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フィオラ8歳 母との別れ4

誤字報告ありがとうございました。

何度も見直していますが、誤字の見落としはあるようで……これからもよろしくお願いします。

葬儀の後、ファルレアの学園時代の友人達が数日残り、姉弟に学生時代の母の話を楽しく教えてくれた。

体が弱くおしとやかな母しか知らなかった二人は、母が辺境では魔獣を狩っていたとか、学園でも強く美して人気者だったとか聞かされて、目を白黒させていた。

「強くって何?」という疑問が顔に浮かんでいたのだろう。友人たちはこぞって母の武勇伝を子供たちに教えてくれた。


「そんな彼女だから、ドラコメサ伯に嫁入りすると聞いて納得したものの、先代様や今の伯爵のいい噂を聞かなかったから、心配にはなったのよ」

「それでも先々代様がお父様に頭を下げてお願いしていた姿を見て、承諾したと言っていたわ」

「強いだけでなく、優しい方だったものね」


そんな話まで教えてくれた。

フィオラはもしも母が他の家に嫁入りしていたら姉弟は生まれなかったけど、母は長生きできたのではと、寂しい気持ちにもなった。

淑女教育のたまものでその寂しさを表情に出すことはなかったので、母の友人たちはそのまま会話を続けていた。


「夫であるドラコメサ伯爵が来なかったものの、大司教様が自ら別れの儀式を執り行って下さったので、ファルレアの面目が保たれでほっとしたのよね」

「そうだったのですね。そのあたりのことはまだ疎くて」

「致し方ないわ。ハイクラスの教育をまだ受けていないものね」


暗にいい家庭教師を付けろと言われた気がする。

そう思ったフィオラはヴァリエレ公爵夫人にお願いをしてみた。


「幸い我が家には一般教養の中級家庭教師の資格を持つ者がいるので、基礎教育については何とかなっておりますが、さすがにハイクラスの常識はわからないということなのです。どなたかいい教師を紹介して頂けませんか?」

「ふふ、いい答えだわ。ちょうど教えている生徒がこの秋に学園に入学する方がいるの。次の赴任先を探していたから、こちらを薦めておくわ」

「ありがとうございます」


これで学園に入学する前の貴族としての教養を身に着けることができると姉弟はほっとした。支払いは大変だろうけど、これも必要経費だと目と目で会話をしてうなずきあった。

するとそれを見ていた公爵夫人から驚きの言葉が出てきた。


「支払いは気にしなくていいわ」

「「え?」」

「ファルレアの子が学園に入って蔑まれるのは本意ではないし、天国のファルレアが嘆くのは見たくないの。だから、家庭教師代は私の個人資産から支払います」

「あらあら、わたくしだって同じ気持ちですもの。半分持たせていただきますわ」

「ええ、わたくしも後見人として立候補いたしますわ」

「みんなでファルレアの子供たちの成長を見守りましょうね」


その公爵夫人の言葉に続くように、母の友人たちは私も私もと手を上げ始めた。


「あの愚か者に金を出せとは言えないでしょうし、貴方たちは父親の代わりに領地を何とかしたいと思っている最中なのだから、その分のお金はそちらにつぎ込みなさい」

「そうね、温泉宿ができたらたくさん利用させていただくわ」

「今回来られなかった人たちも集めて、同窓会をするのも楽しそうよね」

「ふふ、お茶会での話題になりそうですわよね」


彼女たちの領地の力になりましょうという言葉に驚きつつもとても心強かった。

それに隠しているつもりでも「どうして?」という気持ちが表に出ていたのだろう。


「ここにいる皆も今いない友人たちも、ファルレアに何もできなかった分、貴方たちに何かしたいと思っているの。その厚意を素直に受け取ってくれるかしら」


本当にありがたい申し出に頭が下がる気分だった。

それにこれは母からの贈り物、母の残した財産でもある。

ならば母に倣ったように、紳士淑女らしく答えるべきだと思った。

だから二人は頭を下げるのではなく、とっておきの笑顔を浮かべ、


「ありがとうございます」


と優雅に感謝の礼をしたのだった。




リュドたちが王都から帰ってきて少し経った頃、姉弟の魔力の変化を観察していたジャドが「ようやく落ち着いてきた」との判断を下した。

本人たちは無自覚だったが、やはり母親の死というのは衝撃が大きく、いつ暴走してもおかしくない状態だったということだった。

観察しながらカウンセリングも施すことで二人が暴走しないようにケアしていたそうだ。


「もう大丈夫でしょうね。フィオラ様、フォルト様、しっかりお聞きください。『光魔法と闇魔法は特殊なので学ばなければ使えない』というのは嘘です」


その魔力を込めたセリフを聞いた瞬間、自分の中に新しい種類の魔力を感じることができた。

二人は光と闇の属性があるとわかったその時に、この言葉をキーワードにそれぞれの魔力を封じられていただけだった。

そこから各々教本を渡されて、それをもとにジャドの監視のもと少しずつ闇と光の特性魔法をそれぞれ覚えていった。


「フィオラ様にはいつ封印が解かれるかと、ひやひやしていましたけどね」


と苦笑交じりにジャドに言われたときにはどういうことかと思ったけど、そもそも最初の魔力暴走が光の盾だったのを思い出して呆然としてしまった。


「封印が上手く効いていたようでよかったです」

「解せぬ」


ジャドの言葉にうっかり淑女らしからぬ言葉を使ってしまったが、キエラ(侍女長)ソフィア(家庭教師)もいなかったから大丈夫だろうと思った。

だがしかし、しっかりフォルトから報告が言っていたようだ。

夕食後に言葉遣いの授業が行われたのは言うまでもない。


その数日後、リュドの姉家族が「湯治に使えるか見にきた」というのを名目にドラコメサの温泉街に泊りで遊びに来てくれた。

長期滞在用の宿はまだ営業されていなかったので、普通の宿に泊まりながら共同浴場の使い勝手を確認していたと。

その後に城に挨拶に来てくれて、ついでに共同浴場の脇に湯治用の長期素泊まり専用施設を作ってはどうかとの提案を受けた。

西の温泉街出身のガスパルド達にも聞いてみたら、あちらにもそういう施設があったということだった。

実績があるのならと、素泊まり施設の建築も検討することになった。


またラフィリの第一魔法は闇魔法だったので、その基本の使い方を実践でフォルトに教えてくれることになった。

ついでに、久々に姉弟で過ごしたいだろうと配慮し、お礼もかねて一家には残りの4日間は城に滞在してもらった。

ちなみに、その間フィオラに光魔法を実践で教えてくれたのは若き大司教(セティオ)だったので、バルセロナ組は夜にこっそり宴会をしていたそうだ。

座学だけより実践講義の方がやはり身につくようで、この4日間で姉弟の魔力はかなり磨かれたのだった。




同時期に、ドラコメサの領城では新しい使用人を雇い入れていた。

5月に学園にいるガルシオの妹のガルシア(シア)と連絡を取り、勧誘状況を聞き、受け入れ態勢を整えていた。

自分以外の女性騎士1人、男性騎士2人、侍従侍女を1人ずつ勧誘できたという。ここから3人体制でフィオラとフォルトの付き人が回ることになり、エリサたちの負担がさらに楽になると姉弟はほっと胸をなでおろしていた。

実際二人体制だとなかなか休暇をとる暇ができず、体を壊さないか心配していたので、これで一安心できそうだった。


そして蛇足ではあるが、女性騎士ヴィクトリア(トリア)はシアの兄がドラコメサの騎士だと知った時に「私は女をないがしろにしそうな古い体制の騎士隊には入りたくないと思っているんだが、ドラコメサはどうなんだろうか? 女性でも対等に扱ってくれるところならぜひ行きたい」と自ら申し出してくれた貴重な存在だった。

しかし男性二人に関しては、シアたちに1年時にさんざん嫌味やちょっかいをかけてきた数人の中の成績上位の者で、どうやら何かのきっかけで賭けをすることになったそうだ。

その結果、負けて騎士として男として約束を果たすためにドラコメサに忠誠を誓うとまで言ってくれたので安心して雇えたのだが……。


「(昨年の)11月の闘技会で私たちに負けるか下のランクだったら、私たちの下僕として成績上位の二人にドラコメサに来てもらう。私たちが負けたら私たちを好きにしていい」


この賭けの内容を知ったガルシオに、二人は訓練で丁寧に鍛えられた(コテンパンにやられた)そうだ。

リュド曰く「実はシスコンだから、賭けの内容を知られたのはまずかったな」と。

そしてアレク曰く「でも卒業するまでその数人はしっかり成績争いをしてたって話だ。もしかして本気でシアたちに惚れてんじゃね?」だったので、そういうこともあるのかなと姉弟は生暖かく見守ることにした。




教師陣が帰った一ヶ月後、夏の社交期が終わった9月にヴァリエレ公爵夫人が貸別荘を借りて一家でバニョレスに遊びに来てくれた。ついでに代々王都の都長を務めるマイセントラ侯爵家の方々も誘い、年齢が近いからと子供たちを紹介してくれた。

侯爵家の子供たちの真ん中二人は、フィオラとフォルトと同い年のうえ性別も同じだったので友人にちょうどいいだろうということだった。

公爵家はフォルトと同い年の長女ともう3つと5つ下の男の子だったのであまり友人には向かないかもしれないが、仲良くしてほしいとの希望だった。

学園に通うようになれば顔を合わせることもあるだろうし、なにより領地に引きこもっているために社交に疎いフィオラたちにとっては願ったりかなったりだった。

しかも侯爵家のマリエラと公爵家のマグダネラはそれぞれ第一王子と第二王子の婚約者候補だということだった。


そしてそのまま候補者から婚約者になることがフィオラにはわかっていた。


フィオラはどんどんゲームの世界が迫ってくると恐れつつも、貴族の子女としてやるべきことも分かっていたので、二人とは以後も手紙のやり取りをするなどして仲良くなる努力をした。

フォルトも同様に、同い年でマリエラの弟のクレメントと公爵家の令息たちとやり取りをするようになった。

今はまだ領地の改革に忙しくなかなか社交行事に参加できませんがこちらにいらしたときには仲良くしてほしいとの願い出を、みんな快く引き受けてくれた。


大きな別れと、たくさんの出会いを得た年だった


その後、徐々に温泉街を含めた領地を整え、生産体制を整え、販路を整え、領地の経営を黒字方向に転換していった。

これにより姉弟がいかに次代領主として有能かを貴族院に知らしめることにも成功し、領主の地位簒奪(さんだつ)の下準備も整った。




そしてついに、姉弟は聖竜様来臨に立ち会うのだった。

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや下の☆での評価をお願いいたします。

とても励みになりますし、頑張る気力にもなります。


8才の話はこれで終わりです。

閑話を挟んでようやくプロローグの年齢「10歳」の章に突入いたします。

一年近くうんちくを書いていたのだなと思うと感慨深いというか……習慣づけると何とか(週一レベルですが)書き続けられるのだなと自分にびっくりしています。

これからものんびり頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします。

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