フィオラ10歳 親子の断絶4
※前話を読み飛ばされた方への補足。姉弟は盗賊団に襲われたがそれをリュド・ガルシオ・アレク・デマロの4人で撃破。数人を残して殺処分。ついでにそこにいた黒幕だった前ドラメスブロ子爵も、息子であるリュドルクに葬られています。
「四人ともお疲れ様。帰ったらゆっくり休んでね」
「ところでフィオラ様、彼らの悲鳴は聞こえましたか?」
「いいえ。エリサに風魔法で遮音されたから聞こえなかったわ」
「……僕もです」
漸く馬車から降りてきたフォルトもリュドの質問に返答し、それに大人たちがほっとしたのが読み取れた。
「人間の断末魔なんて聞かない方がいいですからね。よかったです」
「そうね、エリサのお腹の子にも聞かせたくないものね」
そういうとフィオラは、本来なら淑女としてやってはならないことだが、隣に立っていたエリサに抱き着いて彼女の膨らんだお腹に頬を寄せた。
「あのね、母様がキエラの結婚と子供を楽しみにしてたのがよくわかるの。私もエリサの赤ちゃんに会えるのがすごく楽しみなの」
「フィオラ様……ありがとうございます。これからも、この子と共にフィオラ様にお仕えいたしますので、よろしくお願いいたします」
「私の方こそよ」
そうこうしているうちに馬車に馬が再び括り付けられたので、フィオラたちは領城に無事に帰ることができた。
しかし領城に帰ってものんびりできなかった。
リュド達が牢屋に放り込んだ生き残りを起こして尋問したり、家令たちに説明したり、書類を作って貴族院に送ったりと事後処理が大変だった。
フィオラはただでさえ就寝時間が遅くなったのに、ベッドで横になっても色々もやもやしてしまい、なかなか寝付けなかった。
翌朝起きたときも頭はすっきりしていなかったし、時計を見たらすでに10時を過ぎていてかなり驚いた。
今日の当番侍女のシアに起こさなかった理由を聞けば家令の命令だと言われてしまった。
フォルトも先ほど起きたらしく、着替えを終えたころにフィオラの部屋を訪れた。
朝食としても昼食としても変な時間だけど、お腹がすいたから何かつまみたいと思った二人はキッチンに行った。
キッチンではファビアが部下の料理人たちに指示しながら昼ごはんの準備をしていた。
「おはようございます、フィオラ様、フォルト様。食事を用意している間に果物でも食べますか?」
彼女の優しい声と笑顔に癒されながら果物を提供して貰っていると、デマロとガルシオがキッチンに現れた。
口々に姉弟に挨拶をするとキッチンの作業台に向かい、サンドイッチを作ったり、紅茶をいれたりしていた。
「何をしているの?」
「ヨゼフさんにリュドとアレクを含めた我々四人は本日休むように言われました」
「それで今日休みの面子で温室でのんびりしようという話になったんです。で、我々が食事を用意すると立候補したんですよ」
「ですので、私が飲み物を、ガルシオが食事を準備している所です」
「それだけじゃ足りないでしょ? これも持って行って。今日の朝ご飯用の鶏肉と果物と焼き菓子を取っておいたから」
ファビアが指さす先には少し大きめのバスケットが用意されていた。
それを受け取って作ったサンドイッチをその上に乗せたガルシオがファビアに問うた。
「お前はどうするんだ?」
「フィオラ様フォルト様に食事をお出ししたら合流するわ」
「わかってるだろうが」
「はいはい、重いものは持ちません」
ガルシオは「ならいい」と妻に告げ、「よろしければご一緒しましょう」と姉弟を誘ってから、エールの小樽を含めた飲み物類を乗せたワゴンを押すデマロと共にキッチンから出て行った。
話からするとファビアも今日は朝番だけでお休みだったらしい。姉弟がなかなか起きてこないので、この時間までここにいたようだった。
フィオラは申し訳ないからご飯はシアたちに用意してもらうと言おうとした時だった。
「ファビア、妊娠したんですか?」
「はい、フォルト様」
「ええ!!!」
「フィオラ様、エリサさんもリュド先輩もここに居なくてよかったですね」
今日の護衛当番のトリアに即座に突っ込みを入れられて、フィオラは笑ってごまかすしかなかった。
でもそっかーと、ガルシオとファビアもお父さんとお母さんになるんだーと、フィオラは胸が熱くなった。
「おめでとう、ファビア。元気な子が生まれてくるように聖竜様に祈っておくわ」
「ありがとうございます。すでに安定期に入っておりまして、お二人のお誕生日の頃に生まれる予定です」
「素敵。とりあえず今は、ファビアにちゃんと休んでもらうためにも、ご飯はシア達に用意してもらうわ」
「僕たちも合流しますから、先に行ってその旨みんなに告げておいてください。無礼講だとも」
「わかりました」
ゆっくりとした足取りでファビアが温室に向かうのを見送り、シアとカルスでフィオラたちのブランチと自身たちのランチをカートに乗せると、皆で温室に向かった。
するとそこではすでに宴会が始まっていた。
(お花見?)とフィオラが思ったのも無理はない。花壇の間の大理石でできた通路にカーペットのようなものが敷かれており、そこにクッションを持ってくるなど思い思いにくつろいでいた。
リュドとアレクに至っては、ベンチの足に大きめのクッションを立てかけて、そこに寄りかかるようにしていた。
「リュドとアレクは王様なの?」
「王様って! いいですね、それ。ご一緒しますか?」
「では、フィオラ様とフォルト様は、王様の間にどうぞ」
ゲラゲラ笑うアレクと少し元気の無いリュドに誘われて二人は同じくベンチに寄りかかるように座った。
あたりを見回せば4人の騎士以外にもユルとオヴィディオがいて、結婚しているデマロとガルシオの家族も一緒に居た。
二家族は普通にくつろいでいるようだったが、アレクとリュドは少し様子がおかしかった。
さっきからずっとエールを飲むばかりで、食べ物に手を付けようとしていなかった。それどころか、それぞれユルとオヴィディオに差し出されたものを渋々食べている感じがした。
普段は人の2倍も3倍も食べる二人がどうしてと見つめていたら、デマロが理由を教えてくれた。
「二人は昨日、初めて人間を手にかけたので。今日は食欲も出ないのでしょう」
「おい」
「本当の事だろ? まあ、俺らにも経験があるから」
「そうか」
どういうことかと詳しく聞くと、リュドとアレクは授業や訓練で対人戦闘をしてきたものの、実践は初めてだった。
冒険者ランクAのリュドがと姉弟が疑問に思っていたら、「魔力が強いと、魔法で制圧できますので。剣で命を奪ったのは初めてです」と本人が説明してくれた。
ちなみにデマロは海賊を、ガルシオは村を襲う盗賊を仕留めた経験が何度もあるので、今更食欲が落ちるほど心が痛むことは無いと語った。
「最初はしょうがないので……そう、お二人が初めて魔獣を倒した時と同じです」
「相手が人間なんで食べるわけにはいきませんけどね」
「なんだそりゃ」「そりゃそうだ」とアレクとリュドは大笑いしていた。大笑いしながら、涙も流しているようだった。
シアも「私も経験がありますが……最初はどうしてもきついです」と言いながら先輩たちを見て、シアの夫でフォルトの警護当番のリアムも「慣れることはありませんが、乗り越えられるようにはなります」と義理兄たちを見ながら姉弟に語ってくれた。
それを聞いたフィオラはフォルトをアレクの方に体をむかせて突き飛ばし、自分はリュドに抱き着いた。
「えっ!?」
「!! 姉さま?」
「フィオラ様?」
「ふふ、二人が守った命がここにあるわよ。それで元気を出してね」
「ああ、そうですね。4人があの場に居なければ、僕も姉さまも死んでいましたから。命の恩人です」
姉の行動を理解した弟も、そのままアレクにくっついてギューッと抱きついた。
「私たちの温かさが今もあるのは、皆のおかげなんだから、誇りなさい」
「これは命令だ」
「正直これほど後からきつくなるとは思ってもみませんでした」
「でも、そうですね。ええ、守るべき主人をしっかりお守りできたと誇らしく思えば、気分が少し楽になった気がします」
二人の騎士は幼い主人の頭をひとつ撫でると、そのままそっと抱きしめて命の暖かさを確かめた。
「あなた方が人を殺めずに済むように、我々が全力でお守りしますよ」
「ええ、ちゃんと守られておくわ」
「それにもしもへこんだ時は言ってください。同じように抱きしめますから」
「その時は頼みま……頼む」
これで落ち着いたのか、リュドとアレクは自主的に食事に手を伸ばすようになった。
そこからはのんびりとしたピクニックのような宴会を楽しんだ。
食事が済んだデマロの子供が遊び始めると、フィオラたちにかまい倒されて、1時間後にはすっかり夢の中だった。
こんな感じでだらだらと、日が傾くまで皆でゴロゴロして心身をいやしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
どこまで書こうか悩みましたが、騎士だからと言って人を殺して平気ではないということを入れたかったので、皆でのんびりしているシーンも書きました。
やはり魔獣討伐とは違うよねって。
いくら学校でそのあたりの心構えを教え込まれているとしても、最初はやはりきついでしょう。




