貴公を、ドラコメサとして受け入れることはできないと判断させてもらった」

「というわけで、さっさと出て行って二度と来訪しないでくださいませね」


10歳前後の子供たちに畳みかけられて、大人と自負している田舎貴族は憤慨したが、


「子供でも我々がここの領主です」

「国と教会、それと聖竜様に認められた……ね」


との姉弟の言葉に、領主の威令は領地では絶対だと理解している田舎貴族は、何も言い返すことができなかった。



こんな感じで田舎貴族アクシデントは終了した。


夕方にはリュドとユルが帰城し、数枚にわたるレポートと補足の感想を述べに執務室を訪れた。

そこでかわされた会話に……


「そういえば、ユル。昨日の昼にフィオラ様が部屋に飛び込んでこられたということは、扉の鍵をかけ忘れただろう」

「あ!? ごめんね、リュド」

「次からは気をつけろよ」

「うん」

「え? それで終わり!? 私が勝手にハンターギルドに登録しようとしたときは30分しっかり説教したくせに!」

「彼が30分も話を聞くと思いますか?」

「……」

「5分も無理だったので、ユルに関しては一言で済ませるようにしています」

「ずるい」

「フィオラ様はきちんと他人の話を聞ける方ですので、次に何かしたときは1時間コースです」

「えええっ!?」

「私の説教は何かに邪魔されない限り基本1時間ですが、最初の一回はサービスで30分にしているだけですよ」


その場に居合わせたリュドの同期達が、激しく頷いていた。

PS.

ユル「あれ? ボク、(けな)されてない?」

一同「気のせいだ」

ユル「( ˘•ω•˘ )ムムッ」


―――――

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


閑話があともう1話か2話続きます……1つで納められるといいなと思いつつ書いている最中ですorz


気が付けば総合評価が400を超えて、ブックマークも100以上になっていて、とても嬉しくて小躍りしました!

本当にありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ


※あああ、投稿時間の指定を忘れていましたorz 早めの投稿になりましたがお楽しみいただければ幸いです^^;

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