フィオラ10歳 聖竜来臨1
GL歴2027年12月15日。ついに宿命が動き始めた。
毎年12月の13・14日はフィオラの前世のクリスマスに当たるドナコデディオの日と呼ばれる、聖ドラゴン教(竜教)とアルモール聖教に共通した冬の祭りの日である。
13日の午前は常の土曜日と同じく教会に出向き、そこで聖竜や女神に祈ると、翌年の幸運を授けられると言われている。
しかも稀にこの日に竜教では小さな祝福が、聖教では小さな加護が頂けることもあるので、ほぼ全ての信者が教会で礼拝している。
昼過ぎから各所で午餐会が行われ、交流を深めながら夕方近くまで楽しく過ごし、家に帰って早い時間に就寝する。
そして翌朝起きると、玄関にプレゼントが積まれている。もちろん子供が寝た後に大人が準備したもので、送り主は親や親族や友人だが、「聖竜様」「女神様」からのプレゼントと言って各々に渡される風習になっている。
ドラコメサの領城でも同じようにプレゼントがふるまわれた。
領地経営も温泉街開発も順調で、使用人への贈り物は結構豪華なものを渡すことができて、姉弟はとても満足していた。
その日はプレゼントを眺めつつまったり過ごすのが慣例で、そのために食事はパンと牛乳とシチューといった暖炉で温めるだけの簡単なものだけで過ごす習慣になっていた。
しかしそれも竜教の場合夜の8時、子供たちが寝るくらいの時間までと決められているので、大人たちはそのあとで宴会を開き、翌日は午前休にするのが一般的だった。
領城のみんなもそうしたいだろうと判断した姉弟は、午前中は休むようにと皆に通達しておいた。
夜の付き添いも警護もなしで。その代わり何かあったらすぐわかるように今年になって移動した最上階の自室ではなく、2階の部屋で二人一緒に寝ることを妥協案として持ちかけたら受け入れられた。
そういうわけでフィオラとフォルトは、久しぶりに二人一緒のベッドで眠りについたのだった。
翌16日の朝、いつもより少し遅い時間に姉弟が目を覚ますと、枕元にエリサ・カルス・リュド・ガルシオと言ったいつものメンバーがすでに控えていた。
「ちゃんと宴会を楽しんだの?」
「はい。女性や兄のように酒に弱いものは日が変わるころには引き上げましたので、ちゃんと睡眠もとりましたよ」
「女性は早く引き上げないとだめなの?」
「そんなことはありませんが、多くの女性は自らの意思で引き上げます。睡眠不足はお肌の敵ですので」
「なるほど。リュド達は?」
「朝まで飲んでそのまま参りました。酔いの素は水魔法で抜きましたし、一晩寝ないくらい何ともありませんので」
そうなのねと答えながらも、姉弟の頭の中には(騎士の体力はどうなっているのか?)という疑問でいっぱいになっていた。
そしてサイドテーブルの上の時計を見るとすでに10時近かったので、とにかく起きて着替えた方がいいわよねと思った時だった。
突然頭の中に大きな声が響き渡った。
『我はこれより出立し、一か月後にそちらにたどり着く。準備いたせ!』
びっくりしたフィオラが頭を押さえて周りを見渡すと、フォルトが同じように頭を押さえており、リュドは遠くの方――窓の外のラトリア山を見ていた。
「今の何!?」
「フィオラ様、フォルト様、どうなされました?」
そう聞いてくるカルスやエリサ、ガルシオは姉弟の反応に驚いているようだったので、彼らには今の声は届いていないようだった。
フィオラがフォルトと目を合わせて驚いていると、リュドが疑問に答えてくれた。
「聖竜様はドナコデディオの翌日に山を離れ、ひと月掛けて次の国にお渡りになると言われております」
「では、今のが聖竜様の声ですか?」
「たぶん……ガルシオ達には聞こえていなかったようなので、ドラコメサとドラコミリにだけ伝えてきたのかもしれません。ああ、それと聖ドラゴン教の人たち、少なくとも大司教には届いていると思います」
「そうね……」
リュドはカルスたちに聖竜様の声が聞こえたこと、一月後には来臨されるので出迎えの準備をしなければならないことを伝えた。
そのためには家令とも話し合わなければならないだろうということになり、フォルトから指示を受けたリュドは警備をガルシオに任せると、家令のもとに向かった。
フィオラ達は着替えまで手早く済ませると、一階の家族用のダイニングに向かった。たどり着くとすでにファビアが7人分の食事を用意している所だった。
「おはようございます、フィオラ様、フォルト様」
「おはよう、ファビア。ファビアも早く寝たの?」
「はい。皆、起きるのが遅いと思っていたので、私も今日はのんびり寝ていました」
「7人分……ファビアは参加しないのか?」
「はい、フォルト様。そろそろみんな起きてくると思うので、そちらの準備をしますので」
「わかった。食事の準備をありがとう」
「失礼いたします」
ファビアが一礼して出ていくと同時に、リュドが家令とともにダイニングに入ってきた。
フォルトが「時間がもったいないので、皆で食事をしながら話し合いたい」と告げた。
本来、使用人である家令や騎士たちが主人と同じテーブルで食事をとることはあってはならない。
キッチンの場合は正式な食事ではないということでお目こぼしをされているが、ダイニングでとなるとよく軽食を共にしているリュド達も難色を示した。
しかし「これは命令だ。座って」とフォルトが告げれば、それに従うしかなかった。
「ヨゼフも声を聴かなかったのね?」
「はい。私は起きていましたが何も聞こえませんでした。他に起きていた数人にも確認しましたが、彼らも同様でした」
「そうか。だとしたら聖竜様に繋がりの深い者にだけ聞こえたということだろうか?」
「可能性は高いかと」
「ク……お父上様も聞いたかしら?」
「後ほど王都のミグエルに確認しておきます」
「お願いするわ」
「城の中で他に聞いたものがいたかもしれないので、そちらも確認しておきます」
「ああ。それはエリサ・カルス・ガルシオに頼む。できれば町の人にも聞いてほしい」
「「はい」」
「ハンターギルドや商業ギルドはそういう情報が入りやすいので、私はそちらに」
「そうしてくれ、ガルシオ」
「リュドは大司教様に連絡を取って確認してくれるかしら。この時期は教都におられるのよね?」
「すでに確認済みと言いますか、あちらから連絡が入りました。大司教と司教は全員聞いたとのことです」
「そうなのね、ありがとう。ということは、他にも聞いた人は居そうよね」
「小さな祝福を貰っているものは聞いている可能性がありますね」
聖竜から与えられる力は三種類あると言われている。
聖竜が聖賢・聖女と判断した者に与える大きな力である『加護』。
聖竜に認められたドラコメサの当主と大司教とドラコミリに与えられる加護より少し弱い『祝福』。
ドラコメサの直系と司教、そして聖竜に気に入られた者へ与えられる、さらに弱い『小さな祝福』。
一番大きな力の加護を頂くと胸に、鎖骨のくぼみの真下に、聖竜様の鱗が現れると言われている。
祝福の場合は右手の甲に鱗を頂けるが、それは聖竜様に祈るときにだけ現れる。また見せびらかすものではないと言われているので、大司教とドラコミリは祈りの時には必ず手袋をする。
(貴族は学園に入学するころから普段から手袋をする習慣になるので、ドラコメサも常に隠していることになる)
実際、リュドが教会に赴くときは必ず手袋をしていた。
小さな祝福に至っては目に見える変化はないため、司教に選ばれるか魔力走査のできる魔道士に鑑定して貰わない限り分からないと言われている。
ただ、10歳の時にすべての子供が受けることを義務付けられている『魔力検査』の後の『聖竜様への祈りの時間』に聖竜の声を聴いている者が多かった。
そして何らかの能力に特化している者というのも共通点の一つだった。
「カルス。ユルが小さな祝福を受けているので、聞いている可能性があります。確認してもらえますか?」
「わかった」
「え? そうなの?」
「はい。昔、魔力検査の話になった時にユルも聖竜様の声を聴いていたと分かりまして、ジャドがその場で鑑定したので確かです。ですがこの話、絶対にジャドにはしないでください」
「どうして?」
「4人の中でひとり小さな祝福すら受け取っていないので」
「……わかったわ」
魔法狂いのジャドにとって、それは納得のいかないことどころか発狂モノなんだろうなとフィオラは察することができた。
二人が横道にそれている間に、フォルトは家令に確認すべきことを訪ねていた。
「ヨゼフ、魔石はそろっていたか?」
「はい。数も確認しましたが、二つの箱がきちんといっぱいになっておりました」
「となると一番の問題は」
「誰が運ぶかです」
ラトリア山だけでなく、聖竜が来臨する4つの山の頂上付近は分厚い岩の壁が山を一周しており、一か所だけ扉が設置されている。いつからあるのかわからないほど古いものだ。
山が小さく噴火する分にはこの岩壁が防いでくれると言われているが、本来は聖竜を守るためのものらしい。
扉は普段は閉まっており、聖竜が頂上に鎮座している間だけ開いている。
しかしその場自体に魔法がかかっているので、基本的にはドラコメサの領主と聖ドラゴン教会の大司教のみ通ることができると言われている。
(基本的にというのは、大司教が一緒の場合のみ司教までは扉をくぐることができ、聖竜に挨拶をすることができるからだ)
以前北の国で、魔王を信仰する小国の暗殺者が北の国の司教に変装し、大司教と共に中に入ろうとしたが、扉の場所で突然燃え上がり骨すら残らなかったと伝えられている。そのため今は無謀な賭けに出るものは居なくなったそうだ。
そして問題点は、ドラコメサの領主と言えば、現状姉弟の父であるドラコメサ伯爵を指し示す。
「領地を取りまとめているだけでは領主とは認められないのよね?」
「はい」
「うーん」
と、フィオラがうなりながら悩んでいる横で、ガルシオがふと浮かんだ疑問を、学生時代に学んだことを思い出しながらリュドに確認していた。
「なあ、リュド。確か『爵位を与えるのは国王陛下だが、ドラコメサに関しては教会の承認も必要』だったよな?」
「うん? その通りだ。聖竜様にかかわることだから教会側の審査と承認が必須だと習っただろ」
「よくあのダメ伯爵が爵位を継げたな」
「……伯爵は姉が一人いるだけで他に男兄弟はいない。前伯爵の弟はすでに亡くなっているし、その一人息子はロクデナシと有名だから、消去法で承認された……らしい」
「前伯爵の弟って?」
「一代前のドラメスブロ子爵」
「あー……なるほどな。フォルト様は優秀だけど成人されていないから継げなかったしな」
「まてよ。爵位はともかく、領主の資格だけなら何とかならないか?」
「え?」
ガルシオと話しているうちにリュドは何かを思いついたようだった。
「ヨゼフさん。確か爵位は親が亡くならない限り成人前には継げないと法律書に書かれていたと思いますが、領主に関して年齢制限はありましたか?」
「それは……なかったと思いますが、確実とは言えません」
「ではリナルドが起きたら確認してもらいましょう。彼が一番法律に通じているので」
「なるほど」
「え? どういうこと?」
二人の会話を聞いて何をしようとしているか察したフォルトは、いまいち理解できていないフィオラに端的に教えた。
「爵位は奪えませんが、領主の地位を奪ってしまえということです」
その通りとヨゼフとリュドもうなずいたので、まずは領主の地位の奪還することから始めることになった。
お読みいただきありがとうございます。
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とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。
漸く10歳の章に入れます。現状9歳11ヶ月ですが^^;
ここから物語が動いていく予定なので、よろしくお願いいたします。
それにしても締め切りを決めるのは重要だなと思いました。
というわけで毎週火曜日に更新できるように頑張ります!
まだまだよろしくお願いいたします♪
※矛盾が生じたので伯爵の設定を変更しました。伯爵の兄弟「妹」→「姉」(2023.09.04)




