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フィオラ10歳 未来の王太子妃が決定したようです1

※誤字報告ありがとうございます(本当に助かります)。

※自害する表現が入っています。

2月に入り、次のドラコメサの供儀の日までまだ10日ほどあるころに、マイセントラ侯爵一家がバニョレスを訪れてくれた。

フィオラは、ヴァリエレ公爵夫人伝手に知り合ったマイセントラ家のマリエラと手紙でまめにやり取りしており、彼女がこうしてバニョレスに保養に来た時には必ず会っていた。

そのマリエラは8歳の時に第一王子の婚約者候補に選ばれており、婚約者としてふさわしい者を選定する儀式という名の研修のために、二か月ほど王宮の離宮に滞在していた。

その選定の末にマリエラは第一王子の婚約者に、ヴァリエレ公爵家のマグダレナは第二王子の婚約者に無事選ばれた。

その上、第一王子の立太子も決定し、自動的にマリエラは王太子妃になることが決まったため、3月からはその為の教育も始まるということだった。

だからその前に、研修の疲れをとるためもあって、家族でバニョレスの別荘を借りて滞在することになったそうだ。


「お疲れ様でしたと言うべきか、これからもお疲れ様というべきか」

「とりあえずはお疲れ様かしら」

「お疲れ様、マリエラ」

「ありがとう、フィオ」


フィオラと同じく10歳の彼女は、フィオラとは違ったタイプのというか、いわゆる王道の悪役令嬢のような少女だった。

卵型の顔に白い肌、フィオラより大きいけれど同じく少し釣り目で緑色の綺麗な瞳と、見事な縦ロールの金の髪。

口紅を塗っていないのに赤い唇がまた幼いながらに彼女の美しさを際立たせていた。

縦ロールをどうやって維持しているのか気になったフィオラが聞いてみたところ、毎晩布を使って形を整えているとのことだった。

すでにこの世界には魔道具のヘアアイロンもあるし、ビューラーまで存在する。たぶん美容器具に詳しい転生者がいたのだろう。

けれど熱を加えると髪の毛が痛むのが嫌なので、マリエラは毎晩幅広のリボンを使って、一晩かけてロールを形成しているという話だった。

そういう努力を自らは一切していないフィオラからすると、マリエラは素晴らしい女性だなと感心しきりだった。


それ以外にも、マリエラは今より幼いころから将来の王太子妃になるべく努力しており、その一つが言葉遣いだった。

マリエラはどれだけ親しい相手に対しても言葉遣いを崩さない。常に「お嬢様言葉」で話しかける。フィオラのように崩れた言葉遣いは一切しない。

友達にもそれでは寂しいとフィオラが言ったところ、親しい間柄しかいない場所では『愛称を呼び捨て』で言うことで手を打った。

フィオラは、本当はマリエラも愛称であるマリかエラで呼びたかったのだが、「それを許すのは将来の旦那様だけと決めておりますの」なんて可愛いことを言われてしまったので諦めた。


「クレメント君も来てくれてよかったわ。フォルが昨日からすごく楽しそうにしてたの」

「クレメントもですわ。フォルト君と過ごすと色々勉強にもなるけど、話していて一番楽しいと言っておりますもの」


二人はいまフォルトが熱を入れている直轄農園に行って、視察という名のピクニックを楽しんでいる頃だった。

そういえば敬称に関して、『君』や『さん』は翻訳機能が適当に割り振っているのかと思っていたが、そうではないと家庭教師の授業の中で知ることができた。

男性女性、成人未成年、幼い子や目上の方などなど、日本語並みに敬称があった。もちろん、爵位が分かっている場合は爵位を付けなければならないが。

例えばドラコメサ伯爵令嬢は『ミス・グラ・ドラコメサ』と聞こえる。

フィオラの場合は『さん』や『様』と口から出そうとすれば、勝手に翻訳してもらえるのでとても楽だったが、爵位だけは別なのでそこはきちんと記憶するように努力していた。


閑話休題。

色々な雑談をしながらマイセントラ侯爵が借りた別荘の裏庭をのんびり歩いていたら、目当ての東屋にたどり着いた。

そこはすでにお茶会の用意がされており、テーブルにはいろいろなお菓子が並んでいた。


「あ、これ」

「ええ、昨日さっそくカフェ・リュドルクに行きましたわ」


『カフェ・リュドルク』はフィオラとユルが共同出資をして出店したカフェだった。

二人で考えたスイーツを販売しつつ、お茶を楽しむスペースも用意されているお店で、生クリーム系のスイーツはまだそこの店内でしか提供されていない。

お互いに気楽に過ごせるようにと、庶民用のスペースと護衛を連れてくる立場の人のスペースをショーケースカウンターを挟んで左右に分けた。

そんな店の名前を決めるときに、フィオラもユルも自分の名前を出すのを嫌がり、ドラコメサの名も一応個人店舗になるので避けた方がいいとフォルトに諭された。

それならと二人の頭に浮かんだのがリュドの名前だった。

看板が取り付けられるまで本人に黙っていたらやはり怒られたが「リュドの名前じゃなくて、この地の英雄の名前からとった」と切り抜けた。

そんなカフェ・リュドルクのお持ち帰りスイーツのメインは、果物を使った一口サイズの焼き菓子だった。

フィオラの目の前には見慣れた、でも大好きなアップルパイやチェリータルト、ナッツをふんだんに使ったパウンドケーキが並んでいた。


「このクッキーは見たことがないわ」

「これはわたくしの最近のお気に入りですの。王都のお店から取り寄せている、はちみつとカモミールのクッキーですわ」

「美味しそう、楽しみだわ」


二人が席に着くと、侯爵家のメイドたちが紅茶をカップに注ぎ二人の前に出してくれた。するといつものようにリュドが「失礼します」と言いながら、食べ物飲み物を鑑定しようとした。


「何をしようとしているのですか!」


それを止めたのはマリエラの侍女だった。


「クレオ、どうしたの? いつものことじゃないの」

「いつもは外や領城でしたが、今日はマイセントラ侯爵家の領域でのお茶会です。ここで毒の鑑定をするのは無礼に当たります」

「あら、わたくしは気にしないわ」

「マリエラ様、それは……」

「それにフォルト君が心配してやらせているのでしょ? ドラコミリ殿、かまいませんわ。どうぞ鑑定して頂戴」

「ご厚意に感謝いたします、マイセントラ嬢」


リュドは感謝の意を告げると、いつも通り飲み物と食べ物全てを鑑定した。

普段ならすぐ終わるのに、リュドは何度も鑑定を繰り返した。その様子にとフィオラは疑問を感じた。


「リュド、何かあった?」

「はい、気になることが。マイセントラ嬢。こちらのお茶とお菓子はマイセントラ嬢のお気に入りの物ですか?」

「ええ、お茶はもともとですけど、こちらの焼き菓子は最近気に入って食べているものですわ。このお茶に特に合いますの」


するといきなりその菓子と茶を口に入れ飲み込むと「硬化抽出」と言いながら口から何かを吐き出した。

リュドの手のひらには小さなかけらがあり、それをさらに鑑定した。

そして、その結果……。


「特殊な薬が使われておりますが、いったい誰が用意したものですか?」

「それは」


と、マリエラが視線で答えるも、侍女はすでに逃げ出そうとしていた。だが彼女は侯爵家の警備の騎士にしっかり捕らえられていた。

しかしクレオと呼ばれた件の侍女は、騎士の腕の中でくぐもった声をあげ手足をじたばたとさせると、そのまま体から力が、魂が抜けた。騎士が確認すると絶命していた。

その様子を、顔を真っ青にしながらもマリエラもフィオラも一言も発さずにただ眺めていた。

その脇でリュドと騎士が死体の見聞をしていたが、どうやら奥歯に毒を仕込んでいたらしく、歯が破裂し、口の内側に毒々しい液体がこびりついていた。


「情報を流さないために自害するとは……古くから仕込まれたスパイのようですね」

「そのようだ。われらの不徳の致すところだ。しかし鑑定も毎回していたのに、なぜわからなかったのか」

「それは『食べ合わせ』だからだと思います」


「食べ合わせ?」と、その場にいた皆が驚きの声を上げると、リュドはまだ飲まれていなかったフィオラの紅茶の中に、砕いたクッキーを入れてスプーンで混ぜた。

そしてそれをフィオラの目の前に差し出すと鑑定してみてくださいと伝えた。


「これ、この間リュドに覚えるようにって言われた合成麻薬が入っているわ。でも他にも変なものも入ってるのはわかるけど、正体が分からないわ」

「不妊薬です。薬の知識があるものにはわかると思うので、あとで鑑定させるといいでしょう」


そういいながらリュドがティーカップを騎士たちの方に差し出すと、騎士の一人がそれを受け取り、急いで館の方へ走っていった。


「不妊って」

「長く服用すると不妊になると言われている成分です。それを飲ませ続ける為に緩い合成麻薬を使っているのでしょう。この程度の量だと、禁断症状は起きませんが依存性はある程度できるので」


そんな二人の会話を耳にしたマリエラの顔色は、どんどん悪くなっていった。


「マイセントラ嬢。このお菓子はいつから提供されておりましたか?」

「……王宮から家に帰った後ですわ。思い違いでなければ、正式に婚約者と決まった翌日からだわ」

「ではまだ一ヶ月も服用されていませんね。医者に診てもらった方がいいとは思いますが……ここで、私の水魔法である程度体の中を浄化することもできますが、いかがなさいますか?」

「ドラコミリ殿を信じますわ」


その言葉を肯定と受け止めたリュドはマリエラと向かい合う位置で立膝で座り、自分とマリエラの手袋を外すと、小さく細い両手をそれぞれ掬い取り聖竜に祈りを捧げた。


「聖竜様。どうか未来の国母たるマイセントラ嬢に救いを。デトックス」


祈りの言葉にリュドの右手の甲が淡く光り、その光はリュドの手を通してマリエラの体に伝わり、それがリュドの左手に戻ってきた。

その光が消えると同時にリュドもマリエラも倒れそうになり、騎士がマリエラの体を受け止めると彼女は気を失っていた。


「マリエラ様!」

「マリエラ! リュド! 大丈夫?」

「大丈夫です。体に蓄積されていた毒を排出するのは魔力も体力もかなり使うので、マイセントラ様はそのままお休ませ下さい。私は……」


そういうとリュドは腰についているポーチから小さな瓶を取り出すと「抽出」と唱え、ドロッとした液体を指先から出してその中に落とした。


「これで大丈夫です。少しずつとはいえまあまあな量になっていたようなので、必ず医者に見せてください。これもいっしょに」


リュドは瓶に蓋をすると、それをマリエラの護衛騎士の一人に差し出した。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


マリエラが縦ロールを作っている方法は「Victorian Rag Curls」「ラグカール」で検索すると出てきます。

「ラグ・カール」と「・」で区切って検索するとカーペットが出てくるのでご注意を。←ええ、うっかりこれで検索してびっくりしましたw


私事ですが、GWの帰省から無事に帰ってまいりました。

色々疲れもしましたが、元気も貰って帰ることができました。

これからも週一更新頑張ります

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