閑話 バタバタした休日とお説教1
※若干BL表現が入りますが、何も起こりません。
フィオラ達が領主になり、聖竜が来臨した年に、バニョレスの温泉街では観光客が増え始めた。
秋になり夏の社交シーズンが終わっても、一般人も貴族も温泉とグルメ目当てにぽつぽつと訪れる人達がいた。
しかしまだスタンピードが小規模ながら起きることがある。そして運の悪いことに、それに新人研修の遠征から帰投中のドラコメサの騎士団が巻き込まれ、見事防いだものの怪我人が多く出た。
そのためリュド達領城を守る騎士たちも、外を守る当番に駆り出されていた頃のことだ。
ある日の夜半、無計画に旅をしている田舎貴族(自称・侯爵家の嫡男)が、街道と呼ばれる主幹道路に併設された休憩・宿泊用の広場に文句を言い、そこから出て草原で休むと騒ぎ始めた。
それをたまたま聞きつけた急ぎの荷物を運んでいた配達人が、街についてすぐに警備隊に報告してくれて、たまたまそこに立ち寄っていたリュドも対応することになった。
街から20km離れた広場では、貴族を止めようとするこれまたたまたま居合わせた冒険者と、貴族の従者たちがもめていた。それをリュドたちが田舎貴族側を説得してやめさせた。
それでも当の貴族は「護衛もいるのだから問題ないだろう」と叫んでいたが、「この人数では無謀、この規模なら冒険者を10人は雇うべきだった。死にたくなければ広場を出るな」と一括して黙らせた。
リュドは場所を調整して彼らが野営の準備を終わらせたのを見届けてから街に戻り、バニョレスの街の夜警に戻ったのだった。
しかし、また朝になったら早朝の見回りをしていたアレクから連絡が入った。
田舎貴族が「広い所で過ごしたい」とわがままを言い、「ただの騎士の言うことなんて聞く必要はない」と騒いでいると。
ドラコミリの威光を振るうしか手はなさそうだということで、リュドがまた説教に行く羽目になった。
「平原に見える鹿やウサギはただの食料じゃなくて魔獣だ。学校で習ったはずなのに覚えていないのか? 見えないところには三目狼が潜んでいる可能性のある地域だ。そいつらの餌になりたいのか!」
ときつめに脅したらしい。
ただの騎士が貴族に向かって不敬だと、貴族院に訴えてやると騒いでいたが、
「我が名はリュドルク・ドラコミリ。聖竜様の御座すこの地においては、貴族の息子よりも聖竜の騎士の方が立場が上に決まっているだろうが!」
と、やや怪しい恫喝でさらに黙らせて、諦めさせた。
このまま諦めてくれと思いながら、リュドとアレクは城に戻り、遅くなった引き継ぎを済ませてリュドはようやく自室に戻ることができた。
その少し後、領城の北西側防塔の最上階にあるドラコミリ用の住居にユルが帰ってきた。
料理人の彼は、朝食準備から昼食の下ごしらえまでを済ませると、夜の下ごしらえを始めるまでは休憩時間だった。
早い朝食を取りに来たリュドがこの時間には戻るといっていたのだが、ベッドはまだ空だった。
しかし浴室から音がしているので「ああ、シャワー浴びてるんだ」と判断して、ベッドでゴロゴロしながら出てくるのを待っていると、少ししてリュドはパンツだけをはいて髪を拭きながら戻ってきた。
「大丈夫?」
「昨夜から今朝は最悪だった。なんなんだ、あのアホは。」
朝食の時にも愚痴ったが、あれからまたウダウダわがままを言ってきて皆大変だったといいながらリュドもベッドに転がった。
交代時間にも大幅に遅れるしとブツブツ文句を言っている間に、タオルを受け取ったユルが肩甲骨まで伸びた髪をポンポンと優しくたたきながら拭いていた。
「本当に今日は疲れた」
「じゃあボクが癒やしてあげようか?」
「お願いしていいか?」
「もちろん」
会話を交わしながらリュドはベッドの上で仰向けになり、ユルは鍛えられた腹筋の上にまたがってリュドの赤茶の髪を優しく撫でた。そしてゆっくり顔を近づけようとしたときだった。
『あのアホの居るあたりで、スタンピードが起きるぞ』
聖竜の声がリュドの頭に響き、ユルの動きを制した。
ユルがどうしたのといった顔をしていると、彼にも聖竜の声が届き始めた。
『城から7Kmくらいかのう。草原に出ておるぞ。それにアホの馬車から魔物を呼び寄せる香りも出ておる』
なんてことだと思うが、アレクが様子を見に行くと言っていたから大丈夫だろうと答えようとした時だった。
『それと、すまんw』
最後に笑いが明らかについている声で謝られて何事かと思っていたら、いきなりドアが開いた。
「リュド、大変よ! 聖竜様がスタンピードが起きるって!」
と、フィオラが飛び込んできた。
「あれ? ユル?」
「おはようございます、フィオラ様」
ニコニコ笑いながらリュドの上から降りたユルが、フィオラとフィオラを止め損ねたシアの前にやってきた。
「ボク、リュドと一緒の部屋でいいからって料理人用の部屋を貰わなかったんだけど、フィオラ様知らなかったっけ?」
「あ、そうなのね。初めて知ったわ。って、それよりリュド……? 何してるの?」
未だパンツ一枚のままのリュドは置いてあった弓に矢尻の大きな矢を4本つがえると、窓から上半身を乗り出し、
「篠突く業火」
と唱えながら、大空に向かって矢を放った。
矢はあり得ない速度で、それこそフィオラが過失で空に放ったオレンジのように飛んでいった。
そして通信機に向かって話しかけた
「アレク、篠突く業火を街道と森の間の草原にはなった。10分以内に皆を避難させろ」
フィオラが通信機の向こうから悲鳴というか怒声が聞こえたのは気のせいじゃないだろうなと思っていると、視界を塞がれた。
「フィオラ様。男性のほぼ裸の姿を見てはなりませんし、少しは恥じる姿をお見せになるようにしてください」
「あ、ごめんなさい、シア」
「いえ、もう遅いので」
「?」
「シア、キエラさんに報告の上、馬車の用意を」
「はい」
「ユル、出かけてくるから戸締まりを頼む」
「OK、リュド。頑張ってね」
そうやって話している間に手早くリュドはズボンとシャツを身につけていた。
「フィオラ様は侍女長と一緒に現場に来てください。怪我人が出ているそうなので。フォルト様にもバニョレスの街での受け入れ体制を整えるようにお伝えください」
「え? 私が現場に行っていいの?」
「時間がもったいないので、フィオラ様には馬車で侍女長から説教を受けてもらいます」
「えっっっ!!!」
ブーツと剣帯と大剣も身につけたリュドが窓枠に座って確認をした。
「帰ってきてから私が説教してもよろしいですが?」
「……キエラにします」
「では、お先に」
そう告げると、窓から飛び出していった。
一方草原ではアレクが焦っていた。
篠突く業火はまだ開発中の魔法なので、実践で使うなんてありえないものだと知っていたからだ。
だがすでに放ったという話なので、その場にいたドラコメサの騎士と冒険者たちに火の雨が降ると伝えて、とにかくみんなを避難させた。
バカな貴族は殴ってでも連れて行けと叫んだら、何か文句を言っているようだったが使用人たちに引きずられていった。
そうこうしているうちに、魔獣の群れが森から現れ、上空から火の雨振ってくる気配を感じた。
街道での争い事なのでと呼び出されていたデマロが、一つため息をついてからアレクに提案した。
「こちらも開発中の魔法を使うか」
「それしかないな」
他の人たちが街道まで下がったのを確認すると、雨が降ってこないと思える場所で魔法を展開した
「「守りの壁!」」
守りの盾よりも大きく分厚い魔法障壁を、魔獣に向かって水魔法のデマロが前方に、土魔法のアレクが若干後ろ側に展開した。
そして馬でたどり着いたリュドが「炎の軌道」とつぶやくと、結構広範囲に広がっていた火の雨が地上にたどり着く少し前に魔獣の群れのいる範囲に集約された。さらに、
「冷気」
と呟くと、リュドたちのいる範囲の空気の温度が一気に下がった。
だが次の瞬間、到達した炎の雨によって周りの温度は一気に上がった。
魔獣たちの絶叫と共に火をまとった様々なかけらが飛んできたが、それは水と土の守りの壁によって防がれ、それらが落ち着いた頃にデマロが「鎮火の雨」と叫び、草原に雨を降らせることでほぼ火を消した。
「守りは任せた」
皆にそう告げたリュドは大剣を抜くと、難を逃れた魔獣に向かって突っ込んでいった。
まだ水蒸気も熱も落ち着かない戦場に突っ込んでいけるのは、冷気を身にまとわせたまま戦えるリュドぐらいなものだろうが……。
「あいつ荒れてるなあ」
「昨日の夜から大変だったんだろう?」
「それはよくあることだからなあ……ユルとの時間を邪魔されたか?」
「それはあるかもね」
そうアレクとデマロにぶつぶつ言われるほどの荒れっぷりだった。
スタンピードと言っても規模が小さかったおかげで10分程度で片が付き、土や魔獣の中でくすぶっていた火もデマロの水魔法で消し切った。
魔獣の遺体処理を――リュドの攻撃魔法でほぼ燃え尽きてしまい、残っているのは魔石・骨・牙といった炎に強い素材だけだが――それらと引き換えに冒険者に頼み、リュドたちは街道へと戻った。
そこにはすでにフィオラが到着しており、治療の優先順位づけも済み、光魔法による怪我人の治療にあたっていた。
ここで治療ができない人は、医者が同乗した荷車で街に運ぶことになったのだが、その荷車で自分を運べと田舎貴族が騒いでいた。
リュドはそんな田舎貴族の首根っこを捕まえると、荷車を出させ、街道の端で説教をし始めた。
「重傷人が先に決まっているだろうが。怪我もないならここで代わりの馬車が到着するのを待っていろ」
「うるさい、早く街について湯を浴びたい。こんな埃にまみれたままなんて……」
「自業自得だろう。なぜ何度も止めたのに草原に出たんだ」
「下賤な平民が多い道など行けるか!」
「そんな性格だから命を狙われるんだろうな。貴殿の乗っていた馬車から魔物寄せの香りが出ていたそうだぞ」
「な!」
そこから1時間、昨夜の話から始まり、草原に出てから香りが出たということは使用人に仕掛けられた恐れがある話や、いかに自分の性格が悪いために命を狙われているのか等々、反論しようとする田舎貴族を遮ってリュドは説教をし続けた。
そうしているうちに魔物によって一部壊された貴族の荷車の補修が済んだので、説教に疲弊した主人を乗せて街へと移動していった。
それからさらに1時間してけが人も冒険者たちも街に移動できることになったので、リュド達も移動することになった。
フィオラ達を乗せてきた馬車も怪我人と、世話人としてキエラを乗せて先に返していたので、リュドが乗ってきた馬に女主人を乗せて騎士隊で周りを囲んで街の臨時治療所に移動することにした。
その移動中にフィオラが発した無邪気な質問に、周りが一瞬凍った。
「そういえば、リュドはユルと同室なのね。なんで二人でベッドの上に居たの?」
「あの時間、ユルは朝食の支度と昼食の仕込みを終えて休憩に来るんです。時間が合えばマッサージをしてやっているのですが、今日は私の方が疲れていたので、逆にお願いしている所でした」
「なるほど。二人とも肉体労働がメインだから、マッサージは重要よね。これからも頑張ってね」
「はい」
こんなリュドのごまかし方と、フィオラの納得の仕方に、皆の肩が次々と震えていった。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
そして小ネタうんちく。
※『篠突く業火』は、アレクが『浮遊』で空の上に5分以上飛ばした小石が、燃え溶けながら地上に落下したのを見てヒントにした新しい攻撃魔法です。
※守りの壁は『篠突く業火』の話を聞いた3人が反対したら「じゃあお前たちが、守りの盾を壁レベルにすれば何とかなるんじゃないか?」とリュドが言ったために開発している最中の魔法です。分厚くイメージするのが案外難しいようです。
※警備隊がいるのになぜドラコメサの騎士が夜警をするのかというと、騎士隊は外に対して警戒をしています。警備隊が街中の保全のために見回りをし、騎士隊が魔獣や盗族などの外からの攻撃に備えて見回りをしています。




