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ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は本日も運命にあらがいます!  作者: 栗栖 龍


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フィオラ10歳 聖竜来臨4

「語り合う時間として1時間取られてたんだけど、何を話せばいいの?」

「なんでもよいが、なぜそなたたち幼子が来たのかかのう」


その瞬間フィオラの瞳がきらりと輝いて、フォルトはあーあといった感じの表情を見せた。


「なんだ?」

「じゃあ、私の話を聞いてください」

「聖竜さま、覚悟してください」

「我はどんな話でも聞くのが楽しみだが?」

「ではぜひ聞いてください!」

「……」

「ん?」

「姉さまの愚痴は長いです、覚悟してください」

「何、50年に比べれば一瞬のことであろう」


と、笑って言っていた聖竜だったが、フィオラの盛大な愚痴吐き独演会が15分も続くとさすがに辟易したようだった。

母を呪った祖母のこと、フォルトをさらった祖父のこと、その祖父に輪をかけてダメダメな父のこと、しかも母が死ぬのを待ってさっさと入籍するような愛人がいたこと、その息子が嫡子になることを母と頑張って防いだこと、フォルトと同い年の娘がどうやら父の血を分けた娘っぽいこと。

そこから父親が領地を顧みないから自分たちが苦労していること、リュドの説教が長いこと、ユルが時々変なものを作ること、エリサとキエラが厳しいことなどなど。

それを聞きながらフォルトは大好きなレモンタルトを楽しみ、聖竜も色々とユルのお菓子を堪能していた。


「……さすがに疲れるのう」

「頑張ってください」

「おぬしは姉の愚痴によく付き合うのか?」

「そうですね、一時期は毎日でした。おかげで慣れました」

「おぬしは愚痴を言わんのか?」

「言ったところでなにも、特に父が変わるわけもないので、無駄なことはしません」

「クールだのう」


そうぼそぼそと会話を交わしていたら、フィオラの耳にも入ったらしい。


「うるさいわね、女は愚痴を言ってストレス発散する生き物なんだから、しょうがないでしょ!」

「だそうです」

「……そうか」

「だから弟にも愚痴に慣れさせて、いつか弟のお嫁さんが愚痴を言ってもスルーできるように仕込んでるのよ!」

「スルーでいいのか?」

「だって聞いてもらえればそれでいいもん」

「という訳でいつも聞き流しています」

「そ、そうか」

「でもさすがに零しすぎたかも……ごめんなさい」

「よいよい。いかに大変だったかが分かったしな」


そんな会話をしていたら小腹が癒えて話にも飽きていたフォルトがあくびをして、目をこすり始めた。


「フォル? 眠いの? 少し寝たら?」

「しかし……」

「10分くらい眠ればすっきりするだろう。ほれ」


聖竜がフォルトの目の前で指を鳴らすと、すっとフォルトの体から力が抜け、聖竜の腕に納まった。

そのままゆっくり敷物の上に横たえると、フィオラの顔を真正面から覗き込んだ。


「さて、これで弟は当分起きてこぬだろう。フィオラ、おぬし転生者だな?」

「……ばれました?」

「ははははは! ロリコンだのチャラいだの、こちらにない言葉を使っておればバレるに決まっておろう」

「本当に心を読んでいるのですね」

「子供らしさはどうした?」

「前世も合わせると40を超えますので」

「フィオラとしてはまだ10歳であろう?」


ニヤッと笑う人に化けた聖竜はやはりチャラいと思った。


「はーい」


子供らしい笑顔で答えたフィオラは、そこから聖竜に全部話した。

自分がこことは違う異世界から来たこと、前世はただの一般人の女性で主婦だったこと、それに気づいたのは5才だったこと。


「そうか、あれはお主だったか」

「あれ?」

「我はいろんな人間の声が聞こえる。意識して聞いておる者もいるが、強い感情は飛び込んでくる。さっきのロリコンとか、“あの乙女ゲームの世界なんだ”とかの」

「確かに私だわ」


くすくす笑いながら二人は新しく入れたお茶を飲んでいた。

聖竜はジンジャークッキーが気に入ったのか、次々と口に放り込んでいた。


「たまにおるのだよ、異なる世界からの来訪者が。その者たちが残していったものがいろいろあるからわかっておっただろう?」

「ダウジングロッドとかね。驚いたわ。でもなんか、前世とのつながりを感じられて嬉しかった」


全てを思い出したわけではないけど、それでも懐かしい前世の『日本』。

フィオラはなんだか泣きそうになったので、違うことを聞いて気持ちをごまかすことにした。


「そういえばその人間の体は何ですか?」

「我の分体だ。これから二年は魔石に集中するので動けぬが、それ以後は我も自由に動けるようになる。しかし、竜の体のままだとどこにも行けぬからな。人間の体を作って、人の間に紛れて楽しむことにしておるのだ」

「それはどういう魔法なんですか!?」


フィオラの瞳がまたキラキラ輝くものだから、聖竜は若干引き気味になった。


「お、おう。自然とできるようになったから、説明はできんな」

「自然と?」

「そうだ、おぬしも千年生きればできるようになろう」

「人間が千年も生きられるわけないでしょう?」

「それもそうだな」

「分体ができたら仕事を分けられて楽になると思ったのに」


フィオラが嘆いていると、10分経ったのかフォルトがごそごそと起きてきて一つ伸びをした。


「おはようございます。聖竜様ありがとうございました」

「すっきりしたか?」

「はい」

「では果物でも食うといい。このオレンジを食べるとすっきりするぞ」


どこからか聖竜が取り出したのはへそのような凹みのあるオレンジだったので、種類としては前世のネーブルオレンジにあたるのだろう。

それよりも何もないところから取り出したということは(アイテムボックスとかイベントリとか呼ばれるものだわ!)とフィオラが興奮気味で見ていると、うんと一つ頷いた聖竜が手も触れずに綺麗に外果皮と薄皮をむいてくれた。


「前にいた北の国のオレンジだ。甘いぞ」


分けられたひと房を口に含むと、確かにオレンジだがこの国のものより酸味が弱くて香りが強いのが分かった。ガルンラトリで栽培されているものは酸味がある分ジューシーなので、ジュースを作るのに向いているが、これはこのまま食べるのが一番よさそうだ。

そうフィオラが思っていると、フォルトが同じように熱弁していた。

相変わらず弟は柑橘類大好きねと、フィオラは暖かい目で見てしまった。


「ぬしは柑橘類が好きそうだの。それで我が領地と民を豊かにしてくれるか?」

「はい。精一杯頑張ります」


なんの躊躇のない即答に聖竜はにやーっと笑うとフォルトの頭をガシガシと撫でた。


「姉の方も頑張っておるようだし、そなたら姉弟に加護を与えてやろう」

「え? 加護?」

「祝福ではなくて?」

「ああ、われの最大の守りを与えよう。われがそなたたちを守る故、そなたたちが我らの領民を守れ」


二人が頷くと、聖竜が右手を前に出し、その右手のひらと本体の角が光った。それと同時にフィオラとフォルトの胸が熱くなり光を放った。

光が収まると二人は胸を確認した。シャツのボタンをはずすと、胸に、鎖骨のすぐ下に模様が、模様というより鱗が張り付いていた。


「リュドの手の甲にも普段は見えない鱗があると言っていましたが、それと同じですか?」

「そうだの。あやつのは祝福ゆえに普段は透明でよく見ぬと分からんが、加護は力が強い分どうしても鱗の色がそのままついてしまうようでの」


聖竜とフォルトが話している間もフィオラは自分の胸を見ていた。


(何か違う模様も見えた気がしたけど、きっと気のせいだろう。それよりも何よりも……)

「ところで聖竜様。これってこのままなんですか?」


そちらの方が問題だった。

基本的にこの国のドレスはスクエアネックというか、ベストコートとチューブトップドレスがくっついた物に袖がついている感じのドレスが主流だ。

たぶんベストが民族衣装というか、昔からある伝統的な服なんだろう。

男性もたいていベストを着ている。

だから鎖骨の下は素肌が見える、このままだと鱗が見えてしまうのだ。


「ん?隠したいのか?」

「このままだとドレスを着たときに見えてしまいます」

「僕もシャツの前を開けたら見られてしまいます。でも成人するまでは加護を授かったとばれないほうがいいと思うので」


確かに子供のうちにばれると大変な騒ぎになるし、下手をすれば教会に収容されてしまうだろう。

そうなればドラコメサ領を守ることができなくなる。それは避けなければとフィオラは思った。

さすがは我が弟とも。


「ふむ。少し痛むが我慢できるかの?」

「? はい」


答えた瞬間、胸に痛みが、何かを押し込まれる感触があった。

痛みがなくなると胸から鱗がなくなっていた。

なくなっていたというか。どうも皮膚の下に何かあるような感じがした。


「これでどうだ? 過度な力を使うと浮かび上がってしまうが、普通に魔法を使う分には何も起こらぬ」

「ありがとうございます」

「これで普通にドレスが着られるわ」


フィオラはほっとしてシャツのボタンを閉めなおしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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来週も頑張りますのでよろしくお願いします。


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