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きっかけは5歳の事件4

「結論から言いますが、フィオラ嬢の母上は呪われています」

「え? 呪い?」

「はい。3年以上は呪われていて、呪いが定着してしまっています」


ジャド魔導師の推測を含んだ説明はこうだった。

ファルレアの体調不良の原因は、体質や生活環境ではなく呪いによるものだった。闇魔法の一つで「病の息吹」という相手を弱らせる魔法で「呪い」と呼ばれる類のものがあり、しかもほんのわずかな魔力で長年にわたり呪いをかけ続けることで、相手に魔法をかけられたと気づかせずに死に至らしめることのできるという、恐ろしい呪術だった。

5年も掛ければ死に至る呪いで、3年以上かけ続ければ体に呪いが定着し、そこで止めても10年くらいで緩やかに死ぬと言われている。

ファルレアの体は呪いが定着している為、3年以上は経っていると判断されたのだった。


「かあさまは、私が3歳くらいの時から夏や冬の初めごろに倒れたり寝付いたりしてました」

「では、それより2年くらい前から、フィオラ様が1歳くらいの時から呪われ始めたのでしょう」

「……フォルトが生まれたから?」

「……それは私には判断できません」


フィオラの祖母は「女の子なんて役に立たない」と公言し、祖父は「跡取りのフォルト以外は必要ない」と言い切る人だった。

最初にうまれたフィオラが女児だったことも二人は不満げにしていたとうわさで聞いたことがあったが、それはたぶん本当だったのだろう。

翌年すぐに跡取りである男児フォルトが生まれて、それはたいそう喜び、盛大なパーティをしたのにという話を親戚から聞かされたことがあった。


(そういえば、1歳ちょっとした頃からおばあさまが近寄ると私が大泣きするようになって困ったと、かあさまが言ってたけど……あのころから呪いが始まってて、感じ取ってたのかも)


かけられ始めて3年で定着するということはフィオラが4才、ファルレアがよく寝付くようになったころに符合する。だが、とフィオラの中に疑問が浮かんだ。


「……その呪いはお医者さまや魔導師さま、回復師さまには分からない物なんですか?」

「医者には無理ですが、魔導師や回復師を名乗るものなら魔力が低くても見抜けます。おそらく彼等も共謀か買収されていたと思われます」


フィオラは愕然として言葉も顔色も失った。

幼いながらに魔導師達を信じ、母親が早く治りますようにと祈ったし、彼らにお願いもしていた。けれど、その人たちに裏切られていた結果、母の呪いが定着してしまったのだ。

裏切りでもないのかと、祖父か祖母か分からないが、彼らに雇われた時点で私と母の敵だったんだとフィオラはやっと気づくことができた。

遅すぎたと後悔の気持ちから涙が零れそうになったが、まだ聞かなければならないことがある。

そう思って一つ大きく呼吸をしてから、フィオラはジャド魔導師と視線を合わせた。


「かあさまはいつまで生きられますか?」


フィオラのストレートな言い様に、今度はジャド魔導師が息をのんだ。高位貴族の子供には教育のたまものなのか、幼くともしっかりした子が多い。だが被害を受けてすぐの子供が、ここまで冷静な態度をとることはほとんどない。

なんて頼もしい子なのだろうと思いながら、ジャド魔導師は包み隠さない意見を告げた。ここまで告げて、今の態度を崩さずにいられるのだろうか?と思いながら。


「正確なことはわかりませんが、今までのデータからすると早くて1年、長くても3年もつかどうかでしょう」

「……そうですか。ありがとうございます」


フィオラは布団をキュッと掴むことで泣くのを我慢した。泣いても始まらない、泣いてもどうにもならないと自分に言い聞かせながら、聞かなければならないこと、頼まなければならないことを頭の中にリストアップした。


「ジャド魔導師さま、サンデス先生、お二人に聞きたいこととお願いしたいことがあります」

「なんですか?」

「かあさまが延命できる方法はありますか? できなくても、かあさまの痛みや苦しみを軽くする方法はありますか?」

「延命の方法は見つかっておりませんが、痛みの軽減については心当たりがあります」

「医学的にも方法は色々ありますな」

「ではそれを後で教えてください。それと」


どちらかと言えばお願いしたいことの方が重要だった。


「これからもお二人にかあさまの往診をお願いしたいんですが、できますか?」

「ふむ。わしは年寄りな上に王宮での仕事が多いので無理ですが、わしの部下の信頼のおけるものを月に一度向かわせましょう」


サンデス先生は優しい声と笑顔でフィオラにそう告げた。

あとで契約を書面にするし、具体的な治療方法や計画を書いた書類も渡すとフィオラと約束を交わしていた。

医師にとっても『この定着した呪いで弱った体を維持するか直す方法』は研究対象になる。だから費用については気にすることはないともフィオラに教えた。


「ありがとうございます」

「では私は、同じく月に一度様子を見に来ると約束しましょう。その時はフィオラ様の様子も診させていただけますか?」

「私?」

「はい」


フィオラはきょとんとした顔を向けてしまった。自分はもう元気だし、見てもらう必要があるとは思えなかったからだ。

しかしジャド魔導師はこう続けた。


「あの時、あなたが叩き出した魔力量はかなり大きなものだったんですよ。この国のトップクラスの魔導師すら凌駕……上回る数値でした。魔力暴走とも取れるその数値を抑えこみ、こうして数日で普通に話せているフィオラ嬢に、がぜん興味がわきましたので」

「……」

「フィオラ嬢の魔力がどう変化するのか、どう伸びるのか、そのお手伝いも……ええ、魔術の先生と思ってくださって結構ですよ」

「でも、たぶん授業料はお支払いできませんよ?」


ドラコメサ伯爵家自体は父親たちの様子を見ると貧乏という訳ではないと思う。しかし、あの父親や祖父が「女の子供」のために教育費を払うとは思えないのだ。

そう判断したフィオラが申し訳なさそうにそう伝えると、子供らしくないその言動が面白かったのか、ジャド魔導師はくすくすと小さな笑いを漏らしていた。


「私の研究のためでもあるので、お金は頂けませんよ」


本当に研究目的なのか、フィオラを安心させるためなのかは分からないが、前世を思い出し今世で魔力を身に着けたいと思っているフィオラには渡りに船だった。


「本当にそれでいいのなら、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」


フィオラがぺこりと頭を下げてお願いすると、ジャド魔導師はフィオラの小さな右手を掬い取り、キスをするようなしぐさをする挨拶を返してきた。

前世日本人のフィオラにはなじみのないその行為に、顔が真っ赤に染まったが、表情だけは頑張って平静を装っていた。

それもジャド魔導師には面白かったらしく、くすくすとさらに笑われてしまったが、気を取り直したフィオラはサンデス先生に顔ごと視線を移動させた。


「サンデス先生もかあさまの事をよろしくお願いします」

「はい。往診の日にわしの手がすいていたら、一緒に参りますからな。ご安心くだされ」

「嬉しいです、ありがとうございます」


サンデス先生は左手を胸に、心臓の上に置いて軽く会釈をする「誓いの礼」と呼ばれる挨拶を返してくれた。

それがフィオラにはとても心強く感じられた。

ブックマークが増えていて驚きました。

読んで頂けて光栄です、とてもうれしいです。ありがとうございます。

のんびりしたペースですが、書き続けますのでよろしくお願いします。

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