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ドラゴンの使者・ドラコメサ伯爵家物語 ドラゴンの聖女は本日も運命にあらがいます!  作者: 栗栖 龍


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フィオラ10歳 聖竜来臨2

フィオラ達が作戦会議を始めた同時刻、ドナコデディオの午餐からずっと宴会場になっていた大広間で動きがあった。

沢山置かれた円卓の一つ、そこにかけられた床まで届くテーブルクロスが揺れ、もそもそとユルが這い出てきた。

昨夜の宴会は無礼講で、中央に提供された酒や料理を自由に持ってきて、適当に集まって食べるという飲みニケーションの場だった。

夜半、古き日本のいうところの丑三つ時に、眠たくなってしまったユルとオヴィディオはテーブルの下に潜り込みそこで寝てしまった。

空間を温める魔石によってテーブルの下も程よく温まっていたとはいえ、固い場所で寝るのは大変だろうと思われたのか、起きたときには野営用の毛布にくるまれていた。

リュド達がかけてくれたんだろうなと推測しながら毛布をたたみひと伸びすると、諦めたような顔で出口に向かって歩き始めた。


「なんかうるさかったなあ……もうちょっと寝たかったのに」


ぶつぶつと文句を言いながら扉の近くに行くと、そのわきに置いてある椅子にオヴィディオが器用に丸まって座っていた。


「あれ、オヴィ。おはよー」

「……ユル」


明るく挨拶をするユルと対照的に、オヴィディオは何かに怯えたような表情をしていた。


「どうしたの?」

「……声が聞こえて」

「ああ、あの“用意いたせ!”って偉そうな声? 誰だったんだろうね?」

「ユルも聞いたの!?」

「うん。って、他のみんなも聞いてんじゃ……」

「何の話だ?」


いきなり会話に入り込んできたのは、頭がぼさぼさでいかにも今まで寝ていましたという感じのアレクだった。


「おはよー、アレク。アレクも偉そうな声、聞いたでしょ?」

「なんだそりゃ?」

「えー? 聞いてないの? どういうこと?」


三人で首をひねりながら顔を合わせることになった。

しかし何のことはない、オヴィディオもユル同様小さな祝福を貰っていたから声が聞こえただけだった。

他にも領城内ではイグ爺とガスパルド、騎士団長と副団長が声を聴いていた。

ガルシオが町で確認したところ、ハンター長やシトロノをはじめ何人かが聞いていたとのことだった。

そのほぼ全員が『聖竜様への祈りの時間』に声を聞いたとも答えたのだった。


リュドがもう一度セティオに確認したところ、「教会では私と司教しか御声は聞いていない。街からの報告も上がっていない」ということだったので、小さな祝福を持つものでもバニョレスに住んでいるものだけが聞いたと判断できた。

ちなみにドラコメサ伯爵にもその声は届いており、タウンハウスの使用人に確認したところ「私は何も聞いていない。聞き間違いだ。竜なんているわけがないんだ」とぶつぶつ言いながら、一日中ベッドから出てこなかったそうだ。


「往生際が悪いわねえ」

「愚か者ですからね」


書類や法律書を確認しながら報告を聞いた姉弟に、辛辣な感想を述べられていた。


通常業務に戻っていた水曜日、どうせ王家への報告を伯爵は出さないだろうからと幼い二人の連名で出した報告書に対して、国王陛下から直筆の封書が返ってきた。


「これが王家の封蝋?」

「いえ、この三枚の葉のついたバラのスタンプは国王陛下個人のものになります」

「……マ……そうなの?」

「はい。3枚の葉は三人の娘を表していると」

「たしか三人の王女殿下の名はバラの名前からとられているという話でしたね」

「そうなんだ」


赤と白のマーブル模様になった封蝋は私信の証だと言われ、陛下が私たちに私信って何と思いながら封を切ると、そこにはねぎらいとこれからも頑張って領地を治めるようにという応援と、聖竜様への対応を頼むのと失礼のないようにとの言葉がつらつらと書かれていた。


「だから私信なんですね」

「どういうこと?」

「王家の公文書にできませんよね、これ。」

「んー、陛下自ら今の伯爵に期待してないって言ってるようなものだから、王家としての手紙では書けないってことであってる?」

「その通りです」


公文書となれば写しが王家の文書室に残されてしまいますからねと家令に言われ、王様も大変ねとフィオラは同情を隠しえなかった。

けれど最後に「何かあれば宰相に相談しなさい」と書かれていたので、これからやろうとしていることを遠慮なく相談することにした。

大司教であるセティオに関しては明日にはバニョレスに来て事前の相談をすることになっている。

文書作成に詳しい司教様も交えて。

年末までにすべての準備を整えて、年始はのんびり過ごせるように頑張ろうと姉弟は誓ったのだった。


翌日、大司教と司教がついてすぐに時間がもったいないからと会議が開かれた。家令やリナルド達も参加してどうするか徹底的に話し合った。

通信機を通じて宰相とも相談し、国と教会に『領主代理許可証』と『領主交代申請書』の書類を両方作っていただいた。

その上で伯爵が直接書類を提出しないようにするにはどうすればいいかと相談したら、宰相自らドラコメサ領に来てくださることが決定した。


「王国からの監査が無事終わり聖竜様の来臨も近いということで、(ねぎら)いと受け入れ態勢の視察という名目で最後の週にそちらに参りましょう。年末提出の書類はその時に受け取るので領城に用意するようにと、伯爵に公文書を送っておきます」


ありがたいと思った。

年末提出の書類は監査が入ったこともあり20枚に及ぶ束になっている。

そして領地などどうでもいいと思っている伯爵は、ろくに書類を見ていないというのも執事に聞いて分かっていた。

だから書類の順番を考慮すれば、きっと馬鹿な伯爵は気づかないとフィオラもフォルトも確信していた。


一番上に姉弟連盟の手紙を、「ドラゴン様に魔石を奉納するにあたり、一時的に領主の権限を私たちに与えてください。ダメならお前が奉納しろ」というのを丁寧な長文で書いたもの置く。

そのすぐ下に国と教会が発行した『領主代理許可証』を二枚。フィオラとフォルトの二人に代理をさせる許可証に二人は既にサインを済ませ、あとは伯爵がサインするだけにしておいた。

これは短い文章の為、サインをする場所は用紙の中央当たりだった。

そこから監査が終わった報告書や領民の増減報告、土地の種別ごとの一年間の変遷に関する書類を挟み、下2枚はたまにしっかり眺めるという話だったので、今月の収支報告に関する書類にしておいた。

そして一番重要な領主交代申請書を書類の束の半ばにばらばらに入れておいた。

それらの書類の署名欄はすべて紙の一番下になっている。

しかも「申し訳ありませんが、来週の27日金曜日に宰相様がいらっしゃるので、書類は木曜日までに必ず領城にお戻しください」と手紙の中に書いたので、伯爵は中身をしっかり確認せず慌ててサインをして送り返してくるだろうと推測した。

その推測は見事に的中した。

こうしてフィオラとフォルトは、まんまと領主の座を手に入れたのだった。




そして年が明けて1月1日。

こちらは大晦日に騒ぐということはしないが、新年はめでたいということで、午前中に宴会の準備を済ませ、昼から晩まで大いに騒ぐ。そして翌日は新年の休日になる。

この新年の宴会はみんなで食べて飲んで騒いで歌ってと、新しい年を向かえられた喜びを満喫するのだった。

そしてフィオラの誕生日でもある。

フィオラはみんなから祝福の言葉と誕生日プレゼントをもらい、とても幸せだった。

年末が大変だっただけに、報われた気分だった。


しかもこの日、ユルからのプレゼントは『ホイップクリーム』だった。

この世界にもデコレーションケーキは存在し、そのためのクリームはバタークリームだった。だが『私』はバタークリームが苦手で、フィオラにもそれが継承されているのか、あまり美味しいと思えなかった。

牛乳だけで作るクリームがあればいいのにと零したのを覚えていたのか、ユルはバターを作る酪農家と相談していろいろ試した結果、バターよりも緩い状態のクリームを利用すればふわふわのホイップクリームができることを発見した。

そのホイップクリームで飾られたケーキを誕生日ケーキとしてプレゼントしてくれた。


「美味しい!」

「よかった、苦労した甲斐がありました。ただこれ、バタークリームより保存がきかない上に溶けやすいから、早く食べてくださいね」


と言われて急いで食べた。

国内の違う地域でとれるイチゴを取り寄せて作られたイチゴのショートケーキは本当に、本当に美味しかった。

そして翌週の1月6日のフォルトの誕生日には、レモンのショートケーキを作っていた。

領内で作られるようになった甜菜糖と蜂蜜で作ったレモンコンフィが上に乗って、華やかな感じになっていた。

そしてカットされると、イチゴのショートケーキとは違って縦に筋が入っていた。


「これはどうやって作ったんですか?」

「いろいろ試してみたら、レモンと卵のクリーム(レモンカード)を使うなら、ロールケーキを作るみたいにスポンジを板状に焼いて、ケーキの高さの幅で切って、レモンカードを塗ってくるくる巻いていって、最後にホイップクリームで包んで飾って出来上がり♪ が一番おいしかったんだよね」

「ただのレモンジャムを塗ったり、レモンコンフィを挟んだりと色々試したけどうまくいかなくて、大変みたいでした」

「特に俺らの腹がw」

「お腹は壊さなかったでしょ?」

「美味しいとは言い難かったけどな」

「そんなに苦労して作ってくれたんですね、ありがとうございます、ユル」

「ふふ、さあ召し上がれ♪」


すごく美味しかったらしくフォルトは無言で食べ続け、18cmケーキの四分の一をペロッと食べてしまった。

フィオラ達もお裾分けを頂いたが、さっぱりとしていて甘みと酸味のあるとても美味しいケーキだった。

そろそろ温泉街にカフェを作ろうという話が出ていて、これらのケーキも目玉商品として出されることになるのだった。


次の週末には聖ドラゴン教会の大司教と全12名の司教とお世話係を兼ねた牧師たちと聖騎士を合わせて総勢54名という大所帯が領城を訪れ、聖竜様を受け入れるための準備にいそしんでいた。

土曜日の礼拝には大司教がバニョレスの街の教会に足を運んだので、街の住人皆が押し寄せたのでは思うほどの賑わいだった。

日曜日の休息日には、私服に戻ったセティオが姉弟に誕生日プレゼントを渡していた。

それは姉弟の瞳の色である金と銀の飾り紐に下がった、赤い石で作られたドラクスだった。

しかも領主になれたお祝いにと、学園の同期達が集まってまったり宴会をしている席に二人を招待してくれたのだった。




そんなのんびりとした週末を過ごした翌早朝、ラトリア山の頂に聖竜が降り立ったのが領城からも確認することができた。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。

誤字脱字報告もありがたいので、よろしくお願いいたします。


漸く聖竜様がおいでになりました。

次の回でプロローグの話が入ります。

やっとメインキャラの一人である聖竜様が登場します♪


引き続きよろしくお願いします。


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