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フィオラ10歳 未来の王太子妃が決定したようです2

それから3日後、体調を取り戻したマリエラが領城を弟と供に訪れ、顛末を語ってくれた。

毒を盛った侍女は、同じく第一王子の婚約者候補だった娘を持つ『とある侯爵家』のスパイだった。

しかし、その証拠は一切なく貴族院に訴え出ることはできないので、両親の方から匂わせる発言をその侯爵家の人に告げて、釘を刺すくらいしかできないとの話だった。

ただ、これを機に使用人をもう一度洗い直すこととなったと、長く仕えてくれていた侍女がスパイだったのはショックだが、これも王太子の婚約者としていい経験になったと、マリエラは語っていた。


「これからもこういうことはあり得るから、心しなさいと母に言われてしまいましたわ」

「そうなのね。王太子妃ともなると色々と大変ね」

「あら、フィオもフォルト君も気をつけないとならないのではなくて?」

「え? どうして?」

「あなたたちは聖竜様の使者ということで、伯爵家でありながら貴族としては高位の貴族と位置づけられているわ。下からも上からもやっかまれるのではなくて?」

「そう……かも?」

「そうですね。特に姉はドラコメサとの、ひいては聖竜様との関係を持とうとする貴族に嫁として狙われそうですね」

「その可能性はあると思いますので、私と婚約しておきますか?」

「え? クレメント君? 何言ってるの?」

「あら、おかしな話ではなくてよ。マイセントラ家としてはいい縁だと思うもの」

「えー。でもクレメント君のことはフォル同様、弟としか見られないから……ごめんね」

「あーあ、振られてしまいました、姉上」

「残念だったわね」


そんな会話でクスクスと笑いながらも、うわべを飾る笑みを湛えてはいるものの、好調とは言い難いようだった。

しかもそれに追い打ちをかけるようにリュドが毒に対する報告をし始めた。


「そういえば医師に頼まれて、マイセントラ嬢の体内から抽出した毒の解析をこちらでも行いましたが、10年かけて体を弱らせる成分も混入していました」

「そんな毒があるの?」

「はい。闇の息吹の毒薬版のようなものです」


その言葉にフィオラの顔は真っ青になった。

闇の息吹は自身の母を死に追いやった呪いとも言える魔法だ。


「フィオラ様、こういう時こそ顔に表情を出してはなりません。フォルト様はよく我慢しました」

「2歳の時から表情を抑える訓練をされていたからね」


貴族としては正しいが、人としてどうなのかという会話が交わされている横で、もう一組の姉弟も表情を無くしていた。


「少し見習ってください。マイセントラ殿も。マイセントラ嬢は特にです。王太子妃ともなれば笑顔で隠す(すべ)を身に付けてください。」


そんな子供たちに容赦なくリュドの説教が始まった。

子供といえどもハイクラスの貴族は足元をすくわれるようなことがあってはならないと、笑顔や無表情という武器を携えるようにと、子供たちが家庭教師から教わっていることを更に畳みかけた。

そんな中、少女二人は目で会話をしていた。


(フィオ、ドラコミリ殿って)

(説教癖があるのよ)

(……あなたも大変ね)


とは言え、マリエラを元気づけることがお茶会がメインなので、説教は5分もかからず終わった。


「これからは気を付けますわ。それよりもドラコミリ殿、わたくしのことはマリエラと呼んでいただけたら嬉しいですわ」

「私のことも、どうかクレメントと」

「了承いたしました。どうか私のこともリュドと。敬称は不要です」

「ありがとう、リュド」

「これからもよろしく、リュド」

「こちらこそよろしくお願いいたします、マリエラ嬢、クレメント殿」


そんな会話を交わしている間に、エリサとユルがお茶会の最終準備を終えていた。


「お茶の準備ができました」

「温かいお菓子の用意もできました」

「どうぞ鑑定を行ってください。その方が皆様も安心できますでしょう」


最後にそう答えたのは家令のヨゼフだった。

それにこたえるようにマリエラの侍女の一人とリュドが鑑定を行っていた。その時だった。


「それと、フィオラ様はもうオレンジの話はされたのですか?」


そのユルの何気ない質問に、ドラコメサの護衛陣が噴き出した。


「お前たちみんなアウトだ」

「何でお前は平気なんだ」


他にもメイドが数人肩をふるわせていたが、吹き出さなかったので、リュドはスルーしているようだった。


「俺だけじゃない、エリサさんたちも平気だろ?」

「マリエラ嬢を元気づけるための話題といったら、一番旬の話題はそれですから」

「心構えがあれば笑わずにすむだろう」

「まだまだ修行が足りないようだねえ」


リュド、エリサ、カルス、ヨゼフに畳みかけられて、他の使用人たちはぐうの音も出なかった。


「フィオラ様もフォルト様もよく我慢できましたね。ところでフィオラ様、説明はどちらから?」

「……リュドに任せるわ」


リュドは加重と軽減の魔法について説明した後に、比較的容易な加重の魔法から教えたと、それで果実類をうまく絞れるようになったフィオラに軽減の魔法も覚えたいとねだられ教えたと告げた。

小石が5分以上落ちてこないのは危険だとすでに知っていたリュドは、フィオラに破棄予定のオレンジを渡した。

フィオラがそれを軽減魔法で()()()()()としたら、そのまま空へと飛んでいってしまった。

すごいスピードで。

しかも10分くらいじっと待っていたら、聖竜の声が二人とその場に一緒にいたフォルトに聞こえてきた。


『フィオラ。おぬしの投げたオレンジは、空高く飛んでいって戻ってくる途中で燃え尽きたぞ』


その言葉にフィオラは真っ赤になって「えええっ!」と叫び、フォルトとリュドは頑張って笑いをこらえていたため肩が震えてしまった。


「そんなことがありました」


飛んでいったオレンジと、燃えながら落ちてくるオレンジを想像したらやはり笑えたのか、マリエラたちの肩も細かく震えていた、

フィオラはすました顔で我慢していたが、生来の負けん気がそこで発揮されてしまった。


「あれからリュドと一緒にイメージの仕方を変える努力をしているの。そろそろうまくいくはずだわ」


そう言いながら目の前に置かれていた丸ごと一個のオレンジを手に取ると、再度軽減魔法にチャレンジしてみた。


「軽減」


フィオラがそう唱えた瞬間、オレンジはあり得ない速度で真上に飛んでいった。

ぽかんとそれを見送るフィオラと、まだだめかとため息をついたリュド以外は、目の前で実践されてはさすがに我慢できなかったのか、笑いがこぼれていた。

そのうえ『また燃えておるぞ』という聖竜の言葉をリュドがみんなに伝えたものだから、爆笑の渦に包まれた。


「ふふ、ありがとうフィオ。おかげで楽しい気分になりましたわ」

「わざと失敗したわけじゃないわ。今度こそ絶対にできると思ったのに」


またもやオレンジがすっ飛んでいったことにショックを受けたフィオラを、そのおかげで事件のショックが和らいだマリエラが椅子から立ち上がって抱きしめて慰めていた。

その横でユルがリュドに何気なくかんだ疑問を投げかけていた。


「ねえ、何で飛んでっちゃうの?」

「フィオラ様のいうところの重力をなくしているからだろうな」

「?? 軽減って浮かせるんじゃなくて、ゆっくり落ちるイメージなんじゃなかったっけ?」

「……そう言われればそうだな」


マリエラの腕の中でその言葉を聞いていたフィオラは、あんぐりと口を開けて驚いていた。

確かに浮かせるにはそれにかかっている重力をなくすというよりプラスマイナスゼロにする必要がある。

でもフィオラにはそこまで微妙な想像ができないから、オレンジにかかっている重力がどれくらいかを理解する能力がないから、飛んでいってしまったのだろう。

だったらユルのいうとおり「ゆっくり落ちる」姿を想像した方がいいのではと初めて思えた。


「もしかしたらうまくいくかも……マリエラ、ちょっとごめんね」


フィオラはマリエラの腕から抜け出すと、立ち上がってオレンジをもう一つ手に取って、高く掲げて「軽減」と魔法をかけた。

そしてそのオレンジを手から落とすと、それはスローモーションのように、羽が揺れずにのんびりまっすぐ落ちるのと同じように地面に優しく落ちていった。


「できた!」

「すごいわ、フィオ」

「なるほど。ゆっくり落ちるイメージの方が重要だったんですね。ありがとう、ユル」

「へへっ」


こうしてマリエラたちを元気づけるためのお茶会は大成功に終わり、リュドは軽減魔法の理論の再提出をし、軽減魔法も王宮魔道士団に認められ広く知られることとなった。

PS.

ジャド「リュド、これを機会に魔道士ランクをSにするって話が出てるんだけど」

リュド「今のままでいい」

ジャド「だよねー。そう伝えておくよ」

リュド「ああ、そういえばこんな魔法もできた」


『浮遊』


ジャド「すごいね。綺麗に浮いてるね」

リュド「前の軽減の応用なんだが」

ジャド「たぶんねえ、君みたいに器用で魔法の想像力が高い人間にしかできないよ、これ」

リュド「……じゃあ提出する必要はない?」

ジャド「僕用に書いて♪」

リュド「いくらで買う?」

ジャド「君は本当にがめついね……」

リュド「魔道士だって無料(ただ)じゃやらない……なんだろ?w」

ジャド「ちっ」

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